カクテルキッス3ーたった一度のI love youー

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もたもたと歩いていたら、他のメンバー全員とすれ違って、王宮へと足早に戻っていく彼らを見送った。
あてがわれた部屋に足を踏み入れるも、荷物をまとめるつもりなんてお互いにかけらもなくて、抱き合ってキスをする。
「……っふ、う」
唇を食み、ちゅ、と軽く吸い上げては押し当てる。吐息が欲しくて誘い込み、舌を求めて歯がぶつかった。
聞こえるのは、服がこすれ合う音と、吸い合う水音、湿った吐息。は、と吐いた息さえ逃すのが惜しくて、噛み付くように口づけ合った。
茅ヶ崎。
千景がそう吐息と一緒に呼び、なだめるように肩を撫でてくれる。
千景さん。
至はそう名を呼び、潤んだ瞳で千景を見上げる。
高ぶった気持ちはどうやっても治まらず、触れる箇所からどんどん火がついて、広がっていくようだった。
服を脱ぐわずかな時間さえ惜しいけれど、相手の素肌に触れたい思いが、二人にお互いの服を脱がさせた。至の手は千景の背を合って、千景の手は至の腹を撫でる。
「んっ……」
「ん、ぅ」
「はあっ、は、う」
その間も唇は離れずに、互いを求めた。
ひたり、ぺたり、と手のひらが大好きなひとの肌を撫でる。もっと触れてほしくて、至は服を脱ぎ捨てて千景の手のひらを胸へと誘導した。
「……緊張してる? 茅ヶ崎」
「してます。なんでかな……初めての時よりもっと、すごく、ドキドキしてる、みたいで、すみません」
「責めてるんじゃないよ」
ちゅ、となだめるようにキスをしてくれた千景も、自ら服を脱いだ。
二人分の衣服が、床の上で乱雑に重なり合う。経費削減のために四人部屋であるここには、東と丞の荷物も置いてあるというのに、そんなところでこんなことをする後ろめたさは、余計に気分を高ぶらせていた。
そうしてようやくベッドへ移動し、互いの心音を手のひらで確認する。
「俺も、緊張してる」
「マジか。あ、……ホントだ、速すぎ」
通常より音が速いように思えて、緊張に強張っていた体から、すっと力が抜けていった。
千景が、至の体を支えながらゆっくりとベッドに横たわらせてくれる。
至は千景の肩に手を置き、千景に世話ばかりかけないようにと、腹筋で自身の体をコントロールした。
ドキンドキンと、目に見えるくらいに胸が波打つ。体は何度も重ねてきたのに、本当に初めて肌を合わせるかのようだ。
だけど、こんなことになっているのは自分だけじゃないと、至は羞恥を我慢して、千景に両腕を伸ばした。
「俺は、言ってもいいんですよね……」
「うん?」
「何度も、何度でも……好きだって言っていいですよね」
千景の目が瞠られる。
彼が、〝一度しか言えない〟と言った理由は、理解しているつもりだ。
闇の世界に足を突っ込んでいる千景には、何が命取りになるか分からない。至が、弱点になるかもしれない。誰かに知られ、至が狙われるかもしれない。
それを、少なくとも組織側の人間には、悟られるわけにはいかないのだろうと、分かる。
だから、千景が手放しで愛していると言えないことを、責めるつもりはない。
もともとが、叶うわけがないと思っていた想いだ。一方通行でなかったことを知れただけで、充分過ぎるほど、幸福。
言ってはいけないと思っていた言葉を、彼に向かって言えるだけで、充分だ。
「千景さん、好きです。好き……大好き、です、から」
この気持ちを、知っていてほしい。
そう思って、千景の唇に、指先で触れた。
千景は泣き出しそうな顔でその手を取って、指先に口づけてくれた。
愛してるという、誰にも聞こえないような、吐息みたいな言葉と一緒に。
千景の体がゆっくりと重なってくる。
重ねた唇は、最初から深いキスで支配され、一人用のベッドは二人分の重みできしみ、喘ぐ声の混ざる湿った吐息が、部屋に響いた。
千景の手のひらが胸を撫で、指先が突起をついと撫でれば、至の腰が浮き上がる。
「はあっ……ん、う」
気分が高揚しているせいか、些細な愛撫でも、敏感に反応してしまう。
恥ずかしいと顔を背ければ、千景はその頬に口づけて、さらに乳首を責め立てた。
「やっ、先輩っ……いや」
こね回され、押し潰され、つまみ上げられひねられて、腰がじくじくと疼く。悔し紛れに千景の乳首を探り当ててひっかいてやれば、肩が揺れて、やり方を教えられてしまう。
「茅ヶ崎、気持ちいいやり方、知ってるくせに」
千景の片手は至をいじめつつ、もう片方で至の手を支えて、愛撫をさせてくれた。
「……そりゃ、知って、ます、けど……」
「触って、茅ヶ崎」
促されるままに、千景の胸の突起を撫でる。すり潰すようにこね回し、つまみ、硬くなったそれをくにくにとひねり上げる。
全部、千景のやり方とおんなじだ。
「へえ、そう……茅ヶ崎は、そうされるのが気持ちいいんだ?」
「墓穴掘った気が」
ふ、と笑う声が聞こえる。嬉しそうなその顔は、至の愛撫に感じてくれているのか、それとも至が望む愛撫を知って喜んでいるだけなのか。
「あ」
千景は胸を愛撫していた至の手を取り、指を絡めてシーツに縫い付ける。そのまま体の位置を下げ、ぷくりと立ち上がった至の乳首を口に含んだ。
「あッ……や、だめ」
ちゅ、と吸い上げられ、体に電流が走った気さえする。舌先で転がされ、包み込まれて、そこが千景の唾液に濡れていくのが分かる。
恥ずかしいと顔を覆いたくても、千景に手を?がれていて叶わない。
身をよじっても、追跡される。軽く歯を立てられて、怒られた気分になってしまえば、抵抗しようなんて気も起きなくなった。
「や、あ、あっ……ん、く」
ちゅう、ちゅっ、と響く水音が、至の耳を犯す。千景の吐息と、自身の吐息が混ざっていくのが、恥ずかしくて嬉しくて、ふるりと体を震わせる。
「いつもより感じやすくなってる?」
「う、し、仕方ないでしょう、こ、こんなこと……絶対にないと思ってたのに……!」
「こっちの台詞だ」
「あ! いやっ……」
「同じ気持ちだったなんて、思わなかったよ」
体を起こした千景に、キスを何度も降らせられる。油断した隙を狙っていたのか、千景の手はそそり立つ中心をそっと撫で上げた。
「んんっ」
ぞくりと、背筋を這い上がってくる快感。つま先がシーツを?いてしわを作った。
「茅ヶ崎、舐めて」
千景が、至の緩んだ口許に指を持ってくる。意図を察して、至はちろちろと舌でその指先を愛撫した。
ゆっくりと舌を伸ばし、千景の指を舐る。
「ん、ふ……うぅ」
指の先、指の腹、指の間。
丹念に舐め上げて、時おりキスを贈れば、ご褒美みたいな愛撫を至自身に施された。
「あ、う」
しとどに濡れた指先は至の口を離れ、いきり立つ雄にほんの少し絡んで挨拶をし、その奥にあるくぼみに突き立てられた。
「あ……」
至はその感触にのけぞり、異物感を上回る快楽に吐息する。ゆっくりと広げながら突き進んでくる千景の指が、どうしようもなく気持ちが良い。
「あ、んッ、ん、や……」
千景の愛撫に慣れた体は、簡単に反応を示す。
千景の愛撫しか知らない。
この先も千景だけでいい。
そう思う心が、奥へ奥へと引き込んでいった。

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