華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.589
情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19
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インタビューが載った雑誌が発売された後、跡部景吾の人気がうなぎ登りに上がったと聞いた。もともと人気…
情熱のブルー,塚跡WEB再録
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インタビューが載った雑誌が発売された後、跡部景吾の人気がうなぎ登りに上がったと聞いた。もともと人気は高かったが、公式サイトで販売していたグッズに購入希望が殺到してアクセスができないほどになったらしい。
それを知って、思わず一人で笑ってしまったことを思い出す。
あれだけ話題になってしまえば、もしかしたら跡部の想い人とやらにも風の便りが届いているのではないだろうか。
どの程度の間柄なのかは分からないが、それをきっかけに交流が生まれているといいと思えるほどには、手塚の気持ちも落ち着いた。
落ち着いたといっても、想いが薄れたわけではない。むしろよりいっそう深くなって、胸の中に根を張っている。跡部に想う相手がいようともこの気持ちは変わらないと分かって、なぜか安堵することになっただけだ。
『ああ、届いた? テニス部レギュラーで選んだんだけど』
「確かに受け取った。ありがたく使わせてもらおう」
不二たちから、祝いの品が届いたのは、昨日だ。キャンプ用品というか、登山用品なのだが、趣味を覚えていてくれたことが嬉しい。
最近は忙しくて息抜きに登山もできていないが、目的を果たしたら一度どこかの山を制してみようかと思う。
「だが、気遣いは無用だ。優勝したとはいえ、地方の小さな大会だからな」
『それもあるけど、今回は誕生日プレゼントもかねてね。君の優勝祝いなんかいちいちしてたら保たないよ』
なるほどと手塚は目を瞬く。先日、テニスのトーナメントで優勝を果たした。小さいとはいえ優勝カップをもらったから、それの祝いだと思っていたのだが、今日という日に合わせてのものだったようだ。
『誕生日おめでとう、手塚』
「ああ、ありがとう。皆にもよろしく言っておいてくれ」
『分かった。明日ね、久しぶりにタカさんのとこで集まろうって話になっているんだ。桃や海堂もね。ちょっとした同窓会になりそうだ』
君や越前も参加できたら良かったのにと続ける不二に、そうだなと返す。
今まで過ごしてきた時間はどれも大切なものばかりだが、とりわけあの頃はその中でも度合いが大きい。尊敬する人たちにたくさん出逢ったことが大きいのだろう。思い出は美化されると言うが、今でも鮮やかに脳裏によみがえってくる。
過去など振り返らず前だけを見据えたいといつだか口にしたら、過去を振り返るのも強さのうちだなんて言った男がいる。もちろん、跡部だ。彼の方こそ過去など振り向きもしないように思うが、きっと氷帝学園で過ごした日々を大切に感じているのだろう。
『で、手塚はなんでいきなり火がついちゃったの。三つ目だよね、優勝したの』
「別に……大した理由ではない。今までも本気を出していなかったわけではないしな」
不二の言うように、大会で優勝するのはこれが初めてではない。連続して勝ち取ったせいか、不二が火がついたと言うのも仕方がないだろう。
『賞金稼ぎにでもなるつもりかい』
「賞金に興味はないな。次のウィンブルドンにすべてを懸けたいんだ」
だが手塚が見据えているのは、あくまでもウィンブルドンだ。四大大会の一つとされる、英国での競技。次の優勝カップは俺がもらうと、跡部たちに宣戦布告してきたその大会。心と体のコンディションをうまく調整して、ベストな状態で挑みたい。
『ずいぶんと唐突だね。そりゃプレイヤーとして目指すところではあるだろうけど、何かやりたいことでもあるの?』
「…………そうだな。ケリをつける、というか……ひとつの区切りにしたい。テニスを辞めるとかそういったことではないのだが」
『そう…………もちろん、ボクらは応援するよ。できれば現地で観戦したいところだけど。当然、決勝戦をね』
何か気づかれたかもしれない。不二は、手塚の中の跡部への想いを知っている。明確に指摘されたことこそないものの、支えてもらったこともある。
『みんなにも言っておくよ。手塚がついに動き出したってね』
「今まで動いていなかったみたいに言うんじゃない」
『ふふ、じゃあ、頑張ってね手塚。君の活躍を楽しみにしているよ』
「ああ」
通話を打ち切って、壁にかけたカレンダーを振り向く。誕生日だからといって、鍛錬を怠るわけにはいかない。走り込みに行ってこようと、着替えを済ませた。
リビングに戻ってくると、スマートフォンがメッセージの受信を報せている。
『おめでとう』
と短く送ってきてくれたのは、跡部だ。
『ありがとう。次も勝つ』
そう短く返信をすると、『馬鹿、誕生日だろ』と返ってきて、笑ってしまった。四日の彼の誕生日にも、同じようなやりとりをしたのを思い出して。
去年までは近い日付で逢って祝い合っていたが、今年はそれがない。跡部もウィンブルドンに向けて忙しいということだろう。お互いの暗黙の了解で、今年はメッセージのみだ。
それでも、嬉しい。
惚れた相手に誕生日を祝ってもらえるというのは、この上ない幸福だ。
『そちらか、ありがとう』
『これからロードワークか? 気をつけてな』
『お前もだろう。怪我などするなよ』
『分かってる。じゃあまたな』
そんなやりとりをして、手塚は家を出る。
跡部と試合がしたい。プロになって何度かボールを交わしたが、どうしてか公式試合では当たらなかった。組み合わせの妙というヤツだろう。
優勝もしたいが、なにより跡部景吾と思いきり試合がしたい。
あの日のようながむしゃらな気持ちで、もう一度打ち合いたい。余計に手など抜けないなと、足を踏み出した。
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