カクテルキッス3ーたった一度のI love youー

この記事は約2分で読めます。

「――で、またもらっちゃったんですよね。何か、お菓子みたいなの」
 金曜日、至の運転する車は、助手席に千景を乗せて夜の街を走っていた。昼間にやりとりされたカフェオレは、まだ合図としての役割を果たしている。
「この間と同じ子? モテるな、茅ヶ崎は」
「……先輩に言われたくないんですけどね。今日は違う子でしたけど、なんでだろう……」
 至はふぅと息を吐いて、後部座席に乗せたもらい物のことを考えた。
 今日、出先から戻ってきたら、そわそわした女性社員から、どこだかのブランドの袋を手渡されたのだ。
 お疲れ様です、よかったら召し上がってください、……などと言われてしまえば、ありがとうと受け取るほかになかった。
 不思議なのは、ここ最近そんなのが続いていること。
「クリスマスが近いとか、長期休暇が近いとか、あーあとは花火の季節とかなら、彼氏げとーしたいのは分かるんですけど、なんで今?」
「だから言っただろう。茅ヶ崎が変わったんだ。人の目を惹きつける方向にな」
 惹きつけると言われて悪い気はしないが、どうせなら意中の人を惹きつけたい。千景はなんとも思ってくれないのだろうかと、気分が沈んでいく。
「付き合うのか? 俺に遠慮はするなよ」
「二重の意味でまさか。お付き合いする気はないし、先輩に遠慮とか、するわけないでしょ」
「ふ……ん、その子も可哀想にな。プレゼントをもらったその夜に、男を誘うような相手を好きになって」
 くく、と千景が笑う。
 彼にカフェオレを渡したのは、あのプレゼントをもらう前だ。まあそんな言い訳をしても、今日はやめておこうだとか、彼女に申し訳ないかななどと思わないあたり、千景に反論できなかった。
「ホントに欲しいものは……全然手に入らないのに」
「物欲センサー働いてるんじゃないのか。……俺にも、あげられないものなのかな」
 心の中で言ったつもりのそれは、どうやら音になっていたようで、千景が視線だけで振り向いてくる。
「え、俺声に出してました?」
「はっきりとね」
「物欲センサーかぁ……そうかもしれないですね。残念だけど、これは誰にも頼めないものですから」
 千景が欲しくて、欲しすぎて、ちっとも伝わらない。
 いや、伝わってもらっては困るし、温もりだけはもらえているのだから、それで満足しなければいけないのに。
「そうか……」
「そう。だから先輩、可哀想な後輩に、今日は目一杯優しくしてくださいよ」
 もう随分前に飲んだのに、カフェオレの甘ったるい苦味が口の中に広がる。千景からは、笑う吐息で答えをもらった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました