- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.728, No.556, No.555, No.554, No.553, No.552, No.551[7件]
五分間-その後-
「五分間」の続編
部屋のインターホンが鳴る。跡部は足早にドアへと向かった。
ルームサービスは頼んでいない。部屋の番号を知っているのはホテル側の人間か、知らせた恋人だけ。不用心だとは思いつつ、跡部は確認もせずにロックを解除した。
果たしてそこに待ち受けていたのは、やはり愛しい恋人の姿。
「よう、手塚」
「すまない、遅くなってしまった」
「いや、思っていたより早いぜ。お疲れ」
すぐに抱きついてしまいたいところだが、そうすればこのままここでコトが始まりかねない。なんとか我慢して、手塚を招き入れた。
「ご家族には逢えたか?」
「ああ、明日の昼食を約束してきた」
「そりゃよかった」
ドイツから帰国した手塚は、明日の夜には向こうに立つという。トンボ帰りだが、そこしか都合がつかなかったらしいのだ。家族に逢って話すことがあると聞いたが、どうせなら三日後の誕生日までいられればよかったのにとも思ってしまう。
「雑誌のインタビューというのはいつまで経っても慣れないな」
「お前はそうだろうな。空港でのこと、訊かれたか?」
「まあ……訊かれた」
昼間空港で偶然鉢合わせた時、思いがけない邂逅だったせいか、何もかもかなぐり捨てて駆け出し、たった五分間の逢瀬を持った。
手塚の帰国待ちをしていたらしいファンやカメラを構えた報道陣を放ってだ。跡部も、イギリスから一時帰国して商談や会合が控えていたというのに、待機しろと秘書を放って手塚の手を取った。
騒ぎにならないわけはなかった。
「なんて答えたんだよ?」
「いつか話すことがあるかもしれない、と。親しい友人というのも、あの状況では難しいだろう」
ソファに腰をかけた手塚に、そうだなと跡部は笑いながら肩をすくめた。立ち話程度ならそう言えるが、手を取りながらの逃避行では到底無理だ。
「雑誌の方は抑えたが、SNSまではな……。フッ、すげぇぜこれ。〝国光サマがイケメンとどっか消えた〟〝金髪美人が手塚さんさらっていったが!?〟〝追いかける隙もない〟〝秘密の逢瀬なら邪魔できない〟……だとよ」
「どちらかと言うと俺がさらっていったような気がするが」
あの時「来い」と手を差し出したのは確かに手塚だったが、言うべきところはそこではない。十中八九、勘ぐられている。手塚国光には同性のパートナーがいるのだと。
こうなることは予想できたはずなのに、あの時はどうしても抑えられなかった。
それでも跡部は、お互いの責任においてつきあってきたはずだと思い、後悔を口にすることはない。
「腹括れよ、手塚。たぶんこれから周りが騒がしくなるぜ」
「それは分かっている。お前の方が大変そうだが」
「ふん、それを乗り越えてみせねえで、跡部は束ねられねえよ」
「毎度思うが、お前のその強気なところは好ましいな」
「ふふ、ありがとよ」
きっと空港でのやりとりを見た報道陣が、こぞって取材を申し込んでくるはずだ。手塚の取材選別はこちらでしてやるかと、いくつか懇意にしている雑誌社を思い浮かべてみる。いっそ楽しくなってきてしまった。どこがいちばん愉快な記事を書いてくれるだろうか。
「跡部、楽しそうなところ申し訳ないが、先にこれを受け取ってもらえないか」
「アーン?」
振り向いた跡部の目の前に、一輪の薔薇。
突然のことに、跡部はぱちぱちと目を瞬いた。
「お前、これ」
「ここに来る前に買ってきたんだ。まだ開いている花屋があって助かった」
そういえば、部屋に入ってきてからずっと左手が後ろに隠れていた気がする。
この一輪の薔薇を隠していたのかと思うと、可愛いことをしてくれるなと口許が緩んだ。
「今日逢えると分かっていれば、もっとちゃんとしたものを用意したんだが。せっかくの誕生日に、薔薇一輪ですまない」
「いや、嬉しいぜ手塚。……ふ、これ買うためにお前が花屋に入ってくの、見たかったな」
そう、今日十月四日は跡部景吾の誕生日だ。
今日この日に手塚に逢えたことが最高の贈り物なのに、わざわざこうして花までプレゼントしてくれるなんて。
柄じゃないだろうにと思いつつ、手塚の左手からその薔薇を受け取った。
「わざとかそうでないのか、黒薔薇ってな。俺たちにふさわしい薔薇じゃねーの」
「喜んでもらえてよかった。空港でも伝えたが、誕生日おめでとう。逢えて嬉しい」
「サンキュ、手塚。逢いたかった……」
そう言って、両腕を手塚の背に回す。手塚も両腕で抱き返してくれて、ほうっと息を吐く。
慣れた体温と匂いを感じて、脳まで満たされる思いだ。
どうして、こんなにも求めて止まないのに、離れていられたのだろう。
体を離せば視線が絡んで、唇が引かれ合っていく。
「ん……」
何度もしてきたキスでさえ、いまだに胸が鳴る。それを知っているのか、確かめるように手塚の手のひらが胸に当てられた。
びくりと揺れた肩をもう片方の手でなだめられ、応えるように舌を吸う。それを合図に、キスは深さと激しさを増した。
じんとしびれるほどに強く吸われ、歯を立て舌を舐る。混ざる唾液を飲み込んで、吐息さえ奪って互いのシャツのボタンをもどかしげに外していった。
「……っ手塚、ベッド……」
「ああ、立てるか?」
「キスで腰砕けになるほどヤワじゃねえ」
「――ほう? なんなら今から砕かせてやってもいいが」
「ベッド! 行くんだろうがよ!」
差し出された手を振り払ったのは、羞恥からくる腹立たしさだったけれども、腰が砕けるくらいのキスとはいったいどれほどのものだろうか。
興味はあるが、ここでバテるわけにはいかない。何しろ夜はこれからだ。
朝が来るまで、黒薔薇にはここで待っていてもらうことにしよう。ベッドの中で花言葉を教えてやったら、手塚はいったいどんな顔をするのだろう。きっと涼しい顔で「知っている」なんて言うに違いない。
可愛くねえなんて思いながらも、愛しそうに肩を抱いて、キスをしながらベッドへと向かっていった。
翌朝、手塚は珍しくスマートフォンの着信音で起こされた。ドイツ語で応答するのはもはやくせになってしまっていて、ここが日本であることをしばし忘れる。電話の相手が、付き人だったせいもあるだろう。
「いや、構わないが……ああ、…………は?」
まだ眠っている跡部を起こさないようにゆっくりベッドを降りて会話を続けたが、向こう側から聞こえてきた言葉に耳を疑った
「それは、どういう……いや、謝らなくていいが」
動揺は声に表れ、立てた物音に跡部が起き出してしまった。手塚は通話口をそっと押さえ、「起こしてすまない」と小さく呟く。気怠げな跡部はふるふると首を振った。
「ああ、分かった。そうさせてもらう」
手塚はため息を吐きながら通話を終え、怪訝そうな顔をした跡部に向き直った。
「何かトラブルか?」
「いや、トラブルというか……まあそうなんだが」
「なんだよ、珍しくパッとしねえ答えじゃねーの」
跡部はローブを羽織りながら立ち上がる。情事の名残が散らばる素肌は目に毒だが、強気な口許は「俺がなんでも解決してやる」とでも言いたげだ。
「帰国の便が予約できていなかったと言われた。……せっかくだから一週間ほど滞在してきたらどうかとも」
「アーン?」
今日の夜、向こうに帰る便に乗るはずだったのだ。その飛行機が予約できていないとは。強行軍だったし、時間が許すのならばもう少しゆっくりしたいというのは本音だが、これは、恐らく。
「はは……ん、気の利いたことしてくれるじゃねーの」
そう、恐らくは飛行機のチケットが取れていないなんてことは噓なのだ。めったに帰れない状況であることに加えて、昨日の空港でのことが関係しているに違いない。
「どうする手塚。俺なら、自家用機ででもお前を送ってってやれるが」
飛行機のチケットなど、今からどうにでもなる上に、恋人は財閥の御曹司だ。言い方は悪いが金に物を言わせて融通を利かせることだってできる。
跡部は楽しそうに口の端を上げ、手塚の答えを待っていた。
「結構だ。せっかくなので、一週間ほどの休暇だな」
「なら、予定会わせるから、お前の誕生日を一緒に過ごさせてくれねえか。俺もお前に黒薔薇を贈りたい」
「ああ、もちろんだ。俺たちに似合いの花だからな」
「ククッ、やっぱり知ってて選んだな」
肩を揺らして笑う跡部に、「そうだな」と今日最初のキスをする。
一週間の休暇の中で、家族に紹介する時間が取れればいいと思いつつ、昨夜散々堪能した体をもう一度抱きしめた。
黒薔薇の花言葉―永遠の愛―
#両想い #ラブラブ #イベント無配 #未来設定 #リクエスト
23182
「どういうことだよ」
「俺が知るわけないだろう」
知らされた数字を二人で確認して、眉間にしわを寄せた。果たしてこんなことが起こり得るものなのか。
いや、しかし実際に起こっている。
「23182票……」
「同率五位とはな」
〝国民〟に対して行った国勢調査という名の人気投票で、手塚国光と跡部景吾がまさかの同票数で順位が同じになってしまったのだ。
これが発表されたら皆が驚くことだろう。
跡部は、くしゃりと髪をかき混ぜる。
手塚は、僅かに視線を背ける。
どうにもむずがゆい気分だった。何しろ、この男とは特別な関係にある。
ただの戦友というわけではない。好敵手というだけでもない。球を交わす中で生まれた感情は、間違いなく恋情だった。コート上で、日常で、心を通わせあって今に至っている。
「……仕組まれてんじゃねえだろうな?」
「なんの得があるんだ、そんなことをして」
答えられなくて、跡部は気まずそうにチッと舌を打った。
総票数は50万以上あったという。そんな中で上位に食い込んだばかりか、まさか恋人と同率順位とは。
「今年一番の驚きだぜ」
「それは俺もだな。正直、お前はもっと上に行くと思っていた」
跡部の人気が高いのは、国民全ての共通認識だ。その彼が五位というのは手塚にとって驚きだった。
「アーン? 俺様はいつでもトップに決まってるだろうが。順位がどこであろうと俺は俺の中で常に一番だからな」
「いや投票の意味がないだろう。だがまあ……お前らしいとは思うが」
ため息交じりに呟く手塚だが、口許が緩んでいる。いつでも強気な跡部景吾を、とても好ましく思っていた。
「ククッ、でもお前と同率ってのは嬉しいぜ、手塚。なかなかねえだろこんなこと。俺とお前はどこまでいっても同じ目線にいるってことだ」
「そうだな。やはり投票時、お前に票を入れておいてよかった」
「…………は?」
跡部が目を丸くして手塚を振り向く。手塚の言葉をすぐに理解できなかった――わけではない。
「なんでお前が俺に入れてんだよ」
「一番好きな選手、だろう? 間違ってない。俺が参加してはいけないとは書いていなかったしな」
「そうじゃね……っああ、くそ!」
どこか得意げに返してきた手塚に、跡部は悔しげに額を押さえた。若干頬が赤いように見えるが、気のせいではないだろう。
「……どこまで一緒なんだよ……」
「跡部?」
俯いた跡部を、手塚が怪訝そうに覗き込む。
「…………俺も、お前に票入れてた、から」
返された言葉に、手塚はぱちぱちと目を瞬いた。
何のことはない、ただ互いに票を入れていたというだけだ。
「……そうか」
どちらにしろ同票であったことには変わりないだろうが、23182票という数字の中に恋人の票が入っているという事実が、嬉しくて仕方がなかった。
「しょうがねえだろ、俺はあの時の試合からずっとお前が特別だったんだ」
「こちらの台詞だが。決着がつかなかったことに、悔しさも感じるが、やはり嬉しさの方が勝るな」
「テメーとの決着は、やっぱりテニスでしかつかねえってことだろ」
同じ気持ちだったことに、跡部は嬉しそうにパッと顔を上げ、パチンと指を鳴らす。
「コート行くぜ手塚ァ!」
同じ世界で、同じ目線で生きられる幸福を今から形にしようと、ジャージの上着を脱ぎ捨てた。
「望むところだ。来い、跡部」
手塚も力強く頷き、ラケットを握る。
二人でコートへと歩みだしかけたその時、ふと思いついたように跡部が「あ」と声を上げた。そうして手塚の襟元を掴んで引き寄せ、唇の傍で囁く。
「祝いだ、受け取りな」
触れた唇は、永遠に続く熱の架け橋だ。
「おめでとう、手塚」
「お前もだろう跡部。おめでとう」
「ふふ、同率記念、だな。さあ行くぜ」
「ああ」
もう一度軽いキスを交わして、今度こそコートへと向かった。同じ世界で、何度でも恋をするために。
本誌の人気投票、ジャンフェスのステージで発表されました
#両想い #ラブラブ #イベント無配
おそろい
発行物「クリスマスには早いけど」の1エピソード
手塚と二人で店に戻り、並べられたマフラーを手に取る。迷うことなく、深い緑色のマフラーを選んで。
「お前に似合うと思って」
それをレジで綺麗にラッピングしてもらい、手塚に差し出す。自分がもらったものと同じショッパーなのは紛らわしいが、手塚はしっかりと両手で受け取ってくれた。
「ありがとう、跡部。まだ……実感がわかないが」
「こっちの台詞だ。つーかてめぇ勝手にキスまでしといて実感がねえとはどういうことだ、アーン?」
手塚はぐっと言葉につまったようだった。両想いだったことが判明して、ついうっかりあふれ出してしまった情動が、二人の唇を触れ合わさせた。跡部も別に嫌ではなかったが、場所を考えろとは言ってやりたい。
「……お前があんまりにも可愛かったものだから」
気まずそうに口にされた言葉に、カッと頬が染まり、今度は跡部が言葉に詰まる。
この男の審美眼はいったいどうなっているのだろう。可愛い? と首を傾げてみるが、さっぱり分からない。手塚がそう思っているならいるでそれで構わないが、どうにもむずがゆかった。
「お前本当に俺のこと好きなんだな……」
「お前も俺のことが好きなんだろう? おあいこだ」
「まあそうなんだが」
まさか、手塚の想う相手が自分だなんて思わなかった。
叶わないのだと思って涙を呑んだのに、こんな奇跡があるなんて。
ちらりと見やると、手塚の方も同じことを思っているらしく、どことなく落ち着かない様子だ。それがなぜか可愛らしく思えてハッとする。可愛いとはこういうことなのかと。手塚もあの時、こういう感覚を味わっていたのかと思うと、恥ずかしくて嬉しい。
指先がそわそわとして、胸が鳴る。跡部景吾ともあろう者が、こんな些細なことで心を揺さぶられるとは。それも手塚相手ならしょうがないと思ってしまうあたり、相当重症だった。
「手塚、なあ……クリスマス……空いてんのか?」
「特に予定はない。夕食は家族と共にするが」
「じゃあ、それまでデートしようぜ。テニスもいいが、もう少し恋人らしいことしようじゃねーの」
「デートか、そうか……これからはお前と逢うとなると、そう言えるのだな」
手塚の口許がふっと緩む。こんな些細なことでと思うと、途端に愛しさが増した。
「手塚、ちょっと来い」
袖をつんとつまんで、傍の通路に引っ張り込む。不思議そうに小首を傾げる手塚に身を寄せて、頬にそっと口づけた。
「……っ跡部」
「何照れてんだよ、つられるだろうが」
「いや、その、突然で驚いて」
「俺はもっと驚いたんだぜ」
反論できずにいる手塚にもう一度唇を寄せ、今度は頬でなく唇に触れる。
あの時は感触を味わう暇もなかったから、今度こそと思った。案外に柔らかなそれは心地良くて、本当に恋人同士になれたのだとじわじわ温かみが広がってくる。
だがしかしここはどうしても人目がある。名残惜しいが体を離して、愛しそうに見つめてくる手塚にまた恋をした。
恋をしてもいいのだと思うと、嬉しくて仕方がない。右肩に額を乗せれば、手塚がそっと抱いてくれた。
「跡部、クリスマスにはもう少し長いキスがしたい」
「デートの行き先よりもキスの長さか」
「俺はお前といられるならどこでもいいが」
「可愛いこと言ってんじゃねえ」
「俺は可愛くないだろう」
言いながら、左手と右手が重なり、指が絡んでいく。
そんなことをしていたら、心配した友人たちからことの成り行きを訊ねるメッセージを受信した。
説明をしに行くかと、二人は待ち合わせの場所へと歩き出す。空いた手に、揃いのショッパーを提げながら。
#両想い #BOOST🎄 #クリスマス
その唇で蕩かして

【装丁】文庫44P/300円/R18
【通販】BOOTHおよびフロマージュブックス様にて予定
【あらすじ】焼き肉バトルのヘリデート後、泊まっているホテルの部屋になだれ込んで濃密なキスを交わす二人。昂ぶった体を、お互いの恋情が見逃すはずもなかった――。
※途中、跡部が手塚に乗っかっている描写がありますが、最初から最後まで塚跡です。
ドアを開けて招き入れた。その瞬間腕を引かれ、今閉めたはずのドアに押しつけられる。
「あ、……っ」
すぐに重なってきた唇を拒む気はさらさらないが、唐突な接触に跡部はくぐもった声を上げた。
「んん……っ」
熱く、力強い舌が入り込んでくる。追われた舌が出逢って、口の中で暴れ回った。ちゅ、ちゅ、と濡れた音が響く。足の間に膝を割り込ませ体で押さえつけてくる強引さを、本能で押しやろうとしてしまう。だけど舌先で口の中から頬を撫でられて、ぞくぞくと這い上がってきた快感が、その手を緩めさせた。
「んっ……ふぁ……んぅ」
唇が離れてもすぐにくっついて、むさぼるように吸われる。そのたびに心臓が音を立てて、息が続かない。テニスをしている時の呼吸とはわけが違う。このまま呼吸困難で死んでしまうのではないかと思うほど激しく、奪われていく。
がっちりと腰を抱く腕。膝から太腿を撫で上げる左手。ジャージの上からでもその手が熱を持っているのが伝わってきて、嬉しくて仕方がなかった。
「ん、んっ……」
熱い舌先と器用な指先に蕩かされ、膝から力が抜けていくようだ。それでもどうにか踏ん張って耐え、混ぜられた唾液を飲み込んだ。
「手、塚……っ」
唇が離れた隙に名を呼んで、衿を掴んで引き寄せる。
手塚国光が自分に欲情しているという事実が、跡部景吾を興奮させる。それを、この男は分かっているのだろうか。
奪われていた唇を今度はこちらが奪い返して、離れてやるものかと両腕で手塚を抱きしめた。
どうして離れていられるのだろうと思うほど、互いの恋情は深く、強い。
ドイツへ行けと背中を押したのは跡部自身だし、それ以外の選択肢などなかった。だけどこうして逢えてしまうと、触れたくて仕方がなかった自分を思い知らされる。
「……っおい、ば……馬鹿、待て、手塚」
ジャージの上から胸に押し当てられていた手が、ジャッとファスナーを下ろす。すぐに中のウェアをたくし上げてきて、さすがに慌てて手塚の体を押しやった。
「がっつくんじゃねえよ、こんなところでっ」
「お前が言うな。ヘリの中でも散々俺を煽ってくれたな」
ぐっと言葉に詰まる。
各国を巻き込んだ焼肉バトルの最中に、手塚と優雅にヘリデートとしゃれ込んでいたが、こっそり腰を抱いたり指を絡め合わせたりしていたのは跡部だ。そういう欲が少しもなかったかと言えば嘘になるし、あわよくばという気持ちも確かにあった。
だがだからといって部屋に入ってすぐにとは思っていない。まさになだれ込むような状態だ。
「跡部。まさか俺には性欲がないなどと思っているんじゃないだろうな」
「さすがにそこまでは思ってねえよ! 思って……ねえけど、だから、ちょっと、待てって」
手塚の手のひらが、素肌を撫でてくる。危うくこのままここで許しそうになるが、すんでのところで理性をかき集めることに成功した。
「やりてぇのはこっちだって同じなんだよ、ばか、おい……ほんの少しじゃねえかっ……」
手を引き剥がして、ようやくまともに手塚を正面から見る。濡れた唇やわずかに上気した頬はこんな時しか見られなくて、さらに欲情させられた。ストイックな雰囲気を醸し出すドイツ代表の黒いジャージが、逆にエロティックに手塚国光を包み込んでいる。
畳む
#両想い #ラブラブ #R18 #新テニ #新刊サンプル #塚跡
クリスマスには早いけど

【装丁】文庫128P/700円/R18
【通販】BOOTHおよびフロマージュブックス様にて予定
【あらすじ】クリスマスを絡めた、手塚と跡部それぞれの片想い。
お互い相手に好きな人がいると思っているけれど、簡単には諦められない。応援したいけれど、募っていく想いは矛盾した感情をつれてくる。
跡部は的確に状況を判断し、理解してくれる。それには正直驚いた。大勢の部員たちを率いていた男だ、周りをよく見ているのだろうと思っていたが、ここまでとは。もし同じ学校に通っていたら、どちらが部長に据えられていただろうかと、考えても仕方のない想像をしてみたりもした。
「相手が優しければ優しいだけ、たとえ気持ちを受け入れられても〝本当に好きでいてくれてんのか〟って考えちまうだろう。拒まれるにしたって、拒んだ相手の方が傷つくかもしれないって思ってんだろ」
「恐ろしいほどにその通りだな。眼力(インサイト)はそんなことも分かるのか」
どれもこれもが一度は考えたことで、いっそ憎たらしくなる。そこまで分かるものならば、この気持ちにも気づいてくれていいのではないかと。そして盛大に拒んでくれればいい。その方がすっきりするというものだ。
「フン、眼力(インサイト)を使うまでもねぇぜ」
「じゃあ、お前はどうなんだ?」
「……アーン?」
「よく知らないが、女生徒に人気があるのだろう。交際を申し込まれたこともあるのではないのか? そういう時、お前ならどうするんだ」
「ねえが? 交際を申し込まれたことなんざ」
「は?」
思わず、低い声を上げて聞き直した。
何を言っているのだこの男は。
言ったようによくは知らないが、跡部景吾は男女関係なく人気がある。青学にまで噂が届くほどなのだ、手塚の思い違いというはずがない。
好意があるなら、親しくつきあいたいと思うのが普通だ。それにも関わらず、申し込まれたことがないというのはどういうことか。
「あまり面白くない冗談だが」
「本当のことだぜ。俺様の人気が高いのは否定しねえが、今まで一度も告白なんかされたことねえ。あ、イギリスにいた頃……いやあれは社交辞令だな。参考にならなくて悪い」
もしかして、申し込みだと気づいていないだけなのではないだろうか。そう思いかけて跡部をじっと眺め、「ああ……」となんとなく察した。なるほど、跡部景吾に交際を申し込むなどということは、恋を諦めるより勇気がいるのだ。
まず彼の放つオーラに負けない覚悟をもって目の前に立たなければいけない。それからひどく綺麗な顔をしたこの男に恋を告げる。――無理では? と容易に答えが導き出される。
跡部景吾と同等の自信を持ち、強くなければ、告げることさえままならないのだ。それを考えると、跡部が一度も告白などされたことがないというのも頷ける。
「なるほど」
「何がなるほどだよ。なんかムカつくな。……しかし、お前がねえ……青学の女かよ?」
「いや、…………他校だ。テニスで知り合った」
「なるほど」
「何がなるほどなんだ」
真似をされて、真似をし返して、跡部がふっと笑うのが目に入った。「お前らしい」と言われて、ああテニスだからかと納得した。交流会か大会などで知り合ったと解釈したのだろう。それは間違いではない。
跡部が、どこかホッとしたような表情になった。
「テニスでつながってんなら、いいじゃねえか。最初はギクシャクしても、同じ世界で生きてりゃ理解し合える」
「そうだろうか」
「ああ。なにせテニスだからな」
満足げに頷く跡部に、手塚こそ満たされる思いだ。テニスというスポーツに全幅の信頼を寄せるこの男が、本当に好きだと思う。
それならば、言ってしまっていいのだろうか。拒まれるだろうが、テニスの世界でなら理解しあえるという彼になら、この想いを告げてもいいような気がする。
「だから手塚、ちゃんと言ってみろよ。お前の惚れた女は、お前の真剣な想いを茶化すようなヤツじゃあねえんだろ? 惚れたお前が、相手の価値下げてんじゃねーぞ。もし万が一駄目でも、この俺様が直々に慰めてやろうじゃねーの」
相手の価値を下げるな――言われて気づく。
拒まれるのは仕方ないにしろ、その後に関係が壊れてしまうのが怖いというのは、跡部がそうする男だと言っているのと同じことだ。最初は絶対に気まずいだろうが、跡部景吾はそんなことで揺らぐ男ではないと信じたい。
それにしても、当人がどうやって慰めてくれるのかと思うと、愉快な気分にもなってくる。
告げてみようか。お前が好きだと。
「俺のは無理だが、お前の恋は叶ってほしい」
口を開きかけたその時、体中に衝撃が走る。ひゅっと呑んだ息が、そのまま止まったかのような感覚を味わった。
――俺のは無理だが――
なぜ。
なぜ気がつかなかったのだろうか。跡部の指摘が的確過ぎたのは、彼自身が叶わぬ恋をしているからなのだと。
カタカタと震える歯を食いしばり、唾を飲み込む。全身から血の気が引いていくようだ。
「……跡部、お前にも、好きな相手がいるのだな」
跡部は一つ瞬き、ハッとしたように眉を上げ、次いで寄せる。言うつもりはなかったらしく、珍しく油断している彼に不謹慎だと思いつつ胸が鳴った。
「……普通だろ、別に」
「…………そうだな」
絶望的だ。もともとなかった希望が、ここで絶たれる。親身になってくれたのは、自分が叶えられない恋の代わりだったのだろう。なんて残酷なことをしてくれるのかと、心臓がずきずきと痛む。
「俺に恋を叶えろというのなら、お前だって努力をできるはずではないのか」
「こっちだってまるで絶望的なもんなんだぜ。優しいヤツだからな、拒ませたくねえんだ」
跡部は寂しそうにふるふると首を横に振る。優しい相手なのだと言う彼の方こそ、優しい。拒ませることで傷つけたくないのだろう。それほどに相手を理解し、好きなのだと分かる。
跡部の恋が叶えば、諦めもつくだろうか。
手塚は高い天井を見上げ、ふうーと息を吐いた。
「跡部」
そうして跡部に向き直り、口を開く。
「お前の恋が叶うように願っている。友として、心から」
畳む
#両片想い #クリスマス #未来設定 #R18 #新刊サンプル #塚跡
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2023/03/19
【あらすじ】
※「永遠のブルー」を手塚サイドから書いたストーリーとなります。
関東大会の試合以来、跡部のことが頭から離れない。僅かな心の動揺に手塚は恋情を自覚したが、告げるわけにはいかなかった。気持ちを押し殺し好敵手として長く過ごしてきたが、それは些細なきっかけで崩れてしまう――。
001/002/003/004/005/006/007/008/009/010/011/012/013/014/015/016/017/018/019/020/021/022/023/024/025/026/027/028/029/030/031/032/033/034/035/036/037/038/039/040/041/042
※作中にリョ桜表現が含まれます。ご注意ください。
#片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー