No.528

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永遠のブルー-032-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-032-


 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が下を向いてしまった。
「疲れているところに、すまないな」
「あ? あぁ、違ぇよ、さっきちょっと嫌な感じのジジィ相手にしてたからな。疲労っていえばそうだが、あんなことは慣れっこだぜ」
 嘘ではないが、気分が沈んでいる理由ではない。大仰にため息をつけば、「嫌な感じ」をどう解釈したのか、手塚の眉間にしわが寄った。
「……傍にいれば良かったな」
「慣れてるって言ったろ。お前が傍にいても、ああいうのは変わらねえよ」
「だが、助けることはできるだろう。お前がそうしてくれたように」
 恐らく正しく解釈をしていて、その上でことを大きくするべきではないという跡部の思いも理解し、手を差し伸べようとしてくれる。そんな手塚の気遣いが嬉しくて、跡部は肩に入っていた力を抜いた。
「ありがとよ。次があったらお前を呼ぶぜ」
「ああ、そうしてくれ」
 恋人にはなれずとも、手塚の中に跡部景吾という人間はきちんと存在している。それをこうして示してくれるだけで、幸福だった。
 跡部の部屋がある高層階について、靴音も吸収しそうな絨毯の上を歩く。部屋のロックを解除し、手塚を招き入れた。
「まあ、入れよ」
 セミスイートのゆったりとした居室には、白を基調としたテーブルセットやソファが置かれている。正面の大きな窓からは夜景が一望できた。
「手塚の優勝を祝うには最高の景色じゃねーの」
 両腕を広げてそれを堪能し、跡部は用意させていたシャンパンをクーラーから持ち上げ、ついた雫を拭う。
「跡部」
「大事な話ってんだから、酒は入れたくねえかもしれねえが、祝いの杯くらいは受けてもらうぜ」
 そう言ってグラスにシャンパンを注ぐ。冷えた液体の中で踊る小さな泡粒が、表面ではじけた。手塚は素直にグラスを受け取ってくれて、跡部は正面からじっと見つめて唇を開く。
「改めて、優勝おめでとう、手塚」
「ああ。跡部、お前もベスト8おめでとう」
 ともすれば厭みにもなりかねない言葉だが、跡部もそれは素直に受け取った。
 チン、とグラスがぶつかり合って高い音を立てる。夜景をバックにこんなふうに手塚を祝えるとは思っていなくて、それだけでもう充分だと跡部は目を伏せる。
 手塚がどんな言葉でそれを告げてこようと、いつものように笑って受け入れようと。
「で、相談ってのはなんだ」
 シャンパンで喉を潤して、跡部は何でもないことかのように窓にもたれる。グラスを持ったままの手塚は、やはり緊張しているように見えた。
「……なんだよ、そんなに深刻なことなのか?」
「深刻だな。俺にとってはもちろん、お前にとっても、そうだと思う」
「俺にも? なんでだよ。……もしかして、肩の怪我じゃねえだろうな……?」
 跡部は不思議そうに首を傾げてから、ハッとして体を起こす。
 交際宣言や結婚関連ならば、手塚個人の問題だ。跡部にも関わってくるとなると、それしか考えられなかった。この大会で栄冠を手にするために、また無茶なことをしたんじゃないだろうなと距離を詰める。
「いや、そうではない。肩は大丈夫だ。肘も」
「そ、そうか……悪い、どうしても心配はしちまうんだよ」
 怪我のことで跡部が気を揉むのが、手塚の本意でないことは理解している。だがそれでも気にかけないではいられないのだ。
「お前は、昔から変わらないな。だが、そうやって気にかけてくれるのは、……嬉しいとも思う」
 手塚は持っていたグラスをコトリとテーブルに置く。言いあぐねているような表情に、跡部の心臓が嫌な音を立てた。覚悟はしても、つらい。
「跡部、今から言うことでお前を混乱させると思う。拒絶してくれていい。軽蔑されても構わない。だが、茶化したり……否定したりはしないでもらえないか」
 だが受け止めると決めたのだ。
 跡部は「分かった」と頷き、手塚のまっすぐな視線を見つめ返す。
「俺はお前のことが好きだ、跡部」
 その音に、跡部は耳を疑う。
 何を言われたのか分からず、眉間にしわを寄せてわずかに目を細めた。


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