華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.557
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
忘れられない色がある。 十四歳の夏、それを知ってしまった。 それはどこまでも高く燃え上がる、灼か…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
favorite いいね ありがとうございます! 2023.03.19 No.557
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忘れられない色がある。
十四歳の夏、それを知ってしまった。
それはどこまでも高く燃え上がる、灼かれそうな――青。
なぜ今なんだ。
肩に走った激痛は認識したが、どうして今この瞬間なのかと、手塚国光は歯を食いしばった。
あと一球だったのだ。あと一球あのコートにたたき込めば、勝利が確定したというのに。
「……、……ッ……!!」
声にならない声が、天を突く。
膝を折る。膝をつく。肩が上がらない。動かない。先ほどまで握っていたはずのラケットを、拾い上げることすらできなかった。
迂闊だった。無意識に、完治したはずの肘をかばってしまっていたのだろう。いつもの試合ならば、それでも勝てた。自分に持久戦を仕掛けてくるような相手がいなかったというのも、判断を誤った原因の一つだ。
いや……果たして本当にそうだろうか。どこかで、肩に負担がかかっているのを理解していたように思う。
「手塚!」
「手塚部長!」
青学の仲間たちが、ベンチから駆け寄ってくる。いまだに痛みが引いていないことは、きっと彼らも分かっているだろう。このままでは棄権させられかねない。それは駄目だ。受け入れられない。
「来るな!」
駆け寄ってくる仲間たちに向かって声を張り上げる。膝をついたまま、視線だけそっと正面に向けた。
ネットの向こうに、対戦相手がいる。氷帝学園の頂点に立つ男――跡部景吾だ。その男はぐっとラケットを握ったままこちらを見据えてくる。
――――ああ、そうだ、跡部。
手塚は激痛をこらえて声を絞り出す。
「試合は……まだ、終わっていない……!」
こんなところで終われるものか。こんなことで、勝ちを譲ることなどできやしない。こんな中途半端な状態では納得がいかない。
状態を確認するためということで、試合が一時中断される。それはモチベーションや集中力の持続に大きな影響を与えるが、どうしようもない。
手塚はベンチで、左手をぐっと握り、力を抜き、またぐっと握りしめる。
力は入るようだ。肩の痛みも、先ほどより若干和らいだように感じた。
「手塚、棄権した方がいい」
「肩を痛めて引退した選手は山ほどいる」
不二や乾が、強い口調でそう勧めてくる。それは普通の行動だろうなと手塚は思った。逆の立場なら、止めるべきだからだ。部長という立場である以上、部内での怪我には責任がある。しかしいざ止められる側になると、首を縦には振れない。
こんなところで終わりたくない。中学最後の大会なのだ。悔いなど残したくない。この一戦に勝てば次に進める。いや、進まなければならない。
何より、コートにまだ跡部景吾がいる。
恐らく、手塚が再びコートに立つのを待っているのだろう。彼も、納得のいかない顔をしていた。
続いていた応酬が、突然ぷつりと切れたのだ。不完全燃焼であることは間違いない。
〝出てこいよ〟
彼の揺るぎない青の瞳が、そう語っているように見えた。
手塚はラケットを握り直す。
「手塚部長!」
「手塚、駄目だよ!」
尚も止めてくる仲間たち。それでも手塚は、戻らなければならない。いや、戻りたい。
跡部と、視線が重なる。手塚はそっと目を閉じてその交錯を断ち切ったけれど、すぐに腰を上げた。コートに向かって足を踏み出す手塚の前に、副部長である大石が立ち塞がる。
「手塚」
長く、共にテニスをしてきた。支えてもらった。止めるならば、その彼を押しやらなければならない。
「大和部長との約束を、果たそうとしているのか?」
ひとつ瞬いて、大石をじっと見やる。彼はそれを肯定と捉えただろう。全国制覇の夢を叶えるというのは手塚自身の夢でもあるが、大和との約束を守りたいという思いもあった。ここで棄権などしたら、夢半ばで柱という役目を託してくれた人に申し訳も立たない。
どう勝つか。周りの期待を背負う者の責任だ――手塚はそう思っている。
「……頑張れ」
ぐっと拳を差し出してくれる。手塚はわずかに目を瞠った。てっきり他のメンバーと同じく止めてくるものと思っていたが、そうではなかったようだ。
傍で支えてくれた大石だからこそ、手塚がどれだけこの試合に懸けているか知っているのだろう。ごつりと腕を合わせ、力強く頷いた。後ろのメンバーたちは止めるべきだと慌てていたが、手塚の意志が揺らぐことはない。
「部長」
ベンチにふてぶてしく腰をかけていた越前が、声をかけてくる。手塚はその小さな少年に意識をやった。
「俺に勝っといて、負けんな」
彼なりの激励なのか、発破をかけたつもりなのか、ほんの少し拗ねたような声が届く。自分を打ち負かしたのだから、簡単に負ける男であってくれるなというのは、なんとも生意気なものだが、気持ちは充分に理解できた。
「――俺は、負けない」
そうして手塚は、コートに戻る。突き刺さるような跡部の視線が、なぜか心地良かった。
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