No.525

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永遠のブルー-029-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 ウィンブルドン、準々決勝。跡部はネットの向こうの対戦相手をじっと見据え、口の端を上げた。 ――――…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-029-


 ウィンブルドン、準々決勝。跡部はネットの向こうの対戦相手をじっと見据え、口の端を上げた。
 ――――奇しくも準々決勝、ってか。
 対戦相手は、手塚国光。
 トーナメント表が発表された際、彼と準々決勝で当たると知って、どこか運命めいたものを感じた。
 中学三年の夏、全国大会準々決勝。個人として相対することはなかったが、チームを率いる部長同士、勝つための想いが交錯した。
 今回も、勝つためだ。
 チームを率いてこそいないものの、国やファンの熱意を背負って向かい合っている。あの頃とは髪型も変わったが、向かってくる情熱は変わらない。向ける情熱は変わらない。
 ぞくぞくとせり上がってくる興奮。こんな幸福があっていいのかとさえ思った。
 プレイヤーとして、一人の人間として、惚れた相手と世界の舞台で戦える。今持てるすべてをかけて、このボールを打とう。たとえあの時のように、どれだけ長いゲームになったとしても。
「手加減はしねーぜ、手塚」
「加減などしてもらっては困る。本気のお前でなければ意味がない」
「上等じゃねーの!」
 サービスは跡部から。めいっぱいの力を込めて打ち込んだボールは、やはり返される。ぞくりと、悪寒にも似た歓喜が体中を駆け巡る。
 これだ。この感覚だ。この男とでなければ味わえない――快感。
 観客席のどよめき。審判のコール。足元を撃ち抜くボールの音。ネット際に詰めた時の呼吸。そのすべてが跡部の全身をわななかせる。
 球を打つ。返される。受け止める。重い打球を、手塚のコートに向かって返す時の高揚感といったらない。とても言葉にはできそうになくて、ただ返す一球一球に想いを込めた。
 このボールを返せるのは自分だけだ。この球を打ち返してくるのは手塚だけだ。
 テニスが好きだ。手塚国光が好きだ。
 ボールを打つたび、想いが募っていく。こんな大舞台で惚れた相手とテニスができる。
 ――――そんな幸運味わえるのは、世界でたった一人、この俺だけだろうぜ。なぁ手塚。
 歓声も、コールも、何も聞こえない。
 鼓動と重なる、心地よいインパクト音。隙をつこうとじっと見つめてくる熱い瞳。跡部もそれを見つめ返して、ラケットを振るう。
 観客たちが固唾を呑んで見守る中、やがて勝敗は決した。
「ゲームアンドマッチ! ウォンバイ――手塚!」
 大きな歓声が沸き上がる。跡部は「ああ……」と息を吐きながら青い青い空を仰いだ。
 流れる汗が、ドクドクと打つ脈が、そよぐ風が、心地よい。
 ――――満足だ。
 勝つために臨んだ試合だが、悔いはない。
 跡部はネット際へ歩み、手を差し出した。
「コングラッチュレーション。やっぱり強ぇな、てめぇは」
「ああ、ありがとう。……良い試合ができて嬉しい」
 そう返してくれた手塚も、清々しい顔をしている。跡部はそれが心の底から嬉しくて、破顔した。
 そうして、握手を交わした手を高く掲げる。あの日と同じように。
「次も、勝てよ、手塚」
 あの日交わせなかった言葉を投げかけて、正面から彼を見つめる。ぐっと握り返してくれたのは、気のせいではなかっただろう。
「跡部。このウィンブルドンで俺は必ず優勝カップを手にする。そうしたら、少し時間をもらえないか」
 応援してくれたファンへ手を振って応えながらベンチに向かうと、珍しく手塚の方から声をかけてくる。手塚が宣言するのはこれで二度目だ。相変わらず強気だなと思いつつも、ぱちぱちと目を瞬いた。
「ああ、それは構わねえけど……どうした?」
「いや、少し……相談したいことがある」
 若干泳いだ視線が、正面へと向かってくる。
 手塚がわざわざ告げてくるということは、よほど重要なことなのだろう。
 次の大会のことか、それとも出資関連のことか。怪我……ではないと思いたい。何にしろ、手塚に頼ってもらえるのは嬉しい。力になれるのなら、何だってしてやると背中をポンポン叩いた。
「いいぜ。お前のためなら、いつだって時間空ける」
「……助かる。ありがとう」
 ホッとしたような表情に変わる手塚に、胸がきゅんと締めつけられる。
 跡部自身のウィンブルドンは終わってしまったし、これ以降は手塚の応援に専念しようと足を踏み出した。中学時代から何度か味わってきた敗北だったが、今日ほど充実した敗北はない。
 二人は青い空を背に、コートを後にした。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー