華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.593
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー
「跡部、だが先ほども言ったように、お前に好きな人がいるのは分かっている。ただ俺の気持ちを知っていてほ…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
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「跡部、だが先ほども言ったように、お前に好きな人がいるのは分かっている。ただ俺の気持ちを知っていてほしかった。優勝をしたら好きだと告げて、踏ん切りをつけようと思っていたんだ」
この気持ちがなくなることはないが、跡部に不誠実なことをしたくなかったのだ。それこそ、友人として、ライバルとして慕ってくれている彼には。
「できれば今まで通り友人として接してくれるとありがたいが、無理ならそう言ってくれ」
跡部ほどの器なら、この不埒な感情さえ何でもないことのように受け止めてしまうかもしれない。そんな期待が、ほんの少し、ある。
だが跡部は顔を覆ったまま俯いていて、胸が痛んだ。
困らせてしまっているなと分かって、潔く身を引こうと思った。
その時、跡部がゆっくりと顔を上げる。
「……手塚、お前……、俺の相手が自分だとは、微塵も思わなかったかよ?」
顔を覆っていた手を外し、困った顔を隠しもせずに告げてくる。手塚は、何を言われているのか分からなかった。
跡部の、相手、というのは、なんのことだろう。
――――跡部の相手……? 想い続けている人、という、こ、と……待て。
今議題に挙げてくるということは、まさか。
「……どういうことだ」
困惑した。跡部は何を言っているのだと、焦りが生まれる。
自分に都合のいいように解釈してしまって、そんなわけはないだろうと思うのに、浮かんでしまった瞬間に巨大な期待となって胸の内を暴れ回った。
「どうもこうもねえ。俺が十年片想いしてたのはお前ってことだ、手塚ァ」
パシンと、胸の中でその期待が割れた音がする。
――――な、……にが、起こって、るんだ。
期待が現実となって、体中を駆け巡った。
「好きだぜ、手塚。ずっとお前が好きだった」
耳を疑う。いや、疑いたくはない。思いも寄らない言葉に、思考回路が上手く働いてくれない。
――――待ってくれ、跡部が……跡部が俺のことを? まさか、そんな、じゃあ……ずっと、俺たちは。
?だろうと口をついて出そうだった。だが確かに跡部の声が告げてきたのだ。好きだと。それに?だなんて返したくない。
「……それは本気で言っているのか?」
「俺はいつだって本気だったぜ。特にお前に対しては」
先ほどの問答を真似される。遊んでいるのかと思うが、まっすぐな瞳に?はない。あの日惹かれた色と同じ、何も変わっていない。
「十年と言っていただろう。俺が親しくなる前だと思ったんだ」
「ほぼ十年っつったんだよ」
「昨年の時点ではまだ八年だが」
「二年なんざ誤差の範疇じゃねえか! 言っとくけどな、先に惚れたのは俺の方だぜ」
もっとしっかり年数を言ってくれていれば、もしかしたらと思ったかもしれない。何しろあの頃休日はいつも跡部と一緒にいた。想い人の陰などまるでなかったのだから。
「聞き捨てならない。俺がお前を好きになったのが先だ」
「張り合うのかよ、そこ」
跡部が呆れつつも眉をつり上げる。お互いが負けず嫌いな性分だ。それは分かるがこんな時にまで張り合わなくてもいいだろうと、大人げなさを先に振っておいて、手塚は理不尽にも跡部を睨みつけた。
「俺は、あの試合の時からお前を意識していた。九州でリハビリをしている最中にさえ、お前のことで頭がいっぱいになることがあったんだ」
「そりゃあ奇遇なことだ、俺もきっかけはあの日の試合だぜ。お前が戻ってきた時は、本当に嬉しかった」
言い合いたいのかのろけたいのか分からない。ただ、これまでの日々が頭の中を駆け巡った。
肩が上がらなくて怖いと自分の弱さを知ったあの夜、跡部の声で救われたこと。
連絡先が知りたいと初めて思ったこと。
テニスに明け暮れる日々で、気がついてしまった劣情。それを必死で押し殺しながらボールを打ち、ラケットを振っていた。
なんて不誠実なことをしてきたのかと思うと同時に、あの時はそうするしかなかったもどかしさを思い出す。
秘めておこうと思った想いは、告げねばならないという気持ちに変わり、踏み出す勇気をテニスに与えてもらい、今ここにいる。
「……」
「……」
こんなことがあっていいのか。想像もしていなかった。
この恋が一方的なものではないなんて。
何かを言い出そうとして、できずに口を噤む。だけどまた想いがこみ上げてきて、しかしうまく音になってくれない。
それは跡部の方も同じようで、もどかしげに視線が揺れている。
「跡部……、ひとつ訊くが」
ようやく声を出せたのは、どれくらい経った後だろうか。
「なんだよ……」
「俺は、お前を……だ、抱きしめてもいいのだろうか」
太腿の横でぐっと拳を握る。幾度、そうしたいと思ってきたことか。気の利いた言葉のひとつも言えない不器用な自分が、跡部景吾に触れてもいいのか。
跡部が、何も言わずにすっと右手を差し出してくれる。
〝来い〟と受け入れてくれるこの男の潔さに、何かが脳天を突き抜けていったような感覚を味わった。
手塚はゆっくりと足を踏み出す。
半歩、半歩、一歩。
左手を上げて、跡部に触れようとさらに足を踏み出した。こんなに近くにいるのに、その距離がとても遠く感じる。
触れそうで触れない距離。
じれったそうに顔を歪めた跡部に、伸ばした左手を取られる。あ、と言う間もなくそのまま抱き寄せられた。
首に回される左腕の力は強く、一気に隙間がなくなってしまう。
「手塚……、手塚っ……」
首筋に、跡部の吐息がかかる。切羽詰まった声音で呼ばれ、もう抑えてなどいられなかった。
「…………っ……跡部……!」
跡部以上に切羽詰まった声で呼び、その体を両腕で抱きしめる。伝わってくる温もりが胸を締めつける。もっと感じていたいと、抱きしめる腕の力を強めた。
「てづか……」
「跡部」
スーツ越しに胸が合わさる。その下で奏でられる心音が重なっていき、夢ではないのだとそんなことで実感した。
同じほどの強さで抱き合い、何度も名を呼び合う。こんなにも想い合っていたのに、どうして今まで気がつかなかったのだろう。
間にテニスがあったにしろ、思い返せば親密過ぎたではないか。テニスしか頭にないと思われていたのだろうなと分かっていても、なぜと責めたい気分にもなる。
もっと分かりやすく、この想いを示していればよかったのかと、跡部の髪を撫で、頬のラインをなぞる。
指先がそこに触れる前に、唇同士が重なった。
触れて、離れて、押しつけて、舐める。挟むように唇を愛撫し、軽く歯を立てて、真ん中で舌先を触れ合わせた。
それがスイッチだったかのように、お互いが奪い合うように舌を絡める。
「……っん、んんっ……っ」
「っは、……はあっ、……ん、う」
吸い上げ、取り込み、取り込まれ、口の中でしっかりと存在を確かめ合った。
ちゅ、ぴちゃ、と湿った音が響くたびに体が疼き、もっと深く、もっと奥を暴きたい衝動に駆られる。指に絡む髪さえ愛しくて、離れがたい。
噛みつくようなキスを何度も何度も繰り返し、もどかしさに耐えられなくなって、手塚は跡部の腰をなで上げ、脇腹をたどり、手のひらで胸を覆う。
それは跡部も同じようで、躊躇いのかけらもない指先が胸を探っている。手塚は跡部の首筋を撫で、吐息を分かち合いながらタイを緩めた。
「あ……はあっ、あ、んぅ」
跡部の指先がジャケットをまさぐり、ベストのボタンを外しているのが気配で分かる。背中、シャツ越しに触れた手のひらの体温に、最後の理性が持っていかれたような気がした。
「跡部……跡部……っ」
「手塚、待て、……なあ」
「待つ理由がない……」
今さら止めてくれるなと、強く腰を抱く。煽り合ったのも、受け止め合ったのも、お互いの意思のはずではないのか。責めるようにも跡部を見つめ返したら、欲に濡れた瞳が待っていた。
「そんなのはこっちだって同じなんだよ。……手塚、……ベッド、行こうぜ?」
ひどく分かりやすい誘いに、手塚は一も二もなく頷いた。跡部が鼻先にくれたあやすようなキスは、欲を煽ることにしかならなかったけれど。
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