A3! 千景×至
そして103回目の恋をする
今年ももうすぐうんざりする季節がやってくる。
茅ヶ崎至は、大きなため息をついてカウンターテーブルに突っ伏した。
「どうした、そんなでかいため息ついて。仕事でミスでもした?」
「んなわけないでしょ、会社では仕事のできるエリートさんですよ...
右手に殺意を 左手に祈りを
茅ヶ崎至は、きゅっとシャワーのコックを下げて、降ってくる湯を止めた。
ぽたりぽたりと髪の先から落ちる水滴。細い指先で髪をかき上げて後ろに流し、脱衣スペースでバスタオルを持ち上げた。
清潔なタオルは気持ちが良い、と体の水分を拭き取り、髪を...
カクテルキッス4-ふたりの約束-
いまだに、夢なのではないかと思うことがある。腕の中に、ずっと欲しかった男がいる。
汗で湿った髪。抱く前にはあんなにふわふわしていたのに、自分との行為でこんなにも乱れたのだと思うと、なんとも言えない幸福な気分に陥る。すうすうと聞こえる穏やか...
カクテルキッス3ーたった一度のI love youー
両想いなんじゃねーの?
摂津万里が、突拍子もないことを口走った。
「…………は?」
至は慣れないその単語を頭の中で反芻して、目を眇め首を傾げ、指先で支える。カクテルXYZに含められた意味を、もう一度考えた。
両想い。
両想いという...
カクテルキッス2ー愛のひとつも囁けないー
駄目だ、と至は文書の保存だけして息を吐いた。
集中力が切れている。そう自覚し始めたのは、三十分ほど前。入力ミスが多くなって、打っては消し、打っては消しを繰り返していたが、まあ結果どれほども進んでいないのが現状だ。
(プレゼンも面倒だ...
カクテルキッス1ーONE NIGHT IN HEAVENー
「え~、茅ヶ崎さんも飲み会行かないの~?」
甘えたような高い声が、耳を通り抜けていく。至はどうにかその女性の名前を思い起こそうとして――諦めた。同じ部署ならまだしも、交流のない部署ともなるともう分からない。
「ごめんごめん。かわ...
掴んで、息を吐いて、指でなぞって、それから
ふっと意識が浮上する。見慣れたホテルの天井が視界に入り、今何時だろうと視線を巡らせれば、珍しい物体を発見した。
「……先輩」
隣でタブレット端末に指を走らせている卯木千景の姿。思わず驚いた声を上げれば、気がついた千景が視線をよこして...