- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
- 初めての贈り物 2025/10/07 23:34:08 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 世界でいちばん贅沢な 2025/10/04 14:01:50 NOVEL,テニプリ,塚跡
初めての贈り物
どれがいいんだろう。
俺は本棚の前で考え込んだ。首を傾げて、顎に手を当てて、なんならうなり声さえ上げて。
この跡部景吾がモノ一つに悩むなんてあり得ねえ。いや、今実際悩んでいるんだから、あるんだが。けど素直に認めたくねえ。
なんで俺が。
……なんで、こんなに悩まなきゃいけねえんだよ。
俺は顎に当てていた手を外して、目の前の本棚へと伸ばした。所狭しと並んだ……というか詰め込まれてでもいるような数々の本から、一つ選んで引き抜いてみる。
綺麗な写真の表紙。中身をぱらりと見てみる。そこにも美しい景色が掲載されている。
ああ、分かんねえ。
綺麗だと、美しいとは思うんだが、今イチ胸に響いてこない。だから分からないんだ。これでいいのかどうか。
もっとな、実用的なモノの方が良いんじゃねえかとか、実物の方が良いんじゃねえかとか、そんなことが頭をよぎる。
俺はため息をついて見ていた本を丁寧に棚に戻した。
諦めるか。
そんなことを思いかけて、思いとどまって、もう一度、次は別の本を手に取る。
…………アイツ、こういうの好きなのかな……。プレゼントしたら、喜んでくれたり……するんだろうか。あの仏頂面でも。
いやそもそも、受け取ってくれんのか? 俺だぞ?
あぁ……くそ、アイツのことになると、どうしてこう、途端に自信がなくなっちまうんだろうな。普通に考えたら、プレゼントなんかされたら昇天モノだろう。俺だぞ?
けどアイツは普通じゃねえんだよ。いや、俺が普通じゃないだけか。
なんであんな鈍感テニス馬鹿に惚れちまったんだ、俺は。
俺は今、手塚国光に恋をしている。
自分で言ってて寒気がしてくる。
恋ってなんだよ。同性相手に。LGBTだなんだって言ってても、自分の身に関わってくるとは思わねえだろ。想定外にも程があるぜ。
けど……手塚相手なら仕方ねえかとも思う。あんなに熱い魂に触れちまったら、他の何もかもが低温に思えてしまう。
だから、初恋の相手が手塚であることにはもう諦めが付いてんだけどな。
だからって、なんで俺様がプレゼントの一つや二つにいちいち悩まなきゃなんねえんだって話だよ。
アイツが登山好きだって知って、少しでも喜んでくれたらいいなとか思って本屋なんか来て! 今まで関心がなかったものだから、どういうモノがいいのか全然分からなくてもう一時間もこうしてるの、馬鹿みてえだろうが!
俺様は忙しいんだよ。こうして悩んでる間にだって、何かしらのタスクが完了できただろうって思う。
思うのに、なんで胸の辺りがくすぐったくて、嬉しくて、恥ずかしいんだ。
ココに来てから、いや、来る前からずっと手塚の顔が頭から離れない。手塚の声が耳から出ていかない。
実際そんな反応はされねえだろうに、ありがとうなんて礼を言って微笑んでくれる手塚を想像なんかしちまって、呆れることも何度か。
めんどくせえ。
もうやめちまうか、誕生日プレゼントなんて。
だいたいな、萩之介が余計な気ぃ回して手塚の情報とか流してきやがるから。なんでバレてんだよ。
……俺はアイツと親しいってわけでもないし、学校も違う。わざわざ渡しに行ける間柄じゃねえんだよ。今日は……たぶん青学の連中に祝われてんだろうな。邪魔もできねえ。
こじつけるだけの理由も見つからねえから、逢いにもいけねえし。
……プレゼントなんか買ったって、すぐに渡して祝えねえなら、やっぱ意味ねえかな。
苦笑して、ようやく……やめておこうと決心がついた。
どうしてお前がと不審がらせるだけかもしれねえしな。
俺は平積みされていた本をきちんと戻して、本屋を出ようと踵を返した。
「跡部」
返したそこで、硬直した。
なんで今、いちばん逢いたくて、逢いたくねえヤツがそこにいるんだよ。
「手塚……」
俺のハートを根こそぎ持っていきやがった男が、物珍しそうな顔をして佇んでやがる。胸が鳴って、呼吸が浅くなる。
気づかれないように、できるだけいつも通りにしてみせた。
「よう、奇遇だな。お前も何か買いに来たのか」
声は震えていないだろうか。口角はちゃんと上がっているだろうか。
「買いに……というか、何を目的にというわけではなく、つい立ち寄ってしまった。お前もか、跡部」
手塚の態度は普段と変わらない。良かった、気づかれてはいないようだぜ。……偶然逢えたの、すげえ嬉しい。
「近くに用事があってな。まあついふらりとって感じだぜ。俺様好みの洋書はなかったが、たまには普段触れない分野に触れてみるのもいい」
用事があったなんて嘘だし、洋書のコーナーにはまだ行ってねえ。けど、全部が全部嘘ってわけじゃねえぜ。本屋に立ち寄るのは割と好きだしな。
「この辺りはカメラや登山だが……興味があるのか?」
手塚が近くまで歩んでくる。今日も腹が立つほどいい男だなテメーはよ。
「少しな。高山植物なんかも、いつかちゃんと見てみたいが。お前は登山が好きなのか?」
「ああ、そうだな。今日も、山の写真や本などで良いものがないかと思って寄ってみたんだ」
ふうんと俺は相槌を打つ。……やっぱ本でも好きなんだな。機嫌が良さそうだ。
「なるほどね。詳しいなら、お前のオススメでも聞いてやろうじゃねーの」
「オススメ……俺のでいいのなら。登山をするなら、まず初心者向けの――」
手塚はそう言いながらガイドブックのような本を手に取る。心なしか声のトーンが上がったような気がして、あ、コイツ嬉しそうだ、と思った。
自分の好きな物に関心持ってもらえるってのは、やっぱり嬉しいよな。俺は手塚が話してくれる山の知識に耳を傾けて、たまに質問したりもした。
「本格的にやるなら、靴って重要だよな」
「ああ。道具を揃えるなら多少はアドバイスしてやれるぞ」
「サンキュ、手塚」
「いつかお前と登山をする日がくるかもしれないな」
……テメーは! 人の気も知らねーで!
コイツ、本当に鈍感過ぎねーか? ちくしょう、うれしい……コイツの誕生日なのに、俺が嬉しくなっててどうすんだよ……!
「フ、登山でも負けねーぜ、手塚ァ!」
「登山は勝負するものではない」
フフッ、思った通りのこと言いやがる。本当に、いつか一緒に登山できたらいいな。それまでに初心者向けで慣らしておくか。
「このガイド買ってく。他にいい山とかあんのか? 人気のとことかあるんだろ?」
「それならこの本……、……新しいのが出ている」
手塚は「日本百名山」という本を指さし、自分が知っているものではないことに気づいたようだ。2025年版と書かれているところを見るに、前の年度でもあったのだろう。
「更新されんのか、こういうのって」
「まあ、何年かに一度は。山の状態が変わっていたり、新たなスポットが特集されることもあるからな。日本百名山と新日本百名山もある」
「フフ、制覇してえって顔してるぜ、手塚」
浮かれているのが気まずいのか、手塚は眉を寄せて口を引き結んだ。今日はいろんな顔が見られるじゃねーの。俺は日本百名山と新日本百名山を手に取り、腕に抱えた。
「跡部?」
「お前、これ持ってねえんだろ? プレゼントしてやるよ」
「どういうことだ跡部。お前にそうしてもらう理由がない」
ほらやっぱり。俺が贈る理由なんて微塵も考えてねえってツラしてやがる。どうしてこう、鈍感なんだよ。
「理由がねえわけねーだろ。お前今日誕生日じゃねえか」
「え、……あ、ああ、そう、だが……待て、それにしたっておかしいだろう。俺はお前の誕生日に何も贈れていない」
手塚は心底驚いた顔をして、次いで思い切り眉を寄せた。俺が誕生日知ってると思わなかったのかよ。
え。
…………え?
今何つった、コイツ。
今! 何て言った、コイツ!?
俺の誕生日に、何も贈れていない……?
待て。待て待て。確かに俺の誕生日は先日だったが、今日より前だったことを、手塚が知っている……?
俺は半ば茫然としながら口を開いた。
「手塚……俺の誕生日知ってんのか……?」
「……、あ」
〝あ〟って言った。〝あ〟って言った。手塚が珍しく視線を背けた。……知ってたんだ。…………知ってたのかよ!? 手塚が!? 俺の、誕生日……!
なんでだ? 手塚が俺の誕生日なんか興味あるわけねえのに……、……興味、あったのか?
「いや、あの、すまない。……知っていたんだが、気楽に祝える間柄でもないからな」
気まずそうに咳払いをする手塚を、どう解釈すればいいんだ。祝いたがってくれたのか……? これは、少し……期待、してもいいんだろうか。今より少し親密な間柄になりたい……と願っても。
「3日も過ぎてしまったが、誕生日おめでとう、跡部」
改めてそう言われ、俺は天にも昇る思いだ。感極まって、歯を食いしばる。この瞬間を一生忘れたくないと視線を落とした。
「……お、い、おい、誕生日おめでとうはこっちの台詞なんだが。まさかお前から祝ってもらえるとはな……最高じゃねーの」
「それこそ俺の台詞だ。テニスばかりで、俺自身には興味がないのだろうと思っていた」
「んなわけね……っ」
慌てて視線を上げたら、手塚とバッチリ目が合った。磁石かと思うほど引き合って、放せない。
「……俺はお前自身にも興味がある」
「俺だってそうだぜ」
「そうなのか」
「ああ」
短い言葉のやり取り。先に視線を逸らしたのは、手塚の方だった。その視線は、店の外へと向いている。俺は手に持った数冊の本を見下ろし、レジの方へとつま先を向けた。手塚の誕生日プレゼントにと思ったのに、ヤツはそれを止めてきやがる。
「待て跡部。それは要らない」
「アーン? この流れで拒否んのかよ」
「来年もらう。今はお前と話がしたい」
俺に視線を戻して、手塚が真剣な顔でそう言い放つ。
来年。つまりはそういうことだ。人っておかしなもんだな。浮かれていいはずの場面なのに、俺はどうしてか驚くほどに冷静だ。
手塚が、俺のことを知りたがっている。
俺も、手塚のことを知りたいと思っている。
「いいぜ。今日はお前の誕生日だからな。要望には応えてやるよ」
俺は丁寧に本を戻して、二人で店の出入り口へと向かう。どこかゆっくりできるところで互いのことを話すという、暗黙の了解をしあってだ。
「テニス目的でもなくお前と過ごすって、どんな感じなんだろうな」
「分からない。だから今からそうするのだろう」
「フ……まさかこんな幸運な偶然があるとはな。人生何が起きるか分かったもんじゃねえ」
どこへともなく歩き出して、俺は笑う。本屋に入った時には、誰かとともに出るなんて思いもしなかった。段々と自覚してきて、顔の熱が上がってくる。
「それはそうだな。本屋の外からお前が目に入った時は、ついに幻影まで見え始めたのかと思った。立ち寄ったのは、お前がいたからだ」
「え……」
言葉の意味を把握して、顔の熱はさらに上がった。もしかして俺、コイツに好かれてんのか。チラリと横目で見てみれば、心なしか手塚の顔も赤いように思う。それは幻影じゃないはずだ。
……かわいい。
「…………顔、赤ぇぜ」
「…………お前こそ」
「……冷房効いてる店とか、近くにあんのか?」
「10月だというのに、少し暑いな」
歩みがゆっくりになる。顔が赤いのは気温のせいじゃないなんてこと、お互い分かってる。速度がさらにゆっくりになって、止まるか止まらないかってくらいにまでなっちまった。
指先が触れる。指と指が絡み合う。ついには立ち止まってしまって、俺は手塚の方へと体を向けた。
「……好きだぜ手塚。誕生日おめでとう」
そうして、初めての恋を手塚に贈る。
ヤツからは何も言葉が返ってこなかったが、絡む指の力が強くなった。俺はそれで充分だぜ。
再び歩き出して、向かったのはテニスコート。話をしようとか言ってても、俺たちの場合結局こうなっちまうんだよな!
#誕生日 #片想い #両片想い
日々のつぶやき 2025.10.05
13~15話まで一気に見れたの嬉しい😄神門大好きなので今クールはリアタイしたいなー。#観劇 #暗鬼ア…
今日は暗鬼の先行上映見てきました。まさかの2列目ドセン!www最前列は関係者席だったけど、なんでかドセンだけ席空けられてて、実質最前だった。
テニミュまさかの天覧試合だったーーーー!🤭
今日のテニミュ、マチネに行ってきました。
テニミュ初日に行ってきました!は~テニミュ最高ーーーー!
世界でいちばん贅沢な
贈る側のはずなのにと同じ世界線
少し遅くなってしまった。
そう思いながら、いつもより足早にエントランスをくぐり、いつもならするコンシェルジュへの会釈もそこそこに、エレベーターのボタンを押した。最上階というのは景色も映えて良いのだが、急いでいる時はありがたくない。
狭くはない箱に乗り込んで、俺はすぐにクローズボタンを押した。普段よりエレベーターの速度が遅い気がするが、まあそんなことはあり得ない。俺の気が急いているだけだ。
時刻は23:50、もうすぐ日付が変わる。いや、他国で考えればもう日付を超えてしまっているところだってある。日本であったら、どうだろうか。
いや、ともかく今この場所でなら日付は変わっていない。まだ10月3日だ。
なぜこんなにも焦っているのかというと、あと10分ほどで恋人の誕生日を迎えるためだ。
…………いまだに、恋人という言葉がしっくりこない。
どうにも、アイツと俺の関係性を示す言葉として舌に慣れないんだ。
眉を寄せて、では何という言葉ならいいのかなどと考えているうちに、エレベーターは最上階へ着いた。なんとか間に合うなと思い、まずは自分の部屋へと向かった。このフロアは二世帯しかなく、一つは俺、もう一つはアイツの――跡部の部屋だ。
一緒に住むかと提案したのはどちらだったろうか。
お互いの希望を最大限に考慮した結果、フロアごと借り切った方が楽だと落ち着いた。跡部の私物が多かったせいで、一部屋で収まらなかったというのが理由の一つに挙げられるが、他の隣人に気を遣わなくてすむというのはありがたい。
電子キーのボタンを押してロックを解除する。用意したプレゼントを持って、急いで隣の部屋に向かおう。
そう思ったのに。
俺はリビングのテーブルに置いていたプレゼントが消えているのに気がついて、目を瞠る。
どうして。
今朝、出がけにちゃんと配送を受け取ったはずだ。セキュリティも万全だから盗まれるはずもない――と冷静に状況を把握、……しきる前に、理解した。
テーブルの傍のソファに、一人の男が眠っている。俺が用意した薔薇の花束と、プレゼントの箱を大事そうに抱えながら。
俺は大きなため息を吐く。
驚かせようと思ったわけではない……わけでもないが、当日を前に渡すはずではなかった。
渡した時の驚いた顔も見たかったなという俺の気も知らずに、その男――跡部景吾は気持ちよさそうに眠っている。ソファじゃ体が休まらないだろうに、それでも幸せそうだ。
起こすのも忍びないが、ここは起きてもらおう。
「跡部」
名を呼んで少し肩を揺さぶってみるも、起きない。
「……跡部」
声の大きさを増やして呼んでも、起きない。
仕方ないなと俺は腰を折って、前髪をかき分けて額にキスをした。そうして離し、言ってやる。
「跡部、起きているんだろう」
一秒置いて、フッと空気を揺らす吐息のような笑い声。肩が揺れた。
「ばぁか、ここは唇にキスして起こすのがセオリーってもんだろ」
目蓋が持ち上がって、青い瞳が姿を現す。相変わらず綺麗だな、コイツの瞳は。
「そんなセオリーなど知らないが。ところでどうしてこっちにいるんだ」
「こっちの方が落ち着く」
跡部は寝転がっていた体を起こしながらそう呟く。俺は二度目のため息だ。
「自分の部屋を落ち着く環境に整えろ」
「怒るなよ。お前の生活感があるこっちの方がいいって話だ。まあな、今回ばかりは何も見なかったフリして隣に戻ろうかとも思ったんだぜ」
抱えたままの花束、薔薇の花弁にキスをする跡部に、何とも気まずい気分になる。ガラじゃないことは分かっているんだが、たまにはこういうのもアリだろうと思った自分を蹴り飛ばしてやりたい。
「で、手塚? 言うことねーのかよ」
楽しそうに口の端を上げた跡部に、ハッとして時計を見てみれば、時刻は00:01。今この場は、10月4日。跡部の誕生日だ。
「誕生日おめでとう、跡部。よい一年になるように祈っておく」
思い描いていた予定とは違ったが、いちばん始めに祝えたことには変わりがない。跡部とこういう関係になってから気づいたが、独占欲というものが俺にもあったらしいからな。
「サンキュ、手塚。歳を重ねる瞬間に、お前といられるのが嬉しいぜ」
満足げに、幸福そうに、跡部が微笑む。…………なんなんだろうな、この眩しさは。コイツは年々輝きを増していくようだ。年々というか、試合ごとにというか、もう、日々にというか。
もう慣れたが。慣れるほどには傍にいたという事実が、俺には幸福に感じられた。
「それにしても、薔薇の花束ね。お前にしては珍しいチョイスじゃねーの」
「……気に入らなかっただろうか」
「んなわけねーだろ。お前がどんな顔してこの花注文したのか見たかったけどな。毎年、何がいいかって訊いてきただろ。だから珍しいなと思って」
そうだ、いつもは跡部が欲しいものを確認していた。逢える時間が少なかったというのは、言い訳だろうな。
「もしかして、欲しいものがあったか?」
「訊かれたら言おうと思ってたものはあるぜ」
跡部は花束を今一度抱きしめてから、そっと傍らに置いた。いつもと同じようにした方が良かったなと、ここで悔いた。今からでも買えるものだろうか? 資金はあるからあまりに高額なものでなければ一緒に買いに行こうと提案してみるか。
そんな風に思案していた俺を見てか、跡部がフッと笑ったような気がした。
「世界でいちばんの贅沢品だぜ」
「……俺が買える範囲にしてくれ」
「手塚国光からのキスが欲しい」
何を言われているのか、一瞬分からなかった。跡部は楽しそうに、それでも少し照れくさそうに笑う。
「は?」
キス、と言った、な? キス? 誕生日にか?
「待て、贅沢品と言っていただろ……あ」
「アーン? てめェはねだってんのに、俺様がねだっちゃ駄目なわけはねえよなぁ? 手塚」
キスが贅沢品なわけあるかと言いかけて、思いとどまる。
なにしろそれは、俺が毎年跡部にねだっているものだからだ。跡部からのキスが欲しい。いつもそう言って、跡部を呆れさせている自覚もあった。だけど俺にとって、それは最高の贅沢品だ。他の誰も手に入れられないものだからな。
跡部が、何も誕生日に欲しがらないでもいいだろと言っていた気持ちを、今しっかりと理解する。本当に、誕生日のプレゼントとしなくてもいいだろう。
いつもと同じだろ。そう言っていた跡部の気持ちも、よく分かる。
ということは、跡部も、キスが欲しいと言い続けた俺の気持ちを理解してくれているのだろうか。
「な、手塚……キス、くれよ」
こんなふうにうっとりとした顔をされて、断れるわけもない。
俺は跡部の前に膝で立ち、両手を彼の頬に伸ばした。その行動で察してくれた跡部が体を俺の方へと傾けてくれる。
「……目、閉じないのか」
「俺がお前の顔好きなの知ってんだろ……」
はっきりと言うヤツだな。悪い気はしない。俺も跡部の顔は好きだからな、見ていたい気持ちは分かる。
だから、唇が触れてもお互い視線を合わせたままだった。
触れて、食んで、ぺろりと舐める。
どちらからともなく舌を絡めて、ようやく目蓋を閉じた。
跡部の腕が俺の首に回ってくる。もっと深いのをご所望らしい。俺も跡部をグッと引き寄せて奥へと入り込んだ。
跡部の唇が濡れていくのが嬉しい。
髪を撫でて、背を抱き、伸び上がる。
「……ん」
「跡部……続きはシャワーを浴びてからだ」
「じゃあ、一緒に入ろうぜ。待ってる時間が惜しいからな」
……一緒に入って何もせずに出てこられるとは思わないが、今日は跡部の誕生日だからな。望みは聞いてやりたい。
「来い、跡部」
「ああ、最高に贅沢な一日にしてくれよ」
跡部はそう言って俺の手を取るが、お前を幸福にできる俺の方こそ、世界でいちばんの贅沢者だと音には出さずに考えた。
#誕生日








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