No.586

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情熱のブルー-030-

情熱のブルー,塚跡WEB再録 2023.03.19

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #情熱のブルー

 腕時計で時刻を確認した。案内された応接室で、窓から外を眺める。どうしてもそわそわしてしまうのは、こ…

情熱のブルー,塚跡WEB再録

情熱のブルー-030-

 腕時計で時刻を確認した。案内された応接室で、窓から外を眺める。どうしてもそわそわしてしまうのは、これから逢える男が男だからだろう。
 腕を組んでみても、窓ガラスにもたれてみても、やはり落ち着かない。柔らかなソファに腰をかけてみても、それは同じだった。
 ややあって、ドアがノックされた。
「はい」
 返事をすると、なぜか少し間を置いてドアが開く。
「よう、遅れちまったか?」
 顔を覗かせたのは、跡部景吾。いまだ手塚の胸の中に住み着く、誇り高きキング。
「いや、十分前だ。問題ないだろう」
 跡部の後ろには、越前リョーマもいた。手塚は腰を上げて、二人に歩み寄る。
 手塚たちは今、プロのテニスプレイヤーとして各地で大会に出場してそれなりの成績を収めていた。今回雑誌の特集ということで、三人そろってインタビューを受けることになっている。跡部や越前とは拠点が違うが、日本出身ということで組まれたのだろう。
「こうして逢うのは久しぶりだな、手塚。試合は観てたが」
「ああ、マイアミ・オープン以来か。元気そうで何よりだ」
 フッと跡部が笑う。この八年で、髪型が変わった。それは手塚もだが、その青の瞳はいつでも変わらない。相変わらず手塚を魅了し続ける。それでも瞬きひとつでその視線を断ち切って、越前へと移した。
「越前、ベスト4おめでとう。次は対戦できるといい」
「どもッス。部長も、ベスト8おめでとうございます。まあ対戦しても、絶対に俺が勝つんで」
 越前も、生意気なのはあの頃から変わらない。
 しかし八年も経つのにいまだに〝部長〟というのはどうなんだと指摘してやれば、癖なのだと返ってきた。
「あの頃の印象が強烈で」
「クックック、いいじゃねえか手塚部長。愛されてるじゃねーの。俺も時々日吉たちに部長って呼ばれてるしな」
 誇らしげにそう呟く跡部は、本当に楽しそうだ。なんでも今、氷帝学園テニス部の名誉部長というものに就任しているらしい。それがいったいなんなのか分からないが、跡部が嬉しそうにしているのならば何でもいい。
 真ん中は俺だろう、と座る位置を争う越前と跡部に呆れつつ、座る場所などどこでもいいと手塚は端の椅子に腰をかけた。そうした途端に、なぜか越前はもう片方の端に座る。真ん中は跡部に譲ったようだった。つまり、手塚の左隣に跡部が座ることになった。
 ――――近いな……。
 今さらこの距離にどぎまぎすることもあるまいと思っていたが、恋情はあの頃のまま、跡部の仕草ひとつひとつに胸を高鳴らせる。
 プロデビューしてからも交流は持っていたし、時折一緒にでかけることだってあったのだから、もう少しくらい慣れてもいいだろうに。
 手塚は気づかれないように小さくため息を吐いた。
 ややあって、インタビューの記者が到着し、取材が始まった。
「跡部選手は、ジュニアの育成にも余念がないとか」
「時間を作って、テニススクールや母校の指導に出向くくらいですけどね。俺がいた時より部員が増えていて、嬉しい限りですよ」
「去年、俺も引きずられていったんスよね。あの氷帝コール引き継がれててビックリした」
 跡部はプレイヤーとして活躍する他にも、家の事業に携わっているらしく、忙しそうだ。このビルも跡部グループのもので、改めて財力のすごさを知る。さらにそんな中でジュニアの育成とは、まったく恐れ入る。
 一分として立ち止まっていないのだなと、誇らしく思った。
「跡部は、そういうマメなところがあるからな。見かけによらず面倒見がいいというか」
「おい手塚ぁ、見かけによらずってなどういうことだ」
「そのままの意味だ」
 面白くなさそうに片眉を上げた跡部に返してやると、越前も同意をしてくる。ほらみろと言わんばかりに視線をやると、記者がかすかに笑うのが目に入った。
「三人とも仲がいいですね。普段からこうなんですか?」
「今は時間が合わないので、そう頻繁に逢えるわけじゃないですけどね。手塚とは年に数回、テニスしたり釣りに行ったりしてますよ」
 わあ、と色めき立つ記者。手塚はそれよりも、越前からの視線の方が気にかかった。じいっと見つめてくるその大きな目には、どんな意図があるのか。それには跡部も気づいたようで、不思議そうに越前の名を呼んだ。
「越前? どうした」
「別に、何でもないっす」
 明らかに何か言いたげだっただろうと突っ込んでやりたかったが、墓穴を掘るのは目に見えている。止めておいたほうが良さそうだと、手塚は胸の前で腕を組んだ。
「つーか跡部さん、そのためにわざわざドイツまで行ってたわけ?」
「アーン? 仕事のついでにオフ合わせるだけだっての」
「…………ふぅん」
 越前の意味深な視線が痛い。
 気づかれているのだろうなと昔から思っていたが、これは完全にバレている。仕事のついででもなんでも、跡部が時間を空けてくれるのを嬉しいと思っていることに。
 ずっと続くライバル関係はありがたくもあり、もどかしくもあるけれど、忙しい合間を縫っての逢瀬には満足していた。
「ライバルでありながら仲の良いところが、女性にも人気なんですよね。みなさんの女性のタイプとかお訊きしてみたいんですが」
 にこにことお決まりの質問をしてくる女性記者に若干うんざりもする。
 今まで公式にそういう話題が出ていないというのもあるのだろうが、タイプなど知ってどうするというのか。
 どんなに好みの女性が現れようと、この胸の中には跡部景吾しか存在していないのに。
 こういう時、跡部はどう答えるのだろうとちらりと見やれば、わずかに苦笑しているように見えた。彼なら、そつなくかわしそうだと思ったのだが、考え違いだっただろうか。
「越前選手は」
「いや、俺は……彼女がタイプそのものっていうか」
「えっ」
 越前の答えに、記者たちの驚いた声が耳に入る。手塚も驚いて越前を振り向けば、跡部も同じように越前の方を向いていた。
「あの、たびたび越前選手の試合を観に来ているというポニーテールの女性は、やはり恋人ということでしょうか!? ファンの間でも、密かに囁かれているようですが」
「まあね」
 越前は不敵に口の端を上げる。
 ポニーテールの女性というのはあれだろうなと、手塚も思い浮かべる。確か中学時代は三つ編みにしていたが、いつの頃からかポニーテールに変わっていた。恩師の孫として、テニスが大好きな女子として手塚も認識していたが、今この時点まで越前と続いているというのは驚きでもあり、納得するものでもあった。
「付き合い長ぇよな、中学ん時からだろ」
「そうッスね」
「あ、あの、これ記事になりますけど、大丈夫ですか」
 公にするのはこれが初めてらしい。ウチの雑誌で特ダネとしてしまってもいいのかと興奮気味に身を乗り出してくる記者に、越前は迷うことなく「いいッスよ」と答えた。
「待て越前。彼女は了承しているのか? 中には過激なファンもいるかもしれない」
 記事は跡部がチェックをするだろうし、滅多なことは書かれないだろうが、おかしなことをする人間というのはいるものだ。もし記事のせいで大事な恋人に危険が及んだらどうするのだと諌めたつもりだったが、
「そういうのは、俺が守るんで」
 強気にそう返されてしまった。越前なら必ずそうするのだろうなというのが根拠もなく納得できてしまう。そうさせる強さが、越前リョーマにはあるのだ。
「……そうか」
「ハッハァ、テメェずいぶん男前になったじゃねーの」
 跡部は肩を震わせて笑っているが、気持ちのよさそうな笑みだ。なんだかんだで越前を気に入っているせいだろう。


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