そして103回目の恋をする

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恋人と二人きりの夜。抱きしめるだけでは済ませられない。ジャケット越し、千景の手のひらが至の背を這い上がり、至の手のひらが千景の胸を滑る。床に落ちたコートは、千景にしては珍しくそのまま放置されていた。
コートをハンガーにかける時間さえ惜しい。
指先はジャケットのボタンを外し、衣擦れの音を立たせる。ついばみあうようなキスを繰り返して、吐息の熱さを知らしめて、唇の柔らかさを教え込んだ。
目についた情事専門ホテルの部屋で、恋人みたいに触れ合う。会話ではなく視線を交わして、互いの演技を駄目出しする目的でなく舌先を操る。互いの胸の間で指が絡んで、もどかしげに離れては素肌を探って這い回った。
やがてたどり着かれた手のひらに至はのけぞって、他人に触れられる感覚に熱い息を吐く。
千景の肩に留まるシャツを引き剝がすように首筋にしがみついては、雨みたいなキスをした。
肌の味というものを、この時初めて知る。もっと味わいたいと吸い上げれば、薄く桜色の痕が付いた。仕返しのように肩口に歯を立てられて、腰から電流を流されたような感覚に膝を折る。
予見していたのか、千景の腕に引っ張り上げられ、たどり着いたのは柔らかなベッド。バウンドする体を千景の胸で押さえつけられたが、至は受け止めて首に腕を回して引き寄せた。
むさぼるようなキスを何度も何度も繰り返し、千景の背を探る。流し込まれる唾液を何度も飲み込んで、胸に滑る手のひらの形を覚えた。
指先に押しつぶされそうな突起に小さな痛みを覚えても、優しいキスでなだめられる。お返しにと触れてみた千景の胸の粒に、思いのほかに興奮した。
ベッドが軋んで音を立てる。服と服が擦れあって音を立てる。吐息が重なって、唾液が混ざり合って、湿った音が立った。
体に触れていくたびに、ぶつかる指先。ほんの数秒絡めては楽しんで、それぞれが思い思いの部分に触れた。のけぞった喉、びくりと震える腰、筋の立つ腹。あふれてくる体液を絡め合って、足を絡め合って、舌と、視線と、毛先を重ね合わせる。
感じたことのない熱さと痛みと、充足感。握り合った手に、爪の痕が付いたとしても構わない。そう思いながら強く力を込めたら、仕返しみたいに体の中を暴かれて、高い声を上げる。
人と人が、こんなに近づくことができるなんて。
千景の熱を体内に感じながら、至はゆっくり息を吐く。合間に「先輩」と呼べば、ちゃんと「茅ヶ崎」と返ってくる。呼び合う名の他にはろくに言葉も交わさずに、深く、深くつながり合った。
まるで恋人同士のように――。

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