カクテルキッス3ーたった一度のI love youー

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「あっ、あぅ、んぁあ……っ」
 千景が奥までたどりつく。ゆっくりと引き抜かれていくのが寂しくて、引き留めるように意図的に力を込めれば、諫めるようにも、なだめるようにも、鼻先に軽く噛み付かれた。
「たっ」
「俺だってイきたいんだよ、動かせろ」
 その明け透けな物言いに、ブワッと羞恥が湧き上がってくる。
 いつからだか、千景が遠慮をしなくなった。
 その時まで遠慮をしていたかというと、まあそうでもないのだろうが、自分だって求めているということを、音にするようになった。
 体だけでも求められていることが、どうしても嬉しい。
 至はおずおずと手を伸ばし、自身の足を開いて支えた。千景をもっと奥に受け入れられるように、彼がもっと動きやすいようにと。
 恥ずかしさで死ねそうだとも思ったが、そういう時には決まって千景がキスをしてくれる。
「いい子だな、茅ヶ崎」
 子供扱いをしてるのか、と以前訊いたことがあるが、千景は「子供に欲情する趣味はない」とふてくされて答えてきた。確かにそうだろうなと、軽く笑ってしまったことを覚えている。
「んっ! う……」
「は、っは……ぁ、はあ……ッ」
 突き戻されて、ぞくぞくと背筋を震わせる。千景の荒い吐息がすぐ傍で聞こえて、さらに欲を煽られた。
「や、せんぱ、あぁっ、はあ……っあ、ん」
 今日は金曜日で明日のことを気にする必要はないし、このまま何度イいけるかなどと、千景の胸の下で幸せな思考に埋もれていると、
 ピルルルルル。
 無粋な電子音に邪魔をされた。
 この色気も面白みもない音は、千景の端末だ。二人して現実世界に帰ったように我に返り、音を発する方を振り向いた。
「……先輩の、ですよね」
「悪い、ちょっと待ってて」
「あっ……ちょ、あう」
 引き留める暇もなく、千景が引き抜かれていく。この状況で中断するとは、よほど大事な電話なのだろう。
 あ、と至は気づく。仕事の方か、と。
 千景はベッドを降り、無粋な音を響かせていた端末を相手に何事か話している。
 英語ならまだ分かるのだが、彼の発している言葉は英語ではなさそうだった。きっと、至に知られないように、わざと異国語を使っているのだろう。
 そうしなければいけないということは、つまり、仕事である可能性が極めて高い。
 千景が通話を終えて振り向く。嫌な予感がした。
「茅ヶ崎、悪いけど用事ができた」
「意味分かんない」
「意味を分かってもらう必要はない」
 言って、千景は至の肩をベッドに押さえつけた。え、と目を見開いている間に入り込まれて、息が詰まった。
「ちょっ、せんぱっ……待って、何を」
 先ほどまで千景を受け入れていたそこは、想いも手伝って、やっぱり簡単に受け入れてしまう。
「やっ、いやだ、あ、待ってって、言っ……あ、あぅ」
 性急な動きについていけない。いつもなら呼吸が整うのを待ってくれるのに、今日はそれもない。
 脚を押さえつけられて、ぐっと奥まで入り込んできた千景に、ハッとする。
「先輩っ、ちょっと、まさか、やっ……」
「うるさいよ茅ヶ崎。お前さっきドライでイッただろ。俺はまだイッてないんだよ」
「俺だってイッてな、あ、あ、駄目、先輩待って、俺もイきたい、イかせ……っ」
 千景の速度が変わる。ひとりでイくつもりなのだと悟って、至は千景の体を押しやろうとするけれど、力の入らない腕ではどれだけも効果はない。
「……っつ、う、く」
「いやだ、先輩、お願いッ」
 願いもむなしく、千景の欲は吐き出される。数秒ののちにずるりと引き抜かれていって、至は達せない苦しさに身を震わせた。

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