華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.521
永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10
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「試作品、今月中に上がるか? できれば使い勝手を見たい」「納期は問題ないかと……それより顧問、本日は…
永遠のブルー,塚跡WEB再録
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「試作品、今月中に上がるか? できれば使い勝手を見たい」
「納期は問題ないかと……それより顧問、本日はお休みのはずでは」
「インタビューで部屋使わせてもらうんだよ。あんまり現場に来られねえから、ついでにな」
開発部に突然顔を出した跡部に、対応してくれた社員はそうですかと落ち着かない様子だ。それもそのはず、跡部は企画開発部顧問である以前に、この会社を経営する跡部グループの御曹司。何か不手際でもあったかと慌ててしまうのは、仕方のないことだった。
「お爺様も何だかんだで甘ぇな。俺みたいな現場を知らないヤツを顧問に据えるなんてよ。大会落ち着いたら、もう少し顔出すようにするぜ」
「いえ、とんでもないことです。プレイヤーとしてのご活躍、社員一同楽しみにしていますよ」
跡部は今、プロのテニスプレイヤーとして世界各地の大会に出場している。その傍ら、跡部グループの展開する事業に携わっていた。主にテニスラケットやシューズ、バッグのデザインや製作に関わり、テニススクールでのイベント、メディアへの露出など、積極的に行っている。
とはいえメインはプレイヤーとしての日々であり、練習や大会参加などをしていると、なかなか開発現場になど来られない。しかし、御曹司でありながら驕ることなく社員と交流を重ね製品の改良に取り組んでいるのは、社員の誰もが知っていることだった。
跡部は手塚に遅れること数か月、十六歳でプロに転向した。
跡部家を継ぐものとばかり思っていた周りは大層驚いたけれど、覚悟を決めた跡部が意志を覆すことはなかった。
U―17のW杯が終わった後、跡部は祖父の元に向かい、跡部家を自分に任せるのは少し待ってほしいと願い出たのだ。
執事のミカエルに言った通り、跡部を捨てるつもりは毛頭ない。ただ時期を遅らせてほしいと頭を下げた孫に、実権を握っていた祖父はいたく満足げに笑ったのをまだ覚えている。
プロのプレイヤーとしての生命は短い。年齢を重ねるにつれて体力も技術も衰えていく。稀に五十歳を超えても続ける選手もいるが、跡部は自分がそこまで続けられるとは思っていない。だからこそ、その短い命を生きる間だけ待ってほしかった。
もちろん自分のわがままだけで決めたわけではない。
跡部家の事業のひとつにスポーツ事業部がある。それに携わらせてほしいと頼んだのだ。必ず好成績を収めて、テニスファンを増やし、世界での跡部の認知度を高めてみせると強く言い放った。
熱しやすい日本人の特性は分かっている。ブームが過ぎれば話題にも上らなくなるという懸念もあった。それを、プレイヤーとして、事業者として、コントロールできるのは自分しかいない。
『ですからお爺様には、まだまだ現役でいていただかなくては』と、挑発するような生意気な口をきいたのも、祖父にとっては愉快なことだったらしい。
後で父に聞いたところによると、『従順に私の言うことだけを聞いて家を継ぐなどと言う男に、跡部はやれんからな』ということのようで。なんのことはない、祖父は祖父で、跡部が望みを叶えるために楯突いてくるのを待っていたのだ。
本当にあの人には敵わないと、敗北感と敬愛を同時に感じた。
「ここのライン、もう少し緩めにできねえか? そうだな、あと、色を三色で展開して」
「この部分、個人でカスタマイズができればいいんですけどね」
「……カスタマイズ? いいじゃねえか。少し値も張るし納期も長くなるが、需要があると分かれば生産ラインを調整する価値はあるぜ。プレゼン、まとめてみな」
「はっ、はい、ありがとうございます!」
ぼそりと呟いた社員の提案を拾い、ポンと肩を叩いてやると、ぱあっと顔が明るくなる。跡部は、氷帝学園で生徒会長をしていた時のことを思い出した。若干……いやかなりワンマンではあったものの、声を拾い叶えてやることはあの頃にも常だった。
「っと、悪い、時間だ。さっきヤツはのメール入れておいてくれ。必ず目を通す」
「お忙しいところ、ありがとうございます」
「それはこっちの台詞だぜ。お前らのおかげで、今後テニス界はもっと盛り上がる。ありがとよ」
他にも何か提案があれば遠慮なく言えと付け加えて、跡部はオフィスを出る。尊敬と憧れの感嘆が漏れていたことは知りもせず。
エレベーターに乗り込むと、先客がいた。目をぱちくりと開いて、次いでニッと口の端を上げた。
「よう、越前じゃねーの」
案内役の社員と、白い帽子がトレードマークの越前リョーマ。
「……跡部さん、どもッス。ベスト16オメデトウゴザイマス」
「厭みか、テメェ」
中学生の頃よりは当然ずいぶんと背が伸びているが、生意気そうな態度は変わっていない。自分がベスト4だからっていい気になるんじゃねーぞと、帽子ごとぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜてやれば、不服そうな声で抗議された。
「ま、でもおめでとうとは言っておいてやるぜ」
「俺としては優勝狙ってたんスけどね」
目的のフロアに着いて、後は自分が連れていくと案内役に礼を告げ、エレベーターを降りた。揃って歩きながら、戦績にため息を吐く。テニスの四大大会であるウィンブルドンで、跡部はベスト16、越前に至ってはベスト4という素晴らしい成績を残した。
しかしながら、目指すのは頂点であり、二人ともが今回の成績を悔しがっていた。
「ツイストサーブが完全に対策されてたもんな、お前の」
「あんたのタンホイザーだって似たようなもんでしょ。返されてたじゃん」
「アーン? 俺の試合観てたのかよ?」
「いやそりゃ観るでしょ……」
そんなことを言い合いながら、目的の部屋に着く。コンコンとノックをすると、中から返事があった。どうやらすでに対談者も着いているようだ。
跡部は一瞬息を呑んで、ドアを開けた。
「よう、遅れちまったか?」
「十分前だ、問題ないだろう」
応接室にいたのは、手塚国光。今日は、若きテニスプレイヤーということで、三人揃っての対談インタビューを受ける日だった。
「こうして逢うのは久しぶりだな、手塚。試合は観てたが」
「ああ、マイアミ・オープン以来か。元気そうで何よりだ」
立ち上がって歩み寄ってくる手塚を、跡部は眩しそうに眺める。三か月前の大会マイアミぶりに間近で見る彼に、どうしても胸が鳴ってしまった。
「越前、ベスト4おめでとう。次は対戦できるといい」
「どもッス。部長も、ベスト8おめでとうございます。まあ対戦しても、絶対に俺が勝つんで」
どこまでいっても唯我独尊だなと、肩を竦める跡部の傍で、手塚は眼鏡を押し上げる。
「越前、さすがに部長というのはどうなんだ。もう八年も経つのに」
「あ。……癖なんスよね。あんまりにもあの頃の印象が強烈で」
「クックック、いいじゃねえか手塚部長。愛されてんじゃねーの」
気まずそうに視線をあさっての方向へやる越前の背中をぽんぽんと叩いて、跡部は二人へ席を勧める。
「俺も時々日吉たちに部長って呼ばれるしな。何しろ俺は今、氷帝学園中等部の名誉部長だ」
「愛されてるじゃないですか。あんたも本当に強烈でしたよね……」
そうだろ、と強気に笑う。三つ並んだ真ん中の椅子に、遠慮も何もなく腰をかける越前の帽子をはじき、
「真ん中はキングである俺様だろ」
「それを言うなら順位がいちばん上の俺でしょ」
「テメェのスポンサーでもある俺をちったあ尊重しろってんだ」
「どこでもいいだろう、座る場所など」
そう言って端の椅子に腰をかける手塚のため息が聞こえる。越前リョーマを前にするとどうにも熱くなってしまうのは、プレイヤーとしての性だろうか。
越前はそんな手塚に視線をやり、ひとつ瞬いて大人しく端の椅子に腰を下ろした。もう少し攻防があるかと思っていた跡部は不思議に思ったが、もうすぐ記者も来てしまうだろう。跡部も空けられた真ん中の椅子に腰をかけた。
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