華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.573
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
全国大会一回戦。青学は、初戦の相手がいない。体力を温存しておけるという点と、オーダーを悟られないと…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
favorite いいね ありがとうございます! 2023.03.19 No.573
ありがとうございます!
次のページ >> / / << 前のページ
初期表示に戻る
全国大会一回戦。青学は、初戦の相手がいない。体力を温存しておけるという点と、オーダーを悟られないという点ではありがたかったが、メンバーは昂ぶった気持ちがどうにも抑えられなかったようで、最初から飛ばしてしまった。
ペース配分も大事だぞと指導はするが、勝ち進んだ安堵と喜びで、あまり真剣に捉えられていないだろう。
三回戦は明日行われる。手塚はコートをぐるりと見渡した。
――――氷帝は。
跡部が率いる氷帝学園は、コマを進めただろうか。心配はしていないが、番狂わせというものはあるものだ。事実、地区予選から何度も番狂わせは起こってきたではないか。そんな懸念を吹き飛ばすように、声がかけられた。
「よう、手塚。無事に勝ったみてえじゃねーの」
振り向けば、楽しそうに口の端を上げる跡部がいた。後ろには、氷帝のレギュラーメンバーもいる。向かってくるいくつもの挑戦的な瞳で、試合の結果を悟った。
「跡部か。そちらも同じようだな」
「アーン? 当然だろ」
相変わらず強気な発言にどこかでホッとする。恋情を認識してしまったけれど、跡部の方は何も気づいていない。このまま隠し通してみせると決意を新たにした。
この恋情はともかく、次はいよいよ対決だ。強豪同士の組み合わせと言うこともあり注目されているようだが、負けるわけにはいかない。
「手加減はしねえぜ」
「こちらの台詞だ」
空中で視線が絡み合う。跡部を好きになってしまったことと、テニスとは、別の次元だ。彼がテニスに入れ込んでいる以上、まったくの別次元というわけでもないのだが、勝負は勝負。昨日までの打ち合いとは違う。
このやりとりだけを見ていれば、とても連日打ち合っていた仲だとは思われないだろう。後ろにいる不二がほんの少し考え込んでいるようだったが、跡部との自主トレを知っているからだろうと位置づけた。
「それはそうと、大石の手首そんなにひどいのか? なんなら医者紹介するが」
跡部は顎でクイと大石を指す。手塚は驚いた。まさか対戦校のメンバーを気遣うとは思っていなかったのだ。とそこまで思って、考え直す。手塚の左肩のことだって、随分と思い悩んでいたようなのだからと。
周りが跡部景吾についていきたがるのは、何も天性のカリスマ性だけではないのだなと、今さら思う。こうして何でもないように周りを見る力を慕われているのだろう。
「いや、それには及ばない。気遣いだけもらっておこう」
「そうかい。大石、早く完治することを祈ってやるぜ」
「あ、ああ、うん、ありがとう……?」
しかし跡部景吾はどこまでいっても跡部景吾だ。上から目線なのは変わらない。大石も、対戦校の部長からというのに戸惑っているようだった。もともと仲が良かったわけでもないのにだ。それは不思議がるだろうなと、手塚はそれ以上跡部と何も言葉を交わすことなく歩き出した。
「跡部のあれ、相当な余裕があるのか、元々の性質なのか。ちょっと驚いたな」
「試合に出られないメンバーにとはいえ、まさか対戦校の選手に労いをかけるような男だったとはね。少しデータを書き換えておくか」
青学のレギュラー陣も、跡部に対する評価が徐々に変わりつつあるようだ。
それはやはり、関東大会のあの試合があったからこそだろう。あんなにがむしゃらな跡部を見られたのは、幸運だ。コートの外ではあんなに必死になることはないのだと思うと、テニスがしたいと腕がうずく。
「手塚も驚いたんじゃない? 印象、ガラッと変わったよね」
「………………そうだな。球を交わすことが多くなるにつれて、第一印象との乖離が大きくなっていくようだ」
不二の笑いが意味深に見えるのは、気のせいだろうか。気づかれないようにと気を張っているから、疑わしく見えてしまうのかもしれない。知られていい想いではないのだ、抑えなければと、手塚は前だけを見据えた。
「え、球を交わすことが、って……? リハビリから帰ってきた日だけじゃないのか?」
あ、と小さく息を吐く。不二が知っているからと言って、油断してしまった。跡部と連日逢瀬もとい打ち合っていることは知られないようにしていたのに、これでは自分で暴露してしまったも同じだ。恋情を抑えるのに必死で、他のことに頭が回らなかった。
「うん、手塚ね、毎日跡部と打ってたらしいんだよね。一応止めたんだけど」
不二がダメ押しに口にしてしまう。部員たちの驚嘆が耳に煩わしかった。こうなることが目に見えていたから、黙っていたというのに。
「待て待て手塚。なんで跡部と」
「毎日あの人と打ってたんすか。俺も行きたかったな」
「お前は単純でいいよな越前」
「なんすか桃先輩」
「手塚、大丈夫なのかい? 肩の具合とか、あとはプレイスタイルのデータとか」
純粋に疑問を投げてくる大石と、純粋にテニスをしたがった越前と、純粋に呆れ返る桃城と、純粋に心配をしてくれる河村と。反応は様々だったが、良く思われていないのは一目瞭然だった。
「すまない皆。俺のリハビリもかねて跡部に相手をしてもらっていた。どうもあちらが負い目に感じているようだったのでな。なんともないと示すためには、それしかなかったんだ」
左肩に視線を移し、そこそこリアルな理由を探した。嘘は言っていない。跡部がこの肩のことを負い目に思っているらしいのは分かったし、あのままでいたらずっとわだかまりが残る。あの男との間に、そんなもの挟みたくなかったのだ。恋情を抜いても、跡部とは対等な関係でいたい。
「負い目に感じるくらいなら、最初からやんなきゃいーのに」
「恐らく、跡部にも予想外だったんだろう。手塚が退かずに挑むというのは」
「でも、さすがっすね……あの跡部、さん……と連日打てるって、相当な気力っていうか、持久力がいるんじゃ」
「本気で打ち合っているわけではないが。あの日の試合のようなことにはならないだろう。この先ずっと」
むぅと口を尖らせる菊丸に、乾が眼鏡の位置を直しながら呟く。どこか遠慮がちに見やってくる海堂に、手塚は静かに返した。
「あれは俺にとって、……恐らく跡部にとっても、無二の試合だ。再現などできない」
「手塚、お前……」
じっと左手を見下ろす。何度も頭に思い描いた、あのシングルス1。日差しの強さまで思い出せる。
考えてみれば、あの時からもうすでに跡部景吾に惹かれていたのかもしれない。
「明日の試合で当たってもっすか」
越前が、挑発するように覗き込んでくる。この小さな少年の負けん気の強さは、どこか跡部に似ていた。
「いや、明日俺は跡部とは当たらないだろう。俺たちも向こうも、勝つためのオーダーを組んでいる」
どよめきが起こる。この予感は外れていないはずだ。そして、手塚の希望でもある。残念だが、個人の感情を優先している場合ではないのだ。勝って次の試合に進むには、自分は跡部と戦うべきではない。少なからず驚いている次代の柱に、すべてを託そう。
「越前。跡部は強い。油断せずに行こう」
彼の相手はお前だと暗に告げてやれば、越前は一つ瞬いて真剣な表情になり、次いで楽しそうに口の端を上げた。全国大会という大舞台でさえ、この少年は楽しむつもりでいるのだと思うと、心強かった。
「……厄介な相手だね、これは」
「俺もそう思うよ、不二……」
大石と不二が、視線を合わせる。菊丸や河村がそれに同調し、二人が大きなため息をついたのだが、明日の試合のことを考え始めた手塚の耳には入らなかった。
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー