華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.498
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー
「手塚、九州やて?」 手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。「ああ、そうみたいだな…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
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「手塚、九州やて?」
手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。
「ああ、そうみたいだな」
跡部はそう返すしかできず、ふいと顔を背ける。
「見舞い、行かへんの」
忖度も何もなく無遠慮にそう訊ねてくるのは忍足で、ある程度予測のできたものだった。
「九州までか?」
「跡部なら金の心配はあらへんやろ。自家用ジェットでも使たらすぐなんとちゃう?」
暗に行かないと答えたつもりなのに、懸念事項はないとばかりに続けてくる。
確かに金銭的な問題はない。ヘリでもジェットでもすぐに使える立場にはある。
生徒会やテニス部のことで時間がないと言っても、この男は「跡部がそんなつまらん言い訳するやなんてなあ」と言ってくるに違いない。そして実際、調整できないわけでもない。
「行って何するってんだ、テニスができるわけでもねえのに」
「よう言うわ。朝から晩まで気にしとるくせに。詫び入れたいんやないんか?」
「詫び、ねえ……」
手塚が療養に行ったのは、跡部との試合で痛めた肩の治療のためだ。
罪悪感は、ある。
弱点を攻めて潰しにかかったのは跡部なのだから。だが跡部にとって誤算だったのは、肩に負担がかかっていると理解しつつも手塚が退かなかったことだ。
なにも、本当に再起不能にしようとしたわけではない。選手生命にも関わる部分だ。およそすべてのプレイヤーが、その先を考えて棄権するか、攻め急いで墓穴を掘るかだと思っていた。今まで相手にしてきたどの選手もそうだった。
それなのにあの男は、肩の不調を抑え込んでまで持久戦を挑んできたのだ。
読み切れなかったことで、手塚の肩を破滅させた。
詫び、で済むのかどうか。
もし今後テニスができなくなったりしたら――どうすればいいのか。あれほどの選手を、自分が死なせてしまうのか。
九州には確か、青学大附属の病院があったはずだ。そこに罹っているのだろう。
これが跡部家の息がかかった施設なら最優先にしろと手を回すところだが、……と思いかけて、踏み留まる。
治療を必要としている人はなにも手塚だけではない。それこそ一生をふいにする怪我を負っている患者だっているだろう。それを押し退けて治療を優先させろなどとは、口が裂けても言えやしない。
「手塚がそんなもの受け入れるかどうか……」
口許に苦笑を浮かべて、忍足に答える。望まれるなら詫びでもこの先の生活補償でもするが、手塚はそれを受け入れないだろう。「必要ない」とにべもなく言ってのける姿が、目に浮かぶようだ。
「お前がそないに苦しそうな顔するんやったら、やっぱりあの時止めといたら良かったわ」
けど、とそこでいったん言葉を止める忍足を振り仰ぎ、そこに苦笑する友人を見つけた。
「なんやあの時は、止められへんかった。あないに必死にボール追う跡部やなんて、そうそう見られるもんとちゃうしなあ。手塚に関しての読み違いはあそこにおる全員がそうやったろうけど、跡部も大概やで。観たかったんや、宿敵同士のまたとない試合。止めへんで、堪忍な」
「……宿敵同士?」
跡部は目を丸くする。何の不思議もなく出てきたその単語が、ストンと自分の中に落ちてきて、じわりと体中に染みこんでいく。
「なんでそこで驚くん、自分。変なこと言うたか?」
「い、いや……そうじゃねえが、アイツが俺を宿敵として認識したように見えたってのか?」
確かに跡部は手塚をライバルとして意識していた。だがあの試合まで彼とはろくに言葉を交わしたこともなかったし、手塚が他人をそう意識しているようには見えなかったのだ。
「俺のことはあくまで敵対校の部長だとしか思っていなかったはずだぜ」
「そないなどーでもいい相手とあないにアツい試合繰り広げるんかいな」
「……手塚だからだろ」
「分からんなら、本人に訊いたらええんとちゃう?」
「連絡先を知ってると思うか?」
「せやから見舞い行って直接訊け言うてんねん。自分やったら、宿敵に見舞い来られたら嬉し……いや、ちゃうな、跡部の場合は。発破かけにきたんかってテンション上がって、それまで以上にリハビリ頑張んのやろな」
忍足は、どうしても跡部を見舞いに行かせたいらしい。
一度くらいは顔を出すべきだと思うが、それでテンションが上がる手塚など想像もできない。本当に宿敵と思ってくれているなら悪くない気分だが、当の手塚はそれどころではないだろう。
「男らしゅうないで、跡部」
「アーン?」
「あの試合からずっと手塚のこと考えとるくせに」
男らしくないとは聞き捨てならねぇなと煽るようにすごんでみたが、次に忍足が発した言葉に瞠目し、息を呑んだ。
ずっと手塚のことを考えている――それは、事実だ。その事実に今気がつかされただけで。
「…………それは、仕方ねえだろ」
肩の怪我は。治療はどのくらい進んでいるのか。今も痛むのか。次の試合には間に合うわけがない。青学はどうしているんだ。この先テニスはできるのか。
日がな一日、考えるのはそんなことばかりだ。
手塚がどう思っていようと、跡部が怪我のきっかけを作り一因になったのは間違いない。その跡部が手塚のことを心配するのは、なんらおかしなことではないはずだ。
「気にかかることがあるのに、行動に移さんてのは男らしゅうないて言うてるやん。毎日そないに眉間にしわ寄せられてたら敵わんで」
「眉間にしわだと?」
「自覚しとらんのか、跡部。部室になんか来とらんと、はよ見舞いに行きや」
言いながら自身の眉間を揉む忍足に、跡部の眉根が寄る。それに気がついて舌を打ち、顔を背けた。
手塚のことを考えている時、いい気分でないのは仕方がないにしても、周りに悟らせたどころか気を遣わせていることを不甲斐なく思った。
跡部はふうーと盛大にあからさまなため息をつき、ジャケットを脱いでネクタイを緩め、着替えを始めた。それを見て、忍足の方こそあからさまにため息を吐いた。
「ジャージで行ったかて、手塚とテニスはできんで」
「自主トレだ、バァカ。これ以上てめぇのたわごとなんざ聞いていられるか」
制服の替わりにバサリとジャージの上着を羽織って、跡部は更衣室を後にしようとする。ドアを開ける直前、口許に笑みを浮かべて振り向いた。
「気を遣わせてすまねえな、忍足。今この瞬間からは、そんな気遣いは捨てな」
体を翻したこの瞬間からは、もう周りに心配をかけるようなことはないと暗に含み、足を前へと踏み出す。それは氷帝のキングとしての一歩だ。
キングの背に、忍足のため息は届かなかっただろう。
「あの日で氷帝の夏は終わったのに、お前の夏はあの日に始まってもうたんやな、跡部。なんちゅう皮肉や」
そんな呟きさえも。
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