No.501

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永遠のブルー-005-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 神奈川県、立海大附属中学の旧校舎に、跡部はいた。今日は全国大会トーナメント戦の組み合わせ抽選会だ。…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-005-


 神奈川県、立海大附属中学の旧校舎に、跡部はいた。今日は全国大会トーナメント戦の組み合わせ抽選会だ。そこに、樺地を連れて氷帝学園テニス部部長として出席している。
 会場を見渡せば、ジュニア選抜などで見知った顔がちらほら。どこの地区もさすがに強豪揃いだなと腕を組む。
 ――――青学は……大石か。
 それでも、跡部がいちばん望んでいた顔はここにはない。
 間に合わなかったのかと眉を寄せて目を細め、唇を引き結んだ。
 手塚のリハビリが順調ならば、本来は彼がいるべき場所だ。部長代理として大石が来ているのは、つまりそういうことである。
 手塚を欠いた状態で関東大会を制した青学は、純粋に称賛したい。立海すら押し退けるとは思わなかったが、個々のモチベーションを保つのも大変だったのではないだろうか。
 いや、絶対に手塚を全国に連れていくという一つの意志が作用したのかもしれない。
 だがここから先は、気持ち一つでどうにかなるものではない。
 部を率いる将がいるのといないのとでは、大きな違いがある。精神的な支えとしてだ。
 ――――手塚、大会の途中からでも出られねえのか? そんなに……肩の調子、良くねえのか。
 結局、手塚がリハビリをしている九州には一度も飛べなかった。逢いたい思いはあったが、合わせられる顔がない。今どんな状態でいるのかも分からない。
 調べようか? と滝が声をかけてきたことはあったが、断った。そんなことをしている暇があるなら正レギュラーに戻ってこられるように精進しろと。
 だが、いつまでも部員たちに気を遣わせているわけにもいかない。事実、今も隣で樺地が心配そうな瞳で見つめてきている。
 この抽選会が終わったら、一度九州へ向かってみよう。万が一手塚と話すことができたなら、さっさと治してこねえと氷帝が全国をもらうぜと発破をかけてでもやろう。そろそろこちらも腹をくくらなければいけない。
 進行係から、青学を呼ぶ声がする。よほど緊張しているのか、大石の耳には入っていないようだった。
「青学、東京都青春学園代表、いませんか!?」
「えっ、あ、は、はい! います!」
 もう一度呼ばれて、ハッとした大石が顔を赤くやら青くやらしながら席を立つ。周りからは「緊張してやがるぜ」などと囃し立てる声が飛んだ。
 抽選会からあの調子でどうするんだと、見ているこちらの方が不安を覚えてしまう。大石に部を任せていて大丈夫なのか? と眉間にしわが寄った。青学には何としても勝ち進んでもらわないといけないというのに。
 もし手塚が間に合った時、戦う場所が在るように。
 そしてできれば、もう一度相見えたい。個人としては戦えずとも、互いに高みを目指す場所にいたい。
 その場所を潰してくれるなよと、責めるようにも、祈るようにも大石の動向を見守る。――はずだった。
「大石、それは俺に引かせてくれないか」
 壇上へと向かいかける大石に、一つの声がかかる。
 その声に会場の誰もが目を瞠った。無論、跡部もだ。
 光の矢が己を貫いたような衝撃を覚え、声がした方を振り向けば、青学のジャージに身を包んだ――手塚国光がいた。
「……てづ、か……」
 思わず、小さくその名を呟く。
 会場のどよめきも、安堵と歓喜にまみれた大石の声も、跡部の耳には入らない。すうっと、凍り付いていた体が溶けていくような、妙な感覚を味わう。
 ――――手塚、間に合ったのか。
 彼はいつもと変わらない様子でそこにいる。ふてぶてしささえ感じるほどの仏頂面で、無意識に周りを圧倒させるオーラを放ちながら。
 ああ、……と、跡部はゆっくり息を吐き出す。それは間違いなく安堵で、自身もそう自覚していた。
 ここにいるということは、少なくともテニスができる状態なのだ。良かったと、素直にそう思う。手塚ほどのプレイヤーを失わなくて本当に良かった。
 そんな跡部に、ようやく会場内のざわめきが聞こえてくる。
 あれが手塚か、プロも注目しているらしいぞ、だが怪我をしているんじゃなかったか、と。そんな中、何も気に留めない様子で手塚は壇上へと向かっていく。
「フン、手塚がなんぼのもんじゃい。ワシのスーパーテニスで――」
「やめとけ。テメェじゃ十五分ももたねえぜ」
 身の程を知らないというのは哀れだなと、跡部は笑いながら諌める。同意を求めた樺地も、あまり間を置かずに「ウス」と返してきた。
 性懲りもなく手塚の足を引っかけて恥をかかせてやろうとした輩がいたようだが、かわしたどころか「ずいぶん長い脚だな」と狙ってか無意識にか煽るような台詞を吐く手塚に、跡部は肩を震わせて笑った。
 元気そうで何よりだと、壇上に上がった手塚を見やる。
 ここに来るまでどれだけか辛酸を舐めたかもしれない。リハビリで心が折れかけたかもしれない。それでも手塚は戻ってきた。
 また戦える。まだ高みを目指せる。
 そうだ、あの男の諦めが悪いのは、跡部だってよく知っていたはずではないか。
 気分が高揚してくる。テニスがしたくてウズウズしてくる。抽選会が終わったら即練習に向かいたい。
 いや、その前にやるべきことがあった。
 壇上から降りて大石のところへ向かう手塚を見やる。次いで組み合わせ表に視線を移し、青学とは準々決勝で当たることを確認した。
 もう一度シングルス1で対決することになるだろうか。再び手塚を振り向いて思案するが、やがて跡部は苦笑した。それは少しばかり難しいかもしれないと。
 あの男はふてぶてしくも氷帝に勝つためのオーダーを組んでくるはずだ。自身がシングルス1であることにこだわらずにだ。
 それならば、こちらも絶対に勝つためのオーダーを組むだけである。跡部は隣に座る幼なじみをちらりと見やって、あらゆるパターンをシミュレートした。
 何にしろ、まずはけじめをつけなければならない。
「樺地、今日は先に帰っていいぜ」
「……跡部、さん」
 抽選会が終わって、各校の代表たちは会場を後にしていく。そう言って腰を上げた跡部を、幼なじみである樺地が心配そうに見つめてくる。この後、何をしようとしているのか分かっているのだろう。
「心配すんな。なにもケンカふっかけに行くわけじゃねえ」
 ぽんと肩を叩いて笑ってやれば、樺地はこくりと頷いて会場を後にしていく。それでも心配そうに何度か振り向いてきたのは、しょうがないことだっただろうか。
 跡部は息を吐き、廊下の壁にもたれる。
 大石と何事か話し込んでいた手塚も、そろそろ出てくる頃かと、手持ち無沙汰な両手をポケットに突っ込んだ。
 手塚が会場に入ってきて今この時点まで、視線は少しも重なっていない。あの試合の時は、世界で二人だけしかいないかのように視線で会話をしたというのにだ。
 やはり良い感情は持たれていないのだなと俯く。
 この期に及んで浅はかな期待をしても仕方ないなと、跡部はゆっくりと息を吐いて顔を上げる。
 手塚はちょうど上機嫌の大石と出てくるところだった。跡部は壁にもたれていた体をゆっくりと起こす。
「手塚」
 声をかければ、二人が足を止めて見やってきた。あの日以来の視線の交錯に、どうしてか跡部の胸が跳ねる。
「話がある。少し、いいか」
 手塚は相変わらず表情を崩さないで、じっと見据えてくる。
 その唇から拒絶が飛び出してくるかもしれないと思うと、らしくなく足が竦むような気分だ。
「ああ、構わない」
 え、と驚愕が小さな音になる。持ちかけておいてなんだが、こうもすんなり受けてくれるとは思っていなかった。
「大石、すまないが竜崎先生への報告を任せてもいいだろうか」
「え、あ、ああ……いいけど、……大丈夫かい? 手塚」
 大石の不安そうな視線が向かってくる。彼の懸念の方が、まだ理解ができた。
 怪我の原因を作った相手と二人になって言い争いになったりしないだろうか――手塚が誰かと言い争う場面など想像できないが、一歩間違えば選手生命が絶たれていたのだ。心穏やかに話せるわけがないだろう。
「心配は無用だ」
「分かった。何かあったら連絡してくれよ」
 こくりと頷いた手塚にどれだけか安心しつつも、大石は心配そうに何度か振り返りながら跡部を通り過ぎていった。


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