カクテルキッス3ーたった一度のI love youー

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 あ、と小さく声を上げた。千景の手のひらが、太腿を撫で上げたからだ。
 腰骨まで上がってきたそれは、じらすように指先へと換わり、つ……と足の付け根を撫でる。
 至はふるふると首を振って、涙目で訴えかけた。ちゃんと触れてほしいと。
「先、輩……あっ、はぁ……っう」
 息が上がって、言葉もまともに出てこない。
 それでも目は口ほどにものを言うようで、千景がふっと笑ったような気がした。
「こっち、触るだけでいいのか?」
「あっ……あぅ、や」
 ようやくそそり立つそれに触れてくれたけれど、千景が言うように、それだけでは物足りない。何しろ千景によって暴かれたこの体は、千景のいいように反応してしまう。
「せ、先輩、そういう意地悪、やめてくださいよ、俺……気の長い方じゃ、ない、ですよ」
「そう? さんざんじらされてから突っ込まれるの、好きなくせに」
「そんなわけな……っあ、あぁ……ん」
 きゅ、と握り込まれて背がしなる。ぎ、とベッドがきしみ、シーツが至のつま先でしわを作った。
 千景の指先の動きに合わせて、びくりびくりと体が触れる様が楽しいのか、千景は殊更にじらしながら、至に触れてくるようだった。
 キスは頬へ、指先は乳首をつまんで、そっとこね回すだけ。色を多く含んだ吐息を耳に吹きかけて、腰を押しつけるだけで、なかなか先へ進んでくれない。
「いや、先輩……ね、おねが……もっと、あ、中も」
 じれったくて、至は千景の手を取って自ら誘導する。指先がそのくぼみに触れただけで、背筋を快感が走りぬけるようだった。
「……いやらしい、茅ヶ崎」
「や……っ」
 それは自覚している、と思いつつ至は顔を背ける。こんなふうになってしまうのは、千景相手にだけだ。
 初めて体を重ねたあの日は、まさかこんなにハマってしまうなんて思っていなかった。
 そもそも恋をするなんて思っていなくて、こんなに欲しがってしまうほど、自分が浅ましい欲まみれだとは知らなかったのだ。
「だっ……て、欲しい、先輩」
 千景の熱が欲しい。
 千景自身が欲しい。
 体を重ねている間は、欲に願いを隠してしまえる。どれだけ求めても、快楽を欲しているのだとごまかせる。
 こうして千景にしがみついても、ごまかしてしまえる。
 浅ましい、いやらしいと、千景にどれだけ罵られても、至が逃げ込める行為なのだ。
「こら。そうしがみついてちゃ、何もできないだろ」
「あっ……あ、いっ……」
 千景はしがみつく至の腕を外させて、ず、と指を突き立ててくる。ローションにまみれたそれでも、至に異物感を与え、別々の個体が?がり合おうとしているのだと、知らせてくれる。
「先、輩……」
 セックスが、こんなに気持ちいいものだと、千景に教えられた。
 別に経験がないわけではない。もちろん異性とのものだが、そういいものだとは思っていなかった。
 どちらかと言えばゲームに熱中している方が楽しくて、ボスを倒した時や、レアアイテムを手に入れた時の方が快感だったし、何よりこの行為は、リアル体力をごっそり持っていく。
 人一倍体力のない至には、夢中になるほどのものではなかったのに。
「ああっ、あ、やだ、いや……そこ、いやだ」
 千景の指が、気持ちいいところを撫でつけてくる。最初は優しかったものが、だんだんと激しい動きになってくるのが、至には嬉しかった。
 千景も、ちゃんと興奮してくれている。
 もともと同性を対象にするらしく、男である至との行為に、興奮するのは当然なのかもしれない。
 だけど、時おり呼ばれる「茅ヶ崎」という音で、抱く相手が「茅ヶ崎至じぶん」であることを、ちゃんと認識してくれているのが伝わり、幸福で仕方なかった。
 一夜限りの、いい加減で無責任なつながりではないのだと分かる。
「先輩……中、もっと……」
 至は両腕を千景の背中に回し、誘い込む。
 指よりもっと確かな熱が欲しい。腰を浮かせて押しつけて、わざと震えた吐息で、千景を欲しがった。
「んッ……!」
 千景もそれを理解してくれて、指の代わりに、自身の雄を突き立ててくれる。至はとてつもない快感に襲われて、千景の背中に爪を立てた。
「あっ、あ、先輩っ……奥、ねえ、もっと……!」
「分かってるからっ……そう、急かすなよ……」
 ぐ、ぐ、と千景が入り込んでくる。頭の中が真っ白になりそうなくらい気持ちがよくて、高い声を上げた。
「ああっ、あ……――!」
「茅ヶ崎、お前今軽くイッたか……?」
「んっ、ん、や、待って、うそ、こんなっ……」
「入れただけでってお前な……」
「イッて、な、ない、まだっ、いや」
「はいはい」
 恥ずかしくて、至は否定する。今日は仕事で疲れていたからだとか、千景が散々じらすからだとか、他の何かに責任を押しつけるのは得意だった。

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