No.580

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情熱のブルー-024-

情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー

「手塚、それ美味しそうだね。まだあるかな」 朝食中、相席した不二が声をかけてくる。「俺が見た時はまだ…

情熱のブルー,塚跡WEB再録

情熱のブルー-024-


「手塚、それ美味しそうだね。まだあるかな」
 朝食中、相席した不二が声をかけてくる。
「俺が見た時はまだたくさんあったが」
「そう、見てこよう。バイキング形式っていいよね。あ、英二おはよう」
「おっはよーん二人とも!」
 不二が腰を上げたのと同時に、菊丸が姿を見せる。同じ学校同士でテーブルを囲んでしまうのは、癖のようなものだろう。食堂を見渡せば、周りも同じようなものだった。
 そして手塚は、ある一点で視線を止めた。
 ――――……跡部……?
 当然ながら想い人である跡部なのだが、少し元気がないように見える。眉間にしわが寄っているし、体調でも悪いのかと心配になった。
「手塚、どうかした?」
「あ、いや、…………跡部の様子が少しおかしいような気がして」
 不自然に視線を動かさない手塚に気がついて、菊丸がバターロールを頬張りながら訊ねてくる。その言葉につられて菊丸も跡部の座るテーブルに視線を移したが、どうも分からないようだった。
「英二、どうしたの首なんか傾げて」
「うんにゃ~、手塚がさあ、跡部の様子がおかしいって言うから。俺全然わっかんない」
「へえ?」
 追加で食べ物を持ってきた不二も跡部へと視線をやる。同じ氷帝学園の忍足と席を共にしていて、こういう時同じテーブルで食事をするには、後どれくらい親しければいいのかと思うのと同時に、そんな至近距離では落ち着かないなとも思う。
「……眠そうだなって思うけど、気にする程でもないんじゃないかな」
「朝が弱いのかな~、意外だよね」
「そう、……だろうか……。しかし、氷帝のメンバーも半分になってしまったのだから、気分が沈んでいるのかもしれない」
 先日、メンタルの強化ということで同士討ちが繰り広げられた。ペアを組まされたためダブルスでの試合かと思われたが、そのペア同士でシングルスを行い、負けた者は合宿から退去させられている。
 青学からも、脱落者が出ていた。その点では、菊丸もダメージを負っているだろう。せっかくまた一緒にテニスが続けられると思っていたのに、大石と対戦して、勝利してここにいる。つまり大石は〝負け組〟だ。
 やはりしょんぼりとしている菊丸同様、跡部も目をかけていた者たちが強制退去となったことで気分が優れないのかもしれない。
「……」
 跡部がそんなことで立ち止まるような男だとは思っていないが、心配は心配だ。どうしても箸が止まってしまう。
「そんなに気になるなら、声かければいいじゃない、手塚」
 不二はそう言うが、こんな時なんと声をかければいいのか分からない。テニスしかしてこなかったせいか、他人とのつきあい方は不器用そのものだった。
 手塚は跡部の方を気にしながらも食事を終える。
 その頃には菊丸も不二も朝食を平らげていて、さあ自主練に行こうとトレーを整理し始めていた。
 手塚もそれに続き、ごちそうさまでしたと胸の前で手を合わせて腰を上げた。
 このまま返却口へと思ったが、不二はスタスタと跡部がいるテーブルの方へと向かっている。菊丸もそれに続いていた。
 ――――あ。
 遠回りではないかと返却口を振り向くが、彼はすでに声をかけている。止める暇もないし止めるにしても不自然だった。手塚はそわそわとした落ち着かない気分で不二たちを追いかける。
「跡部なあ、ベッドが硬い言うて寝られへんらしいで」
 呆れた様子で忍足が肩を竦めるのが見える。なるほどそれで寝不足なのかと納得した。深刻な状況ではないようで安心したけれど、寝不足は寝不足で心配ではある。
「跡べー、もしかしていつもは天蓋付きのおっきいベッドとかで寝てんのー? 贅沢じゃーん」
「いや、今は天蓋ついてねえが、俺様のベッドはキングサイズだぜ」
 今はというなら昔はついていたのかということや、キングサイズとはさすがだななどと、跡部景吾のベッド事情に聞き耳を立ててしまう。
 別にいかがわしい想像をしたわけでもないのに後ろめたくて、人知れず息を飲み込んだ。
「ああ……それならここのは狭いだろうね。二段ベッドだし。どうしようもないけれど」
「枕だけでもいつも使ってるヤツ送ってもらうとか? リラックス度が違うかもよ」
「枕か……枕ね。ありがとよ、少し考えてみるぜ」
 確かに、寮に備え付けのものよりは自分がいつも使っているものの方が落ち着くだろう。菊丸に素直に礼を言う跡部に、胸が鳴った。
 こんな些細なことで胸をときめかせておいて、隠し通せるのか。いや、隠し通してみせると手塚は小さく息を吐いた。
「跡部、入れ替え戦シヤツフルマツチは問題ないのか?」
 意を決して何でもないように声をかけてみる。跡部からは、いつもの「アーン?」と口癖のような煽りが返ってきた。
「この程度で俺様の前進は阻めねーぜ」
「そうか」
 それだけ言って、手塚は踵を返す。強気な笑みが見られただけでいい。弱みなど見せてくれないだろうし、それならば突き進む彼を傍で見ているだけだと、返却口へ向かった。不二と菊丸が、それを追ってくる。
「手塚ー、心配してたって言ってあげたらいいじゃん」
「本当だよね英二。せっかく気を利かせてあげたのに」
「……いらぬ世話だ、不二」
 本当かなあなどと返ってくるが、手塚はそれ以上問答をする気はない。
 不二に恋情を気づかれているのは分かるが、手を貸してほしいとは思っていない。何も知らない菊丸もいるのだから、本当に余計な世話だと眉が寄った。菊丸自身は何も気づかないようで、頭の後ろで手を組んでいる。
「でも、跡べーの気持ちも分かるなぁ~。いつもの部屋と違うし、おなじみのメンツってわけでもないし、……相棒いないし」
 眠れないよと、寂しそうに呟く菊丸の肩をぽんぽんと叩き、元気を出してと囁く不二。手塚も、今の部屋が落ちつくわけではないが、眠れないというほどではない。跡部が言うように神経が太いのか、他の連中が細いのか。
「大五郎持ってくれば良かったな」
「ああ、熊のぬいぐるみだっけ? ボクはサボテン持ってきたけど、何かリラックスできるものがあると違うよね」
「そうそう、一種のアニマルセラピー?」
「ぬいぐるみでもそう言うのかな……」
「じゃあぬいセラピーで」
「もうなんだか分からないね」
 笑いながら、不二たちは手塚を追い越していく。入れ替え戦シヤツフルマツチで気持ちが逸るのだろう。手塚は、なるほどと歩みを緩めた。
 リラックスできるようなものが跡部にもあればいいのだが……と食堂を振り向く。眉間にしわの寄った跡部の顔が思い浮かんで、家から何か送ってもらうより何か贈ってやった方が早いなと、他意なく思う。
 そうして再び正面に向き直ってから、顔の熱が上がったのを自覚した。
 跡部に何かやりたいと思ったのかと。
 眠れないのは問題だし、山奥とはいえ歩けば商店街やショッピングモールもあるのだし、送ってもらう時間を考えたらここで買った方が早いというだけだと、自分自身に言い訳をする。
 跡部家ならヘリでもなんでも使って最速で届けてくれるのだろうということは、意図的に考えないようにして。
 歩きながら、おかしなことではないだろうかと思う。跡部が悩んでいるなら力になりたいと思うのは、恋情を抜いても大切な友人なのだから普通の感覚だろう。誰かそうだと言ってほしい。
 恋にうつつを抜かしていたくないのに、跡部が傍にいすぎて感覚がおかしくなってくる。
 このままずっと共にいられたらなんて、できそうにないことさえ考える。
 まったく馬鹿馬鹿しいと軽く首を振って雑念を払い、自主練に向かおうといつものように足を踏み出した。


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