華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.529
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー
「……あァ……?」 今、手塚は。 手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。「なん…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
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「……あァ……?」
今、手塚は。
手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。
「なんて、言った」
「好きだと。恋愛対象としてだ。ずっとお前に惹かれていた。今もだ」
訊ねた跡部に何の躊躇いもなく返してくる。思わず落としそうだったグラスを置き、テーブルに片手をついた。
――――待て。待ちやがれ。幻聴じゃねえらしいが。
目を閉じる。
空いた手を腰に当て、考えた。
――――どういうことだ。夢でも見ているのか。そうでなければ何かの間違いか、酒の勢いだ。冗談にしてはタチが悪い。こっちはせっかく断ち切る覚悟をしたってのに、なんだ、それは。
跡部は下向いていた顔をゆっくりと上げ、手塚を振り向く。腹立たしいほどいつも通りの男がそこにいた。
「お前が、俺を、だぁ?」
「そうだ。混乱するのも無理はないと思うが、すまない、事実だ。だが勘違いをしないでほしい」
「あん?」
「告白をしたからといってお前に何かを望んでいるわけではない。お前にはずっと……ずっと想っている相手がいるのは知っている。それを踏みにじってまでどうこうしようとは思っていない」
跡部はついていた手を上げて体を起こす。
いつも通りの手塚だと思っていたが、とんでもない思い違いだった。
彼らしくなく、饒舌だ。焦りと、どうにもしようがない想いにもがいているように見て取れた。
手塚に向き直った跡部は、手のひらで顔を覆い、じっと手塚を眺める。
嘘を言っているようには見えない。酔っているわけでもないように見える。手塚とは何度も一緒に酒を飲んできた。ほんの少し酔った様だって、見たことがある。
「……本気で言っているのか」
「否定はしないでほしいと言ったはずだが」
「否定じゃねえ、確認だ」
「俺はいつでも本気だっただろう。特にお前にはそうしてきた」
まっすぐ向かってくる視線を、跡部は受け止める。もとより、不器用なこの男が冗談やその場限りの思いを吐露するはずもないと、分かってはいた。
「手塚、お前……それ、いつからだ」
「中学の頃からだが」
返された言葉に、跡部は思わず項垂れて額を押さえた。
なんてことだ。――なんてことだ。そんなにも長い間、自分たちは。
ならばあの時交わした言葉も、視線も、触れた指先も。
「跡部、だが先ほども言ったように、お前に好きな人がいるのは分かっている。ただ俺の気持ちを知っていてほしかった。優勝をしたら好きだと告げて、踏ん切りをつけようと思っていたんだ。できれば今まで通り友人として接してくれるとありがたいが、無理ならそう言ってくれ」
項垂れたことを悪い方に解釈したのか、手塚はそう続けた。
今は考えないようにしている――そう言った時の手塚の気持ちを思うと、胸が締め付けられるようだった。
跡部に好きな相手がいると分かった一年前、もういい加減に自分の気持ちにケリをつけようと思っていたのか。そのためにずっと、勝つことだけを考えてきたのか。絶望するのではなく、告げるための努力をしてきたのだと思うと、苦しさとは別の痛みが胸を襲う。
告げずに断ち切ろうとした跡部と、告げて決着をつけようとした手塚。
この男には、生涯敵うことはないのだろうと思う。そしてその諦念を覆い尽くさんばかりの、愛しさがこみ上げてきた。
「手塚、お前……俺の相手が自分だとは、微塵も思わなかったかよ?」
跡部は顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、じっと手塚を眺めた。
彼は何を言われたのか分からないといったような顔をしている。まるで先ほどの自分を見ているようでおかしかった。
「……どういうことだ」
「どうもこうもねえ。俺が十年片想いしてたのはお前ってことだ、手塚ァ」
手塚がひとつ目を瞬く。突然の告白についていけないようだが、それは跡部も同じだったのだ。同じ困惑を味わいやがれと口の端を上げて、跡部はさらに追い打ちをかけた。
「好きだぜ、手塚。ずっとお前が好きだった」
惚けたような手塚の口許が、左の手のひらで覆われる。それはゆっくりと下を向き、口を覆っていた手のひらは額を押さえるために使われる。恐らく跡部と同じように「なんてことだ」とでも思っているのだろう。
ややあって、手塚は顔を上げた。
「それは本気で言っているのか?」
「俺はいつだって本気だったぜ。特にお前に対しては」
同じ問いかけに同じ答えで返す。もちろん言葉で遊んだだけのつもりはなく、事実としてだ。
「十年と言っていただろう。俺がお前と親しくなる前だと思ったんだ」
「ほぼ十年つったんだよ」
「昨年の時点ではまだ八年だが」
「二年なんざ誤差の範疇じゃねえか! 言っとくけどな、先に惚れたのは俺の方だぜ」
「……聞き捨てならない。俺がお前を好きになったのが先だ」
「張り合うのかよ、そこ」
お互いに負けず嫌いな性分なのは分かるが、それがこんなところでも発揮されるなんて。さらに世間一般では「惚れた方が負け」などという言葉もあるのにだ。
「俺は、あの試合の時からずっとお前を意識していた。九州でリハビリをしている最中にさえ、お前のことで頭がいっぱいになることがあったんだ」
「そりゃあ奇遇なことだ。俺もきっかけはあの日の試合だぜ。お前が戻ってきた時は、本当に嬉しかった」
思い起こされる、あの日々。
手塚の怪我の状態が分からず苦悶し、無事に戻ってきたと思ったら厄介な感情に気がついてしまい、劣情にさえ悩まされた。怪我のことで恨まれるかと思ったのにそれもなく、むしろ距離が近づいてしまって困惑したこともある。手塚をドイツへと送り出して、U―17のW杯を通して新たな決意をし、プロの世界に進んだ。
そんな日々の中でも、生涯――生涯秘めておこうと思った恋心。
それが、こんな形でつながってしまうなんて、思ってもみなかった。
「……」
「……」
言葉が出てこない。どれだけこの心を押し殺してきたと思うのかと、責めたい気持ちにさえなる。それは手塚の方もそうだろう。
何かを言いかけて、音にならずに口を噤む。手塚が何かを言いかけるのが見えて目を瞬いたのに、何も投げかけてこないのがもどかしい。
「跡部……、ひとつ訊くが」
「……なんだよ」
やっと次の音が奏でられ、跡部はようやく息をしたかのように感じた。
「俺は、お前を……だ、抱きしめてもいいのだろうか」
太腿の横でぐっと握られる拳を見て、跡部は目を瞠る。お互いの気持ちが発覚したというのに、今さらそこを訊ねてくるのかと、肩透かしを食らった気分だ。
相変わらず不器用な男だと、お手上げ感がにじむ。
そして同時に、どうしようもない愛しさに駆られた。
跡部は何も言わずにすっと右手を差し出す。『来い』と促すように。
手塚はその手のひらと跡部とを順に見やって、ゆっくりと足を踏み出しながら、左手を上げる。
ゆっくりと、ゆっくりと、距離が縮まっていく。
「……っ」
あと少し埋まらない距離がもどかしくて、じれったくて、跡部は手塚に取られそうだった手で逆に手塚の手を取り、ぐいと強く引いた。
そうしてそのまま、左腕を首に回して抱き寄せる。
「手塚……、手塚っ……」
ずっと触れたかった男の名を呼んで、強く抱きしめる。
抱きしめてもいいのだと思ったら、もう抑えてなどいられなかった。手触りの良いスーツに手を這わせて、背中の広さを味わう。
「…………っ……跡部……!」
詰まったようなリズムで跡部を呼び、手塚もまた両腕で跡部の体を抱きしめてくれた。
薄くはない胸板が合わさる。仕立てのよいスーツが互いの体で擦れて音を立てる。
吐息のように相手の名を呼んで、醒めない現実を噛みしめた。
「てづか……」
「跡部」
こんなに強い力で抱きしめ合うほどに想い合っていたのに、どうして気がつかなかったのだろう。
恐らく二人の間にテニスというスポーツがあったからだ。交わす言葉も、見つめる熱っぽい視線も、すべてがテニスのためだと思うのに充分なほど、打ち込むものがあったからだ。
気がつかなかった。こんなに想われていたなんて。
跡部は手塚の首元で小さく「手塚」と呼ぶ。
手塚は跡部の肩に顔を埋め何度も「跡部」と呼ぶ。
よくこんなにも想う心を抑えていられたものだと、ゆっくり息を吐いた。
髪を撫で、頬のラインをなぞる。どちらからともなく、唇を合わせた。
触れて、離れて、押しつけて、舐める。唇で食はんで、軽く歯を立てて、舌先を触れ合わせる。それがスイッチだったかのように、二人は濃密に舌を絡め合った。
「……っん、んんっ……っ」
「っは、……はぁっ、……ん、う」
湿った音が聞こえる。表と表を合わせ、厚みを確かめるように撫で、吸い上げる。
指先に絡みつく互いの髪の感触。離している数秒さえもったいないと唇に食らいつき、混ざり合った唾液を飲み込む。
跡部は両腕で手塚の背中をかき抱いて、隙間を埋め尽くす。手塚は左腕で跡部の腰をがっちりと抱え込み、右手で柔らかな髪を梳いた。角度を変えて触れ合う唇の間で、ちゅ、ちゅ、と濡れた音が奏でられる。
合わさった胸の鼓動が心地よい反面、ひどく恥ずかしい。
自分だけではないと確かめたくて、跡部は手のひらで手塚の胸を探った。同じ気持ちなのか、手塚の指先は跡部の首筋をなぞり、もどかしげにタイを緩ませている。
「は……っう、ん……んっ」
深いキスを交わしながら、跡部は手塚のベストのボタンに指をかけた。手塚の指先が素のままの鎖骨に触れているのが嬉しくて、秘めていた欲が急激にせり上がってくる。
跡部が手塚のベストをくつろげて背中のシャツを撫でる頃には、手塚は濡れた唇を鎖骨に這わせ、吐息とともに何度も跡部の名を呼ぶようになっていた。
「手塚、待て、……なぁ」
「待つ理由がない……」
恋を告げる前の殊勝な態度はどこへいったのやら。言葉通り待つ気がない唇で首筋をくすぐる男を、跡部はやはり諦念と愛情を混じらせた思いで撫でる。
「んなのはこっちだって同じなんだよ。……手塚、……ベッド、行こうぜ?」
その誘いにようやく顔を上げた手塚の頬を指の背で撫で、鼻先にキスをした。
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