No.503

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永遠のブルー-007-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

「俺も、楽しみにしてるぜ、手塚」 そう返すと、手塚はこくりと頷く。そうして、携帯端末を見下ろしたまま…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-007-

「俺も、楽しみにしてるぜ、手塚」
 そう返すと、手塚はこくりと頷く。そうして、携帯端末を見下ろしたまま動かなくなった。何かを言いあぐねている様子が気にかかり、「手塚?」と呼んでみる。
「さっき……力になれることがあるならと言ったな。何でもいいのか?」
「あ? ああ、こっちでのリハビリ施設でも見繕ってやるか? それともジムの方がいいか。体力もちょっと落ちてんだろ。英気を養いたいってんなら、俺が最高のプランを考えてやろうじゃねーの」
 手塚が望むならば、何だって叶えてみせる。関係がない、責任などないと蚊帳の外に置かれるよりよほどマシだ。
 遠慮深い……というより本心で厚意を跳ね返してくる手塚が、何を望んでくれるのだろう。どうしてだかそわそわと落ち着かない気分になるのを必死で抑えて、いつものように笑ってみせた。
「いや、そういうことではなく……」
「なんだよ、俺様に叶えられないことがあると思ってやがんのか?」
「本来なら、頼むようなことではないと思う。望まないかもしれない相手に言って叶えたところで、それが本当に叶ったと言えるのかどうか」
「俺に哲学でも説きたいってんじゃなきゃ、さっさと言え手塚」
 まどろっこしいとやんわり責めてみれば、意を決したように手塚が顔を上げる。まっすぐ見つめてくる瞳は、あの日のような熱さをたたえていて、ほんの少し胸が跳ねた。
「俺はまたお前とテニスがしたい」
 目を瞠る。
 お前と、テニスが、したい。
 手塚の声が頭の中で響いて全身に染み渡り、留まっているように思えた。
「……俺と?」
「ああ、お前とだ。公式戦でなくても構わない。時間の都合がつけば、今からでもいいんだが」
 手塚との再戦を望んでいる跡部にとってそれは願ってもないことだが、何を考えているのだろう。
「頭沸いてんのか?」
「いや、沸いてはいない」
 至極真面目に返されて、出端をくじかれたような気分を味わうが、ここで勢いを削がれていてはいけない。跡部は一歩踏み込んで、息を吸い込んだ。
「どこの世界に! 怪我のきっかけになった相手とうきうきゲームしたがるヤツがいるんだよ!」
「ならば世界初かもしれんな」
 うきうきというよりうずうずだが、と続ける手塚に毒気を抜かれ、跡部は項垂れて額を押さえた。
 表情に出ないからか、本当に何を考えているか分からない。いや、この男はテニスのことしか考えていないのではないだろうか。
 強い相手とゲームがしたい。それは自身のモチベーションや技術の向上につながり、損はないはず。
 だがよりにもよってこの俺を選ぶのか? と眼力インサイトで探ってみるも、やはり読み切れない。
「……俺とお前は準々決勝で当たるだろうが。敵同士だぜ。まさかテメェ、俺とゲームしながらデータでも盗むつもりじゃねえだろうな」
「……なるほど。確かにそういうことも可能だろうが、それは俺自身もお前にデータを取られるリスクがあるということだ。お互い様ではないのか」
「誰がテメェにデータなんか取らせるかよ」
「なら問題はないだろう。……お前が俺とは打ちたくないという思いがあるなら、仕方ないが」
「いやそんなわけねえだろ。どこからそんな発想が出てくるんだよ、アーン? 俺はお前のプレイ好きだぜ。予想外に強引で傲慢なアレを打ち負かすのを想像すると楽しいな」
 手塚が言いあぐねていた理由が分かった。肩の怪我を引き起こしたということを気にして、相対するのを忌避したがっているのではないかと思ったらしい。
 確かにそんな相手を無理やり引っ張り出しても、望みが叶ったとは言い難いだろう。
 しかしながら、まったく馬鹿げた思考だ。手塚国光とプレイしたがっている男がどれだけいると思っているのだろうか。
「傲慢……そんなことは初めて言われた」
「そうかよ? だが頂点に立つ者には必要な要素だろう。自分は周りを引っ張っていくべき立場、自分にしかできないっていう自信は、プレイにも現れる。褒めてるつもりはねえが、貶したわけでもねえんだぜ」
 彼のプレイは、いっそ小気味よいほどの強引さを見せる。
 部長なのだからという立場以前に、己の持つ力ならば当然だとでも言いたげな傲慢さも、跡部にとっては気持ちの良いものだった。
 跡部自身にも、覚えがあるものだからだ。
 跡部の場合分かりやすくパフォーマンスに換えているというだけで、立場も気概も、手塚と同じ。
 それを、あの試合の中で初めて知った。思い出すだけで体が熱くなってくる。
「……跡部、やはり今からテニスがしたい」
 やはり強引で、傲慢で、貪欲だ。表情こそ変わらないものの、負けず嫌いなのだろうことが分かる。同じくあの試合を思い出して、熱くなったのだろう。
「俺様は制服なんだが」
 手塚は青学のジャージを身に纏っているし、ラケットバッグも担いでいる。まるで最初からテニスをしにきたかのようだ。だが跡部は制服のまま。靴だって革靴で、テニスをするには向いていない。手塚と打ち合えるのは僥倖ぎょうこうだが、これではいつもの力を出せやしない。
「何でもいいと言ったな?」
 次の機会にと暗に言ったつもりだが、手塚には通用しなかった。
 跡部としても、この機会を逃したくはない。いくら連絡先を交換したからといっても、まさか毎日連絡を取り合うような仲にはならないだろう。敵同士なのだし、今日を逃したらいつ次の機会とやらが巡ってくるか分かったもんじゃない。
 跡部はしばし考え込み、自身の家で管理しているテニスコートを貸し切るかと電話をかけた。
 幸いにもすぐに使えるところがあり、ここからもそう遠くはない。施設の責任者に礼を告げ通話を終えると、手塚がわずかに驚いたような顔をしていた。
「なんだよ?」
「まさか、貸し切りとは思わなかった。お前が跡部だということを忘れていたな」
 呆れてもいるようで、跡部は少し眉を寄せる。自身に対して「跡部家の御曹司だということを忘れていた」なんて面と向かって言い放つ男は珍しい。それは誇りでもあるのにだ。
「ハ、テメェが万が一肩の怪我で無様なプレイしてもギャラリーに見られないようにっていう俺様の配慮だぜ」
「余計な世話だが」
「冗談だ」
 ピリ、と空気が凍てつきそうなほど、鋭い視線が向かってくる。
 冗談だと返してはみたものの、二割くらいは本心だった。
 九州から戻ってきたばかりならば――しかも恐らく直接来たのだろう状態では、まともなプレイができないかもしれない。
 もし、万が一のことがあった時、自分ならば見られたくない。どこからチームの仲間に伝わって、大会に出られなくなるか分からないのだから。
 その時に傍にいるのが自分だけならば、どうにでもできる。手塚の望むようにしてやれる。
 そんな若干贖罪めいた思いが後ろめたくて、視線を逸らす。変なところで聡い手塚は気づいただろう。短いため息が聞こえた。
「俺の肩のことは気にするなと言ったが、お前に貸しができたのだとでも思えば、なかなか愉快だな、跡部」
「アァン!?」
「冗談だ」
 仕返しのつもりか、手塚は間を置かずにそう返してくる。口許にほんのわずかの笑みをたたえてまでだ。
 二の句が継げずに絶句して、跡部は手塚を睨みつけた。
「テメェ、いい性格してるじゃねーの」
「褒め言葉か?」
「褒めてねーが!? まさかこういうヤツだったとはな……読み切れなかったぜ……」
 まったくおかしな男だと顔を覆い、瞳に力を集中させる。御曹司だということを忘れるどころか、仕返しとはいえ跡部景吾をからかおうなんて輩がいるとは思わなかった。
「まあいい。おら、行くぞ手塚ぁ」
「ああ、楽しみだ」
 釈然としないままではあるが、跡部は手塚と連れ立って近くの屋内コートへと足を向けた。



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