そして103回目の恋をする

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抱き上げて連れてこられたバスルームで、無駄に綺麗な夜景を堪能する。それでも千景の顔の前では夜景もかすむななどと心の中で盛大にのろけ、広いバスタブなのにくっついて温まった。
「ねえ、いつからだったんですか?」
「ん? 恋してたの?」
「そう。俺全然気づかなくて……というか千景さんには他に好きな人いるんだと思ってたので」
「それでなんで、相手が自分だとは気づかないかな……」
ため息交じりで額を小突かれて、痛みに「ふええ」と声を上げたら「可愛くない」と嘘を吐かれた(ことにした)。
「割と最初の頃だと思うよ。たぶん、ランチのお釣りを貯めるって言い出した時。あれで落ちた」
「めちゃくちゃ最初の頃じゃないですか! あぁ~だから俺、最初から恋人演技上手いなって思っちゃったんだわ~」
そんなに早くから好きでいてくれたのかと、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちと、もったいないことをした気持ちがない交ぜになる。
千景に好きな人がいると思ってショックを受けていた気持ちを、もっとちゃんと掘り下げておくべきだった。
「くそ、ここから巻き返す。千景さんも初心者だから、レベル的には同等くらいなはず」
「ゲーム脳だな。ところでせっかくのスイートルームなのに、夜景楽しむとかないの?」
「え? だって千景さんの顔見てる方がい……――なんでもないです」
夜景が綺麗なのは認めるし、先ほども思ったところだけど、やっぱり千景のことを見ていたい。ついうっかり本音を漏らしてしまい、ハッとする。千景が項垂れて額を押さえた理由は分からないけれど、ぐいと抱き寄せられたところをみるに、嬉しかったと捉えていいのだろうか。
「そこらへんkwsk、って言っておこうか? それとも……もっと近くで見せてあげる……って言った方がいいのかな」
至近距離で微笑まれて、撃墜された気分だ。せっかくだから夜景の見えるスイートルームで、千景の顔をゆっくりじっくり堪能しようと、唇を吸う。
「他の誰も来られないほど近くで、もっとたくさんの顔、見せてください。朝まで……抱いてくれるんでしたよね」
「了解、おいで茅ヶ崎」
優しい声に吸い寄せられて、一〇三回目の恋に落ちていく。
大きな窓の向こう側で、祝福するように街のネオンが輝いていた。

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