No.510

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永遠のブルー-014-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 手塚の球速が落ちているような気がする。昨日より、明らかに遅い。そして、弱い。肩に不調があるのかと思…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-014-


 手塚の球速が落ちているような気がする。昨日より、明らかに遅い。そして、弱い。肩に不調があるのかと思っても、口にできない。手塚が言わない以上、肩に問題はないのだ。
 どうしたって対等な間柄にはなれないのだろうか。そう思うと、心臓が痛い。初めから友人として付き合えていれば違ったかもしれないが、今さらどうにもできなかった。
 手塚が打ったサーブをあえて受けず、跡部は腰に手を当てて声を張り上げた。
「止めだ止めだ、手塚ぁ!」
「……なぜだ」
「なぜだも何もあるか。テメェ全然身が入ってねえじゃねーの。そんなヤツと打ったって意味がねえぜ」
 ギッと睨みつければ、向こうからも同じような瞳が返ってくる。
「お前に言われたくない。今日は、逢った時からおかしかった」
「なっ……」
 返す言葉が見つからない。
 やはりあの夢が影響しているのか、忍足たちに言われた言葉が影響しているのか、コート脇で待っている手塚を見つけた時には足が止まってしまった。交わした言葉もぎこちなかったかもしれない。
 今さら後悔しても遅いが、まさか手塚に指摘されるとは思っていなかった。
「俺様のことはどうでもいいんだよ! テメェそんな調子で明日からの全国は大丈夫なんだろうなぁ!」
「問題はない。俺自身はな」
「あ? ……なんだよ、青学のヤツらに何かあったのかよ。おい手塚」
 問いかけに答えずに、手塚はベンチに向かってしまう。ラリーを続ける気はないようで、タオルで汗を拭った後に腰を下ろしてしまった。跡部は少し怪訝に思いながらも、それを追ってベンチへと向かった。
「大石が……試合に出られない」
「怪我か? そういや関東大会も……ウチ相手に急造コンビでやりやがってくれたな」
 ややあって、手塚がこくりと頷く。抽選会で見かけた時はそんな様子ではなかったが、中学最後の夏の大会を蹴るとなると、相当の怪我なのだろう。足か、手か。背中でもまずい。
「そりゃ……悔しいだろうな。練習中に痛めたのかよ?」
「いや、子供が生まれそうな妊婦さんを助けた時にらしい。手首では、致命的だ」
「なんだそりゃ。大石らしいといえばらしいのか。だがな手塚。そんな情報を俺様に教えちまっていいのか? 黄金ゴールデンペアのオーダーはないってことだろうが。テメェに部長っていう自覚はあんのかよ」
 隣に腰をかけ、滝に言われた言葉を手塚に向けても言ってやる。
 大石は大事な戦力だっただろうに、それが出場できないという痛手を伝えてしまっている状態だ。ダブルスをどう組んでくるのか分からないが、それを加味する時間を与えている。
「どうせすぐに知れ渡るだろう。それに跡部のところと当たるのは、順当に行けば日程的には明後日だ。対策はできる」
「……ああ、偵察か。氷帝はセキュリティ的に無理だが、そっちは入り込み放題だろうしな……」
 ドキ、と胸が鳴った。手塚の中で氷帝と当たるのは決定事項のようで、その上『跡部のところ』というのがどうしようもなく嬉しい。跡部が氷帝を率いるキングであることを、認識してくれているのだ。
「大石が納得している以上どうしようもないんだが、やはりベストメンバーで臨めないのは悔しいな。俺などより、ダブルスを組んでいた菊丸の方が無念さや憤りは大きいだろうが……もしかしたらそれが、先ほどのプレイに現れていたかもしれない。すまなかった」
「いや……いいさ。それだけテメェには重要なことなんだろ。メンバーを大事にしてる証拠じゃねーの」
 手塚の瞳が瞬かれる。すいと正面に顔を戻して、こくりと頷いた。それは先ほど跡部が言った『部長としての自覚はあるのか』という問いかけに答えているような気もして、跡部はその横顔を眺めて目を細めた。
 テニスに対する真摯な思いには、素直に敬意を表したい。揶揄を含んだ問いかけにすら真面目に答えてくれる手塚に、胸がトクンと音を立てる。
 ややあって、跡部は、諦めることにした。
 ――――もういい、認めてやるぜ。どうやら俺は、テメェのことが好きらしい。
 横顔が眩しい。膝の上で握った拳が輝いているようにも見える。プレイにも現れてしまうほど気にかけられる大石を、羨ましく思ってしまった。
 トクントクンと小気味よいリズムを刻んでいた胸が、ズキンズキンと痛み出す。
 後ろめたくてしょうがない。
 ライバルという関係でいたかったのに、自分だけ不埒な想いを抱えてしまった。しかもどうやら抱かれたい側らしいと破廉恥な夢を思い出して、頭を抱える。
「どうした、跡部」
「いや、なんでもねえよ……」
 どこか潔癖に見えるこの男に対して、そんな劣情を抱くようになるなんて、誰が想像しただろう。斜め上過ぎて、誰にも言えやしない。もちろん、本人にもだ。
 これが女性相手で、ゆっくりと愛を育んでいけるような状況ならば、男らしく即座に恋を告げていただろう。 
 だが、手塚は駄目だ。何をどうしたって、叶うはずがない。
 男で、テニスのことしか考えていないライバルなんて、初めての恋にしてはハードルが高すぎる。いっそ棒高跳びではないかと言いたいくらいだ。
 手塚の方にしても、同性にこんな想いを抱かれているなんて気持ちが悪いだろう。自分だったらごめんである。
 同性愛というものに偏見はないとは言うが、それは自分の身に降りかかってこないからだ。拒絶されるのが目に見えている。何より、手塚にこんなことで煩わしい思いをさせたくない。恐らくプロへの道を見据えているのだろうし、色恋沙汰は面倒だろう。
 それくらいならば、生涯の好敵手としてやり過ごしてみせる。
 跡部はゆっくりと息を吐き、同じ量だけ吸い込んだ。
「なかなか上手くいかねえもんだよなぁ、手塚ぁ」
「そうだな。だが、上手くいきすぎてしまったら、それは自身の成長を止めることになってしまうだろう。俺は……青学オレたちは、必ず乗り越えてみせる」
「同感だが、勝利をいただくのは俺が率いる氷帝だぜ」
「いや、負けるわけにはいかない」
「ククッ、負けず嫌いなライバルを持って嬉しいぜ。俺様の進化の糧にしてやるよ」
 む、と眉を寄せた手塚に笑って、跡部は腰を上げる。ぐっとラケットを握りしめ、手塚を振り向いた。
「手塚、もう一ゲーム付き合いな。俺様も気合いを入れ直すぜ」
「ああ、俺から言おうと思っていたところだ、跡部」
 手塚も立ち上がり、強い瞳で見返してくる。お前のサービスからでと放ったボールをパシリと受け止められて、充足感がせり上がってくる。 
 自分たちはこれでいいはずだと、跡部はコートに入る。
 気づいてしまった恋情は、生涯この胸に秘めておこう。そう決意して、手塚のボールをリターンエースで返してやった。


#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー