華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.597
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
なぜだ、と跡部が頭を抱えている。それを横目で見ている手塚も、若干居たたまれない気持ちだった。「跡部…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
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なぜだ、と跡部が頭を抱えている。それを横目で見ている手塚も、若干居たたまれない気持ちだった。
「跡部、まあ一応おめでとうっつっとくぜ。二重の意味でな」
「跡部、さん……よかった、です、本当に……」
というのも、昨夜ようやく叶った恋の成就が、誰も彼もにバレているからだ。
今日は跡部主催のパーティーで、親しい友人や後輩たちを招いていた。
氷帝メンバーや青学メンバーはもちろん、四天宝寺や比嘉、立海など、さすがに見知った顔ばかり。
手塚のウィンブルドン優勝と跡部の上位を祝うもののはずだったのだが、参加者の誰もが別の意味での祝いを告げてくる。
跡部が長いこと手塚を想っていたことを、氷帝のメンバーは知っていたらしい。というのを、跡部自身が初めて知ったようだった。
「……滝! 忍足ィ!」
それでも一部には相談していたのか、どういう事態なのだと彼らを睨みつけている。しかし呼ばれた滝と忍足は、どこ吹く風だ。フォークで、小さなショートケーキを器用に一口大に切り分けて?張っている。
「あ、言っておくけど俺たちのせいじゃないからね」
「ここにおるヤツらのほとんどが、跡部か手塚の片想いを知っとったっちゅうだけの話や。手塚の方かて、青学の連中にはバレバレやったみたいやないか」
「あぁ!?」
忍足の物言いに、今度は手塚が跡部に睨みつけられる。
それには手塚も驚いて、「なんだと」と声を上げそうになった。青学のメンバーの方を振り向くと、何やらニヤニヤした顔をこちらに向けている。
なんてことだ。まさか全員にバレていたなんて思わなかった。
「確かに……不二と、大石と……なぜか越前にもバレていたのは……薄々感じていたが」
「な……っ」
跡部がカッと頬を染める。
その様子は可愛らしいなと思うが、ここで口に出したらいけないのだろうなとも思う。
不二はひらひらと手を振ってくるし、大石は気まずそうに頬を掻いているし、越前に至っては「まだまだだね」とでも言いたげに口の端を上げている。
隠しているつもりだったのに、どうしてバレたのだろう。
しかし周りにこれだけだだ漏れだったらしいのに、当の跡部本人に気づかれなかったのが不思議でしょうがない。
――――鈍いのはお互い様だが。
好意を向けられるわけがないと、恐らくお互いが思っていたのだろう。本当にもったいないことをしたものだと、両手いっぱいに花束を抱える跡部を見やる。なんだかんだ言いつつも、照れているだけのようではあった。
「手塚クン、よかったなぁ。長いこと跡部クンのこと大っ好きやったんやろ?」
「アナタ、また面倒な相手に惚れたものですねえ。まあお祝いくらいは言っておいてあげますよ」
「手塚、やっぱり跡べーのこと好きだったんだね~。にゃはは~」
「こっ、こら英二っ。あ、手塚ホントにおめでとう。なんだか感慨深いな。ずっと見てたから、こっちとしては焦れったかったよ」
次々に告げられる祝いには、一応礼を返しておいた。
避けるでもなくからかうでもなく、ただ何も言わずに見守ってくれたことには、感謝しなければならない。同性相手の恋愛など、あの思春期まっただ中の頃では受け入れがたいこともあっただろうに。
「……これは正直想定外だが、ここのメンバーなら構わないだろう、跡部。そんなに嫌か?」
隠していたつもりの恋情をことごとく知られていたせいで、跡部の表情は硬い。お互いの落ち度には違いないが、せっかく祝ってくれているのに、いつまでも拗ねてはいられないだろう。手塚としても、関係を否定されているようで少し寂しい。
「そうじゃねえよ。もともと氷帝のヤツら……滝と忍足には報告するつもりだったしな。ただ、箝口令は敷かせてもらうぜ」
眉間にしわを寄せて、跡部は目を細める。不機嫌だったわけではなく、これからのことを見据えているのだと気がついた。
「テメェら、祝福ありがとよ。だがこのことを外部に漏らすんじゃねーぞ、いいな!」
跡部は手を高く掲げてパチンと指を鳴らす。あの頃の氷帝コールよろしく、ざわついていた場内が静まり返った。キング、健在である。
「手塚、俺はお前とのことをスキャンダルにするつもりはねえんだ。俺にもお前にも、立場ってものがあるからな。下手をしたらスポンサーへの賠償なんて話にもなりかねねえ。公表してもいいが、慎重に時期を見る。いいな?」
跡部は手塚に向き直って、真剣な顔でそう告げてくる。とても昨夜ベッドであんなに乱れていた男と同一人物とは思えない。その凜とした表情に胸が高鳴った。
「ああ、分かっている。俺とお前の真剣な想いを、スキャンダルなどとは言わせない。そんな言葉で汚される程度の気持ちではないからな」
跡部の意図を酌んで、手塚は力強く頷く。跡部はそれに、幸福そうに笑ってくれた。その表情に、氷帝のメンバーがわずかに目を瞠ったのが見える。きっと珍しい表情だったのだろう。
それを、自分の言動で見せてくれたことが本当に嬉しい。
「そういうわけだ、皆よろしく頼む」
手塚も場内をぐるりと見渡し、ひとまずここだけに留めておいてくれるよう頼んだ。その辺りの分別がない連中だとは思っていない。
跡部の言うように、時期を見て関係を公表することもあるかもしれないが、それまで胸に秘めておいてもらいたい。今の今まで黙っていてくれたのだ、そう難しいことではないだろう。
「つーかよ、氷帝と青学は理解ができるが、なんで立海や四天宝寺にまでバレてんだよ。おかしいだろ」
「俺はわりと早くから跡部の気持ちには気づいていたかな。だって君、手塚にもらったぬいぐるみ、W杯にまで持ってきてただろう? 可愛いったらないよね」
「なっ……」
跡部の顔が真っ赤に染まる。手塚は目を瞠った。ぬいぐるみというのは、まさかあのユキヒョウのことだろうか。合宿所の部屋でリラックスできるようにと贈ったあれを、W杯にまで?
「……ほう。詳しく聞かせてもらおう」
「聞かなくていい! ばか!」
もしや今も大切に持っていてくれているのではないだろうか。そう思うと、愛しくてしょうがない。どうしても口許が緩む。
「……ねえ、W杯っていえば跡部、覚えているかな。手塚が、ボクに借りたCD返しておいてほしいって頼んだの」
横からかけられた声にハッとする。口許の緩みなど、すぐに消えてしまった。
「ああ、この俺様を使いっ走りさせたヤツかよ。後にも先にも、お前らくらいだぜ」
「不二」
楽しそうに笑う不二を諫めようと名を呼ぶも、無駄らしい。まさかここで暴露されるとは思わなかった。
「ボクはね、手塚にCDなんか借りてなかったんだよ。あれは空のCDだった。少しでも君との会話を増やしたかったんじゃないかな」
「……は……?」
肩にぽんと手を置きながら続けられて、跡部がぽかんとした表情をする。それは正直可愛らしいが、不甲斐なさが押し寄せてくる。
「不二」
「手塚が元気そうだったって聞いて、安心したよ」
「不二、それくらいで勘弁してくれ……」
あの頃は幼すぎて、跡部を引き留める術が思い浮かばなかったのだ。今同じ局面になったとしても上手く立ち回る自信などありはしないけれど。
どういうことだったのか理解をした跡部の頬が染まる。
「景吾くん、顔が真っ赤だよ」
「跡部にそんな顔させられるんは、やっぱり手塚しかおらんなぁ……。せやけどな、泣かせたら承知せんで、手塚」
「おいテメーらな……」
「跡部の泣くところは可愛いと思うが、傷つけるなという意味なら、心配は無用だ」
「――手塚ぁ!」
何しろ昨夜充分堪能させてもらった、と声には出さずに頷く。もとより傷つけるつもりはない。
幸せにするなどと大それたことは言えないが、大切にしていきたい。
「……んの……肝心なことは言わねえくせに、んなことだけ……!」
顔を真っ赤にして睨みつけてくる跡部に、キスをしたくなったけれども、どうにか我慢した。それは褒められてもいいのではないだろうか。
やっとれんわと肩を竦めながら忍足たちはパーティーの料理の方へ向かってしまう。不二や大石も、何か言いたげにしながらもやれやれと小さく首を振っていた。
そこかしこで、会話に花が咲いている。話題は、近況やあの頃の思い出だ。
今何をしているのか、これからどうするのか、そういえばあの頃はテニス漬けだった、今もラケットを握りたくなる、今度みんなで集まろうか――エトセトラ。輝かしい青春は色褪せることなく彼らの中にあるのだろう。
「そういえばさ、二人ともお互いのどこがそんなに好きなんスか? テニスの腕はすごいけど、恋愛的な意味で惹かれるとこあんのか分かんないんスよね」
越前が炭酸ジュースのグラスをくるりと回しながら訊ねてくる。若干引っかかりを覚えるものの、周り中が聞き耳を立てているのが分かった。
「アーン? そんなもん、決まってんじゃねえか。なぁ手塚」
「ああ、訊かれる意味が分からないな」
跡部が仕方ねえなというように肩を竦める。手塚も強く頷く。
視線を交わしたわけでもなく、答えはただひとつだけ。
「全部だ」
二人そろってそう口にするのに、全員が「仕方ないのはそっちだ」と肩を竦めるのは、やはり仕方のないことだった。
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