華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.523
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー
「あの、ちなみにお相手はどんな方なんですか? 跡部選手をそこまで虜にする人物とはいったい……!」 そ…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
favorite いいね ありがとうございます! 2022.04.10 No.523
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「あの、ちなみにお相手はどんな方なんですか? 跡部選手をそこまで虜にする人物とはいったい……!」
そこまで突っ込んでくるかと舌を打ちたい気分だが、元々「タイプの女性」とやらを訊ねる質問だったのだ。
「どんな……」
それこそ適当に答えておけばいいものを、どうしても手塚しか浮かんでこないことに頬が赤らむ。
「うわ、跡部さんが赤くなったのなんて初めて見たッス……」
「うるせえぞ越前っ……。いや、そうですね……。俺にとっては誰よりも美しくて、強い人……だと思います。すみません、これくらいで勘弁してくれませんかね」
「じっ、充分です、ありがとうございます!」
赤い頬を隠すために顔を覆い、俯く。みっともないと思いつつ、当人を隣にした状態でこんなことを言うのはとてつもなく恥ずかしいのだ。
言えるような気持ちならば、越前のように堂々と宣言してみせるものを。そう考えると、越前が羨ましく思えて仕方がなかった。
「……なぜ、想いを告げないんだ? 跡部。お前ほどの男ならば、好きだと言われて相手も悪い気はしないだろう」
その時、まさにその男から声をかけられる。心臓を撃ち抜かれた気分だった。
跡部自身に向けられたものではないのに、『好きだ』という音を手塚の声で奏でられ、体中の血が沸騰しそうだ。いつだかも経験したのを思い出して、顔の熱が上がったのが分かる。
跡部は項垂れてゆっくりと深呼吸をし、恨みがましく手塚を振り仰ぐ。
「そう思わねえ人間だっているだろうが」
「言ってみなければ分からないだろう。お前らしくないな」
「他人事だと思って勝手なこと言ってんじゃねーぞ手塚ァ」
いつものごとく、まっすぐすぎる瞳を睨み返す。
彼にとっては他人事でしかないだろうが、跡部の中で手塚は当事者だというのに、無責任なことを言わないでほしい。
そんなことを言うのなら、いっそ告げてやろうかとさえ考えてしまった。
「部長、跡部さんイジメるのはそのくらいにしといた方がいいんじゃないスか」
それでも越前の声にハッとして、危うい思考を奥底に閉じ込める。生涯告げずに生きていくと決めたではないかと、跡部は己を叱咤した。
「別に悪意があったわけではない。それに……その想いを塗り替えるような相手と言っていたが、替える必要はないだろう」
「あぁ?」
「跡部がその人を想っている事実は変えようがないのだろう? ならばその上で、他にも目を向けたらいいと言っているんだ」
「精神的に二股じゃねーの」
「その想いごと受け入れてくれる相手が見つかるといいな」
「ああはいはい、ありがとよ」
他に目を向けようと思っても、今想っている相手が強烈過ぎて霞んでしまうんだがなどとは、口にできない。
一応は跡部の幸福を祈ってくれているようだと分かっただけで、よしとしよう。
「っていうかそういうテメェはどうなんだよ手塚ァ。浮いた噂のひとつもねぇじゃねーか」
人のことをおちょくり回して自分は知りませんでは筋が通らないと、記者が訊きたそうにしている空気を察して振ってみる。
まさか跡部から振られるとは思っていなかったのか、手塚がわずかに目を瞠った。ややあってそれはいつもの切れ長に戻り、低い声が返ってくる。
「今は――そういうことは考えないようにしている。テニスのことだけ考えていたい」
「手塚選手は本当にストイックというか……それがたまらないという女性ファンが、多くいるんですよね」
「コイツ中学の頃からまったく変わってないんですよね。同じこと言ってやがる」
そう茶化しながらも、跡部はどこかでホッとしてしまう。
あの頃とまったく変わらない情熱は、今もテニスだけに向かっているらしい。
「タイプだけでも教えていただけませんか?」
「…………何事にも一生懸命な人には、惹かれます」
手塚らしい答えだと口許が緩む。自分自身も一生懸命な彼だ、隣に立つのは同じく前に突き進む芯の通った女性に違いない。
しばらくその光景は見ないで済みそうだと安堵する反面、早いところ身を固めてほしいとも思う。
彼が身を固めたところでこの想いは消えていかないだろうが、言われたように他に目を向けることもできるかもしれない。
「ありがとうございました、雑誌ができたらお送りします」
インタビューが終わり、記者たちが帰っていく。ドッと疲れが襲ってきて、大きく息を吐いた。跡部個人としてのハプニングのせいで、いつもより長い時間に感じられた。
「試合してる方がいくらか楽だな……」
「それは同意する」
「お前らこの後空いてんのか? 何か食いに行くかよ」
「いいッスね。部長も行くでしょ?」
いや俺は……と言いかけた手塚の腕を、越前が引っ張る。
「先に下行ってるんで。俺、和食が食いたいッス」
「ああ、いいな。手塚も和食の方がいいだろ。寿司が美味いところ連れてってやる」
「…………悪くないな」
空いた手でガッツポーズする越前と、眼鏡を押し上げる手塚。
揃って応接室を出ていく彼らを微笑ましく見送って、メールのチェックだけ済ませてエレベーターへと向かった。
「跡部さんに、あんなベタ惚れの人がいるとは思わなかった。十年て、長いッスね」
エントランスに着くと、モンステラの陰で言葉を交わす越前と手塚がいた。話題はまさかの跡部のことで、出ていきづらい。
ほぼ十年。手塚国光という男に惹かれて、もうそんなに年月が経ったのかと思うと、感慨深いものはある。
言葉にすれば確かに長いが、その年月の中でこの恋情は日常に溶け込んでしまっていた。特別な想いではあるけれど、何も記念日のように指折り数えることもない。
「ずっと想っているというのは驚いたな。だが、情熱的で跡部らしいとも思う」
「あの人って見た目がああだから、女遊びとか慣れてそうなのにね。あれで純情一直線とか、ギャップがすごい。……部長なら分かるッスけど」
「越前」
「心配しなくても、言ったりしないッスよ。応援くらいならいいでしょ」
諌めるような手塚の声に、越前が肩を竦めたところで、「待たせたな」と声をかける。わずかに手塚の肩が揺れたように見えたのは、気のせいだろうか。
「跡部さん、腹減った」
「おう、じゃあ行くか。越前、お前もう酒飲めるよな?」
「年齢的にはね。ただ、あんまり飲んだことない」
「それなら祝杯といこうじゃねーの。なあ手塚、少しくらいいいだろ」
「……まあ、少しならな」
どうにも越前の保護者気分が抜けていない手塚を振り向いて、了承を得る。三人ともが体資本のプレイヤーだ、無茶な飲酒をするつもりは毛頭ない。ただ少し、あの頃に戻ったような気分を楽しみたいだけだ。
跡部はパチーンと指を鳴らして、運転手にドアを開けさせた。
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