No.835

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きみに逢いに

NOVEL,テニプリ,塚跡 2026.02.22

#塚跡 #猫の日 #にゃんにゃんにゃん #両片想い

 道路脇にしゃがみ込む男に、跡部は呆れるしかなかった。「お前なぁ……」 腰に手を当てて見下ろす。ため…

NOVEL,テニプリ,塚跡

きみに逢いに



 道路脇にしゃがみ込む男に、跡部は呆れるしかなかった。
「お前なぁ……」
 腰に手を当てて見下ろす。ため息も、大きな音になった。
「突然『助けてくれ』なんて電話よこすから、非常事態かと車を飛ばして来てみりゃ、なんだそれは!」
 手塚の腕の中に、小さな毛玉。顔を埋めているそれは、少し震えているように思った。
「見ての通り、猫だ」
「そんなことは分かってる! 俺が言いたいのはなぁ!」
 電話越しに聞いた声はしっかりしていたから、命に関わるような緊急事態ではないだろうと思ったが、心臓に優しくない。そもそも普段ドイツを拠点にしているわけではない跡部に助けを求めるほど馬鹿でもないだろう。たまたまコートの視察で訪れていたのが、良かったのか良くなかったのか。
「ところで跡部、車を飛ばしてきたと言ったが、法定速度は」
「アーン!? 守ったに決まってンだろうが!」
 手塚は状況が分かっていないのか、的の外れた問いかけをしてくる。速度はちゃんと守ったということに「ならいい」とばかりに頷いて、腕の中の毛玉をスッと差し出してくる。
「どうしたらいい、跡部」
「どうって……」
 手塚は悪びれる様子もない。跡部は仕方なく、手塚の手に乗せられた小さな猫の状態を確認した。
「どうしたんだよ、コイツ」
「ランニング中だったんだがずっとついてきていて……どの辺りからか、正確なところはわからない」
「親猫は?」
「いなかった。はぐれたのかと思って来た道を戻ったりしたんだ」
 足元に纏わりつかれては踏んでしまいそうでろくに歩けない、靴の上に乗ったりジャージに爪をかけて登ってこようとしたりする、と手塚は困ったように続けた。
 あー……と跡部は状況を把握して目を細めた。親兄弟とはぐれたのは間違いないだろう。こんな小さな猫が、単独で生きていられるはずがない。いつからだったのかは不明だが、汚れ具合を見るにそう大した時間は経っていないはずだ。
「首輪は……ねえな。腹減ってるか、にゃんこ」
 指先で顎を持ち上げてみる。首輪も、首輪をしていた痕もない。小さな頭を撫でてみると、「ちぃ~ちぃ~」と高い声で鳴いた。跡部はその声にフッと笑う。
「鳴く元気はあるってか。まあ飯の前にひとまず病院だな。チップが入ってれば飼い主が分かるし、飼い猫なら勝手に連れ去るわけにもいかねえ」
 飼い猫が逃げ出した可能性もあり、今頃飼い主が必死で探しているかもしれない。
「手塚、少し聞いて周りながら病院行くぞ」
「……分かった。忙しいところをすまない」
「俺様の多忙さを知っていて呼びつける図太さには感心するぜ」
「お前しか思い浮かばなかった」
 しれっとこんなことを言われてしまっては、怒るに怒れない。人たらしも大概にしやがれと心の中で思いつつ、こんなことで気分が急上昇してしまう自分も大概だと小さく息を吐いた。
「こちらに滞在しているとは思わなかったから、すぐに行くと言われた時は驚いたが。飼い主が見つからなかったら、どうしたらいいたろうか」
「……手を差し伸べるなら、そういうとこまで考えてからしろ。お前の場合猫に選ばれたって感じだからしょうがねえのかもしれねえが。自分で飼えないなら、飼ってくれるヤツを探せ」
 なるほどと頷きながら、手塚の指先が子猫の背を撫でる。ほとんど無意識でやっているだろうその手つきが優しいもので、跡部の口角が上がった。
「病院で貼り紙などはしてもらえるだろうか……」
「里親募集のサイトに登録すんのが手っ取り早いな。顔合わせして環境確認してトライアルを経て正式に譲渡だ」
「そういうものがあるのか。俺はさっぱり分からないので助かった。ありがとう跡部」
 そうすることにする、と手塚が頷く。こんな時、知識がないから助けてほしいと言うだけで、まずは自分で模索しようとするところが非常に好ましい。「お前に頼めないか」と飼育を丸投げすることだってできるのに、手塚は無責任に投げ出すことをよしとしない。
「フ……里親探す間に情が移って結局お前が飼う未来が見えるぜ」
「飼えればいいが、家を空けることの方が多い。小さな子を放っていくわけにはいかないだろう」
「まあそうだな。ほら、にゃんこのこと訊きに行こうぜ」
 ポンと手塚の腕を叩いて促してみる。すると、手塚はじっと無言で見つめてくる。そんなに強く叩いたつもりはないのだがと首を傾げれば、ハッとしたように顔を背けられた。
「なんだよ」
「なんでもない」
「なんでもねえわけねえだろ、言えよ」
「………………子猫のことをにゃんこと言うお前が悪い」
 沈黙を経た後に呟かれたが、ますますわけが分からない。「にゃんこ」では駄目なのかと思案しながら、さっさと足を踏み出した手塚を追う。
「待てって、最後まで付き合うぜ」
「ああ、飼い主が見つかればいいな」
「もし見つからなかったら、俺が引き取ってやるよ」
「お前だって家にいないことが多いだろう」
「最近はそうでもねぇ。シッターを雇うことだってできるしな」
 大会中はどうしようもないが、仕事で飛び回ることは少なくなった。在宅で仕事ができるように環境を整えることだって可能だ。
「ではイギリスにいることが多いのか……もし頼めるなら、そうしたい。逢いに行ってもいいだろうか?」
「もちろんだ。手塚お前、もう情が湧いてんのか」
「……そう思いたいなら思っていろ」
 盛大にため息を吐かれた。素晴らしい提案をしてやったというのにどういうことだろう。なんだか釈然としないまま、にゃんこの飼い主探しに勤しむことになるのであった。


#塚跡 #猫の日 #にゃんにゃんにゃん #両片想い