華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.578
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
今までの経験を元に、腕が治るまでは大人しく走り込みだけにしておいたおかげか、思っていたよりも早く痛…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
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今までの経験を元に、腕が治るまでは大人しく走り込みだけにしておいたおかげか、思っていたよりも早く痛みと腫れが引いた。医者にも行ったし、とくに尾を引くものではないようでホッとする。
その日の夜、手塚は跡部に電話をした。メッセージでも良かったのだが、恋情は声を聞きたがる。腕の状態を告げると、向こう側からもホッとしたような吐息が聞こえた。
『じゃあ、明日空いてればどうだ。なんだか久しぶりな気がするぜ』
約束のテニスだ。実際は最後に球を交わしてからそんなに日は空いていない。だがそれまで連日打ち合っていたことを思うと、久しぶりと言ってもいいのかもしれない。
「いいのか、跡部。お前も忙しいだろう」
『いや、構わねえよ。だが……お前こそ本当に大丈夫なんだろうな? 腕……あの時ひでぇ色してたが』
「問題ない」
『……てめぇの問題ないって言葉ほど信用ならねえもんはねえなあ?』
苦笑が聞こえる。そこに信頼を置いてもらえないのは仕方がないような気がした。
『テメェは本当にテニスが好きだな』
腕が治ってすぐにテニスがしたいだなんて、と続けられる。それは否定する気もない。しかし、間違ってはいないが百パーセント正解かというとそうでもない。
テニスは好きだ。ただ、跡部とするテニスはそれと別のところで楽しくて、嬉しくて、幸福に感じている。跡部に出逢わなければ、腕が治っても一人でただ鍛錬するだけだっただろう。
「ああ、好きだ。それはお前も同じではないのか」
どうか同じであってほしい。恋情でなくていいから、楽しいと思っていてほしい。
『……そうだな、俺様も同じだぜ』
ゆっくりとした優しい声が返ってくる。ドキ、と胸が鳴った。
たまにこうしてひどく優しげな声音になるのはどうしてだろう。そのたびにまた想いが大きくなるのを抑えられなくて、こちらは大変な思いをしているというのに。
「跡部、明日」
『ああ、分かってる。テニスしようぜ、手塚』
「楽しみにしている。……おやすみ」
向こうからもおやすみと返ってきて、通話を切った。
不自然ではなかっただろうか。おやすみとただその一言を言うだけでこんなにドキドキするなんておかしい。いや恋とはこういうものなのか。手塚は口許を押さえながら、細く息を吐き出した。
耳元であんなに優しい声を聞いてしまっては、たまらない。ドクンドクンと大袈裟な音を立てる心臓を押さえ、息を飲み込むのに、少しも効果はなかった。
「…………っくそ、駄目だ……!」
駄目だと分かっている。こんな不埒な感情は断ち切らないといけないのに、たった今聞いた吐息のような跡部の声に、欲望は治まってくれない。小さく呻きながら広くはない部屋を歩き回り、どうにか散らそうと試みてみたが、やはり無駄だった。
ややあって手塚は諦め、ベッドに腰をかけて壁にもたれた。
パジャマと下着のゴムを指先で押し上げ、手を忍ばせる。後ろめたさでどうにかなりそうだが、この欲を解放しないと眠れそうにない。脚を広げて自身を握り込み、ゆるゆると扱き上げる。
「……っ、う」
頭の中に、跡部が浮かんでくるのはどうしようもない。自慰の最中に好きな相手を思い浮かべるというのは普通のはずだと言い訳をして、手塚は快楽を追った。
涙で跡部の瞳が濡れる。額に汗が浮かび、金の髪が張り付く。
頭の中の跡部は、実に手塚に都合良く乱れてくれた。気持ちよさそうにのけぞり、腰を揺らし、あられもない声を上げる。時には大胆に誘ってきたりして、こちらの方こそ食われているような感覚に陥った。
「跡部、跡部……っ」
体液で濡れる雄を強く扱き、先端を擦る。びくりと腰が揺れて、膝が躍る。にちゅにちゅと響く淫猥な音と、自分の荒れた吐息と、頭の中の跡部の喘ぎが重奏になっていく。
こんなことは駄目だと思うのに、どうしても止まらない。
「ふっ、う、ぅ……んぅ、あ」
跡部に触れたい。跡部を抱いてみたい。
その中をかき回して、自分の形を覚えさせて、散々に喘がせ、この欲を注ぎ込んでやりたい。
「あとべ……ッ」
そんな凶暴な欲を、跡部にぶつけられるわけがない。
「あ、……っん、う……うぅ……ッは、ぁ」
明日も逢えるのに、こんなことしたくないとふるふる首を振る。いや、明日逢えるからこそ、今欲を解放しておかないといけないのか。間違っても手など出したりしないように、一人で戦うべきなのだ。
は、は、と荒い息を繰り返しながら身勝手な欲望を追い、やがて解き放つ。手のひらを汚す白濁とした体液が、跡部への裏切りのように思えて仕方がない。
「跡部…………すまない……」
息が整うにつれて罪悪感と不甲斐なさに打ちのめされて、手塚は項垂れる。もっと傲慢になれれば、こんな時も気にしないで生きていけるのだろうかと唇を引き結んだ。それでも、傲慢だと言った跡部を連想してしまうことには変わりがないのだろうなと思う。
「本当に厄介な相手に惚れたものだな……」
この恋はもう止まらない。叶わなくとも、なくなってしまうことはない。自分の世界に跡部景吾がいるということに慣れてしまった方が早いなと深呼吸をした。
〝お前は本当にテニスが好きだな〟
呆れたような、嬉しそうな声が脳裏によみがえる。手塚は目蓋を落とし、そして持ち上げる。
「ああ、好きだ跡部。テニスも、……お前も」
せめて誠実であろうと、何も否定しない。いつかこの気持ちが薄れる日まで、隠し通してやろうと改めて決意する。この胸についた火が消えてしまうことなんて、恐らくないのだろうと分かっていてもだ。
手塚のたった一人の戦いは、激しく、密やかに、これからもまだ続いていくことだろう。対戦相手が跡部景吾であることを誇らしげに思いながら。
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