華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.509
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー
トークアプリの画面を眺めながら、眉間にしわを寄せる。『今日は都合が悪くなった』とメッセージを打って…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
favorite いいね ありがとうございます! 2022.04.10 No.509
ありがとうございます!
次のページ >> / / << 前のページ
初期表示に戻る
トークアプリの画面を眺めながら、眉間にしわを寄せる。『今日は都合が悪くなった』とメッセージを打って、送る前に消して、打ち直して、再び削除する。それを何度繰り返しただろうか。
別に予定が入ったわけでもないのに、嘘を吐くことになってしまう。今は顔を見たくないからという理由でだ。
他にも『明日から大会が始まるのに、敵校の部長と逢ってなんかいられるか』『お互い気まずい』『部員もいい顔をしないだろう』という理由は付けられただろうが、いちばんの理由は、朝見た夢のせいで跡部だけが気まずいということだ。
いくら押し込めてカギをかけていようとも、記憶は消えていってくれない。夢の中で手塚に抱かれたという非現実的な記憶は。
こんな状態で顔など見たりしたら、どうなるか分からないのだ。
手塚には何の非もないのに、八つ当たりしてしまうかもしれない。そんな荒れたテニスを手塚としたくない。
彼とのテニスは純粋かつ強欲であるべきで、個人の事情や感情に流されたくはなかった。
だけど、逢いたくないと思う傍らで、逢いたいと思う自分がいる。
複数の部員たち相手にボールを打つだけではやはり物足りないし、約束は約束だ。反故にはしたくない。ポリシーにも反するという矜持が、アプリの画面を閉じさせた。
「跡部、今日もため息が多いで」
忍足にそう指摘され、振り向く。自覚はなかったけれど、どうやらここ数日ため息が多いらしい。
「頻繁にスマホ見てるのも珍しいな。誰かとデートの約束?」
ずいぶんと余裕だねと、滝も着替えながらそう訊ねてくる。どこか確信めいた様子でだ。年頃の男子がスマホの、しかもトークアプリを眺めているとなれば、そう連想するのもおかしなことではないのかもしれないが、正直その類いの連想は今はありがたくない。
「なんでそうなる」
「今日は何となく大人びた顔っていうか、何て言うんだろう、ねえ忍足」
「俺に振らんといてや、滝。まあ分かるけどなぁ……なんやフェロモンみたいなんまき散らしとるで、跡部」
「……いつもと変わらねえ気がするが?」
「全然ちゃうわ、自覚せえよ」
「他の部活に来てる女の子たちが、一様に顔を真っ赤に染めてコート脇を駆け抜けていくんだよね。今までそんなことなかったじゃない」
肩を竦める二人に、今日そんな光景があったのかと首を傾げる。それも以前からあった光景のような気がするが、確かに珍しい。
跡部が、応援してくれているらしい女生徒に視線のひとつも投げかけてやれなかったことは。
それだけ集中できていたのだろうと思うが、悪いことをしたなとも思ってしまう。
「テメェらがどう思おうが知ったこっちゃねえが、俺様は今テニスのことしか頭にねえんだよ。今日もな、……あ」
ピロンと音がして、端末がメッセージの受信を報せてくれる。通知からアプリを開き直すと、『今から向かう』と至極簡潔な言葉が表示された。相手は、手塚だ。青学も今日の練習が終わったらしい。
「見てみろ、相手は手塚だ。アイツ相手に、そんな色っぽい話になるわけねーだろ」
ぽんと端末を忍足に投げてやる。何もやましいことはないと示すためにだ。しかしそれは色恋方面にやましいことはないという意味にしかならず、滝と忍足の怒気をはらんだ声が重なった。
「は? 手塚?」
「待って、なんでそうなるの」
「何考えてんのや跡部、明日から全国大会やで」
「よりにもよって、対戦するだろう相手校の部長と今日もテニス? え、昨日もじゃなかった? もしかして君たち、手塚が戻ってきてからずっとやってるの?」
やはりいい顔はされないなと、跡部は片眉を上げる。自分自身、部員の誰かが対戦校の連中と今の時期につるんでいたら注意くらいはしたかもしれない。血縁関係は置いておいてだ。
だが今、部長自らその暗黙のルールを破っていることになる。忍足たちの疑問も懸念も、充分に理解できた。
「青学の連中は知って……るわけないだろうね。知ってたら止めるよ。あえて言うけど、君たち部長の自覚はあるのかな?」
「アイツの怪我のこと負い目に思ってんのやろうけど、せやったら余計に肩酷使させん方がええんやないか?」
忍足の言葉に、跡部はわずかに目を瞠る。負い目に感じているのは事実だ。ぎゅうと心臓が締めつけられたような気がした。
「テメェらが言いたいことは分かるぜ。だが……悪いな、約束なんだ」
忍足に放った端末をすいと取り上げて、無理に口の端を上げる。そうしてラケットバッグを担ぐ。あまり手塚を待たせたくない。
そう感じる気持ちが、どこから来るのか――認識したくはなかった。
「ちょっ……待ちや跡部っ……」
「え……ねえ、ど、どうしたらいいんだろう忍足……」
「知らんわ、どうにもできんやろ、こんなん……!」
困惑したような彼らの声を、閉めたドアの向こうで聞いて、跡部は足を踏み出した。
#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー