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永遠のブルー-004-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 開催地域枠で、氷帝学園の全国大会出場が決まった。望んだ通りのストーリーではなかったが、上の大会に進…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-004-


 開催地域枠で、氷帝学園の全国大会出場が決まった。望んだ通りのストーリーではなかったが、上の大会に進めると意気込んでいるレギュラー陣を始め、二百名の部員たちや応援団の気持ちに水を差すわけにもいかない。
 目指しているのは、高みだ。一個人のプライドやわだかまりで、潰してしまっていいチャンスなど存在しない。
「どいつもこいつも浮かれやがって」
 夏休みだというのにわざわざ垂れ幕まで用意されてしまっては、受け入れるより他にない。跡部はパチンと指を鳴らし、騒がしさを蹴散らした。
「俺様とともに全国へついてきな!」
 気分は、どうしても高揚してくる。終わったと思っていた夏の続きが始まるのだ。それは仕方がない。
 全国大会は、強敵がたくさんいるだろう。レギュラーの強化やオーダーの相談、時間はあまり多くない。
 跡部はすぐさま、練習を開始させた。大会出場が決まってテンションが最高潮にまで達した部員たちは、いつも以上に良い動きをしている。
「楽しみやなあ、全国」
「無様な試合しやがったら承知しねーぞ」
「せえへんわ、そんなん。これでもテンション上がってんねんから。謙也のとこも出るみたいやし」
 いつでもわりととローテンションの忍足でさえ、珍しくテンションがだだ上がりらしい。そういうふうには見えないけれど。
「ああ、従兄弟だったか?」
「せや。四天宝寺、強いらしいで」
 だが確かに、声のトーンが若干上がっている。眼力インサイトを使わずとも、忍足がわくわくしているらしいことが伝わってきた。従兄弟ということは、プレイスタイルも長所も短所も知っている相手ということだろう。
 言うなれば、ライバル、だ。
 跡部は、眉間に眉を寄せて目を細めた。
 跡部の一方的な感情かもしれないが、彼は――ライバルだと思っているあの男は、間に合うのだろうか。
 手塚の肩の状態が良くないという情報は、漏れ聞こえてこない。手塚の状態を気にしているのは跡部だけではなく、どうしてもそこかしこで囁かれているのだ。
 リハビリは順調らしい、プロのチームが様子を見にいったらしい、向こうのプレイヤーをのしてしまったらしい、エトセトラ。
 どれもこれもが噂の域を出ないものだが、その中には不思議とネガティブなものが存在しなかった。
 誰も彼もが、手塚国光の復帰を願っている。
「跡部、今のうちに言うとくけどな」
「あん?」
「手塚が間に合わんかったら自分も試合には出えへんなんてのは、ナシやで」
 少し高いところから降ってきた声に目を瞠り、忍足を振り仰いだ。彼は肩を竦めて半分冗談のように言っているけれど、九割が本心なのだろう。跡部はゆっくりと瞬いて、顔を正面に戻した。
「んなわけねえだろ、俺が出ねえでどうするんだ」
 跡部としても、出場するなら狙うのは優勝のみだ。それは全校同じことで、他のレギュラー陣に任せっきりというわけにはいかない。頂点に君臨するキングとして、勝ちを見せてやるのも務めの一つだ。
「開催地枠だろうと関係ねえ。勝ちに行くぜ、忍足」
「当然や。誰が相手でもなあ」
 跡部は太腿の横でぐっと拳を握る。目指すのは高み。そこに手塚がいようといまいと、強敵を打ち倒して君臨するのだ。
 ――――キングたれ、跡部景吾。
 そう自らを鼓舞して、青い空を見上げる。
 それでもあの日見た空ほど鮮やかではなかったけれど。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー-003-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 過去を振り返るのはあまり好きじゃない。 だけど、何をしていてもあの男が浮かんでくる。 トスを上げる…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 過去を振り返るのはあまり好きじゃない。
 だけど、何をしていてもあの男が浮かんでくる。
 トスを上げるときも、ラケットを振り抜く時も、走り込む足を踏み出す時でさえ、ネットの向こうにあの男がいるかのようだ。
 何度ラケットを握っても、気がつけばあの日の試合をリプレイしてしまう。
 ドロップショット、ドライブボレー、ジャックナイフ、いくつものリターンを経て、返し得ない零式。手塚の右手がトスを上げる。力強い左腕がラケットを振り下ろす。重い打球を受け止めて返す。
 手塚の左を抜いて、ボールは地面を転がった。
 跡部は息を吐いて体を翻し、ベンチに置いていたタオルで汗を拭う。
 自分が見るべきものは未来のはずで、上の上の上、さらにその上を目指すべきなのだ。
 記憶というものが美化されてしまうこともある。
 あまりにあの試合が衝撃的で、刺激的で、美化されているせいで、いつまでも執着してしまうのではないか。
 無二の試合だったことは認めるが、この先あれ以上の試合がないとは言えない。強く巧いプレイヤーと戦うことなど、テニスを続けていればたくさんあるだろう。
 だけど、どうしようもなく手塚なのだ。いつも、いつでも、手塚国光が浮かんでくる。
 あの男ならどう打ってくるか。あの男はこのラインをどう返してくるか。あの日の手塚だけではない。あのテンションを保った手塚が浮かんでくる。
 これはもう、記憶を再生しているというレベルではない。
 跡部にとってあの日戦った手塚というプレイヤーは、過去であり現在であり、未来でもあった。この先絶対に出逢えないだろう、最高のプレイヤーになってしまった。
 それでも、氷帝としての夏はあの日で終わってしまった。全国を制するという高みの一つは、もう追えない。勝利は青学のものだ。
 中学最後の夏――もう手塚と戦う舞台はない。
 公式でないものなら可能かもしれないが、手塚が受けてくれるとは思えない。
 そもそも、……そもそも、彼の左肩は今どんな状態なのか。テニスを続けることはできるのか? あの真摯なプレイが失われるなんてことがあれば、テニス界にとっても大きな損失だ。
 そればかりが気にかかる。
 状況を訊きたくても手塚の連絡先など知らないし、青学の連中のもだ。手塚の肩を壊した張本人に良い感情など持っていないはずで、たとえ今の手塚の状態を知っていたとしても跡部には教えてくれないだろう。
 跡部家の誰かに頼めば、すぐさまつぶさに手塚の状態が報告されるだろうが、もしも酷い結果だったら、手塚はそれを知られたくないのではないだろうか。特に、戦った相手には。
 訊ける相手がいない。その上悔しいことに、怪我で足踏みしている状態など知られたくないだろうことが、理解できてしまう。
 もっと親しい相手ならば、怪我の具合はどうなんだと直接訊けていたかもしれない。だが手塚とは親しくしてなどいなかった。
 ぐる、ぐる、と思考が巡る。
 忍足の言う通り、気になっているなら確認すればいい。連絡先くらい調べればすぐに分かる。いや個人情報なのだからそれは良くない。他の人間に確認させるか。自分のために動いてくれる人材はたくさんいる。駄目だ、貴重な時間をこんなことに使わせるべきではない。
 やはり自分が直接九州に行くか。駄目だ。見られたくないだろう。……見せられないほどの状態なのか。
 繰り返し、思考がループする。
 跡部は唇を引き結び、どさりとベンチに腰をかける。
 そこからじっとコートを眺めた。
 ――――駄目だ。何度リプレイしても、俺は手塚の弱点を攻めたし、アイツが諦めるっていう選択をすることがねえ。俺たちはお互い、自分の部を勝たせるために戦った。諦めも妥協も存在しねえんだよ! それは分かってる! 分かってるがッ……!
 なぜあの時、お互いが最高のゲームを望んでしまったのか。どちらかが一歩でも退いていれば、こんなことにはならなかったのに。
 だが何度思い返しても、幾度思い描いても、手塚は食らいついて球を打ち返してくる。返せないだろうと踏んで打ったボールを打ち返してくれるのだ。
 ――――アイツが欠片も諦めねえことが、なんでこんなにも嬉しいんだよ……!
 打ち返されたことに驚愕し、悔しさを覚え、そして――歓喜する。
 身も心も震えて、返ってきた球を打ち返してやる時の充足感といったらない。
 その興奮を引き連れて何度もゲームをしたが、終えた後は必ず体が急速に冷えていく。
 もう想像の中でしか手塚と相見えることができなくなるかもしれない。
 プレイヤーとしての生命を絶たれた可能性を考える――その前に、あの日見た炎のように熱い手塚の瞳が、氷のように冷たく突き刺してくるかもしれないと思うと、足が竦む。
 怪我の原因を作った相手に良い感情など持てやしない。いくら手塚が他人には興味がなさそうだといっても、これは別だろう。諦めることなく全力でゲームしてくれたことを嬉しく思う人間相手では、なおさらだ。
 跡部は項垂れて、組んだ手の上に額を乗せる。重いため息が唇から這い出ていった。
 手塚の怪我に責任を感じているのは事実だ。
 どうか今後もテニスを続けられるようにと祈っているのも事実だ。
 どうしてあの時退かなかったんだと責めたい気持ちと、最後まで全力で戦ってくれて嬉しい気持ちがせめぎ合って、胸をかきむしりたい気分だ。
 ――――……逢いてぇ……。
 手塚に逢いたい。
 吐き出す息が熱くなる。
 言葉なんて交わしてくれなくていい。蔑んだ瞳で睨んでくれたって構わない。罵ってくれて結構だ。いや、顔を合わせなくてもいいのだ。
 ただ、生きていると確認したい。
 あの熱い魂はまだそこに生きていると、この目で確かめたい。
「ハ……」
 そこまで考えて、跡部は自嘲気味に乾いた笑いを漏らした。
 自己満足でしかない。手塚がいったい今どんな気持ちで過ごしているのか知りもせずに、ただ自身の願望だけを優先したがる。手塚国光というプレイヤーはまだ死んでいないと確認して、自分を救いたいだけだ。
 こんな愚かしい気持ちのまま、手塚の前に姿は見せられない。
 日に日に募って心の底にたまっていく不安なんて、手塚の絶望に比べたら塵みたいなものだ。自分がこんなことを考える資格があるのか! と手の甲に爪を立ててしまう。
 だが手塚の痛みはこんなものではなかったはずだ。痕がついたって構いやしない。
 彼と同じ傷を負うつもりはない。けれど、今痛みを感じているならすべてこちらに移ってくればいいとは思う。
「手塚……」
 胸が痛い。祈るように握りしめた拳が痛い。間違っても逢いたいなんて言葉が音になってしまわないように、唇を噛みしめた。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー-002-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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「手塚、九州やて?」 手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。「ああ、そうみたいだな…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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「手塚、九州やて?」
 手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。
「ああ、そうみたいだな」
 跡部はそう返すしかできず、ふいと顔を背ける。
「見舞い、行かへんの」
 忖度も何もなく無遠慮にそう訊ねてくるのは忍足で、ある程度予測のできたものだった。
「九州までか?」
「跡部なら金の心配はあらへんやろ。自家用ジェットでも使たらすぐなんとちゃう?」
 暗に行かないと答えたつもりなのに、懸念事項はないとばかりに続けてくる。
 確かに金銭的な問題はない。ヘリでもジェットでもすぐに使える立場にはある。
 生徒会やテニス部のことで時間がないと言っても、この男は「跡部がそんなつまらん言い訳するやなんてなあ」と言ってくるに違いない。そして実際、調整できないわけでもない。
「行って何するってんだ、テニスができるわけでもねえのに」
「よう言うわ。朝から晩まで気にしとるくせに。詫び入れたいんやないんか?」
「詫び、ねえ……」
 手塚が療養に行ったのは、跡部との試合で痛めた肩の治療のためだ。
 罪悪感は、ある。
 弱点を攻めて潰しにかかったのは跡部なのだから。だが跡部にとって誤算だったのは、肩に負担がかかっていると理解しつつも手塚が退かなかったことだ。
 なにも、本当に再起不能にしようとしたわけではない。選手生命にも関わる部分だ。およそすべてのプレイヤーが、その先を考えて棄権するか、攻め急いで墓穴を掘るかだと思っていた。今まで相手にしてきたどの選手もそうだった。
 それなのにあの男は、肩の不調を抑え込んでまで持久戦を挑んできたのだ。
 読み切れなかったことで、手塚の肩を破滅させた。
 詫び、で済むのかどうか。
 もし今後テニスができなくなったりしたら――どうすればいいのか。あれほどの選手を、自分が死なせてしまうのか。
 九州には確か、青学大附属の病院があったはずだ。そこに罹っているのだろう。
 これが跡部家の息がかかった施設なら最優先にしろと手を回すところだが、……と思いかけて、踏み留まる。
 治療を必要としている人はなにも手塚だけではない。それこそ一生をふいにする怪我を負っている患者だっているだろう。それを押し退けて治療を優先させろなどとは、口が裂けても言えやしない。
「手塚がそんなもの受け入れるかどうか……」
 口許に苦笑を浮かべて、忍足に答える。望まれるなら詫びでもこの先の生活補償でもするが、手塚はそれを受け入れないだろう。「必要ない」とにべもなく言ってのける姿が、目に浮かぶようだ。
「お前がそないに苦しそうな顔するんやったら、やっぱりあの時止めといたら良かったわ」
 けど、とそこでいったん言葉を止める忍足を振り仰ぎ、そこに苦笑する友人を見つけた。
「なんやあの時は、止められへんかった。あないに必死にボール追う跡部やなんて、そうそう見られるもんとちゃうしなあ。手塚に関しての読み違いはあそこにおる全員がそうやったろうけど、跡部も大概やで。観たかったんや、宿敵同士のまたとない試合。止めへんで、堪忍な」
「……宿敵同士?」
 跡部は目を丸くする。何の不思議もなく出てきたその単語が、ストンと自分の中に落ちてきて、じわりと体中に染みこんでいく。
「なんでそこで驚くん、自分。変なこと言うたか?」
「い、いや……そうじゃねえが、アイツが俺を宿敵として認識したように見えたってのか?」
 確かに跡部は手塚をライバルとして意識していた。だがあの試合まで彼とはろくに言葉を交わしたこともなかったし、手塚が他人をそう意識しているようには見えなかったのだ。
「俺のことはあくまで敵対校の部長だとしか思っていなかったはずだぜ」
「そないなどーでもいい相手とあないにアツい試合繰り広げるんかいな」
「……手塚だからだろ」
「分からんなら、本人に訊いたらええんとちゃう?」
「連絡先を知ってると思うか?」
「せやから見舞い行って直接訊け言うてんねん。自分やったら、宿敵に見舞い来られたら嬉し……いや、ちゃうな、跡部の場合は。発破かけにきたんかってテンション上がって、それまで以上にリハビリ頑張んのやろな」
 忍足は、どうしても跡部を見舞いに行かせたいらしい。
 一度くらいは顔を出すべきだと思うが、それでテンションが上がる手塚など想像もできない。本当に宿敵と思ってくれているなら悪くない気分だが、当の手塚はそれどころではないだろう。
「男らしゅうないで、跡部」
「アーン?」
「あの試合からずっと手塚のこと考えとるくせに」
 男らしくないとは聞き捨てならねぇなと煽るようにすごんでみたが、次に忍足が発した言葉に瞠目し、息を呑んだ。
 ずっと手塚のことを考えている――それは、事実だ。その事実に今気がつかされただけで。
「…………それは、仕方ねえだろ」
 肩の怪我は。治療はどのくらい進んでいるのか。今も痛むのか。次の試合には間に合うわけがない。青学はどうしているんだ。この先テニスはできるのか。
 日がな一日、考えるのはそんなことばかりだ。
 手塚がどう思っていようと、跡部が怪我のきっかけを作り一因になったのは間違いない。その跡部が手塚のことを心配するのは、なんらおかしなことではないはずだ。
「気にかかることがあるのに、行動に移さんてのは男らしゅうないて言うてるやん。毎日そないに眉間にしわ寄せられてたら敵わんで」
「眉間にしわだと?」
「自覚しとらんのか、跡部。部室になんか来とらんと、はよ見舞いに行きや」
 言いながら自身の眉間を揉む忍足に、跡部の眉根が寄る。それに気がついて舌を打ち、顔を背けた。
 手塚のことを考えている時、いい気分でないのは仕方がないにしても、周りに悟らせたどころか気を遣わせていることを不甲斐なく思った。
 跡部はふうーと盛大にあからさまなため息をつき、ジャケットを脱いでネクタイを緩め、着替えを始めた。それを見て、忍足の方こそあからさまにため息を吐いた。
「ジャージで行ったかて、手塚とテニスはできんで」
「自主トレだ、バァカ。これ以上てめぇのたわごとなんざ聞いていられるか」
 制服の替わりにバサリとジャージの上着を羽織って、跡部は更衣室を後にしようとする。ドアを開ける直前、口許に笑みを浮かべて振り向いた。
「気を遣わせてすまねえな、忍足。今この瞬間からは、そんな気遣いは捨てな」
 体を翻したこの瞬間からは、もう周りに心配をかけるようなことはないと暗に含み、足を前へと踏み出す。それは氷帝のキングとしての一歩だ。
 キングの背に、忍足のため息は届かなかっただろう。
「あの日で氷帝(俺ら)の夏は終わったのに、お前の夏はあの日に始まってもうたんやな、跡部。なんちゅう皮肉や」
 そんな呟きさえも。

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 忘れられない色がある。 十四歳の夏、それを知ってしまった。 それはどこまでも高く突き抜けるような、…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 忘れられない色がある。
 十四歳の夏、それを知ってしまった。

 それはどこまでも高く突き抜けるような、透き通った――青。






 なぜお前が膝をついているんだ。
 跡部景吾は、瞬きをするのも忘れてその男をネット越しに見つめた。
 中学生男子テニス・関東大会。初戦の試合だった。シングルス1、多くの学校が部長を据えるこのゲームは、跡部と手塚の初対決でもあった。
 手塚国光は、青春学園テニス部部長だ。
 国内の中学生プレイヤーならば誰もがその存在を知っていると言っても過言ではない。寡黙ながらも正確で冷静なプレイスタイルには跡部も一目置いていて、戦いたい相手ではあった。当然ながら自分の力を見せつけて圧勝するものとして。
 だがその認識は誤っていた。
 冷静に状況を判断して時には妥協もするだろうと思っていた男は、ただチームを勝利に導くために自分の腕さえ懸けるような、とんでもない男だった。
 分かりやすく弱点を攻める跡部に、『遠慮するな、本気でこい』などと煽るようなことまで言って、実際本気でやらなければこちらがやられると思わせる。『それでも俺が勝つ』とでも言いたげな球筋が腹立たしくて、跡部も全力で返した。
 いつしか、弱点を攻めていたことなど忘れていた。
 手塚が激痛に顔を歪めて肩を押さえ、膝をついた瞬間に沸き上がってきたのは、怒りと焦燥感。
 自分が弱点を攻めていたにもかかわらず、なぜだ、と思った。なぜ今この瞬間なのだと、身勝手にもだ。
 もう少し早ければここまで心技ともに昂ぶっていなかっただろう。もっと遅ければ、必ず自身の勝ちという結末を迎えていたはず。
 そもそも持久戦など受けて立たずに退いていてくれれば、所詮その程度かと嗤わらってやれたのに。
 攻め立てたのは跡部で、選んだのは手塚だ。
 互いの間にあった糸が、ぷつりと切られたような気がした。
 青学のベンチで、他の部員たちに棄権を促されている中、跡部はただコートで待った。
 納得できない。
 ――――こんな形で終われるわけがねえ。俺たちがこんなところで終わっていいはずがないだろう!
 ぐっと強くラケットを握る。燃え上がった心はあの男でなければ鎮められない。
 ――――出てこいよ、手塚。手塚。……――手塚ァ!
 祈り、怒り、信じて待った。こんな終わり方では納得できないのはお互い同じだと根拠なく思って。
 いや、根拠はあった。手塚が打った球のひとつひとつにだ。
 果たして、手塚は部員たちの反対を聞き入れず、親友と生意気な後輩の後押しを受けてコートに戻ってきた。
「待たせたな、跡部。決着をつけようぜ」
 背筋を、何かが駆け抜けていったような気がした。武者震いに似た歓喜。
 やはり同じ気持ちだったと、ラケットを握り直す。
 決着をつけなければ前に進めない。いや前ではない、上だ。お互い部長同士で、チームを率いている以上責任がある。勝って次の試合に進むのは自分たちだと、それぞれ思っていたはずだ。負けるつもりでコートに立つプレイヤーなどいやしない。
 だがこの時ばかりは、個人としての闘志が渦巻いていた。お互いにしか分からない機微だったとしても、それは事実だった。
「なんだ手塚ァ! このサーブは!」
 球を打ち返す。激痛に顔を歪め、肩も充分に上がりきらない相手のボールを、容赦なく打ち返すなんて非情だと責める者もいるだろう。始めのリターンエースを見ていてそれを言うならば、眼科に行けと言ってやりたい。
 そもそも、手を抜くべき場面ではない。それは手塚に礼を欠く。手塚は激痛に耐えてまで、勝つためにコートに戻ってきた。容赦がないのは手塚の方だ。あのボールを受けてみれば分かる。この期に及んで、負けるつもりなど毛頭ないことに。
 手塚の息が上がっている。跡部の息も乱れている。
 どちらも引くということを知らない男だ。その事実を、観戦している誰もが初めて知った。相対しているお互いさえも。
 こんなにがむしゃらで熱いプレイをする男だったなんて。こんなアイツは見たことがない――近しい相手すらそう言うのだ。今までろくに言葉を交わすこともなかった状態では、当人たちだって同じ思いを抱いているだろう。
 自分の中にもこんな必死さがあったのかと、自分自身に驚いてさえいるかもしれない。
 跡部はそれを自覚していた。幼い頃イギリスで同年代の少年たちに負け続けていた時だって、ここまで必死になった覚えはない。
 自分自身の未熟さに腹を立てて技術を磨いたが、あの時とは全然違う。己の内にあるすべてのもので挑まなければならない相手だ。
 間違いなく、この先の人生で無二の試合になる。直感でそう感じた。
 体も、心も、魂も、比べるもののない試合になると分かる。
 だからこそ打ち込む球に最高の力を込める。誰になんとそしられようと構わない。
 この球を受ける相手に――手塚には分かっているはずだ。
 トスを上げる直前に交錯した視線で、手塚がわずかにグリップを握り直したことで、それが自分の独りよがりではないと確信ができた。
 たとえこのタイブレークがどれほど続いたとしても、自分を――そして、手塚がテニスに懸ける想いを裏切ることのないように、すべての力をもってプレイをしよう。
 ――――手塚、ありがとよ。今ここでお前と戦っていなければ、お前が全力で挑んできたりしなければ、俺は俺の進化を自分で止めていた。
 一瞬たりとも気など抜けない。全神経をボールと手塚の動作に集中させているのに、それでも横を抜かれる。仕返しに足元を撃ち抜いてやっても、すぐ次の手に備えなければならない。
 一ポイント取っても、次は取られる。全力で打っているのに、向こうも全力で打ち返してくる。
 だが不思議と腹が立たない。悔しくはあるが、余計に気分が高揚した。魂が吼ほえたような気分を味わう。
 いつしか、審判のカウントの声も聞こえなくなっていた。
 聞こえるのは、コートを踏みしめる音と、強烈なインパクト音。互いの咆哮と、荒れた吐息。それだけだった。
 いつまで続いたっていい。
 日が暮れたって構わない。
 ずっとこうして、球を交わしていたい。
 だが終わりというのはいつかくるもので、ポイントを取るために打った手塚の零式は彼の思惑に反した軌道を描き、跡部のラケットがそのボールを拾い返す。その際に倒れ込んだ跡部の反応が遅れる。
 手塚が打ち返してポイントを取られ、まだタイブレーク状態が続くものと思われた。だが手塚の打った球が跡部のテリトリーにまで届くことはなく、ネットに捕らえられて――落ちた。
 ゲームセット! という審判の声で、周囲の音が戻ってきたように思う。
 ああ終わったのか。終わってしまったのか。
 跡部は立ち上がって、ネット際に歩んできた手塚の顔を見た。相変わらず表情は読みづらく、この勝敗をどう思っているのか分からない。
 跡部はじっと手塚を見据え、彼の背負うものに思いを巡らせた。
 勝ちは、勝ちだ。そして、負けは負けだ。
 だがそれでも、差し出された右手を握り返して、高く掲げてみせる。
 お互いが勝者で、お互いが敗者だと。
 周りが驚いているのが空気で分かる。手塚すら驚いているようなのが手のひらを通して伝わってくる。
 他にどうもできなかったのだと、跡部自身らしくないことを理解していて、長くはそうしていられない。
 ゆっくりと手を放せば、「跡部」と小さく呼ばれる。だが何も聞くつもりはなくて、揃って審判への礼を終わらせ自陣へと戻った。
 ベンチに腰をかけ、息を整える。
 ここまでとは思わなかった。手塚という男が。跡部景吾じぶんという男が。
 満たされた気分だ。そう思う傍から、まだ足りないと思う自分がいる。
 まだ、もっと、高みへ行ける。恐らく同じ思いを抱えている男がいるから。
 だが、と跡部は吐き出した息を飲み込んで止めた。
 ――――次の補欠戦、恐らく負ける。手塚が目をかけている新人だってえんだから、相当な腕の持ち主だろう。日吉まで回ることを想定していなかった俺のミスか。
 日吉も二年の中では優秀なプレイヤーだが、まだメンタル面に未熟なところがある。次代の氷帝を背負うには、ここを乗り越えられるかどうかにかかっている。
 ふと顔を上げると青学ベンチの手塚が目に入った。何をしていやがる、と眉間にしわが寄る。早く病院に行けと叩き出してやりたい。
 ネット際で握手をした時だって、わずかながら左手が震えていただろう。その肩はすぐに治療をしなければいけないのではないのか。周りの連中も、いったい何を悠長に構えているのだ。
「おい、てづ……」
 思わず腰を上げかけた時、気づく。手塚がじっとコートを見据えていることに。
 後輩である越前の試合を、余すところなく見届けなければならないと。その勝利を信じ、熱望して。
 跡部は上げかけた腰を下ろし、ふっと口許を緩めた。
 そうだ、信じて観ないでどうするのだと。これは個人戦ではなく団体戦なのだ。率いているキングが周りを信じなければ、誰もついてこない。
 自分がするべきことはした。自分自身も想定外に熱くなった試合は日吉の闘志を刺激しただろうし、準レギュラーですらない部員たちにも、何か響くものがあったはずだ。そして自分のペースで心技ともに磨いていくきっかけになっただろう。それでいい。後はここでどっしりと構えているべきだ。
 それがキングたりうる者の使命。
 ――――勝ってこい、日吉。今お前の持てるすべてでぶつかってこいよ。
 信じてここで待っている。
 跡部はいつものしたたかな笑みをたたえ、ちらりと手塚を見やった。
 周りを信じられるかどうか――自分たちの勝負はまだ続いている。青学と氷帝の勝負であり、頂点同士の勝負でもある。
 ――――同じなんだろ、手塚。背負うものは俺もお前も変わらねえ。てめぇとの決着は、まだついちゃいねぇぜ!
 どよめきやインパクト音が響く中、跡部はふっと視線を上げて目を細めた。
 まだ昇っていける。あの高みへ。あの瞬間の快感を忘れることなどできやしない。
 ――――ああ、なんて……鮮やかな青をしてやがる。
 夏に向かう色だ。
 日吉の――氷帝の敗北がきまったのは、それからしばらくの後だった。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー

NOVEL,テニプリ,塚跡,永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

(画像省略)2022/04/10【あらすじ】手塚の怪我について負い目を感じている跡部だが、「お前とテ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー

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2022/04/10

【あらすじ】
手塚の怪我について負い目を感じている跡部だが、「お前とテニスがしたい」と言われ自分の中の厄介な想いに気づく。こんな勝手な感情は告げられるわけがないと必死で心を押し殺しながら、好敵手として接していた。けれどそれは、手塚の一言で崩れてしまう――。

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手塚サイド:「情熱のブルー」もあわせてどうぞ。

※作中にリョ桜表現が含まれます。ご注意ください。
#片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

ねこ

マシュー永眠 2022/03/22

日々のつぶやき 2022.03.26

#ねこ

少し落ち着きました。リプやお気遣いありがとうございます。ねこのこと。文字に起こすことで、気持ちを落ち…

日々のつぶやき

マシュー永眠 2022/03/22

少し落ち着きました。リプやお気遣いありがとうございます。
ねこのこと。文字に起こすことで、気持ちを落ち着けたい思いと気持ちを残しておきたい思いで。
3月22日、雪の舞う寒い日。在宅勤務だったのでマシューはいつものように私の膝でくつろいでいました。フォロワーさんにも「ねこのあたま」なんて写真送ったりしてた。
11時半頃、ビヨンとマシューの体が跳ね起きるように伸び上がり、2度程苦しそうな呼吸をしたと思ったら、もう瞳孔が開ききっていた。
突然のことに私はどうしたらいいか分からず、ただ何度もマシューの名を呼ぶ。返事がないどころかもう首がすわってない。カクンと垂れる小さな頭を支えて、「なんで」と震えながら訊ねかけた。当然何も返ってこない。
大好きなクッションに横たわらせて、心音聞いてみるけど、ない。
職場に連絡して午後休暇もらい、まだ温かいマシューをキャリーケースに入れる。こんなにおとなしく入ってくれたの初めてだね。
傘に落ちてくる雪の音を聞きながら家から10分くらいのとこにある病院に駆け込んだ。他のお客さんがいたものの、急患扱いですぐ診察へ。
酸素吸入の処置開始。
……1分程で、「……いいですかね……」と先生に訊ねられ、頷く。手遅れだとは分かっていた。
火葬屋さんを紹介してもらい、家に帰る。
ケースを開けてもマシューは飛び出してこない。
号泣した。
なんで。さっきまで元気だったじゃん。朝だってご飯食べてたのに。膝でゴロゴロしてくれてたよね。急過ぎる。
もういないんだ。まだあったかいのに。
泣いて、泣いて、謝って、亡骸に寄り添う。うまく声も出せない。
ひとしきり泣いて、死後硬直に備えてマシューの体勢を整える。まだまだあったかい。
職場と実家に連絡とTwitter報告して、ご飯を詰め込んで、その後どうしたのかあまり覚えてない。
翌日は出社予定だったが在宅勤務にしてもらい、仕事前に火葬の手続きをした。移動式の火葬業者さん。対応はとても丁寧だった。夜に来てくれるそうだ。
ひとまず午前中だけ仕事して、火葬の準備。
マシューの尻尾の毛をもらい、保管。ふわふわやねん。
自分で作った下手くそな花束と、花屋さんに作ってもらった花束を供える。私のはセンスのかけらもない。ごめんなさい。
ご飯も少しなら一緒に火葬可能とのことだったので、折り紙で箱を作ってカリカリにかつお節かけて入れた。ちゅーる用にもう一つ箱を作っておく。
お手紙も書いた。桜の木の下に猫がいる立体のメッセージカード。
お別れまでに何度もマシューの体をなでる。冷たくなった亡骸に、ようやく実感が湧いてくる。
夜、火葬していただきました。
お骨上げした時、担当さんが「これ爪ですね、こっち指。あとこれが尻尾。牙」と言って渡してくれました。小さい。ピャワイイ……。骨壷とは別途保管。
手作りをモットーにしてらっしゃる業者さんだったので、ものすごく可愛い骨壷にリボンかけてもらって、お礼をして家に入る。
遺影と玩具お供えしてお風呂に。お風呂から上がってももうバスタオルの上に鎮座されてることもないんだな……。

翌日は出社。残業して帰る。幸いにもご飯は食べられる。ただ胃様はすべてを受け入れてはくれない。それなのに体重が変わらないのはなんでだ。

そんなこんなで、なんとか過ごしています。あまりにも寂しくてねこカフェ行ってきた……。

不思議なことがね、2つあるんですよ。
①私肩こりがひどくて、そのせいで頭痛かったんですけど(手帳にアタマイタイって書くくらい)、あの日からその痛みがない。目の疲労も。
マシュー、もしかして持ってってくれた?
②本来なら3月末の某社締切に向けて追い上げの時期。私も出すつもりで書いてはいた。書いてはいたが、ちっとも楽しくなくて筆が進まない。何度書き直しても全然ダメで、「今はこれを書く時じゃないんだ」と思い、別の作品を1から書くためにプロットを考え始める。2月上旬。某社の締切は間に合わないなとここで潔く諦める。
うまく書き進められてたら今は最終的な推敲してる時期。失意の中それができたかというと、絶対に無理。
更に言うと、諦めたのは「猫」をモチーフにしたものだった。終盤で「愛してるから行かないで」なんていうエピソードもあった。

愛してるから行かないで。

私があの子に言いたかった言葉。けど思い返しても言ってない気がする。介護等で長く苦しむことなく私の膝で逝ってくれた子に、いかないでとは言えなかった。

作品を書き上げられていたとしても、出せるものじゃない。
早くに諦めていたのは、幸いだったんだろうか。
虫の知らせというにはあれかもしれないが、おかげで創作のことを考えずにゆっくり過ごしていられる。

ゆっくり、少しずつ、立ち直っていこうと思います。

マシュー、シェルターから引き取って6年と10か月、傍にいてくれてありがとう。虹の橋の向こうで穏やかに過ごしてください。


これは寝てるだけのマシュー🐈️
ねこ


火葬前のマシュー
ねこ畳む

#ねこ

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共犯者たちのランデブー

NOVEL,テニプリ,塚跡 2022.03.04

#両片想い #本誌ネタバレ #新テニ

本誌カラーページまで使うんだよこの人たち……🚁💕ヘリデート💕🚁 手塚は、廊下の壁にもたれて人を待って…

NOVEL,テニプリ,塚跡

共犯者たちのランデブー

本誌カラーページまで使うんだよこの人たち……





 手塚は、廊下の壁にもたれて人を待っていた。少し早く着いてしまったなと携帯端末が表示する時刻を眺める。
 気が急いてしまうのは、自覚している感情のことを思うと仕方がないような気がした。

「よう手塚。待たせたな」
「いや、十分前だ、跡部」

 なんでもないようなフリをして、待ち人にいつもの表情を向けてみる。
 待っていた相手は、跡部景吾だ。
 ほんの少し前までは、対戦校の部長同士。その後は同じ選抜チームで戦う仲間同士。そしてそれぞれの国を背負ってプレイする敵同士。
 さらに手塚にとっては、あの夏の日から特別な人になってしまった相手だ。

 なぜよりによって、と何度も自分自身に呆れたが、相手が跡部景吾では仕方がない。そう諦めることにした。

「言い忘れたが、決勝進出おめでとう」
「ああ、ありがとよ。てめぇと幸村の試合、見事だったぜ」
「お前とももう一度試合してみたかったが、次の公式戦は恐らくお互いプロになってからだな」
 ため息交じりにそう返すと、跡部がわずかに目を瞠ったように感じられた。変なことを言っただろうかと不思議に思い、手塚はじっと見つめることで訊ねかけた。
 言葉にして問いかけようとは思ったけれど、音にするより跡部を見ていたい気持ちが勝る。我ながら重症だと心の中で叱咤するも、視線を逸らすことはしなかった。
「ああそうだな。楽しみにしてるがいいぜ」
 じっと見つめ返してくる跡部の視線で、覚悟のほどが知れる。せり上がってくる歓喜は、やはり上手く表せなかった。

「ところで跡部、本当にやるのか……? この、焼肉バトルとやらを……」
「アーン? 今さら何を言ってんだ手塚ぁ。準備はすっかりできてんだぜ」
 そうか、と諦めて返す。

 手塚が跡部を待っていたのは、試合後に各国代表選手たちを巻き込……集めて行う焼肉バトル……晩餐会……いや、バトル……どちらでもいいが、ともかく以前全国大会準決勝後に行ったような、焼肉を絡めて勝敗を競うというミッションのためだ。

 決してデートの誘いではない。

 それだったらどんなにいいかとは思うが、共犯者として声をかけてくれたことは、嬉しく思っていた。
「まさか本当にやるとはな。俺の自主トレに押しかけてきたのは、よもやこちらの話がメインだったのではないだろうな?」
「ハッハァ! そこを見破るとはさすがだぜ! ……って、冗談だろ。そう怒るなよ」
「怒ってはいない」

 ドイツ対日本戦が始まる前――昨日のことだ。跡部が、ドイツの選手村にまでやってきた。
 対戦国のテリトリーに足を踏み入れる度胸はさすがといったところだが、手塚ゾーンを破り満足げに「明日の試合が楽しみだ」なんて言う彼をどうやって引き留めようか考えていた時、跡部がとんでもないことを告げてきたのだ。

 跡部家がメインスポンサーとなり日本選手たちと焼肉晩餐会を楽しむことになっているが、乗らないかと。
 どうせなら各国代表を集めるかと言い出すまでに、時間はかからなかった。
 そんなに急にできるものかと言ってやりたかったが、彼が跡部であることを考えると、実行できてしまうのが悲しいところだ。

 トントン拍子に焼肉バトルへと発展してしまい、誰が何をどう交渉したのか各国の監督陣から出資もあるらしいなんて話まで出た。
 バトルとなると乾の特製ドリンクが出てくるのだろう。絶対に負けられないし、頭が痛いと思っていたら、「てめぇは俺様の共犯者だぜ」なんて言われ、ヘリで大会運営を見守ることになってしまったのだ。
 乗るか、乗らないか。そう問われたら、乗るに決まっている。ヘリに。
 楽しそうに、嬉しそうに笑う顔に撃ち抜かれただなんてことは、ドイツのチームメイトたちには死んでも言えやしない。

 設備や関係各所への連携確認ということで、バトルが始まる前から手塚は跡部とともにヘリへと乗り込んだ。
 思っていたよりも距離が近い。腕が触れるほどの距離に、どうしようもなく胸が鳴った。
 けれど、この騒音では心音が聞かれることはないだろう。安心して好き勝手に鳴らせることにした。

 陽が落ちる寸前の美しい景色を、こうして隣で眺められる。操縦士がいてはさすがに二人きりとはいかないが、それだけでも充分だった。
「壮観だな」

「そうだろ。この景色を俺様と堪能できるなんざ、贅沢者じゃねーの、手塚ぁ」

 騒がしかった心臓が、止まるかと思った。まさかこの想いに気づいているのではないだろうなと内心焦るけれど、手塚はそれでもなんでもないフリを続ける。
「飛行機からは、眺める余裕がなかった」
「ふ……ん。じゃあせいぜい眺めておくんだな」
 眉をつり上げた跡部が、ふいと顔を背けるのに気がついて、手塚も顔ごと跡部を振り向いた。
 手塚が分かるほどに、跡部は不機嫌そうだ。
 返す言葉を間違えただろうかとじっと眺める。夕陽に照らされる跡部の髪がとても美しくて、視線を釘付けにされた。
「なんだよ?」
「……いや、綺麗だなと思って、眺めていた」
「あ? ああ、海かよ。昼の海もいいが、夕暮れ時ってのも、なかなかイイな」
 跡部の向こう側に、ちょうど海が見える。
 そういうことではないのだがと言いかけて思いとどまった。海ではなく跡部がだなどと言えるわけがない。さらに、緩んだ口許が窓に映って見えて安堵した。機嫌は直ったらしい。

「今度泳ぎに行くかよ?」
「泳ぐより、釣りがしたい」
「釣りか、いいな。まあさすがに大会終わってからだな……」
 予定空けろよと言われて、手塚はぱちぱちと目を瞬いた。
 大会が終われば、跡部は日本に帰るだろう。手塚はドイツへだ。それなのに予定を空けろということは、逢える、のだろうか。
「あ、でも確かドイツって釣りの免許いるんじゃなかったか……? 他の国でするか……」
「跡部、それは、俺とお前でか?」

 二人きり、で。

「…………まさか嫌とは言わねーだろうな。アーン?」

 国を越えてまで、二人で、逢う。これを逢瀬と言わずになんと言えばいいのか。先ほどから跡部が、探るような、煽るような言動をしているのが気にかかる。これはもしかしなくても、気づかれているのではないだろうか。
「…………………………ひとつ訊くが、それは俺がお前に抱いている感情を知っていてのことか?」
 気まずさと、羞恥と、膨れ上がってしまった期待を込めて跡部を見やれば、彼はややあって面白そうに口角を上げた。

「さあな、知らねーよ。知ってほしけりゃとっとと言うがいいぜ」

 指先で顎を持ち上げて挑発される。けれど、確信した。跡部は手塚の中にある想いにとっくに気がついているのだと。
 そして、付け加えるならば。

「お前の球なら、どんなもんだって受け止めてやる」

 キラキラと期待に満ちたその瞳は、跡部も手塚と同じ想いを抱えているのだと。

「どうした手塚、怖じ気づいたかよ」
「そういうお前は、ずいぶん落ち着かないようだな。隠し事とは、共犯者が聞いて呆れるぞ」
「あァ!? ……っと、やべぇ、もう時間じゃねーの。会場の方へ戻るぜ」
 チッと舌を打つ跡部だが、そうしたいのは手塚とて同じこと。せっかくもう少しで跡部がどう想ってくれているか聞けるところだったのに。
 だが、時間に遅れるわけにもいかない。
 遊覧飛行もといテスト飛行を終えて会場へと戻るヘリの中、せめて少しだけでも意思表示をしておこうと、左手で跡部の右手に触れてみる。

 握り返してくれたということは、やはりそういうことなのだろう。
 もしかしたら、長い間ずっと想い合っていたのではないだろうか。

 しかしお互いが負けず嫌いであるせいなのか、「惚れた方の負け」を認めたくないらしい。事実、跡部は手塚にばかり言わせたがっている。

 跡部がそのつもりならば、こちらも受けて立とう。

 手塚は跡部の右手に指を絡め直して強く握った。
「いよいよだな、跡部」
「ああ…ショータイムの始まりだ!」
 砂浜には、このバトルに参加する選手たちが続々と集まってきているのが見える。
 しかし、手塚と跡部もまた、新たな戦いへと身を投じることになるのだった。


畳む


#両片想い #本誌ネタバレ #新テニ