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カクテルキッス

NOVEL,A3!,千至,カクテルキッス,カクテルキッス01,カクテルキッス02,カクテルキッス03,カクテルキッス04,千至WEB再録 2021.08.21

#セフレ #片想い #両想い #両片想い #原作沿い #ウェブ再録 #カクテルキッス

(画像省略)会社の飲み会を断って、成り行きで別のところへ飲みに行くことになった千景と至。そこで女性客…

NOVEL,A3!,千至,カクテルキッス,カクテルキッス01,カクテルキッス02,カクテルキッス03,カクテルキッス04,千至WEB再録

カクテルキッス
One-Night.jpg
会社の飲み会を断って、成り行きで別のところへ飲みに行くことになった千景と至。そこで女性客から「一夜限りのお誘い」という意味を持つカクテルをおごられそうになり、千景は意味を知って回避するが、至が口を付けてしまい……?


EP:2.22のガチャ事情

1:ONE NIGHT IN HEAVEN
  2018/05/03 セフレの始まり

2:愛のひとつも囁けない
  2018/07/01 気づいてしまった恋心
  作中に万紬表現があります。ご注意ください

3:たった一度のI love you
  2018/08/19 ザフラでの公演
  作中に万紬表現があります。ご注意ください

4:ふたりの約束
  2019/08/04 恋人同士になったけど……。
  作中に万紬・十左表現があります。ご注意ください

5:千秒の愛に至る音 掲載準備中
  2022/087/24 プレゼントをしたい。

EP:2.22に祝福のキスを

#セフレ #片想い #両想い #両片想い #原作沿い #ウェブ再録 #カクテルキッス

たった一度のI love you-021-

カクテルキッス03 2018.08.19

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス03

たった一度のI love you-021-

18歳以上ですか? yes/no

たった一度のI love you-020-

カクテルキッス03 2018.08.19

18歳以上ですか? yes/no

カクテルキッス03

たった一度のI love you-020-

18歳以上ですか? yes/no

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たった一度のI love you-019-

カクテルキッス03 2018.08.19

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

 そうして、必要な荷物を取りに、みんなでホテルへと向かう。「わあ、すごい星……! 綺麗」「本当ですね…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-019-


 そうして、必要な荷物を取りに、みんなでホテルへと向かう。
「わあ、すごい星……! 綺麗」
「本当ですね」
「うむ、詩興が湧くよ」
 シトロンを無事に連れて帰れる喜びと、王宮への期待感は、星で埋め尽くされた夜空で拍車がかかる。建物を飾る優しいライトアップの光と、空から降ってくる星の光。
 胸が痛むほどに美しい光景の中を、浮き足立つメンバーたちのかなり後ろから、至は千景の隣を歩く。
 千景の足取りがゆっくりだ。一仕事終えて満足しているのか、空を見上げる横顔は、いつもより優しいものに見える。
「良かったですね、先輩」
「ん?」
「家族。みんな守れて」
「一時はどうなるかと思ったけど。お前のせいで」
「まだ言う」
「一生言うかもな」
 ドキ、と胸が鳴った。千景にそんなつもりはないのだろうが、一生、言える距離にいるということかと、照れくさくて口許を覆い、顔を背けた。
「でも、よく考えたら、状況判断は上手いんだよな、茅ヶ崎は。ゲーム脳っていうか、ゲームで鍛えたせいなのか。実際、危なっかしいと思ったことは何度かあるけど、絶対に駄目だっていう行動はしなかった」
「え……」
「袖の下にしてもな。有効な相手とそうでない相手、ちゃんと見極めてただろ」
 まさか、千景に褒められるとは思わなかった。確かに、ゲームでは状況判断の素早さと正確さが肝となってくる。気づかないうちに、それを発揮していたのだろうか。
「それに、生意気にも、俺が危ないことしないか見張ってただろ。怪我なんかしたらただじゃおかないって、睨みつけてきてた」
 笑い混じりに、千景が音にする。それまで気づかれていたのかと、至は気まずさに足を止めた。千景についていった理由のうちの一つは、それだった。
 守るべき家族が傍にいれば、千景はめったなことをしないだろう――罪も最小限、怪我などもってのほかだと。
 至はどうしても、千景を無傷で家族の元へ帰らせたかった。罪を犯すことさえいとわない彼に、家族のために、家族に言えないことをさせたくなかった。
 あからさまに表情に出したつもりはなかったのに、どうして千景には分かってしまうのだろうと、胸が締めつけられた。
「普通はあんな状況じゃ、足がすくんで普段どおりに動けないもんだけど。立派に相棒してくれた」
 ぶわ、と熱が上がる。
 至は項垂れて額を押さえ、息を何度も何度も飲み込んだ。あふれ出てきてしまいそうな想いを、そうすることでしか我慢ができない。
(無理、もう……無理、だめだ)
 気持ちが高ぶって、千景に言われた言葉が嬉しくて、もうどうしようもない。
「茅ヶ崎?」
 立ち止まってしまった至を不思議がって、振り向きかけた千景の背中に向かって二歩ほど歩み、彼の肩に額を押し当てた。
「……先輩、俺、今から戯れ言吐きますけど、聞き流してくださいね」
「え?」
 カタカタと、顎が震える。喉が、泣き出したいほどに痛い。それ以上に心臓が痛くて、抑えていられない想いが、それを凌駕する。
「――好きです、千景さん。俺を連れてってくれて、ありがとうございました」
 一生、言わないと思っていた。言わないと決めていた。千景を困らせたくない。拒絶されたくない。
 何より、千景と触れられる時間を、終わらせたくなかった。
 千景の体がびくりと揺れたようなのが、触れた肩から伝わってくる。
(ああ、うん、これで、終わる)
 至は押し当てていた額を離して体を起こし、唇を引き結んで足を踏み出した。
「ち、が、さき」
 千景を通り過ぎる瞬間、かすれた声で呼ばれた気がしたけれど、立ち止まってはいられない。踏み出す一歩を大きくして、千景の傍を離れようと試みた。
「茅ヶ崎!」
 だけど千景に手首を取られ、それ以上一歩も行けない。至は俯いて、声を絞り出す。
「聞き流してくださいって言ったでしょう」
「聞き流せないから引き留めてるんだ、茅ヶ崎、今のは」
「分からないほど鈍くないでしょ、先輩! あんなこと、何度も言いたくないですよ!」
 千景の顔を見られない。言うつもりのなかった言葉を言ってしまった。自分の意志の弱さを実感して、至は歯を食いしばった。
「笑ってくれても、いいですから、手、放して……!」
「茅ヶ崎、落ち着け、俺の話を」
「やめてくださいよ、同情とか、そういうの、余計に惨めになるだけ――」
「聞け茅ヶ崎! 一度しか言えない!!」
 ぐい、と強い力で引かれ、至の足は地面で踊る。あ、と声を上げる暇もなく、千景の力強い腕の中に、閉じ込められていた。
 背中に、千景の温もりを感じる。肩口に、千景の髪の感触を覚える。抱きしめてくる腕がほんの少し震えているようにも思えて、至はそこから動けなくなった。


「……お前を、……愛してる、茅ヶ崎」


 絞り出すような千景の声に、目を見開く。息が止まったかのようだった。
 ぎゅっと強く抱いてくる腕の強さは、その想いの強さを表しているようで、至はカタカタと顎を震わせる。
 お前を、愛してる。
 誰を? 俺を?
 千景の声を頭の中で反芻して、至は自分の状態を改めて認識する。
 背後からがっちりと抱かれ、せめてこの言葉だけは聞いてほしいと願う千景の、静かな呼吸が聞こえる。
(先、輩)
 至はゆっくりと自身の腕を持ち上げ、抱きしめる千景の腕に触れてみる。
 消えていかない。これは確かに現実だ。
(……千景さん)
 逃げないからとなだめるように千景の腕を撫で、そっと外させて、千景の右手と自分の左手を重ね合わせ、指を絡めた。
 千景の腕の中でゆっくりと体の向きを変え、正面から互いの顔を確認する。
 どんな顔をしているだろうかと思っていたが、いつもと変わらない。変わらないほどに、いつも想っていた。お互いそれが〝日常〟だった。
 どうして、こんなに簡単なことに気がつかなかったのだろう。どちらからともなく唇を寄せ、満天の星の下、触れるだけの口づけを交わした。



#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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たった一度のI love you-018-

カクテルキッス03 2018.08.19

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

 迷路みたいだった王宮を走り、劇場の地下へとたどり着く。そこには、先ほど袖の下でたらし込んだ兵士とは…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-018-


 迷路みたいだった王宮を走り、劇場の地下へとたどり着く。そこには、先ほど袖の下でたらし込んだ兵士とは、明らかに出で立ちの違う男たちがいた。
「警備兵多過ぎ……あれは酒じゃごまかされてくれませんよね……」
 シトロンがいる奈落へ行くには、あの男たちをどうにかしなければいけないのに、簡単には通してくれなそうである。
「茅ヶ崎、ちょっと目つむってて」
 至の手を放し、千景はまっすぐに男たちを見据える。鋭いその目つきは、卯木千景としてのものではなく、エイプリルとしてのものなのだろうか。
「それは物理的な意味で? それともこれから行うであろう犯罪行為に関して?」
「両方の意味で」
「ラジャ」
 そう答え、一瞬目は閉じたものの、至は約束を守らなかった。
 千景が至から目を逸らした瞬間に、目蓋を開ければ、千景の足が床を踏みしめ、素早く男たちに駆け寄るところだった。
「うわっ、な、なんだお前は!」
 直後、男のひとりが、妙な声を上げてうずくまる。どうやら容赦ない肘を食らったらしい。千景はそれだけでは不十分だと、うずくまった男の首の辺りを蹴り落とした。
 そうしてそのまま、右足を軸にして腕を振る。手刀は喉を突き、左足は腹を蹴り飛ばす。休む暇もなく、千景のつま先は男のこめかみを蹴りつけ昏倒させた。どこを攻撃すればいちばん効果的か、千景には分かっているのだろう。
 次々と繰り出される技に、至は自分が受けているわけでもないのに痛みを感じ、目を背けそうになった。
 唇をきゅっと引き結び、コクリと唾を飲む。
(……これが、先輩の世界なんだ)
 千景はこうして、大切なひとを守っている。その場に共にいられる機会など、この先恐らくないだろう。彼の動向のひとつひとつを、じっとその目に収めようと思った。
(お芝居してる時とおんなじ、真剣な目だ……良かった、あの人はここにいる)
 千景は、好きで人を傷つけているわけではない。そんなものに快楽を見いだす男ではない。暴力沙汰は好きではないが、ホッとした。
 卯木千景が、そこにいる。エイプリルを含む、卯木千景というひとりの男だ。
「……目、つむってろって言っただろ」
 あれだけいた警備兵をすべて伸のして、千景は至を振り向いた。
 至が目を閉じていないことは、とっくに気がついていただろうに、終わってから指摘してくるあたり、怒ってはいないようである。
「死んで、ないですよね」
「ああ、息はしてるよ。別に、殺さなきゃいけないほどの相手じゃない」
「それは良かっ――」
 千景の背後で、ゆらりと動く影がある。
 死んでいないということは、まだ攻撃可能な状態だということだ。
「せんぱっ……!」
 とっさだったと思う。
 至はポケットからナイフを抜いて、千景の背後に向かって投げた。
「使うなって言っただろ」
 だけどそれは、千景の顔の横で、彼自身の手で受け止められる。
 次の瞬間、彼はその刃を握ったまま体を翻した。振り上げたナイフは千景の手を離れて、恐ろしいほどのスピードで、男の腕を突き刺した。
「ひぎゃっ……ああぁあ!」
「う、わ」
 予測していなかった攻撃に、男から悲鳴が上がる。暗がりでも分かる血の色に、至は思わずうめいた。
 千景はナイフを投げた方とは別の手で、至の目を覆ってくる。チ、と小さな舌打ちが耳に入った。
「行くぞ茅ヶ崎」
「……すみません」
「まったくだ。あんなことさせるために、護身用のナイフ渡したわけじゃない」
 奈落へ向かって走る千景の背中を追いながら、あまりの非日常に鳴る心臓を抑える。
 至の力では、そもそも相手のところまで届かなかっただろう。それを補うのと、至の手を汚させないために、千景がナイフを受け止め、投げ直すことになってしまった。
 結局足を引っ張っただけだなと、至はしょんぼりと落ち込んだ。
「でも、……ありがとうな、茅ヶ崎」
「え、あ? あの、いえ、別に……」
 前を行く千景から、思いもよらない言葉をかけられる。思わず口を覆って、叫び出してしまいそうな衝動をどうにか押し込めた。




 シトロンを無事に助け出してからも、一騒動あったのだが、カンパニーとしてはいちばん望んだ形に落ち着いた。
 シトロンの王位継承権は?奪され、国際芸術文化大臣という名目で日本への滞在を許された。従者だったガイも、シトロンのただの友人になれた。
 王位継承権を?奪されたというのを、喜んでしまっていいのか分からなかったが、シトロン本人の顔は、今までにないくらい清々しくて、落ち着いて、大人びていた。
 咲也なんかはボロボロと大粒の涙を流して喜び、綴も目頭を何度もこすり、真澄でさえが目を潤ませて、家族の無事の帰還を喜ぶ。
 そうして至は、少し離れたところで満足そうに、幸福そうに口の端を上げる千景を見やって、ホッと胸をなで下ろした。
(よかった、家族そろった……あの人が嬉しそうで、ホントに良かった)
 まあ、黙ってひとりだけ千景についていったことを、他のメンバーにしこたま怒られはしたのだが、素直にごめんと謝った。
 助け船も出してくれなかった千景を憎らしくも思うが、ついてきたのはお前の勝手だろう、なんて言われてしまえば、反論もできない。
「じゃあ、明日は帰国日だからね! はしゃぐのもいいけど、明日のことも考えて、ゆっくり休んで」
 監督であるいづみの目も、涙で濡れていた。
 だが、今回のシトロン奪回公演は、ひどく強行軍なスケジュールであることを思い出して、みんな一様に引きつった笑いを浮かべている。
 平気な顔をしているのは、海外出張が多く慣れている千景くらいだ。
「みんな、王宮に泊まってほしいヨ」
「え? でも」
「おひたしおひたしの記念、部屋はたくさんあるネ~。使わないと痛い痛いだから、みんなを使うのが一番ダヨ~」
「めでたしだし、みんなが、だろ、違ってんのか違ってないのか分かんないけど!」
「Oh……ソーリー! みんなが、の方にしとくネ」
 綴が、シトロンの緊張感のなさに呆れ、いづみが現国王の方を振り向く。そんなことを勝手に決めてしまっていいのだろうかと。
「構わない。シトロニアの家族ならば、国賓の扱いをするべきなのだろうが、手が回らなくて申し訳ない」
 というようなことを、ガイが通訳してくれる。許可が下りるのならばと、いづみは頭を下げた。
「ふふ、王宮に泊まれるなんて、この先一生ないんじゃないかな?」
「貴重ですよね。シトロンくんに感謝しなきゃ」
「アンタと一緒の部屋なら、どこだって天国」
「そういうのはないから」
「お、王宮とかホント……慣れないっていうか」
「慣れてるヤツの方が稀だろう」
「どこでもいい……寝たい……」
「こらこら密くん、ここはまだ部屋ではないのだよ、起きたまえ」
「じゃあ、ホテルから荷物持ってきましょうか!」
 王宮に寝泊まりするという貴重な体験を前に、メンバー全員がそわそわした様子だ。いつも落ち着いている東でさえが、緊張しているようで、それこそ貴重なものを見たと思わせる。


#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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たった一度のI love you-017-

カクテルキッス03 2018.08.19

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

「オレたちもシトロンさんを探しましょう」 ああ、と至は頭を抱えたくなった。弟王子たちに良い感情を持た…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-017-



「オレたちもシトロンさんを探しましょう」
 ああ、と至は頭を抱えたくなった。弟王子たちに良い感情を持たれていなかったシトロンが、あからさまに狙われて、行方が分からなくなった。
 王位というものは、簡単に命をも奪っていく。それがシトロンの生きてきた世界なのかと、ここにきて改めて実感した。
 だけど、駄目だ。
 咲也の提案は受け入れられない。
 ここが土地勘のある場所――せめて日本国内なら、なんとかできたかもしれない。だけど、ここでは駄目だ。土地勘もないし、言葉も分からない。ジェスチャーで乗り切れる場面でもない。
「シトロンさんの身が危ないのに、何もできないなんて、オレはそんなの……!」
 咲也の気持ちは、痛いほどよく分かる。劇団を再建させた当初から一緒にいた大事な家族だ。
 至はちらりと千景の方を見やる。わりと分かりやすく、眉間にしわを寄せていた。
(ああやっぱりそうだよな……この人が、そんなことさせたがるわけがない)
「気持ちは分かるよ咲也。でも、警備兵に見つかるだけならまだしも、敵に――シトロンを邪魔に思ってるヤツらに見つかったら、命だって危ないんだ」
「でも、だったら余計に――!」
「シトロンが、咲也の命を危険にさらしてまで助けに来られるの、喜ぶと思う?」
 咲也が、ぐっと言葉に詰まる。
 冷たいことを言っているかもしれない。だけど、シトロンの従者が……ガイが言っていたように、シトロンは王になるために育てられた。時には非情な決断を下す時だってあるのだろう。
 だからこそそんな彼には、咲也が、日本での家族が、危険にさらされることをよしとさせたくない。日本に戻れないなら、せめて咲也たちが無事で、普段通りに演劇を楽しむことを祈っていてほしい。
(咲也たちは、駄目だ)
 行かせられない。
 至がそう思ってそっと目蓋を伏せた時。
「俺が行ってくるよ」
 もう聞き慣れてしまった声が、耳を支配した。
「俺なら、こういうシチュエーションにも慣れてるし、ザフラ語も話せるからね」
 なんとかなると思う、と続けるのは、千景だ。予想通りの展開に、至は小さく息を吐いた。
(この人、隠す気あんのかないのか……)
 もともと冗談めかして裏の顔を出してはいたけれど、不用心が過ぎる。
 それでも至は、嬉しかった。
 千景が劇団に入ったばかりの頃、真澄が突然出ていった時は、「俺は行かないでいい」なんて言っていた男が、今はこんなにも、
「シトロンもお前たちも、大丈夫だ。俺が絶対に死なせない。密とそう約束したんだ」
 こんなにも、みんなを大切にしてくれている。
 胸が締めつけられた。
「千景さん一人でなんて危険すぎます!」
「そうですよ! 無茶だ!」
「俺なら大丈夫だから。信じてくれ、――頼む」
 優しい、優しい声だった。それでいて、力強い、千景の声。
 至は彼の傍で、軽く拳を握った。
「……分かりました」
 そうして咲也が、ためらいがちにも頷いたのをきっかけに、他のメンバーも、心配そうにしながら踵を返す。
 千景が、知らせてくれたタンジェリン王子にザフラ語で説明し、彼らは今来た道を戻っていった。
 シトロンの大事な弟王子と、女性である監督を真ん中にして、守りながら走り去っていく咲也たちを見て、ホッとした。
「……なぜか、いちばん足手まといになりそうなヤツが残ってるんだが」
「声色変わりすぎワロタ」
「誰のせいだ」
 先ほどまでの優しい千景はどこへ行ったのか。
 それでも、二人きりになった途端の遠慮のなさは、嫌いではない。
「ま、体力的には難アリだけど、何かの役には立つかもしれないでしょ」
「激しく当てにならない」
「先輩俺に厳しすぎ……まあそれは建前だし、いいですけど」
「建前?」
「だってこういう時一人で行くヤツって、大抵死ぬフラグでしょ。そんなことになったら、アイツら泣きますよ」
「……お目付役ってわけか。それにしたって、当てにならないけどな」
 一人ではできないことも、二人でならなんとかなることもある。千景の言うとおり、至個人の能力は当てにできない。それは至自身がいちばんよく分かっている。
 それでも今、千景ひとりで行かせる選択肢は、至にはなかったのだ。
「……しょうがない、行くか。今さら戻っても、合流が難しいだろ」
「そゆこと。王宮って、なんでゲームでも現実でも、迷路みたいになってるんでしょうね?」
「知るか」
 本当は、来た道は覚えている。少し頑張って走れば、先に行ったみんなに合流できないこともない。
 ?をついてでも、今、千景の傍にいたかった。
「言っとくけど、この状況だと確実に守れる保証はできないからな」
「おk」
 なんでもないことのように、軽い口調で返してみたけれど、目だけはまっすぐに千景を見据えた。千景も、まっすぐに見つめ返してくれた。
「覚悟の上、ってことか……お前、そんなキャラだったか?」
「それはお互い様でしょ」
 それもそうだな、と肩を竦めて、千景はすっと目を伏せる。そして目を開いた時には、それまでの彼と随分違って見えた。
「茅ヶ崎」
「はい」
 少し低めの声は、集中力を高めるためなのか、彼なりに日常を切り離すためなのか。千景は腕を腰の辺りにやり、何かを取り出した。
「護身用だ、持ってろ」
「……ナイフ?」
 それは、そう大きくもないナイフ。
 ちゃんと鞘には収められていたが、どうやって持ち込んだのだろう。
 深く考えることはせずに、至は受け取った。
「扱える自信ないんですけど」
「いいんだよ、お前は、それで。期待してない」
「ナイフの意味とは」
「自分の身を守るためだけに使え。相手を脅すためでも、傷つけるためでも駄目だ。ましてや、俺の力になろうとかは、一切考えるな」
 ナイフを受け取った至の手を、千景がぐっと握りしめてくる。心の底からの思いなのだと、至は頷いた。彼が守りたいものの中に、至自身も入っていることは、理解している。
「行くぞ」
「了解」
 至は受け取ったナイフをひとまずポケットに入れ、千景のあとについた。ポケットの中で、ナイフと何かがぶつかる。
(なんだ? あ……持ってきちゃってたのか)
 荷物を整理していた時に、ひとまずとポケットに入れてそのままだったものがある。
 片付けの際に、場所を変えるだけ変えて、何も解決していない癖をどうにかしないとな、とこの場にふさわしくない、しかも改善しそうにないことを考えた。
 しばらく王宮内をうろつけば、やはり兵士に見つかってしまう。千景が、なんともうさんくさい仕種で、ザフラ語を話しているのを横で聞く至だが、まあ交渉がうまくいっていないのだろうことは、言葉が分からなくても理解できた。
(綴兄、感謝。あと、俺の雑な性格GJ)
 まさかこんなところで、本当に役に立つなんて。間違ってナイフの方を出さないように、細心の注意を払って、にこやかに出してみた。
 それを見た瞬間の兵士の顔と、ツンデレっぽい態度に、人間どこでも同じだなと、ひらひら手を振ってみせる。
「何渡したんだ?」
「綴兄秘伝の日本酒ミニボトル。あれですね、そちも悪よのうってヤツ」
「……そちは悪、って言いたいな。でもまさか、本当に役に立つとはな」
「ひとりだけ善人になるの禁止で。連れてきて良かったでしょ」
「まぐれ当たりが、何を言っ――」
 難関を突破したと喜んだのもつかの間、千景が言葉を途切れさせ、至の腕を引いた。
「こっち。隠れるぞ」
「え?」
「静かに」
 狭い――と言っても三車線くらいありそうな通路に、ぐいと引っ張り込まれる。千景の体に覆われるように、背中が壁に当たった。
 壁より柱が出っ張る建築のおかげで、隠れるのには苦労しないのだが、相手が相手だからなのか、千景の警戒には余念がなかった。
「向こうから人が来る。気配消せるか」
「無理に決まってんでしょ」
 気配を消すなんてやったことがない。そんな、目玉焼きを綺麗にひっくり返せるか、みたいなノリで言わないでほしいと、至は千景を睨みつけた。
「静かにって言ったよな」
「う……」
 口許に、千景の手のひらが押しつけられる。瞬時に、いつだかこうして口を塞がれて、無理に繋がったことを思い起こしてしまう。
「……悪い」
 それに気づいたのか、千景が手の力を緩めてくれる。至はふるふると首を横に振り、あの時とは違う、想いも近さも状況も、と自分を戒めた。
 そんなことを考えている場合ではないのに、密着している千景の体温が、至を落ち着かなくさせた。
(落ち着け心臓。頼むから。けど、どうしよう……何をすればいいわけ?)
 気配を消すなんて高度な技、こんな状態でできるわけがない。千景の足を引っ張ってしまう、と思うと、そちらの方が怖かった。
「茅ヶ崎、息、して……俺に合わせて。できるだろ?」
 耳元でそう囁かれ、別の熱が上がってくる。だけど、千景の呼吸のタイミングなんか、とっくに知っていた。
「……そう、落ち着いて……ゆっくり、何も考えないで」
 すうーと千景の呼吸が聞こえる。それに合わせてゆっくりと息を吸い、そして吐く。
 トクトクと千景の心音が聞こえる。心音のコントロールなどできやしないが、いつの間にか呼吸と一緒に音が合わさっている。
 その音が気にならなくなったと思ったら、千景がそっと髪を撫でてくれていた。
(気配……消せてんのかな)
 心なしか抱きしめられているような気もするけれど、それはこの場を切り抜けるための手段だろうと、ゆっくり千景に身を預けた。
 やがて、足音と、声が聞こえる。どうやら兵士のようだが、千景はこの気配を察知していたのかと、改めて彼のスキルを思い知らされた。
 緊迫した様子の声と、慌ただしい足音。話し声は一人分だ。電話か何かで、誰かと連絡を取っているらしい、ということしか至には分からない。
 ただ、抱きしめてくる千景の腕が、少しだけ強くなったことから、あまり良い情報ではなかったのだとうかがい知れた。
「な、なんの連絡だ……? 先輩、まさかシトロンに何かあったんですか?」
 兵士が行ってしまってから、千景の体が離れたのをきっかけに、至は状況の説明を求めた。まさか、すでに最悪の事態になってしまっているのか。
「大丈夫だ、まだ。行くぞ。シトロンは奈落にいる」
「奈落っ?」
 千景が踵を返す。至も慌てて後を追う。走るのは、というか運動全般苦手なのだが、そんなことを言っている場合ではない。
(あれ、でも、なんか……いつもより楽?)
 いつもならすでに現れる疲労と、息切れが、ない。緊急事態だということもあるのか、恐らくあとでどっと疲弊するだろう。
「こっちだ、茅ヶ崎」
 ぐい、と手を引かれる。それで気がついた。千景の呼吸とペース、進もうとしている方向が分かる。先ほど気配を消すために合わせたタイミングが、まだ、二人の間に存在しているのかと。
 そうだ、そう考えなければ、至が千景についていくことなどできないはずだ。
 この手を握り返してしまいたい。指を絡めて、放したくないと言ってしまいたい。
(馬鹿かよ、そんなこと考えてる場合じゃないのに)
 シトロンの身が危ないという時に、何を考えていいるのだろう。自分が嫌になってくる。
 こんなことしか考えていられない自分を、千景が好きになってくれるわけがない。
 今はシトロンのことだけを考えようと、触れた手から目を背けた。


#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

(対象画像がありません)

たった一度のI love you-016-

カクテルキッス03 2018.08.19

#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録

 まさか、こんなことになるとは思っていなかった。 海外公演という名目で、シトロンの気持ちを確かめにザ…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-016-



 まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
 海外公演という名目で、シトロンの気持ちを確かめにザフラ王国まで来るなんて。
 引き留められなかった相手を、連れ戻すことができるのか。しかも、一国の運命を左右する、大切な戴冠式があるというのにだ。
 そんなことがなければ、純粋に海外公演と旅行を楽しむこともできただろう。
(どう、なるのかな……)
 シトロンの本当の気持ちを聞いて、連れ戻せるものなら連れ戻したい。
 それが駄目でも、せめてガイが――シトロンが置いていった自称アンドロイドだった彼が、納得できる別れになればいい。
 至は、綴の兄にもらった日本酒のミニボトルを眺めながら、グラスのカクテルを飲み干した。
「追加、頼むか?」
 そんな至に、声をかけてくる男がいる。千景だ。
 ふと振り向けば、テーブルに乗っていた大量の料理は、ほとんど平らげられていた。時差ボケとかないのかねと、他のメンバーを見て苦笑する。
「先輩好みの料理だったでしょう。いいんですか?」
「たくさん食べてきたよ。さすがにもう入らない」
 肩を竦める千景にふっと笑い、至はミニボトルを鞄にしまい込んだ。
「さて、何にしようかなあ。茅ヶ崎は今何を飲んでたんだ?」
「え、あ……どれだっけ、これだ。美味しかったです」
「ベルモット・カシス? 茅ヶ崎にしては珍しいな」
「そうですか? たまにはこういう可愛いのもいいかなと思って」
 ベルモット・カシスは、度数が高くない。フレンチベルモットとクレーム・ド・カシス、ソーダをステアし、オレンジとチェリーで飾るものだ。見た目がとても可愛らしいカクテルである。
「お前らしくないね。あと、それの意味はあんまり可愛くもないかな」
「海外に来た時くらい、いいでしょうが。意味、って?」
「〝あなたのためなら危険も怖くない〟」
 至は目を瞠った。
 こんなに可愛らしいカクテルに、そんな意味が込められているなんて。いや、考えようによっては可愛らしいのかもしれないが、危険を顧みないというのは、恐ろしいことでもある。
「シトロンのことが心配なのは分かるけどな。めったなことするんじゃないぞ、茅ヶ崎」
 言って、千景は店員にザフラ語らしき言語でカクテルを注文する。
 至はひとつ瞬く。さすがにこの状況では、シトロンのためなら危険でも構わないと取られかねない。そもそも至は意味を知って飲んでいたわけではないのだが、そうする要素はあるだろうなと思うのだ。
 誰かのためになら、危険さえいとわずに、足を踏み入れる。
(あり得るからねホント……他の相手じゃ現実的じゃないけど、先輩じゃなあ……リアル過ぎるわ)
 想う相手が、危険な組織に身を置いている。至が考えるより数倍、危険な目にも遭っているのだろう。つらい目にも、悲しい目にも。
 いつか、密に訊かれたことがある。千景を好きかと。
 あの時も、それなりに覚悟をして、好きだと答えたはずだ。
 だけど今、あの時より数倍、千景のための覚悟がある。
(先輩が家族を守りたいと思うのとおんなじで、俺だって先輩を守りたい。そのためなら別に、……って、ないわーマジでないわ、俺のキャラじゃないっていうか、鼻で笑われそうだし)
 らしくないというのは、自覚している。
 体力も知略知慮もない自分が、千景を守りたいなどと思うのはおこがましいだろう。それでも、千景の傷が少しでも浅くなるのなら、たとえ危険があっても構わないから、何かしたい。
 思うだけで、現実は厳しいけれど。
 そう思って再度息を吐けば、目の前に新しいカクテルが置かれた。
「え?」
「茅ヶ崎に。フローズン・マルガリータ。食前に飲むことが多いんだけど、ま、いいよね」
 クラッシュドアイスが使われた、見た目にも涼しげなものだ。
「あ、ありがとうございます。あの、これって……」
 きっとこれにも意味があるのだろうと、ちらりと千景を見やるも、彼は素知らぬふりで自分のカクテルを受け取っている。
 絶対にわざとだろ、と思いつつ、携帯端末でカクテルの意味を検索した。
〝元気を出して〟
 目に飛び込んできた言葉に口許を引きつらせ、言葉をなくした。頬が赤くなっているのは自覚できて、千景から顔を背ける。
(意味が分からん! いや意味ってそういう意味じゃなくて、人の気も知らないで軽率にこんなことしやがって!)
 また想いが大きくなってしまう。至は口許を抑え、深呼吸をした。今でさえ、体からあふれてしまいそうなほどに好きなのに、これ以上惚れさせてどうするつもりだ、と千景を憎たらしくも思う。
(元気出してって……先輩だって、元気なかったじゃないか……)
 シトロンがいなくなって、みんな普通に振る舞ってはいたけれど、寂しさは誰も彼もが隠し通せていなかった。
 特に千景は、シトロンに最後に逢ったメンバーだ。
 シトロンの願いだったとはいえ、手を貸してしまった後悔や、後ろめたさもあったかもしれない。〝国に帰してほしい〟ではなく〝国に逃がしてほしい〟という、どこかちぐはぐな願いを受けて。
「美味しい、ですね」
 テキーラやキュラソーとブレンドされた、冷たいカクテル。すっと喉を通っていく感触は、さっぱりとしていた。
「そう? 良かった」
「先輩のは? それ、何ですか?」
「……俺のはキャロルだよ。ちょっと、ブランデーベースが飲みたくてね。深い意味はない」
「この期に及んで、もったいぶるとかワロス。まあ検索すればすぐ出て――」
「〝この想いを君に捧げる〟……だったと思う」
 端末に伸ばした手に、千景の手が触れてくる。操作を止めるつもりだったのだろうが、その言葉も相俟って、至の頬はボッと染まった。
「だから、深い意味はないって言っただろう」
「わ、分かってますよ。ただ、そういう気がなくてもね、ちょっとドキッとするでしょ」
 嘘をついた。ちょっとドキッどころではない。心臓が飛び出るかと思ったのに。
「先輩、いつもそういう手口で口説いてるんですか」
「人聞きが悪いことを言うな。そもそも誰かを口説いた経験なんかない」
「イケメンおつ」
「つっかかるなよ。お前だってそうなくせに」
 確かに至にも、誰かを口説いた経験なんてないけれど、それにしても千景はずるいと思う。
 至は頭を抱え、無駄にときめいた心を落ち着けようと、深呼吸を繰り返した。
「でも、困りますよねある意味。口説きたい相手ができたとき、なんて言えばいいのか分からない」
「それはあるね。どう言えば落ちてくれるのか、どうすれば、他のヤツらより脳に残るのか。まあ俺の場合、そもそも同性という壁を乗り越えなきゃいけないんだが」
「あー。っていうか先輩でもそういうこと思うんですね」
「ん? 組織にいるうちは大事な相手作らない、とか?」
 至は無言でいることで、肯定を返す。
 いつか千景にも、そういう相手ができるのかと思うと、心臓が張り裂けそうに痛む。何度も想像してきたことだけれども、そのたびに胸が痛んで、胃が重くなる。千景の口から聞いたことで、余計に加算された。
「作らないよ。弱点になりかねないからな」
「ですよね……」
「それでも人肌が恋しくなる、正常な成人男子だからね。正直、茅ヶ崎が傍にいてくれて……嬉しいよ?」
「……俺じゃなきゃ殴られてますよ、それ。クズ発言」
 ハハ、と千景は笑う。
 線を引かれた気がした。至とは、何があっても特別な関係にはなり得ないのだと。
 至は、千景のくれたフローズン・マルガリータを、涙と一緒に無理やり飲み込んだ。


#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録

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たった一度のI love you-015-

カクテルキッス03 2018.08.19

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「は? シトロンが王太子?」 それは突然のできごとだった。 シトロン――シトロニアは、生まれた時から…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-015-



「は? シトロンが王太子?」
 それは突然のできごとだった。
 シトロン――シトロニアは、生まれた時からザフラ王国の王になるさだめ。戴冠式のために帰国しなければならないという。
 劇団の誰も想像していなかっただろう。こんなに突然、別れが来るなんてこと。
 いつまでもずっと一緒に、なんて子供じみたことを考えている者はいないだろうが、願望としてはおかしなものでもない。
 それが、突然に崩れ去っていく。
 寂しい、驚いた、信じられない――そんなふうに口々に呟く団員たち。翌朝も、みんな――特に春組の面々は沈んだ顔をしていて、胸が痛んだ。
 しかし、沈んでいてはもったいない、とリーダーである咲也が呟いたのをきっかけに、寂しいながらも、いつものように過ごすことに決めたようだった。
「俺の負担がものすごい」
「ハハッ、王子様の舌を納得させられるかな?」
「いやぁ、でもシトロンは高級料理っていうより珍味……庶民料理好きそうなんですよね」
 至は巻物を眺めながら、はあ、とため息をついた。シトロンがいなくなってしまうのは寂しい。だけど彼が納得したものなら、受け入れなければならない。
 ソファの上からそっと千景を見やると、彼も渡された巻物を眺めて眉間にしわを寄せていた。よほど難しい内容だったのだろうか。
 千景なら、何でもこなしてしまえそうだけれど、と感じたが、千景は他のメンバーよりもシトロンといた期間が短い。望みを汲み取りきれないのだろうかとも思う。
「先輩? 願い事、そんなに難しいんですか。手伝えます?」
「え? あ、ああ……いや、そうじゃないよ。別れって、突然だなって思って」
「ああ……そうですね。卒業とか、引っ越しとか、自分の意思も汲まれるのは心の準備もできますけど。シトロンの場合、外の意思が多いし……しかも俺たちみたいな普通の劇団員なんかじゃ、どうにもできないこと」
 進学や婚姻などで、友人と離れてしまうのとはわけが違う。一国を背負う男を、小さな劇団の望みで引き留めておくわけにはいかない。
「……そうだな、自分の意思じゃどうにもならない、強大な力というものは、案外多い」
 千景の声が沈む。あ、と至は気がついた。千景自身、得体の知れない組織に属しているのだったと。彼も、どうにもならない強大な力というものを、体験したことがあるのだろうか。
 ぞわ、と背筋を悪寒が走る。
 もしこの先、劇団に何かしらの攻撃をされたら。物理的なものでも、社会的なものでも、怖くない。いや、怖いことは怖いが、違う。
 もしそれが起こる前に、千景が自らこの劇団を離れてしまったら――そう思うと、怖くて仕方がない。
 千景のことだ、同時に職場も離れるはずで、消息を完全に途絶えさせるだろう。密にさえ、黙って。
(あり得るから怖い。……家族を守るために、この人は平気で自分を傷つけて、犠牲にしそうで)
 その時、何もできないだろう自分が悔しい。終わってから気がついて、千景を恨んで、千景を恋しがって、千景の名を呼ぶだけ。
(……あり得るから、怖い)
 繰り返す、心の声。至は耐えきれずに、千景に声をかけた。
「せーんぱい。ねえ、セックスしませんか?」
「は?」
「これから、どこか行きましょうよ」
「お前ね……こんな時にそんな気分になるか?」
「こんな時だから、人肌恋しくなるんでしょうが」
 言って、チェアに座る千景の正面に立ち、両頬を包んで口づけた。そこから伝わってくる体温しか、今は考えていられない。唇をぐっと押しつければ、千景からも応えるように唇を押しつけられた。
「運転、俺がしようか。今お前に任せるの危険だし」
「信用なさすぎワロ」
 言いながらも、至は車のキーを投げてよこす。寂しがっていることを隠しても、不安定になっていることを隠しても、千景には気づかれてしまうんだなと苦笑した。



#千至 #シリーズ物 #ウェブ再録 #カクテルキッス

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たった一度のI love you-014-

カクテルキッス03 2018.08.19

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 眠るだけ。他人と、そんなに狭いところで眠れるだろうかと、千景はシャワーを終えて部屋に戻ってきた。 …

カクテルキッス03

たった一度のI love you-014-



 眠るだけ。他人と、そんなに狭いところで眠れるだろうかと、千景はシャワーを終えて部屋に戻ってきた。
 もともと、他人と同じ空間で眠るのは苦手な方だ。春組に入ってそれも緩和されたが、好んでそういうことをしようとは思わなかった。
 だが今回、中途半端なところで放置していってしまった彼に、埋め合わせはしなければと思う。
 どうでもいい一夜限りの相手ならばそれで構わないが、相手は惚れた男である。
 まさか、一緒に眠りたいなんて言い出すとは思わなかったが、至自身が思っているよりも、今回の事件は不安を駆り立てるのだろう。
 突然の〝非日常〟に、人肌を感じて安心したいに違いない。それだけだ、と千景は自分に言い聞かせて、ベッドを見上げた。
 千景は、それでもなんでもないと言い張る、茅ヶ崎至という男をいじらしく思う。
 彼のストレスにならないと良いが、と思いつつ千景は梯子を登り、背を向けて横たわる至を見つけて、思わず笑ってしまった。
「一緒に寝たいとか大胆なこと言っておきながら、照れてないか? 茅ヶ崎」
「そんなんじゃないですよ! ただ、ちょっと、先輩とベッドの上で……何もしないのって、落ち着かないなって、恥ずかしいだけで」
「それを世間では照れてるって言うんだと思うけど……」
「うるさいですよ」
 はいはい、と適当にあしらうふりをして、至の隣に横たわり、互いの体に布団をかぶせる。
 当然ながら呼吸の音が聞こえてきて、心音が聞こえないように、気持ちを落ち着けるのに必死になった。
「茅ヶ崎、それ利き腕じゃないよな。生活に問題はないか?」
「え、あ、はい……痛みはまだあるけど、動くし」
 気持ちを落ち着けるためにと、心配するのとで、千景は訊ねかける。そうすれば至が体の向きを変えて、怪我をした腕を互いの胸の間に置いた。
「あれ、こっち利き腕じゃないって言いましたっけ。分かるんですか?」
「いや普通に分かるだろ。利き腕っていうか、左の方が使いやすいって程度なんだろうけど、会社のデスクとか、重要なものは左に置いてあるし。寮ではもう少し顕著に出てるぞ」
「そっ、そうですか? でも本当に浅いんで……」
 至の声が少しうわずったような気がしたけれど、まずいことを言ったのかもしれないと思うと、突っ込むことはできなかった。
 至に恋をしていると自覚してから、本当に急激に、急速に、転がり落ちていってしまっている。
 視線が彼を追ってしまう。
 耳が彼の声を探してしまう。
 指先が、彼の肌に触れたがってしまう。
「茅ヶ崎、お前……」
「え?」
「…………いや、なんでもない。おやすみ」
 何を言おうとしたのだろう。もし誰かの恋心を向けられたらどうするか、なんて、今日散々な目に遭った彼に言うべきではない。
 人を傷つけたがる恋心もあるなんて実感した夜に聞いても、好感のある言葉は返ってこないだろう。
 そもそも、自分の恋心は隠さなければいけないのに。
「はい……おやすみなさい、先輩」
 どうして茅ヶ崎至という男は、こうもことごとく、心を持っていくのだろう。
 思い出してしまった。ホテルで自分勝手に処理だけして出ていく直前に、至に言われた言葉を。
(組織からの任務だって分かってただろうに、出てきた言葉が〝おやすみなさい〟ってなぁ……普通ないだろ。気をつけてとか、どんな仕事なのか、もなく、ただおやすみなさい、って……)
 小さな呼吸をしながら目を閉じた至を、至近距離で眺めながら、千景は胸が締めつけられる思いだった。
 茅ヶ崎至は、千景の中の闇に気づきながらも、なんでもないように日々を共に過ごしてくれる。危険だということも認識しているのだろうに、それを表に出してこない。
 守るべき、馬鹿な男。
 千景は思わず腕を上げ、ふわふわした至の髪を撫でた。手のひらにじんわりと伝わってくる温かみが、また胸を締めつける。
 誰かとともに眠るだけというのが、こんなにも幸福で、こんなにも温かで、こんなにも苦しいものだったなんて思わなかった。
 抱き寄せてしまいたい衝動を必死に抑え、千景は唇を引き結ぶ。
(巻き込めない――茅ヶ崎の体に包帯が巻かれてるところなんて、もう……見たくないんだ)
 巻き込もうと思えば、簡単に巻き込める。至は、巻き込まれてくれてしまう。
 だけどそれは駄目なんだと、抱きしめたがる手を、至の背後でぎゅっと握りしめた。
(茅ヶ崎の日常を壊せない。……誰にも、壊させない)
 もし自分がそれを壊してしまうなら、いつでも離れる覚悟はしている。たぶん最後になるだろう恋よりも、彼の日常の方が重要で、重大で、大切だ。
(茅ヶ崎……頼むから、俺の傍でそう無防備に寝息をたてないでくれ)
 心臓が痛む。切なさに、歓喜に。
 こんな気分で目を閉じたのは、恐らく生まれて初めてだった。


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たった一度のI love you-013-

カクテルキッス03 2018.08.19

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 そうして、日付が変わっても土曜日なのをいいことに、いつもよりほんの少し熱中した。 そのせいか、部屋…

カクテルキッス03

たった一度のI love you-013-


 そうして、日付が変わっても土曜日なのをいいことに、いつもよりほんの少し熱中した。
 そのせいか、部屋のドアの向こうが、にわかに慌ただしくなったのにも気づかなかった。
「茅ヶ崎!」
「……は?」
 蹴破らんばかりの勢いで、ドアが開く。壊れてしまうのではないかと思うほど乱暴な音に、心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「せ、ん、ぱい?」
 息を荒らげて、ずかずかと入り込んできたのは、至が想ってやまない卯木千景。珍しく汗まで浮かんでいそうな形相に、目を見開いた。
「え、あの、どうし――」
「怪我、どこだ。何があった!?」
「は? なに、なんでっ……」
 千景は歩み寄るなり、責めるようにも訊ねてくる。どうして千景が、怪我のことを知っているのだろうか。
 そもそも彼は今〝仕事中〟のはずではないのか。終わったのだろうかと考えるより先に、千景が至の右腕を掴んでシャツの袖をぐっと上げさせた。
「めざと過ぎワロタ」
 袖で隠れていたのに、なぜそこだと分かるのだろう。それも仕事柄なのだろうか、などと、どこか他人事のように思った。
「ちょ、せっかく手当てしてもらったんですから、取らないでくださいよ、先輩。そんなに大袈裟なもんじゃないんで」
 煩わしそうに包帯に指をかけた千景を、至は慌てて止める。浅い傷口とはいえ、千景には見られたくない。
 日常の平和を守ってくれている千景に、非日常に侵された部分など、見せたくない。
(……あ)
 至は、眉間にしわの寄った千景の顔を見て、気づく。
(もしかして、先輩があの時、俺に傷口見せたくなかったのも、同じ理由?)
 彼が怪我を負った時、包帯を巻き直すことさえさせてくれなかった。千景のすべてを知っている密には、手当てをさせていたのにだ。
 だけど、それと同じことを、至もしている。
 千景への想いも全部知っている万里に、手当てをしてもらって、千景には触れさせたくないこの思い。
 もしかしたらあれは、煩わしかったのではなく、そういう気持ちからだったのだろうか。
(分かりづら……)
 器用なように見えて、お互い不器用過ぎるのだ、とそこで初めて思い当たる。
「万里が……お前が刺されたって」
「はァ!?」
 至の腕をぐっと握って、包帯を見下ろす千景から、ぼそりと呟かれる言葉。至は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 だがしかし、考えなくても分かったことだ。この怪我のことは、当事者と警官と、あそこにいた目撃者と、万里しか知らないのだから。
 気まずそうに、LIME履歴を確認する千景から、バッと端末を取り上げて、ことの次第を知ったらしい会話履歴を追いかけた。
『至さんが刺されたんすけど』
『手短に状況を話せ』
『いや……本人に聞いた方がいいと思う……一応話せる状況ではあるんで』
(なんだよこれ、見ようによっては大怪我みたいに!)
 既読がついたその後は、履歴がない。これを見て、千景は慌てて帰ってきたのだろう。
 至はカアッと頭に血が上って、千景の端末で万里へのコールをタップしていた。
『うい~す』
「うい~すじゃねえわ万里ィ!! お前な、言うなって言っただろうが!」
『あ、把握。いやー日本語って難しいっすわ至さァん』
「あァ!?」
『俺はね、〝今寮にいるヤツらには〟って言ったんすよ。千景さんさっきいなかったっしょ』
 端末の向こうからは、万里の笑う声が聞こえる。その奥で、諫めるような紬の声も聞こえる。
『じゃ、千景さんいるみたいだし切るわ。さっさと自覚しなって』
「はぁ!? おい、ちょっ、万里!」
 抗議をしきる前に、通話が切れる。もう一度コールをタップする気力は、至には残されていなかった。
「……ふざけんな、っの馬鹿」
 まさかこんなトラップが仕掛けられているなんて、とそこまで思って、青ざめた。千景が慌てて帰ってきたということを歓喜する前に、邪魔をしたのではないかという思いが頭をよぎる。
「あ、の、先輩……用事、終わったんですか? 別に、大したことないんで、その」
 至はあえて、仕事とは言わなかった。千景の顔つきが変わる。
 やっぱり邪魔をしてしまったのかと、首を竦めた。
「状況、話せるか。何があったんだ」
「え……」
「別に邪魔はされてない。万里から連絡が来たのも、終わってからだったし。大体、……用事中にこっちの端末気にするわけないだろ」
 千景の言うことはもっともだ。集中しないといけない時に、気を奪われるものか。
「何があった、茅ヶ崎」
 真剣な顔で訊ねてくる千景に、黙っているわけにもいかず、至は口を開いた。
「言ったでしょ、今日っていうか昨日、財務の女の子にプレゼントもらっちゃったって。その子の元カレだかストーカーだかが、八つ当たりで襲ってきただけです」
 車に乗り込む直前だったこと、目撃者は結構いたこと、誰かが通報してくれたおかげで、警察がわりと早く着いたこと、怪我はこの右腕のみであったことを話した。
 千景はその間中ずっと、包帯の上から至の右腕を撫でていた。
「……だから、大したことないんですよ」
「お前、これ俺に言わないつもりだっただろう。全部脱がせたら、どうせ分かるのに」
「ははっ、エロす」
 至はそう返して笑うものの、あるひとつの仮定に気がついた。
「……ねえ先輩、もしかして慌てて帰ってきたのって、俺が組織の人間に狙われたのかもって思ったんですか?」
 びくり、と千景の肩が揺れる。珍しく動揺しているようで、真実を悟ってしまった。
 至は千景の真実を知る、数少ない人間だ。刺されたなどと知らされれば、組織が口封じに動き出したのかと思ってしまうのも、当然だろう。
「そんなわけないでしょ。だってあれは全部、俺の妄想なんだし。そんな世界からエージェントが抜け出して、一介の廃人ゲーマーをどうにかするとか、先輩大丈夫ですか? お疲れです?」
 肩を竦め、そんなことはあり得ないと揶揄する。至の妄想を、千景が引き継ぐ必要はない。
「せーんぱい。こんなことで、またやめるとか言い出さないでくださいね。そんなこと言う暇があったら、俺を抱く時の誘い文句でも考えておいてください」
「……どれだけセックス依存してるんだ」
「やだな、俺が依存症なのはゲームだけですよ。まあ先輩限定でなら、セックス依存も悪くないですけど」
 色を含んだ声を吐き出すと、千景はふいと視線を背け、ようやく至の右腕を放した。
「お前の妄想に少し付き合うけど、確かに警告なのかと思った。以前隠れ家アジトの方に来た時、やっぱり顔を見られていたのかもしれないとな。自覚をしろ茅ヶ崎」
 千景は自分のチェアに腰をかけ、至との距離を取る。腕を解放する前に、彼の指先がほんの少し震えていたことには、気がつかなかったふりをした方がいいのだろうと、至は視線だけで先を促した。
「俺の周りには敵が多い。商売敵にしろ、……内部の人間にしろ、だ。そういう俺と深く関わるということは、リスクが高いって、お前なら分かるだろう。体力も俊敏さもないお前が、この先無事でいられる保証はないんだぞ」
 自覚をしろ、と先ほど万里にも言われて、だけど千景の言うカテゴリとはまったく別物で、どちらがより〝平和〟なのだろうかなんて考えた。
「俺も実際、先輩の関係者かなってちらっと頭をよぎりましたけど。昔のお相手かなとか。でも先輩が関わってなくても、あのナイフ……場所が悪ければ危なかった。そういうのを頭に置いて暮らしていけって言うんですか」
 今回のことは、至が知らないうちに、他人からの恨みを買っていた。そうでなくても、命の危険なんて日常にも転がっている。事件であったり事故であったり、自分の意思が介在できないものが。
 だけど千景のことに関しては、少なくとも自分の意思がある。
 危険かもしれないことは分かるが、それを表に出していたくない。危険だと認識して千景と触れ合うのは、それこそ彼に〝非日常〟を感じさせてしまうだろう。
「差し当たって俺が危険だなーって思うのは、先輩に足腰立たなくさせられたらどうしようとか、今日みたいに放置されてったらどうしよう、ってことくらい」
「……外せない用事だったんだ。仕方ないだろう」
「ふふ、男の人っていつもそう、ってとこですかね」
 立てた膝に頬を当て、千景に向かって笑ってみせる。
 別に、今回の情事が中途半端だったことには、それほど怒っているわけではない。無事に戻ってきてくれたのならば、それでいい。
 関係ないところで、至が怪我を負うという事件は起きたわけだが、それさえなければ、今、この瞬間が、互いにとっての日常であってほしかった。
「ねえ、埋め合わせ、おねだりしてもいいですか」
「は?」
 千景が不審げな視線を向けてくる。
 今回の放置の埋め合わせとなれば、普通は行為のやり直しを連想するだろう。寮ではしないという約束なのに、という千景の戸惑いが見えて、至は笑ってしまった。
「期待を裏切って申し訳ないですけど、ちょっと、一緒に……眠りたいなってだけですよ。俺は何もしません。先輩がしたければいいですけど?」
 日常が生まれるこの部屋で、千景の温もりを感じてみたい。それくらいなら、許されてもいいはずだ。
「……ベッド、狭くないか」
「我慢してください、それくらい」
「……一緒に、眠るだけ?」
「そう。先輩とは、そういうのしたことないでしょ。セフレなんだから当たり前だけど」
 千景が、チェアの上を見上げる。そこは千景の使うロフトベッド。百八十センチ前後の男が二人で横になるには、少々狭いだろう空間だ。
「……構わないけど、シャワーしてからでいいか。匂いが残ってる」
 ホテルでもシャワーをしたのに、千景はためらいながら口にする。至はどうぞと促し、自分も腰を上げて、千景のベッドに上がった。
 まさかこんな要望が通るとは思わなかったけどと、ひとりで笑いながら。


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