右手に殺意を 左手に祈りを

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「あ……っ」
ぺろ、と胸で硬くしこる乳首を舐められて、背がしなった。頻度が減っていたせいか、些細な愛撫にも敏感に反応してしまう。
「んん」
千景は舐めた乳首をそのまま口に含んで、ちゅうちゅうと吸う。もう片方を指先で遊ばれて、断続的に声が上がった。
「あっ、あ、あ……んぅ」
軽く歯を立てられ、びく、と腰が沈む。それに気を良くしたのか、よりいっそう執拗に責め立てられた。
「先輩、あの、そこばっか」
「……ん? いやか?」
「いやじゃないですけど、その……何ていうか」
「あぁ……なるほど、じれったいってことかな」
「そんなこと言ってないでしょう」
「言ってるよ、お前の体がね」
「あっ、待っ……」
千景の愛撫に体が疼く。熱が集中しているのは自覚していて、触れてほしかったのも本音だが、言われると反論したくなるのは何故だろう。
だがしかし、千景はそんな反論ものともしない。触れた体の欲望なんか、お見通しだとでも言わんばかりに、体のラインを撫でてそこに到達してしまった。
「あ……っう、ああっ」
指先が先端をえぐる。形を確かめるようにうごめく手のひらが、至の体液で濡れていくのが分かる。
何度も経験してきたことなのに、それがすごく恥ずかしくて、余計に敏感になった。
「せん、ぱい、ごめ……なさ、ちょっと、待っ、イキそ……」
「早いって」
「だから、謝って、るで、しょ、いやならっ、放してくださ……」
「いいから、イッて、茅ヶ崎。体のしたいようにしてればいい」
耳元でそう優しく囁かれる。久しぶりだったせいもあるのか、至はあっけなく達してしまった。
「は、はあっ、はぁ……っは、あ」
「大丈夫か?」
「は、い……すみません……」
「謝ることないだろ。茅ヶ崎がこんなにいやらしいの知ってて、あんまり抱いてやれなかった俺にも、責任はあるしね」
「なっ……」
そんなことを言って笑い、千景は至の体液で濡れた手首を舐めた。恥ずかしくて何も返せずにいたら、千景はベッドの上に転がっていた至の手首に唇を寄せ、そっと口づけてくる。
「ちょっと、加減できそうにないんだけど、茅ヶ崎。本当に、平気か?」
気まずそうなその顔を見て、至はぱちぱちと目を瞬く。あれから一体、何か月経っていると思っているのか。手首へのキスで、やはりまだ気にしていたのだと分かり、ふっと笑ってみせた。
「先輩があのこと気にして、まだヘコんでんの見るのは楽しいですけど。俺はそれより、イカせてほしいですよ」
「……分かった」
千景はそう呟くと、至の手を誘導し、自身の指と一緒に入り込ませる。ヒクンと喉の奥で声が詰まったような感覚に、至はのけぞった。
「あっ……ぁ、んっ、あふ、う……んむ」
二人分の指で押し広げ、ほぐす中で、千景はむさぼるようなキスをくれる。キスに集中すれば、指がお留守だと言わんばかりに奥へ連れていかれて、指に集中すれば上の口も頑張ってと吸い上げられる。
酸欠も手伝って意識が朦朧とし始めた頃、ずるりと指が引き抜かれていった。
「お疲れ、もうひと頑張りかな」
「やぁっ……ア」
ぐ、と猛る雄が入り込んでくる。ほぐしたといっても久しぶりの行為で、圧迫感に苛まれる。それなのに、千景は構うこともせずにぐいぐいと押し入ってきて、じんじんとそこが疼いた。
「あ……や、やだ、先輩、も、……っと、あっ、そこ、いや……っ」
「いや? しばらく抱かないうちにイイところ変わっちゃった……っ?」
「やっ、駄目待って、いや、ああっ」
「噓つきだな茅ヶ崎は。すごく気持ちよさそう……いやらしい顔して」
「ひぅ、あ」
ぐ、ぐ、と押し入ってきたかと思えば、引き抜いて至のいちばん良いところを突く。足の先まで電流が走ったような感覚に襲われて、シーツを掻いた。
「あ、はあっ、は……あぅ、先輩、先輩……っ」
「茅ヶ崎、中……すごい、そんなに食らいつかれると、俺も、すぐ、いきそう、なんだけどっ……」
「イッ……て、先輩、イカせたい、ね、中……もっと、強くしても、いいから……っ」
肌がぶつかる音がする。ベッドが啼いてきしむ。
吐息が重なって、手のひらが重なって、唇を重ねて二人で達した。
「なあ……後ろからしても平気か? あの時、たぶん……しただろ」
「え?」
「今度は、優しくするから」
答える前に、体を裏返して腰を持ち上げられた。
確かにあの日、後ろから貫かれた。顔を見る勇気もなくて、枕に顔を埋めて耐えていたけれど、千景は今、優しくしてくれるという。記憶を上書きしてほしいという祈りでもあるのか、ずっと手首を撫でてくれている。至はシーツに額をこすりつけたままで、頷いた。
あの日からも何度か体を重ねたが、千景は遠慮がちだったし、一度だけで終わっていた。
その千景の重みを、背中に感じる。熱を、体の中で感じる。
荒れた吐息が、強く抱かれる腰が、肩に落ちる汗で湿った髪が、至の中を満たしていった。

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