No.570

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情熱のブルー-014-

情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー

 手塚はその朝、文字通り跳ね起きた。 ドッドッと大きな音を立てる心臓を押さえ、驚愕に震える吐息を、手…

情熱のブルー,塚跡WEB再録

情熱のブルー-014-

 手塚はその朝、文字通り跳ね起きた。
 ドッドッと大きな音を立てる心臓を押さえ、驚愕に震える吐息を、手のひらで覆う。
「なん、だ……今の」
 今見た夢が、とてもじゃないが信じられない。そもそも夢は忘れてしまうことの方が多いのに、やけに鮮明に脳裏に焼き付いている。感触さえ思い出せた。
 じわりと汗が浮かび、パジャマが張り付いて不快だ。だがそんなことを気にしている場合ではない。
 ひどい夢を見たものだ。
 不快、というわけではない。ぬるつく下着は不快に思うものの、驚愕の方が大きい。手塚は視線を泳がせる。
「なんで……こんな夢を」
 くしゃりと髪をかきまぜて、じっと手のひらを見下ろした。そこに残る感触は生々しく、だが現実ではない。
 どうして、と呟く。
 どうして、――跡部景吾を抱く夢なんて。
 あれは確かに跡部だった。あんな顔の人間が他にいてたまるものか。
 彼が夢に出てくること自体は問題ない。昨日も一緒にテニスをしていたから、あまりにも楽しかったから夢に見た、とでも言ってしまえる。だが、自分たちは夢の中でテニスなどしていなかった。
 頬に触れて、くすぐったそうに笑う跡部に口づけて、抱きしめて体のラインをなぞる。唇は首筋をたどって、手のひらが素肌をなでた。跡部は抵抗のひとつすらせず、それどころか両腕をこちらに伸ばして誘ってきさえした。
 それをいいことに、押し倒して組み敷いて、体の全部に触れて、気持ちよさそうにのけぞる跡部の中に欲望を打ち込んで放った。
 紛う事なき性行為だ。
 ――――跡部のことが好きなのかもしれないというのは、まあ、……………………どうにか認められるとしても、まさかこんなことまで……。
 ひとつの仮定として根付いてしまったその解は、いよいよ現実味を帯びてくる。不可解な感情というわけではない。手塚自身が認められないでいるだけだ。
 同性ということに加えて、ともにテニスに情熱を懸ける相手というのがどうにも面倒くさい。初めてそこまで共有できた情熱を勘違いしているのだと何度言い聞かせても、最終的にそこへとたどり着いてしまう。
 手塚にはそれが釈然としないのだ。
 恋などしていないと思うたびに、跡部景吾は内側に入り込んでくる。いっそ憎たらしいほどの存在感に、辟易としてしまう。
 そして同時に、むずがゆい。
 浮かんでくるのは跡部の様々な表情だ。手塚はテニスをする中で、表情を隠すことまで覚えてしまったが、彼は正反対だ。もっと違う表情も見たい、もっと近くで接したいと思うのは、やはり恋だと認めなければならないのだろうか。
 しかも、こんな夢まで見てしまうのだから。
 なんだか負けたような気がしてならない。何に、と明確に言葉にはできないが、それを感情として認めてしまったら、世界が百八十度変わってしまいそうだ。
 それが少し、怖い。
 例えば跡部のことを好きなのだとして、変わらずテニスができるのだろうか。
 トスを上げるその姿に、容赦なく打ち返してくるその様に、勝つのは俺だという強気なその笑みに、視線を奪われやしないだろうか。今でさえ時折危ういのに、恋になったら平気でいられるのだろうか。
 いや、そんなわけはない。
 純粋に、貪欲にテニスをしていたい。
 跡部景吾との間に、こんな不埒な感情を挟みたくはない。
 あの日初めて知った跡部の熱量を、こんなことに巻き込んでしまっていいわけがない。
 手塚は項垂れて額を押さえ、唇を引き結ぶ。
 どうしても跡部の顔が浮かんでくるせいで、目蓋は閉じることができなかった。
 ひとまず今日は普通に接さないといけないと、大きなため息をつき、汚れてしまった下着をどうするかと思考をスライドさせた。
 すべて洗い流して、何もかもなかったことにしてしまいたい。
 昨日見た跡部も、一昨日見た跡部も。残るのは、あの日のがむしゃらな跡部だけでいい。
 顔を覆えば、彼の得意技インサイトのようなポーズになってしまって、もうどうしようもないのかと眉間にしわを寄せた。
 家族が起き出してこないうちに、着替えて早朝ランニングにでも行ってこようと、ようやくベッドを下りる。今日逢うまでに、どうにか落ち着かせなければいけない。ただの好敵手を夢で抱く劣情など、あっていいものではないのだから。
 手塚はそれまでにあった余計な感情をそぎ落とすかのように、パジャマを脱いだ。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー