- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
カテゴリ「塚跡お題100本マラソン」に属する投稿[100件]
…分かれよ、ばか
「跡部」
手塚の声が聞こえる。だけど跡部は、それに応えることができないでいた。
「跡部、大丈夫か?」
大丈夫じゃない、と応えることもできない。体中がギシギシと痛んで、声を出すことすらままならないのだ。
まさか、こんなに大変な行為だとは、思ってもみなかった。
つい先ほど、手塚と初めて肌を合わせた。
お互いが合意の上の行為だ、特に誰が悪いというわけでもないのだが、こんなに痛いと誰かを責めたくもなる。その相手は主に、手塚だ。
「すまない、無理をさせたとは思うが……」
「体中、いてぇ……がっつきやがって」
「抑えられなかったんだ。まさかあんなに色っぽいとは思っていなかった」
ぐっと言葉に詰まった。自分はどんな醜態をさらしたのかと思うと恥ずかしくてしょうがないが、手塚がそう言うのならよしとしておこう。
「本当にすまない。体を拭くから、腕を」
「……いい、自分でやる。ちょっとマシになってきた」
だが、と心配そうな手塚から濡れたタオルを分捕って、怠い体をどうにか起こした。
「今俺の体に触るんじゃねえ……」
それでも手を貸そうとする手塚を睨みつけて、跡部はそっぽを向く。
余韻の冷めないこの状況で手塚に触れられたら、おかしなことになってしまう。体の悲鳴も聞かずに、再び体を重ねることになるはずだ。
「……分かれよ、ばか」
そんな跡部の小さな呟きを、手塚はどう受け止めただろうか。
お題:リライト様 /「……分かれよ、ばか」
#お題 #両想い
小さな意思表示
手塚からのキスにも、少し慣れてきた。触れるだけのものが深いキスに進展したのは、先々週のことだ。
手塚からのアクションは、『跡部』と名前を呼ぶことから始まる。それは意図してなのか、無意識なのかは分からないが、少なくとも跡部は嬉しく思っていた。
「跡部、キスをしてもいいか?」
ただ、脈絡がないのはいつも通りで、あまり心の準備というものができない。
「ん、いいぜ。ほら」
それでも跡部は、なんでもないように目を閉じて、唇を突き出してやるのだ。本当は心臓をバクバクと鳴らしているいるというのに。
唇が触れてくる。優しく押しつけられるだけだったそれは、徐々に意思を持って跡部の唇を食(は)み始め、促すように舌先で舐めてくる。
うっすらと開いた唇をこじ開けるように、舌が入り込んでくる。びくりと肩が揺れて、あやすように撫でられるのも、何度目だろうか。
子ども扱いされているようで腹が立つ反面、気にかけてくれているのだと思うと、嬉しくてしょうがない。
「んっ……」
絡んだ舌を吸い上げられて、びくびくと腰が揺れて、疼く。解放されたかと思った舌はすぐにまた捕らわれて、きつく絡め直された。
正直、手塚がこんなふうに求めてくるとは想像していなかった。こういうことには鈍く、奥手だと思っていたのに、騙されたような気にさえなる。
「ん、ん……」
それを本人に言ったこともあるが、手塚自身「俺も驚いている」と言っていたくらいだ、想定外なのだろう。
リードするつもりがリードされっぱなしで、落ち着かない。
だけど、これに不満があるわけではなかった。
恋人なのだし、肉体的な触れ合いをしたがるのは当然のことだ。ネットで知識だけは頭に入れたし、手塚が先に進みたいと望むのなら、受け入れる心の準備はできている。
体の準備はできていないが、それはこれから二人でやっていけばいいだろう。何も、初めてで最後までする必要はない。……手塚さえ問題なければ。
跡部は、キスを受けながらゆっくりと目蓋を持ち上げる。そうしたら、ばちりと手塚の視線と出逢ってしまって驚く。
まさかとは思うが、今までずっとそうやって見られていたのだろうか。
恥ずかしくて目を閉じたいのに、鳶色の瞳に捕らえられてそれも叶わない。
ドキン、ドキン、と胸が鳴る。
唇がほんの少し離れた隙に、「てづか」と名を呼んで、わずかに震える指先で、学ランのボタンに触れてみる。
それをひとつ、外してみた。
腰をぎゅっと強く抱き直されたのは、伝わったとみていいのだろうか?
キスがもっと深くなって、訊くことはできなかった。
お題:リライト様 /小さな意思表示
#お題 #両想い
本当はうれしいけど
じっと見つめてくるものがあった。
視線というものには慣れていたけれど、相手が相手だとどうにも落ち着かない。
跡部はパタンと本を閉じて、短くため息をついた。
「なんだ、手塚。俺様の顔に何かついてるか?」
視線の主は、手塚国光。
どこでどうなってこうなったか分からないが、〝恋人〟の視線、である。
声をかけられて初めて気がついたように、手塚はハッとして顔を上げる。
「すまない、不愉快だっただろうか」
気まずそうに背けられる顔は、ほんのりと赤いように見える。
まあ、跡部としても、恋人からの熱視線が嬉しくないわけはない。ふっと口許を緩め、背けた手塚の顔を指先でこちらに向けさせた。
「お前の視線が嬉しくねえわけねえだろ? アーン?」
そのまま唇へとキスを贈り、小さなスキンシップ。
まだこの距離感と感触には慣れないが、恋人としてはおかしくないはずだ。
「で? なんでそんなに見つめてたんだ。穴が開くぜ」
「開くわけないだろう。もったいない」
「わけ分かんねえこと言うな。もったいないってなんだよ」
「言葉のままだが」
その言葉の意味が分からないから訊いているのに、と跡部は指先で額を押さえる。恋人ではありながら、時々手塚のことが分からない。
いや、訂正しよう。
手塚のことはいつも分からなくて、時々理解できる、程度だ。
どうして、こんな分かりにくい男と恋人関係になってしまったんだ? と首を傾げる。
好意があるのは前提なのだが、キスまでするような仲になるとは思っていなかった。その先はまだ経験していないが、いずれは肌の感触を知ることにもなるのだろう。
だが、こんなふうに意思の疎通ができないような状態のままで、この関係は成り立つのか。
恋人関係にしても、友人関係にしても、互いの尊重なくして良好なものは築けない。意思を確認するのは大切なことだ。
どんな気持ちでこうするのか、どんな感情でそうするのか、それは知っておきたい。
跡部は深呼吸をして、じっと手塚の瞳を見つめ返してみた。
「もったいないってのは、俺の顔に穴とか開いたりすんのがってことか? まあ実際そんなことは起きねえんだが。傷とかついたりするのも?」
「そうだな。跡部は綺麗な顔をしているとずっと思っていたから、傷などついてほしくない」
至極真面目な顔で頷かれて、面食らう。まさかそんなふうに思われていたなんて。しかも〝ずっと〟とは、いったいいつからなのか。
「褒められるのは気分がいいが、いつからそういうふうに見てたんだ、俺のこと」
「……関東大会の試合後、……いや、試合中かもしれないな。不謹慎かもしれないが。気づいたのは終わった後だったから、その辺は少し曖昧だ」
「なっ……」
そんな時からなのか。
気づかなかった自分が悔しい。いや、視線は感じていたかもしれないが、テニスをしているからだと思っていた。あの手塚国光からそういう秋波を送られていたのに、好きだと言われるまで一切気づかなかったなんて。
そうだ、恋人関係になったのは手塚が好きだと言ってきたからだ。
だが好きだと言うだけで、何も望んでこない。見かねて、『付き合うか?』と助け船を出してやったのが始まりだった。
もっとも、すぐにそんな言葉が出てくるあたり、跡部も手塚が好きだったのだろうと思うけれど。
「跡部を、こんなに近くで見られることになるとは思っていなかったから、無意識にお前を見つめてしまっていたんだと思う。キスができるのも……嬉しい」
先ほど跡部の唇が触れた場所を、そっと指先でなぞる。きゅんと胸が締めつけられた。本当に好かれているのだなと思うと、こちらの方こそ愛しさがこみ上げてくる。
「もっと近くで見るか? ん?」
だけど今イチ素直になりきれずに、からかうように手塚の顔を下から覗き込んでみる。本当は嬉しいのに、そう言ってやれないのが情けない。
「近すぎると思うが」
「我が儘言うな」
「我が儘を言っているわけでなく、お前の身が危険だと言っている」
「は? ……っ」
そっと肩を押しやられ、一秒あとにその意味を把握した。ボッと頬が真っ赤に染まる。からかったつもりが、返り討ちに遭った気分だった。
「お、まえ、そういう欲、あんのか」
「ないと思うのか?」
ぐっと言葉に詰まる。
さすがに、ないとは思っていなかったが、ここまで積極的だとも思っていなかった。
たとえ受け身であろうとも、どうせリードするのは自分の方だろうと思っていただけに、手塚からのアクションには心の準備ができていない。
「そう警戒しなくても、お前の気持ちを無視してコトを進めるつもりはない。嫌なら嫌と言ってくれ」
身を強張らせた跡部に気づいてか、肩からそっと手を離して手のひらを向けてくる。合意もなく手を出すつもりはないという意思表示なのだろう。
「い、嫌ではねえよ、別に。ちょっとびっくりしただけだぜ。悪い、まだ……そういうことを具体的には考えてなくてな」
「そうか。関係を急ぐつもりはないが、徐々にその……そういうこともできたらと思っている」
ソファの上にあった手をすっと持ち上げられ、きゅっと握りしめられる。ドキンドキンと胸が鳴って、手塚の顔をまともに見られなくなった。
「好きだ、跡部」
指先に口づけられて、顔の熱がさらに上がる。らしくないことをするじゃないかと、ゆでだこのようになりそうだった。
「ふ、フン、俺様がその気になるように、せいぜい頑張って口説いてみせな」
「ああ、そうさせてもらう。跡部、少しだけ……抱きしめさせてもらってもいいだろうか」
それ以上は何もしないからと付け加えられて、跡部は右へ左へと視線を泳がせてから、こくりと頷いてみた。
手塚の腕が伸びてくる。抱き寄せられて、わずかに体が強張ったけれど、手塚は構わずにそのまま腕の中に収めてしまった。
ぎゅ、と強く抱きしめられる。
制服越しの体温にドキドキして、心音が酷くうるさい。これでは気づかれてしまうのではないだろうか。
本当は嬉しいのに、少しも素直に伝えられていないことを。
いつもはリードするばかりで、リードされるということがなかったせいなのだろう。手塚が積極的であることは嬉しい。もう少し素直になれる心の準備が整ったら、嬉しいと言ってみようか。
それとも、キスで応えてやった方がいいのだろうか?
今はまだ、そっと背中に腕を回して抱き返すしか、できそうにないけれど。
お題:リライト様 /本当はうれしいけど
#お題 #両想い
あ、メールが来た
最近、気になる人物がいる。
机で読書をしながら、ちらりとスマホに目をやった。
今日はまだ何も連絡がないな……なんて残念に思ってしまうくらいには、相手のことが気になっている。
そもそも今読んでいる本も、彼に勧められた本だ。一度読み終わったのに、また最初から読んでしまうのは、感想を聞かれたときちゃんと答えたいからだ。
どうしてそんなふうに思うのだろう。
手塚国光にとって、跡部景吾は一目置く他校のテニスプレイヤー。
それだけのはずだった。
実力主義の氷帝学園で、一年の頃から部長を務めているということで、強さは理解していたが、それを実感したのは三年になった夏の関東大会。それまでは一戦も試合をしたことがなかった相手だ。
戦略としてはセオリーなものだと思いつつ、相手の弱点ばかりを狙うというのは、あまり好きになれなかった。
にもかかわらず、現在跡部に対して好感を持っているのはどういうことだろう。
いやどういうことも何も、あの日の試合が認識を改めさせるきっかけだったというしかないのだが。
持久戦を得意としているとは聞いていたから、一試合保つだけの体力はあるだろうと思っていた。それでも今まで実力の半分も出していないのだろうことも。
だけど自分との一戦、あれだけは驕りも意地も捨てて、ただがむしゃらに向かってきてくれた。自分と同じほどの熱量で返される球を打つのがとても楽しかったのだと、終わった後に感じた。
ある時、向こうからテニスに誘われ、一も二もなく頷いた。あの日の試合を再現できるとは思わなかったが、彼とのテニスを楽しみにしている自分にはちゃんと気がついていた。
世間話を交えて話してみると、案外に共通していることがあるのだと知った。
釣りをすること、読書を好んでいること。部を率いていた長としての苦労話や、もっとできただろう挑戦、これから何をしてやれるかという話は、とても有意義だった。
それから、急速に距離が近づいた。
跡部といるのは心地がいい。
何も気負わず、ただありのままの自分でいられるような気がした。目標などない、ただ高みを目指しているだけだと言っても、笑うことなく「奇遇だな、俺もだ」なんて返してくるのは、跡部くらいだろう。
だから、そんな彼と一緒の時間が増えるのは嬉しかった。放課後にテニスをするのも、休日に読書を楽しむのも、少し遠出して釣りをするのも、本当に楽しい。
顔には一切出ないかもしれないが、そう思っているのは本当だ。
ここ最近は、彼から連絡が来るのを心待ちにしてしまっている。
自分からすればいいものをと思うが、なんとなく気恥ずかしい。向こうもそれを気にしている様子はなく、いつも、いつも、跡部からのアクションになってしまうのだ。
なぜ、こんなにも待ち遠しいのだろうか。
今までは読書をする時、他の何かが気に掛かるといったことはなかった。だけど今は、跡部からの連絡がないかとスマホを常に目の届くところに置いてしまう。もちろんマナーモードにしているから、他人に迷惑をかけることはないのだが、どうにもむずかゆい。
「手塚、これ。借りてたDVD――あ、すまない、邪魔したかな」
大石に声をかけられて、ハッとして顔を上げた。手塚は本にしおりを挟んでぱたりと閉じた。そういえばこのしおりも跡部にもらったものだなと思い出して、胸の辺りが温かくなった。
「いや、構わない。放課後でも良かったんだが」
大石に貸していた、古い全英の試合を収めたDVDを受け取り、そういえばしばらく観ていないなと気がつく。帰ったら久しぶりに観てみようかとカバンにしまった。
「いや、でも手塚、最近ずっと用事があるみたいだったから、早めにと思って。……あれ、違ったかい?」
「……ああ、まあ、そうなんだが」
大石の言うように、最近はずっと跡部と逢っている。毎日とは言わないが、三日と空かない。だからこそ、今日はどうするんだろうと連絡を待ってしまうのだ。下手に予定を入れられない。
入る予定らしきものもないし、先に決めたものを優先するべきなのだから、気にせずいればいいのに、それでも待ってしまう。
「今日は特に何も予定は――」
ない、と言い掛けたその時、スマートフォンがメッセージの受信を報せてヴーと震えた。手塚は慌てて端末を持ち上げ、画面を確認する。
送信者は、跡部景吾。
『今日、どうする? 逢えるか?』
簡潔ではあるものの、だからこそ至極単純に、嬉しい。彼の予定の中に、自分と過ごす時間が組み込まれていることが。
口許が緩む。
たったこれだけのメッセージが、こんなにも胸をそわそわさせるなんて、自分は本当に、いったいどうしてしまったのだろう。
早く放課後にならないか。そんなことを思って、返信を打ち込む。
「……手塚、そんなに嬉しそうに笑うこともあるんだな。ちょっとびっくりした。あ、もしかしてそれ、好きな人からとかかい?」
「――え?」
大石の存在が、すっぽり頭から抜け落ちてしまっていたことに、声をかけられてから気づく。
そしてそれ以上に、その言葉が衝撃的だった。
「それとも、恋人かな」
「え、あ、いや、違……そんな、ものでは」
思わず、メッセージが送られてきた画面を振り向き直す。跡部とのトーク履歴に、胸が鳴った。
好きな人、恋人――……恋?
すうっと、何かが駆け上ってきたような感覚を味わう。そんなわけはないのに、それがとてもしっくりきてしまった。
「あ」
動揺して、送信の飛行機マークを押してしまった。
『逢いたい』
とだけ入力していた、そのメッセージを。
ガタリと腰を上げて、慌てて削除しようとしたものの、一瞬で既読の印がついてしまってがっくりと項垂れた。
どう思われるだろう。跡部の反応が怖いけれど、訂正する気はもうなかった。
「ああ、なるほど……そういうことか……」
手塚は椅子に腰を掛け直し、長く息を吐いた。
「て、手塚? どうしたんだい、何か悪いこと聞いたのかな、俺」
「いや、大石のおかげで気づくことができた。感謝する」
項垂れたことで、何か良くないことでも起こったのかと心配した大石に、ふるふると首を振って返した。
ここ数日の、そわそわした気分。跡部が勧めてくれた本を大事に読み返してしまう行動。ずっとずっと跡部のことを考えてしまう理由。
たった一通のメッセージと、大石の問いかけ。
それだけで、世界が変わってしまった。
「どうやら俺は、コイツのことが好きらしい」
画面を撫でると、ちょうど返信が入ってくる。『そっち、行く』と、またも短いものだったが、いつもと違って時間と場所を指定するものではなかった。『逢いたい』と送ったメッセージを、どういうふうに受け取ったのかは分からないが、不快ではなさそうでホッとした。
少なくとも、逢える。望んだ通りにだ。
さてこの恋は、告げるべきか、秘めるべきか。
それは、顔を見てから決めようと思う。
お題:リライト様 /あ、メールが来た
#お題 #片想い
あ、目が合った
テニスプレイヤーとして一目置いている男。
跡部景吾に取って、手塚国光はそのような相手だった。
それ以上でも、それ以下でもない。
試合をしてみて分かったが、クールな振りをして誰よりもテニス馬鹿で熱い男だった。それは、本当に意外だったが、読み切れなかったのは自分の未熟さだと思う。
先入観というものがどれほど危険か、頭では理解していたつもりだったのに。
〝きっとこうだろう〟と思った相手が、そうではなかった時、油断と慢心は負けを引き連れてくる。
自分を戒め、引き締めるいいきっかけにもなった。
だから、手塚国光に対して好感を持つ自分がいるのには、特に不思議にも思わなかった。
テニスをしないかと誘いをかけた際、案外にすんなり受け入れられたことの方が不思議で、思わずこちらの方が慌ててしまったくらいだ。
そうして軽く打ち合って、世間話を交えて話してみれば、共通する趣味があると知って驚いた。
釣りの方式や読書のジャンルは違ったものの、休日の過ごし方が一緒というのは面白かった。
それからだ。急速に距離が縮まってしまったのは。
放課後にテニス。休日に読書。少し遠出して釣り。手塚の好きな登山というのはまだしたことがないが、初心者でも行けそうなところを探しておくと言ってくれている。
一緒にいる時間が増えていく。
今日だって、この合同練習の後に一緒に本屋へ行く約束をしていて、どんどん日常に手塚国光が食い込んできている。
それは許容できたし、困ることもないからいいのだが、ここ最近おかしいのだ。
スマホの通知が気になってしまう。トークの履歴を追ってしまう。勧められた本を何度も読んでしまう。いったいどうしてしまったのだろう。
手塚のことばかり考えている。
こんなに一緒にいる時間が増えたのに、もっとずっと一緒にいたいと思うようになるなんて。
手塚は最初、ただの好敵手だというだけだったのに、そこに友人という肩書きが付け加えられて、それがくすぐったかった。
それが今では、物足りない。
きっと、築けるとは思っていなかった親友としての間柄に浮かれているのだろうが、それにしたって考えている時間が多すぎる。
「なあ萩之介」
「なに、景吾くん。何か練習メニューで問題でもあったかな」
「いや、そうじゃねえ。あるヤツのことばっかり考えちまうってのは、どういう状況なんだろうな」
「…………景吾くん、俺、恋愛相談はあまり得意じゃないんだけど」
やれやれと小さく首を振る友人に、何を言っているんだと否定をしてみる。
「そういう色っぽい話じゃねえ。相手は男だ」
「ああなるほどね。でもどうして、相手が男だと恋にはならないなんて言えるのかな。ずっとその人のこと考えてるんでしょう? その人が今困ってて、景吾くんを頼ってくるとかでもなく」
その言葉に、目を瞠って、瞬く。
男だから、恋にはなり得ない。
〝きっとこうだろう〟――それは、いつかも感じた思い込みではないのか。
対象にならないというのは、先入観でフィルターをかけてしまっているからではないのか。滝はそう言って背中をぽんぽん叩く。
「……好きかもしれねえってことかよ」
「ん……まあ、高い確率で」
そんな馬鹿な、と頭を抱えたくなった。
まさか、よりによってあの手塚国光相手に恋をしたなんて。テニス以外には興味もなさそう、という思い込みは親しくなってから壊れたけれど、あの男が色恋に心を動かすとは思えない。
こんな想いを抱えてしまったのは自分だけだろうなと、青学のメンバーに練習の指示を出している男を、そっと見やる。背後で、滝が「え」と小さく声を上げたのには気がついた。
これは相手を悟られたなと思うが、弁解をしておくべきかどうか。
迷って、諦めて、手塚を見つめたまま滝に声を投げかけた。
「萩之介、何も言うなよ」
「……いや、言わないけどさ……もう少し楽そうな相手にしてほしいよ……」
「悪いな、無理だ」
視線に気づいたのか、手塚が振り向いてくる。
目が、互いの真ん中で出逢ってしまった。
それで、跡部は確信する。
これは恋に違いない。
油断していた。こんなつもりではなかったのに、やはり油断と慢心は〝負け〟を連れてくる。
世界が変わってしまった。
そう思って苦笑しながら、珍しく自分の方から視線を逸らした。
お題:リライト様 /あ、目が合った
#お題 #片想い
おいで
ひどく疲れた顔をした恋人を、無理矢理寝室に引っ張り込んだ。無茶をするなというのに聞きやしない。
最近はもう諦めている。どうにもならないのだから。
だけどそれは、自分の存在をないがしろにされているだとか、さほど重要に思ってくれていないだとか、そんな諦めではない。
好きにやるといい。こちらはそっと背中を押してやるだけだ。
そうして疲れて帰ってきたら、こうして出迎えるだけでいい。
〝ここ〟がお前の〝帰る場所〟だと認識してくれていたら、それで満足だ。必ず最後には俺がいることを思い出してくれれば。
まあ、着替えくらいは手伝わなくても自分でやってほしいものだが。世話を焼くのにも若干慣れてきて、楽しんではいる。
「お疲れ様」
「……ああ……」
聞いているのかいないのか、曖昧な頷きしか返ってこなくても、甘えてすり寄ってくる恋人に俺の口許が緩んでいく。
先にベッドへ潜り込んで、一人分空けてブランケットを持ち上げる。
「おいで」
「ん……」
眠たげな声を上げ、ゆっくりと隣に横たわる。そんな恋人をブランケットごと抱きしめて、こめかみにキスをした。
「おやすみ、俺の傍でゆっくり眠るといい」
この時間は、誰にも邪魔をさせないから。
お題:リライト様 /「おいで」
#お題 #両想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.04.03
ぐっと押しつけられた唇が離れていく。 桃色のそれをじっと眺め、彼の名前を呼ぼうと唇を開いた。「勘違…
勘違いするな、遊びだよ
ぐっと押しつけられた唇が離れていく。
桃色のそれをじっと眺め、彼の名前を呼ぼうと唇を開いた。
「勘違いするな、遊びだぜ」
跡部は眉間にぐっと皺を寄せて、言った後で唇を噛む。せっかく綺麗な唇なのに、傷が付いてしまわないだろうかとぼんやり思った。
「……遊び、なのか」
「す、少し考えりゃ分かるだろうが。この俺が、テメェなんかに、……本気に……なるわけがねえ……!」
苦虫を噛みつぶしたような顔を背け、声を押し殺す。それが心からの本音ならば、堂々と正面を向いて、いつものようにしたたかに通る声で言えばいいものを。
そう思って、腕を伸ばす。びくりと強張った腕を通り越し、背中に触れて、一気に抱き寄せた。
「本気になってもらうには、俺はどうしたらいいだろうか、跡部」
「…………え?」
吐息と一緒に、驚いたような声が聞こえる。跡部らしくない弱々しいその音が耳に残って、胸がざわついた、
「お前にそんな顔をさせずに、本気のキスをしてもらうには、後は何をしたらいい。教えてくれ」
「な……にを、言っ、て、え、だって、お前、俺のこと」
途切れ途切れの声は、跡部の困惑をまざまざと伝えてきて、手塚はそこでようやく大事なことに気がついた。
「そうか、まずは好きだと言わなければならないな。キスは先を越されたから、告白くらいは俺が先にさせてもらうぞ」
そういえばまだ好きだと言っていない。好きだと聞けてもないけれど、先ほどのつたないキスがすべてを物語っている。
「好きだ、跡部。遊びではなく、本気でお前に恋をしている」
抱いていた腕の力を緩めて、正面からじっと顔を見つめる。困惑したような表情は泣き出す寸前にも見えて、心臓がおかしな音を立てた。
ごまかすように、跡部の体をぎゅっと抱きしめて、再度耳元で囁く、〝好きだ〟の三文字。
震えていた跡部の手が、手塚の服をぎゅっと握りしめる。肩口に顔を埋められて、当たる髪の毛がくすぐったい。
「本気に……なって、いいのかよ」
「ああ。俺が本気なのだから、お前もそうでなければつまらないだろう」
「言っとくが、一生放さねーぞ? その覚悟はあんだろうな」
「それはこちらの台詞だが」
観念したようにすっと体の力を抜き、跡部が長く息を吐く。そうして、腕を背中に回してぐっと抱きしめてくれた。
「跡部、キスをしないか。今度こそ――本気のキスだ」
「そうだな。大人しく目を閉じてな、手塚」
お互い同時に目蓋を落とし、初めて恋人同士のキスをした。
お題:リライト様 /「勘違いするな、遊びだよ」
#お題 #両片想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.04.02
きょろりと首を左右に動かす。 そうしてみても目的の者は見つからず、手塚はゆっくりと目を瞬いた。 も…
君を見つけてしまったあの日
きょろりと首を左右に動かす。
そうしてみても目的の者は見つからず、手塚はゆっくりと目を瞬いた。
もう帰ってしまったのだろうか。
いや、そもそもなぜ、〝彼〟を探しているのだろう。
「手塚、どうしたんだい。何か忘れ物?」
チームメイトである不二に声をかけられ、僅かに体が強張った。
待たせるつもりはなかったのに、顔をそちらへ向ければ部員たちが心配そうに眺めてきていた。
「……いや、なんでもない。すまない」
そう言って、手塚は足を踏み出す。試合は終わったのだから、いつまでもここにいたってしょうがない。
そう、氷帝との試合は終わったのだ。青学の勝利という形で。
手塚は歩みを進めながらも、やはり彼を探してしまっていた。今日の試合で対戦した相手――跡部景吾を。
青学はチームとしての勝利は収めたが、手塚個人としては敗北を喫した。その勝ちをさらっていった男だ。
「肩、どう? このあとすぐに病院でしょ」
「いや、痛みはだいぶ薄れた。肘をかばっていたせいで、フォームが良くなかったんだろう。もちろん病院には行くが、そこまで酷くはないと思う」
「とてもそうは見えなかったけどね。選手生命にも関わってくるって言ったのに」
跡部との試合で、手塚は肩を痛めた。元々故障していた肘をかばって、知らず知らずのうちに負担をかけていたのだ。己の未熟さに、辟易とする。だが、どうしてもあそこで棄権などしたくなかった。
大和との約束もあったが、個人的な意地でもあったと思う。あんな中途半端に熱を高められた状態で、ラケットを置くことができなかっただけ。
「まあ、そのおかげで越前にも火がついたみたいだったけど。部員を心配させるのは感心しないな」
「……すまない。今後気をつけよう」
バッグは自分らが! と二年生が運搬を買って出てくれたが、随分と心配をかけたようだと反省もする。
だが今手塚の頭を占めているのは、ただ一人の男だけだった。
「…………思っていたのと、違ったな」
「試合結果? 個人としてはどうでも、勝ちは勝ちだよ、手塚」
補欠戦まで行くとは思わなかったけど、と不二は続ける。それは確かに想定外だったけれど、試合の結果のことを言ったわけではない。
「俺は跡部という男を、誤解していたかもしれない」
跡部のことは、知っていた――はずだった。
一年の頃からあの氷帝学園テニス部の部長を務め、頂点に君臨する、キングと呼ばれるプレイヤー。氷帝は実力主義だと聞いてしたし、一年のうちから試合に出ていることも知っていた。正直、羨ましいと思ったことも。
だがそのプレイスタイルは、あまり好きではなかった。相手の弱点を見抜き攻め立てるというのは、不正なものではない。気持ちの上で、好きになれなかっただけだ。
強引で、傲慢で、技術を笠に着た荒いプレイなのだろうと思っていた。
先輩たちを押し退けて頂点に立つことを、なんとも思わない、礼節もない男なのだろうと。
対戦相手の自信を喪失させ叩きのめす、という噂を聞いた時にも、驚いたりはしなかった。
強いのならば、対戦してみたい。
だけど、果たしてそれは本当にテニスが好きでやっているのだろうか? そんなふうに思って、あの派手なパフォーマンスに共感できないことも手伝い、彼との対戦を切望することはなかった。
なのに。
跡部景吾の力強さと美しさが共存するテニスは、ただ観客に見せつけるためだけのものではなかった。
重い打球。思わぬラインを描くボール。かかる回転。前後に、左右に振ってみても、食らいついてくるラケット。
それはいっそ小気味よいほどに高揚感を生み、こちらもラケットを握る手に汗がにじんだ。
少し考えれば分かったことだ。
持久戦を得意としているということは、長い時間をかけて相手を追い詰めるだけの技量があるということだ。努力せずに、それはなし得ない。
「球をかわすと分かる。足腰の鍛錬や腕の振り抜き方……あれは相当のトレーニングをしているんだろう。強いというのは伊達ではないんだな。噂だけでは、やはり分からないものだ」
「跡部に関しては……まあ、ボクも驚いたかな。持って生まれた天性の器量っていうのもあるんだろうけどね」
努力の上に成り立つ確かな技術。それは氷帝テニス部を率いるのに確かにふさわしい人物だった。
噂だけで、跡部景吾という男をフィルター越しに見ていたことが悔やまれる。
もっと早く知っていたかった。
あんなに熱いプレイをする男だったのだと。真剣に打った球を、全力で返してくるような、誠実な男だったのだと、もっと早く。
手塚は、じっと右手を見下ろした。
試合が終わった後、握手をした跡部はこの手を掲げてくれた。勝者は跡部の方なのに、手塚が勝利者だとでも言うように。
熱かったな。
汗に濡れた手のひらの感触を思い起こして、また無意識に、彼を探してしまう。
「……手塚、もしかして跡部のこと探してる?」
不二の声にハッとして、実感させられた。
「いや……まあ……そうだな。あの目立つ男が見当たらないということは、もう帰ってしまったのだろうに、気になってしょうがない」
見つけてしまったあの男の〝真実〟に、もっと触れてみたい。そう思っていることを。
「試合は終わったのに、もう一度戦いたい。跡部のことを知りたいんだ。こんなことを思うのは、おかしいだろうか」
「……おかしくはない、と思うよ。テニスだけが理由ならね」
何かやけに含みのある物言いをした不二を振り向いて、その言葉を反芻した。
「テニスだけが、というのは、どういう意味だ? それ以外に何かあるのか」
それ以外では問題があるようにも聞こえてしまう。
跡部が、今までどんな練習そしてきたのか気になるというのは、〝それ以外〟に入るのか、入らないのか。
「ボクは、君がそんなに饒舌になるところを初めて見た。試合後で興奮しているというのを抜いても、そんなふうに他人に興味を持つとは思わなかったよ」
「……強いプレイヤーが気に掛かるのは当然だろう」
手塚は自分の口数が多くないのは自覚しているが、そんなにまで言われるほどだろうか。
試合後で、気分が高揚しているというのは事実だ。
だが、確かに今までこんなふうに他校のプレイヤーに興味を持ったことはあっただろうか。
対戦相手として、プレイスタイルなどのデータを確認することはあったが、試合が終わればそこで意識の隅に追いやられる。下手をすれば数分後にはすべて抜け落ちていたりもした。
だが跡部に対しては、抜け落ちるどころかもっと深く知りたいなどと思っている。不二はそのことを指摘しているのだろうか。だが珍しくというだけで、何もおかしな点はないように思えた。
「よく考えるといい、手塚。新たに触れてしまった跡部という選手に興味を持っただけなのか、それとも、跡部という一人の男に興味を持ったのか」
「……同じではないのか?」
「プレイヤーとして見るのと、一人の人間として見るのは、違うよ、手塚」
手塚は眉間にしわを寄せた。不二の口許が笑っていないということは、それだけ深刻なことなのだと見てとれるが、一体何が言いたいのか分からない。もったいぶらずに、もっと明確な言葉にしてほしい。
「不二、何が言いたいんだ」
そう訊ねかけたことを、手塚は後に悔やむことになる。
「今の君は、まるで恋でもしているみたいだ」
「………………………………馬鹿なことを言うな」
まさかそんな言葉が返ってくるとは、誰も思わない。
恋だなんて馬鹿馬鹿しいと、手塚は歩調を速めた。不二はそれを、何でもないように合わせてくる。
「さっきからずっと、跡部が触れた右手を気にしているくせにね」
「俺は別に、跡部の手の感触が――」
忘れられないなんて言うつもりは。
そう口にしかけて、ハッとした。
手の感触なんて、テニスには関わりがない。試合後に感じたものだが、今後の跡部とのテニスに関わってくるものではないだろう。
まさか。
そんなことがあるのか、と口許を押さえる。無意識にか、それは跡部が触れた右手だった。
「自覚するなら、早い方がいいと思って。その感情の名前、見つけてしまったのかい、手塚」
誘導尋問のようなことをしていおいて、何を言っているのだろう、この男は。
しかし確かに、今自覚をして良かったのかもしれない。万が一にも親しくなってから気づいたのでは、目も当てられない。
これは、おかしなことにならないように、跡部には近づかない方がいいのではないかとも思い始める。
なぜこのタイミングで、どうしてよりによってあの男なのかと、嘆きたくなった。どう頑張っても叶いそうにない初恋だ。
逢いたいけれど、逢いたくない。
テニスをしたいけれど、したくない。
顔を見ればみた分だけ、球をかわせばそうした分だけ、この想いが育ってしまうような気がする。
頭を冷やす時間が必要だなと、手塚は長く長く息を吐いた。
ネット越しに聞いた跡部の吐息を思い起こしてしまったことに、ひどく動揺しながらも。
お題:リライト様 /君を見つけてしまったあの日
#お題 #片想い
ただ、君と居たいと
どこでどうなって、友人関係になれたのか分からない。
隣を歩く男の横顔を盗み見ながら、跡部は何度目かの疑問を心の中で生み出した。
手塚国光とは、学校が違う。とはいえ同じ都内で、行き来が困難なわけでもなかった。テニスをしないかと誘われて、断る理由なんかなかった。
惚れた男に誘われて、断るバカがどこに居る。
跡部景吾は、手塚国光が好きだった。もちろん恋という意味でだ。
最初はただ、プレイヤーとして惹かれているのだと思っていた。無二のライバルだと、同じ時代に生まれたことを嬉しくも思っていた。
だけど、この感情がライバルとしてのものではないと気づいて、困った。
どう頑張っても叶いそうにない初恋だ。
試合前から負けが決まっているようなもので、ラケットを握ることもできない。
「跡部、どうした? 今日はいつもより静かだな」
「ああ悪い、少し考えごとをしていた。つーか、いつもそんなにうるさいか?」
「いや、そういう意味ではない。お前が静かだと、落ち着かないと思っただけだ。気分が優れないようなら、今日はこのまま帰った方がいいのではないか」
気遣ってもらえた、そんな些細なことにさえ胸が躍る。だけどこの想いは秘めておかねばならない。知られたら、きっと隣なんて歩けなくなる。
「平気だぜ。お前とテニスできるんだから、俺のテンションは最高潮に達してる。このまま帰したりするかよ」
せっかく誘ってもらえたのだから、このチャンスは逃したくない。友人としてのポジションで、ラケットを握る。
「そ、……う、か。ならいいのだが。俺もお前とテニスができるのは嬉しい」
膝から崩れ落ちていきそうだった。
身近で、同じほどの実力を持った相手で、気楽に話ができる――というだけなのだろうが、テニスができて嬉しいと思ってくれているのならば、こんなに幸福なことはない。
恋は叶わなくていい。生涯、友人として、好敵手として、一緒に前を見据えていられれば。
この世界にただ、お前と居たい。
それはとても贅沢なことに思えて、案外に強欲な自分に苦笑する。
「跡部、お前とはずっとこうしてテニスができればいい。そう思っている。迷惑でなければいいが」
目を瞠った。心を読まれたのかと思うくらい、タイミング良く手塚が口にしてくる。手塚も、同じ世界に自分を望んでくれていると分かっただけで、報われた思いだった。
「迷惑なわけねえだろ。俺は――お前のテニスが好きなんだぜ」
恋は口にできないけれど、せめて知っていてほしい。テニスにかけるその情熱に惹かれていることくらいは。
「そうか。俺も跡部のテニスは好きだ。さあ、お前のサービスからで構わないぞ」
「――ああ、覚悟しやがれ、手塚ァ!」
「油断せずに行こう」
高く、高くトスを上げる。歓喜に震える指先では、そのラインは狂ってしまいそうだったけれど。
お題:リライト様 /ただ、君と居たいと
#お題 #片想い

手塚と付き合うことになった。
跡部景吾が、脈絡なくそう報告してきたのは、昼食後のティータイムの時だった。
忍足の傾いたカップから、ポタタと紅茶が逃げていく。
「忍足、カップ」
それに気づいた滝が、優雅に自分のカップを口許に運びながら指摘してやる。ハッとして、忍足は慌ててカップの傾きを直した。
「なんで驚いてへんの、自分……知ってたん?」
「いや、知らなかったよ、今の今まで。これでも驚いてるんだけど」
「よう言うわぁ……」
そんな素振り見せもせんと、と忍足は困ったように片眉を上げた。
「そんで? なんでいきなりそないな話になってんねん、跡部」
「俺がアイツに告白したからだぜ」
訊ねかけた忍足に、跡部はまるでなんでもないように返してきた。簡潔に状況を報告されたが、簡潔過ぎて何が起こったのか分からない。
跡部が、手塚に告白したのは分かった。手塚がそれを受け入れて、恋人としての交際が始まったらしいことも。
「お前らには俺の気持ち知られてたから、一応報告をと思ってな。相談にも乗ってくれただろ」
律儀な男だ、と忍足は思う。
正直、跡部が手塚のことを好きなのは公然の秘密だったのだ。それを知らないのは本人だけで、当然のように暗黙のルールで箝口令がしかれていた。
誕生日に何か贈りたいと相談された時に、手塚が好きなのだとちゃんと跡部本人から聞いたし、それならと乗っただけだったのだが。
そういう律儀なところを、滝も気に入っているようで、カチャリとカップをソーサーに置いて呟く。
「報告してくれてありがとう、景吾くん。よかったね。初恋は実らないって言うけど、あれやっぱり噓だ」
「…………ああ、そうみてえだな。俺のが叶ったところをみるに」
「おめでとさん、跡部。玉砕覚悟で告白したんか?」
跡部は秘めるつもりなのかと思っていたが、予想が外れてしまった。それとも、やはりどこかから情報が漏れてしまったのだろうか。
「言うつもりはなかったんだがな……。アイツが不用意に俺を浮かれさせやがるから」
「ははーん、分かった。お前とテニスをするのは楽しいとでも言われたんでしょ。昨日も手塚としてきたんだよね、テニス」
跡部が、珍しく言葉に詰まったようだった。どうも図星らしく、ほんのりと頬が染まっている。
それで嬉しくなって、浮かれて、ついうっかり告白してしまったということか。
跡部もまだまだやなあと、忍足は肩を竦める。
景吾くん可愛いなあと、滝はテーブルに頬杖をつく。
「でも、そこで付き合うことになったって、かなり急展開だよね。もしかして、手塚もずっと景吾くんが好きだったんじゃない?」
「その可能性は高いわなぁ。普通やったら、同性に告白されてそのままお付き合いなんて、ないで」
いくら親しい友人を無下にできないと思っても、いきなり交際に発展はしないだろう。いや、親しいからこそ優しさだけでは受け入れられないと、手塚ならば正直に言うはずだ。
「ああ、どうもそうだったらしくてな。こんなことになるとは思ってなかったが」
桃色に色付く頬と、柔らかく上がった口の端は、とても氷帝テニス部員二百人を束ねる部長とは思えないほど、可愛らしい。
滝は思わずスマートフォンを取り出し、カメラを跡部に向ける。
「何撮ってんだ萩之介」
「あ、待って景吾くん、そのまま。うん、いい感じに撮れた。忍足、手塚のID知ってる?」
「知っとるわけないやんけ……」
「そうか……なら仕方ないから景吾くんに送ろう。それ手塚にもあげなよ。景吾くんが照れてる顔、すごく可愛いから」
「なっ……」
絶句する跡部を他所に、滝は操作を終える。跡部の端末が震えて、受信を報せた。バッと端末を持ち上げて確認した跡部は、メッセージに添えられた写真を見てふるふると震えた。
「ふ、ふざけてんのか、こんなもん削除するに決まってんだろうが! あと可愛くもねえ!」
「えぇ……だって俺たちが知ってる景吾くんの照れ顔を、手塚が知らないなんてこと、やだよねえ。恨まれそうだし。恋人でしょ?」
「こっ、こいび……、そ、そういうもんなのか……?」
即座に削除しかける跡部を、滝はうまく丸め込む。忍足も、それに参戦した。
「逆の立場で考えたらええんとちゃう? 手塚のかっこええ顔とか、俺らだけが知ってて跡部が知らんとか、そんなん嫌やろ……」
「う……ま、まあ……そうだな、そうか……そういうもんなのか……」
ちょろい、と二人は声には出さずに視線だけで意見を交わす。手塚がかかわると氷帝のキングも形無しだなと肩を竦めた。
「手塚が……見たいって言ったら……見せてみるぜ」
困ったように、恥ずかしそうに、嬉しそうに小首を傾げる姿は、やっぱり可愛らしかった。
#お題 #両想い