- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.58, No.57, No.56, No.55, No.54, No.53, No.52[7件]
Shooting Star
手を伸ばして
イッツァピーンチ。
大きな問題が起こった。
寮の、僕の部屋が燃えた。
でもそれはまあ仕方ないかなで諦められる問題でもあったんだけど、困ったことが起きた。
これからどこに寝泊まりすればいいかって、それももちろん大問題なんだけど、僕にとってはもっとデカい問題なんだよ!
スガタの家に居候だなんて!!
「何を不思議がることがあるんだ?」
僕にその大問題を投下してくれた張本人は、涼しい顔で僕を眺めてくる。
気づけよ。
気づけよばかぁ! 僕の気持ち知ってるくせに、なんでお前平気なの!
「僕の家は部屋たくさん余ってるし、タクト一人増えたところで、さして変わりないからな」
「……言うこと、それだけ?」
「うん?」
まったく、この男は! 何もかもを知った顔していながら、自分のこととなると的が外れている。これだから島育ちの田舎モノは。
……いや、これはこの際関係ないか。そんな田舎モノ好きになっちゃった僕も僕だし。
あーあ……どうしようこの状況。
スガタくんは手強いよ?ってワコが笑ってた意味がやっと分かる。
この鈍感なお坊ちゃま相手に、ワコはよくやってきたよ、うん。
「僕の助けが必要ないなら、そう言え。とは言え、綺羅星十字団が第三フェーズに移行してからは僕の力も効かないから、お前の助けになることなんて……ないんだけどな」
「スガタ……」
「お前はどんどん強くなっていくからな。ワコにもお前にも、僕は必要でない人間かもしれない」
何言ってんの。
何言ってんのこいつ。
僕がスガタを必要としてない時なんて、今まで一回でもあった!?
「今だってほら、迷惑そうに睨みつけてくる」
「へっ? メーワク……って、違うってば!」
何をどう勘違いしてんだか分かんない。どうすれば伝わるんだ?
大きなため息をついた。まさかこの間言ったこと、ちゃんと伝わってなかったの?
「ねえスガタ、僕さ……この間きみのこと好きだって言わなかった?」
玉砕必至で、一蹴されるの覚悟で告げた言葉は、【ふぅん】である意味一蹴された。
それからもスガタの態度は変わらなかったし、拒絶されてないだけマシかなって思ってたけど、まさか伝わってなかったなんて。
「聞いたよ」
だけどスガタから返ってきたのは僕の絶望を打ち破った。
「お前は僕に喧嘩を売っているのか? 買ってやってもいいけど、その前にはっきりさせておきたい」
スガタの表情が一瞬で鋭いものに変わる。以前はよくみかけたけど最近はなかったせいで、息が止まった。
スガタが怒ってる時の顔だって知ってるから、息が止まった。
「お前は本当に僕を好きなのか?」
「す、好きだよ! 疑ってんならそれでもいいけど、僕の気持ちも考えてよスガタ!」
好きな人の家に行けるってだけでドキドキしたり、剣の稽古つきっきりで見てくれるの嬉しく思ったり、もちろん部屋は別々だけど同じ屋根の下で眠る時のバカみたいなそわそわとか、全然知らないくせに!
「お前の力になりたいと思ってる僕の気持ちは無視するのに、自分の気持ちだけ考えろというのは、不公平じゃないか、タクト」
「え、…………え!?」
な。
なにこれ。
なにこれなんで僕スガタに抱きしめら…………れてんのおおおぉぉぉ!?
「あ、あの、ちょっ……スガタ」
「僕を好きだと言いながら、僕の手を取らないお前の気持ちが分からない」
なんで僕が怒られんの。
だってスガタは、僕が好きだって言っても何も返してくれないで、何でもないように接してきたくせに。
なんで? ねえこれ、僕はスガタを抱き返してもいいの?
「お前がそんなだから、僕は不安になるんだ。手を差し伸べてもいいのか、抱きしめてもいいのか、好きだと言い返していいのか」
ああ、……ああ、なんだ。
僕の恋はとっくに叶ってたのか。
伝えて諦めてたから、スガタの方が不安になっちゃったのか。
なんだよ。なんだよもう、可愛いなスガタ。
「好きだよスガタ。きみが僕を想ってくれてるなら、きみがいちばんだと想う方法で僕を助けてほしい」
これからも。
そう言って背中をぎゅっと抱いたら、小さな声が聞こえてきた。
僕がずっと聞きたかった言葉だ。
「好きだ、タクト」
やっと言える、とため息に混じって聞こえたそれに僕は笑ってしまったけれど、本当は泣きたいのを我慢したんだ。
そうか、僕はきみに手を伸ばしてもいいんだね。きみの手を取ってもいいんだね。
手をつないで、満天の星空の下を歩く。歩く速度が同じタイミングで遅くなって、ついには立ち止まって。
僕とスガタはキスをした。
こうして輝かしいまでの充実した学園生活を送る僕だけど、ただひとつの誤算は、スガタの手が案外早いことだった。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
密会
「あなたは、タクトに関係のある人なのか?」
スガタは、相変わらずベンチに座って絵を描いている男に声をかけた。男は筆を止めもせず、視線だけでスガタを振り向いてくる。
「どうして、そう思うのかな?」
「……その右下のサイン、それと同じサインが入った絵を、タクトはいつも眺めている。父親が描いた絵だと言ってね」
スガタの位置からも見える、アルファベット一文字のみのサイン。
Rと書かれたそれは特に特徴的なクセもないが、形は同じに思えた。この島の中で、同じサインを持つ画家が複数いるのは、あり得ないことではないが腑には落ちない。
「たとえば俺がツナシ・タクトに関係する人物だったとして、それで君はどうするのかな?」
男――ヘッドはようやく筆を置き、スガタを振り向く。肯定とも否定とも取れるその答えに、スガタは眉を寄せた。
「あなたがタクトの血縁だとしたら、買いかぶっていたかもしれない。なぜサイバディを駆ってまで、タクトを倒そうとしているのか……僕には理解できないな」
つい先日だ。まだ鮮明に思い出せる、あのゼロ時間での格闘。
日死の巫女の封印が解かれ、第3フェーズへと進んでしまった綺羅星十字団のサイバディ。あのレシュバルに乗っていたのはこの男だと姿は確信できる。
タクトよりも確実にサイバディを乗りこなし、溢れるリビドーで一時はタクトの戦意を奪い貫こうとした男、だ。
「じゃあ俺からも一つ訊こうかな、シンドウ・スガタくん」
ヘッドはスガタの質問には答えもせずに、逆に訊ねた。ベンチから立ち上がればスガタより少し高い視線。
そこから見下ろされて、だがスガタもおののくことなく睨み返した。
「なぜあの時きみは、王の柱を使わなかった? 俺が記憶している限りでは、きみはいつも彼の戦いに横やりを入れていたように思うんだけどね」
厭味を多く含んだ物言いに、スガタの目が細められる。横やりを責めているのか、貶しているのか。
確かにあの時は、一切手出しをしなかった。しようと思えばできたし、これまで何度もそうしてきた。王の柱を使うことを、ワコが良く思っていないことを知っていながらも。
彼は――タクトはどう思っているだろうか。
「どうしてかな……ただ、あなたがもしタクトの血縁なら、僕が邪魔をするわけにはいかないと思ったんだが」
「それだけかい? きみは彼を……いや、俺をも試したんだろう。第3フェーズ同士の戦いで、どちらが敗れるのか、君はそうやってただ見下ろしてたんだね。彼を助けることもせずに」
「タウバーンの復活があと少し遅ければ、僕は王の柱を発動していたさ」
スガタは口唇を噛んで、空に手をかざす。
通常時間で王の柱を使えば、島に影響を与えるかもしれない。綺羅星十字団が身を置いている地下遺跡にも、何かの支障を来すかもしれない。
それでもヘッドは、涼しい顔でスガタを眺めていた。
「命まで取ることはないと……言っていたな。僕にはあの時、とてもそうは思えなかった」
スターソードを失って、タウバーンの機動がおかしくなった瞬間、ヘッドが貫こうとしたのは果たしてタウバーンだけだったのか、それとも。
「ああ、すまないね。戦闘で溢れそうになったリビドーを抑えきれなかったようで」
少しも悪く思っていないような口調に、スガタは眉を寄せて、腕を――振り下ろして払った。
ガランガランとカンバスがイーゼルから音を立てて落ちる。
「タクトは死なせない。次は――ないと思え」
静かな声が、スガタの喉から絞り出される。自分でさえ気がつかなかった本質を見透かされたのはこれで2度目。そんなことを考えると、本当にタクトの血縁なのだと思えてしまう。
くすくすと笑いながら、ヘッドは呟いた。
「きみは思った通りの少年だよ。普段は涼しい顔をしていても、なかなかの激情家だ。俺を睨みつけてくるその表情も、美しいね」
だからこそその内面を押し開いて、カンバスに埋め込みたいと思うのだ、とヘッドはスガタの手首をひねり上げた。
「だから俺は、君が欲しいだよ」
寸分の隙もなく睨みつけるスガタの視線を、ふっと笑うことで遮って押し込める。
ぎゅうと強く握りしめられた手首の痛みに、スガタはわずかに顔をしかめた。
「そう、きみの表情がそうやって歪むのを眺めていたい。苦痛に、屈辱に……快楽に」
さら、と髪が指で遊ばれる。頬を撫でられても、それが首筋に移っても、スガタの鋭い視線はヘッドを捉えて離さなかった。
「僕が欲しいというのは、絵のモデルや綺羅星十字団のなんだかいう隊の代表ってことじゃなかったのか」
「もちろんそれが第一。だけど俺だって普通の人間だからね。人並みの感情は持ち合わせているんだよ」
「……ずいぶん歪んだ感情だな、笑わせるな」
言いつつも、スガタの視線は下がっていく。
ずっと離さなかった視線を、ここにきて初めて逸らす理由が、ヘッドには思い当たらなかった。心地よいくらいの鋭かった瞳は、どこかに行ってしまっている。
「だけどあなたのその感情は、僕にもよく分かる」
「え?」
スガタは腕を振り払って、視線を90度横に移した。そこは、高台から眺める美しい海だ。
海を眺めるのは、今はあまり好きじゃない。
思い出してしまうからだ――――タクトを。
「本当に僕とあなたは似ているな。少しも嬉しくないけれど」
あの海がなければ、ツナシ・タクトという人間と出会うこともなかっただろうか。
こんな感情に気づいて逃げ出したくなることもなかっただろうか。
「あの顔が歪むところが見たい。何も知らない人間を僕の思い通りにして、屈辱に歪んでく顔と、こらえきれない快楽に溺れる姿態。僕の手で、あの表情を歪めてみたい」
スガタは自嘲気味に笑う。
それをするのはきっとあと何本かの理性のネジが外れてしまえば簡単なことだ。
そうした後に向けられる軽蔑の瞳さえ、容易に想像できる。
どこかで、それをも見たいと願っている。
「だから残念だけど、僕はあなたに犯されたって屈辱を感じることはないだろう」
哀れむことはあるかもしれないけれど、とヘッドに視線を戻す。
少なからず驚いたようで、珍しくヘッドの瞳は見開かれていた。
「ああ、……ああそうか、きみがねえ。ふふっ、素敵だよ、スガタくん」
苦笑を隠しもせずに、ヘッドはスガタを眺め直す。
これはいい題材を見つけたとでも言わんばかりに口の端を上げるヘッドに、スガタは不機嫌そうに眉をひそめた。
「まさか、王様が叶わぬ恋とはね。でも、考えなかったのかい? それを俺に打ち明けることで、彼が狙われるかもしれないってこと」
スガタを手に入れるには、本人を直接どうこうするよりも周りを揺さぶった方が面白そうだと目を細めるヘッドに、スガタは笑う。
「さっきの話を聞いていなかったのか? 二度目はないと――言っただろう」
きっぱりと言い放つそれは、まさに皇帝の名にふさわしい強さを持っていた。
「さすが、王のシルシを持つ者、だねえ。だけど覚えておくといいよ、俺はきみが思っているより酷い人間だってことをね」
「……っ」
グイと腕を引かれた先で、重なる口唇。
不意打ちには対処することもできずに、スガタは腕を振り払った。攻撃を含めたつもりのそれは難なくかわされて、それがまた面白くなかった。
「今の顔、いいね。冗談抜きで、きみを抱いてみたくなったよ」
「お断りだ」
「ふうん、つまらないな」
それでもそれ以上を強いる気はないらしく、ヘッドは肩を竦めて背を向ける。
地面に転がったカンバスとイーゼル、絵の具を拾い上げて、スガタとすれ違う。
瞬間、
「ひとつ言い忘れた。俺は案外気が短いんだ。手段を選ぶつもりはないからね」
そう言い残して、一度も振り返らずに去っていった。
スガタはヘッドに強く掴まれた手首を見下ろして、手の甲で口唇を拭う。
「本当に似ているな……気味が悪い」
相手と自分を哀れんで、スガタはもう一度海を眺めた。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #ヘッド #シンドウ・スガタ #ヘスガ
理由
15話放映前に妄想。もしスガタが綺羅星十字団に入るとしたら
そのゼロ時間は、いつもと違っていた。
「ス、スガタ……?」
タクトは目を見開いた。タウバーンの前で、敵のサイバディどころか十字団幹部のすべてが、彼に向かって跪いている。
彼――シンドウ・スガタに。
「ザメクの発動が可能となりました、代表」
ヘッドの静かな声が聞こえる。ワコは、同じ球体の中にいるスガタをゆっくりと振り向いた。
「ス、スガタくんどういうこと!? なんであの人たち…っ」
「ワコ、どいてくれ」
「きゃ……」
ぐ、と肩を押されて、球体が分裂する。押し出されたような形のワコは、タウバーンの手に受け止められた。
「ワコ! ……スガタどういうことだ!」
ワコを受け止めたタクトはスガタを振り仰ぐ。そこには、彼の背中しかなかった。
「言わなきゃ分からないほど馬鹿でもないだろう。僕は綺羅星十字団第一隊エンペラー代表…ザメクのスタードライバーだ」
少しだけ振り向いたスガタの視線が突き刺さる。伊達や酔狂ではない、スガタの本気だ。
「スガタ…っ……」
タクトの、しぼり出すような声がゼロ時間に響く。
「……泣かせるねえ。君は僕の思ったとおりの少年だよ」
「何の話しだ」
「我々はどんどんフェーズを上げていく。いくら銀河美少年とはいえ、いつまでも勝ち通せるはずもない。だけど君が彼と対峙していれば、少なくとも彼が死ぬことはないよね」
ヘッドはスガタの正面で、そう言って口の端を上げてみせる。
視線の交錯と沈黙。破ったのはスガタだった。
「入団の理由は問わず…だったはずだけど?」
「問わないよ。ただザメクのスタードライバーがいればそれでいい。それが君で、俺は嬉しいけどね」
「食えない男だな。だが邪魔はするなよ、あれは…僕でなければ相手ができん」
「御心のままに」
忠誠を誓う礼をし、ヘッドは幹部一同を下がらせる。
そこでようやくスガタは、タクトを……銀河美少年を振り向いた。
「スガタ…」
「お前と出逢った時から、こうなることは分かっていたような気がする」
「スガタッ……」
――お前を死なせたくはない、タクト。
「さあタクト、僕を幻滅させてくれるなよ」
かたかたと、タクトの口唇が震える。
以前対峙したときとは状況が全然違う。本当に敵同士として、向かい合わなければならないのだ。
ふるふると首を振る。
ワコが泣き叫んでいるのが分かるのに、どうすることもできない。
スガタを止めたいのに、何もできない。
「スガタァ……っ」
彼のシルシが青く光る。こんな時でさえ美しいと感じる、スガタの光。
溢れそうになる嗚咽をこらえたら、ひとつの雫がこぼれ落ちた。
「アプリボワゼ――――ザメク!!」
ゼロ時間の空間が、青白い光に包まれる。
「スガタアアァァアアァァ――――!!!!」
できうる限りに叫んだ声と伸ばしたタクトの腕は、スガタにはもう、届かなかった。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
少年の秘密-004-
「スガタは、本当にワコのこと大事なんだな」
ワコを送り届けて、タクトはスガタとふたり、歩く。
「今日はそればかりだな、タクト。まるで言い聞かせているみたいだ」
そうかな、と思い出して、そういえばそうだったかもと困ったようにタクトは笑う。
「ワコと僕が許嫁同士だってことを、気にしているのか? 恋愛は自由だと、僕は思っているんだけどね」
スガタは自嘲気味に笑う。
親が決めた許嫁という関係に、どれほどの意味があるのだろう。相手がワコでなければ、監視の目を振り切ってでも、とっくにこの島から逃げ出していただろうとは、思うけれど。
「お前は、ワコが好きなのか?」
「好きだと思うよ」
「そうか」
予測していた答えだ。スガタはタクトの素直さを羨ましく思う。
「ごめんスガタ」
立ち止まり、タクトは満点の星を見上げた。そうされたスガタは意味をはかりかねて、三歩先でタクトを振り返る。
恋愛は自由だと、行ってきたはず。ワコとはまだ何も誓いを交わしていない限り、制約など亡いはずなのに。
「僕に謝らなきゃいけないようなことをしたのか? …あのミズノとかいう女のことか。確かに、ワコ以外の女といるところを見るのは気にくわない」
「僕がちゃんとワコを守れていたら、お前がザメクとアプリボワゼする必要はなかった」
死ぬかもしれないと分かっていてもなお、スガタはワコを守る為に王の柱を発動させた。
「なんだ、そんなことか」
スガタはゼロ時間の中で目覚め、結果的には現実世界で再会もできたけれど、歴代のザメクのドライバーと同じ運命をたどることだって、充分あったのだ。
「お前が自分の弱さを嘆くなら結構だ。僕は僕の意志で戦う」
スガタは静かに、目を細める。
ザメクのスタードライバーになった者の末路は知っている。だからこそ、その一度きりの発動はワコを守る時だと決めていたのだ。
「お前が弱いのは知っている。だけどそれを僕に押しつけるな、タクト」
目が覚めた今、生きていることに感謝はしている。死にたくなどはなかったが、この命はワコにくれてやるものだと思っていた。
だけど今、こうして生きている。
ツナシ・タクトとこうして言葉を交わしている。
「お前も、あの力を使うなと言うんじゃないだろうな」
「…言わないけど、思ってる。ワコの、あんな涙を見るのはもうごめんだよ」
自分では止められない。シンドウ・スガタでなければ、駄目なのだ。
「使うななんて言わないよスガタ。僕がお前の力を借りなくてもいいくらい、強くなれば、それでいいだろ?」
不敵に笑うタクトに一瞬、スガタは目を瞠る。
「僕はワコが好きだし、スガタにも生きててほしい」
そのためならきっと、どんなピンチだって切り抜けてみせる。
それは強い意志で、スガタを突き刺してきた。
「……タクト、お前は今、ワコが好きだと言ったな。その言葉をどこまで理解している?」
どこまでって、とタクトはスガタの言葉をなぞる。
好きだという言葉に、いろんな種類があることくらいは知っている。
どういう意味だろう?とタクト自身が首を傾げた。
友達として、大好きだ。
仲間として、大好きだ。
それは、スガタに対しても言える。
守ってやりたいと、望むならこの島から出させてやりたいと思っている。
それも、スガタに対して言える。
「……すぐに答えられん程度の想いか。話にならないな」
「僕は二人とも大事なだけだ! だからっ……だから、三人でいられたらなって……思っただけで」
「だから僕を受け入れたのか?」
ザァと風が吹く。
スガタが何のことを言っているか明確に理解していて、それでもタクトはすぐに答えることができなかった。
「だから、僕に抱かれたのか?」
「スガタ、僕は」
タクトはすぐに答えることができない。
どうしてだろう。あんなに素直に、シンドウ・スガタという男を受け入れてしまったのは。
そうしているのが自然で、むしろどうして今まで別々のものだったのだろうとさえ感じたように思う。
肌に触れているのが気持ちよくて、あまりにも自然だったから。だから、特別なこととして認識できなかったのだ。
「でも……スガタだってワコのこと大事だろ…?」
「ああ。ワコだけが大切だ、この先ずっとな」
揺るぎない意志だ。そこまで強い意志を貫き通せるから、王のシルシを受け継いで、ザメクを発動させながらも生きていられるのか。
「僕はワコのためなら命を懸けられる。だがタクト、お前の為に命は懸けられん」
その命は、一人の少女のためのもの。同時に二人へは、捧げてやれない。
スガタはワコを大切だと言いながら、タクトを自分のものにした。
「言い訳めいた言葉だな、スガタ。僕は別に、気にしてない……友達だろ、僕たち」
まるで浮気の常套文句のようだ。だけどタクト自身、それ自体をあまり気にとめていない。
「僕もお前もワコが大切で、僕はスガタが大事だ。変わらないよ…」
初めて体を重ねた相手が同姓だなんて、それはやっぱり誰にも言えないけれど、スガタを責めたり嫌いになったり、そんなことは考えたりもしていなかった。
スガタがいなくなることだけが恐ろしい。三人でいられなくなることが、いちばん怖い。
「僕の命はワコのものだ。お前には何もやれん」
「命なんていらない、スガタはそのままでそこにいてくれたらいいんだよ!」
「それでもお前を愛していると言ったら、どうする、タクト」
歩きだして、スガタを追い越すかどうか、といった瞬間、すぐ真横で聞こえた声に足が止まる。
「…………愛!?」
思わずスガタを振り向いて、聞き直した。
「愛してるって、それ、……LOVEってこと?」
「そうだな。自覚をしたのは今日だが」
逸る心臓、たぎる心、嫉妬にそらす視線、そらしたくない目線。
「僕を好きだから、抱いたのか?」
「どちらが先かわからないけどな。好きだから抱いたのか、抱いたから好きになったのか。だけど今日……お前を見ていて思った」
スガタの腕が伸びてくる。頬を包む手のひらは、いつもより少し暑い気がした。
「出逢った時から興味を持っていたのは、お前が…お前だったからなんだ」
体ひとつで本土からこの島に来て、なにを企んでいるのか、最初はそれだけを気にしていた。何かあるはずだと。
まさか銀河美少年だとは思わなかったが、あの時の胸騒ぎは、スガタが受け継いだシルシが共鳴していたのだろうか。
「タクト、どうして拒まない。僕はこのまま、お前をどうにでもできるんだぞ」
両頬を包まれたまま、至近距離で言葉を紡ぐスガタを、タクトはただ見つめているだけだった。
沈黙が訪れる。
それなのに視線の交錯は途切れずに、いつしか引かれあっていった。
――――スガタ……。
瞼が落ちる。
口唇が触れる。
髪が、互いの頬に触れる。
「なあ、スガタ」
――――僕はワコを守るためにここに来て、お前に出逢うために生まれてきたのか…な。
離れた口唇が最初に紡いだのは、罵倒でもなくまた愛の言葉でもなかった。
「ワコには、言えないな」
どうしよう、と困ったような困ってないような口調で、タクトは頬をかく。
「ワコを泣かせるなよ、タクト」
ふ、と笑ってスガタは歩き出す。その言葉には若干抗議をしたくて、タクトは後を追った。
「ワコを泣かせるなって、スガタに言われたくないよね」
いちばん泣かせているのはスガタのくせに。
それは口に出さないで、視線だけで訴えてやる。
「さて、どうするタクト」
「え?」
道が分かれるところでスガタは、ぴたりと立ち止まる。タクトは不思議そうに、振り向いた。
「向こうは学園の寮。こちら側は僕の家だ」
どちらへ行くもお前の自由、という余地を残しながらも、スガタの視線はそうは言ってない。
「来いよ、タクト」
「無断外泊って、なんかペナルティなかったけ」
すくめた肩はイエスのシルシ。
二人はそれから、一言も交わさずにシンドウ家へと進路を取った。
#STARDRIVERー輝きのタクトー #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
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「やっぱり、意外だよ」
タクトはいつものように、スガタとふたりでシンドウ家に向かいながら感嘆とともに呟いた。隣を歩くスガタから、ふっと笑いが漏れる。
「この間からずっとそれだなタクト」
ここ最近は、スガタの家に行って剣の稽古をつけてもらうのが日課になっていた。
「だってさあ、スガタが芝居とか、あんまり想像つかないだろ」
南十字学園の演劇部に所属しているとなれば、主な活動は芝居であって、スガタが何かを演じるのはしごく当然の位置づけだ。
それでも普段のクールな彼を見ていれば、まさか芝居なんて、と思わないでもない。
だがそのギャップは、学園の生徒のみならず島の住民にも受けはいいようだった。
「スガタの一人芝居、見たかったな。映像とか残ってないの?」
からかう意味でなく、タクトは口にする。中等部の時に彼は、一人芝居をしたのだとワコが言っていた。
ファンクラブまでできたと聞いたが、それほどまでにスゴイものだったのか、純粋に興味はある。
「そんなの、残ってないよ。残念だろうけど」
「ちぇ。なあ、でもさあ、与えられた役が得意って、何でもできんの?」
彼は自慢するようにも自嘲するようにも言っていた。
しかしそれをこなしてしまうあたりは、やはりシンドウ・スガタなのだろう。タクトにはとてもできない。
「まあ、それなりにね。さすがにまだ老人だとかはやったことがないけれど」
想像して、笑う。ちょっと見てみたい気もするなあと、タクトは星の輝く夜空を見上げた。
―あ。
流れ星。
願う暇はなかったけれど、確かにその瞳の端を流れていった。
タクトはちらりと、隣のスガタを見やる。
願えば、叶うだろうか。
「なあスガタ、あの、それってさ……頼めば演じてくれるのか?」
好奇心の固まりだな、とスガタは肩を竦めてみせる。
「いいけど、たとえば何を?」
笑いながら返したスガタに、タクトの視線が泳ぐ。訊ねておいてだんまりはないだろうと、スガタはタクトを呼んだ。
「たっ、たとえばさ」
タクトは立ち止まり、制服のシャツをぎゅっと握りしめる。星明かりでは、顔が赤いなんてこと、振り向いたスガタには見えないだろう。
心臓がドクドクと波打つ。
「たとえば僕の」
ゴクリと、生唾を飲んだ。しわを作るシャツの溝が、もっと深くなった。
「こ、恋人役……とか」
小さく、小さく呟いた。
聞こえなかったのか、長い沈黙が続く。
そろそろその沈黙が痛くて、タクトは視線を上げた。
「ご、ごめん冗談」
「いいよ、タクト」
本気にするなよと続けたかった口唇が、止まる。
振り返ったままじっと見据えてくるスガタの視線と、静かな声。夏の風に乗って届いたそれは、タクトの耳を疑わせる。
「……え…?」
「聞こえただろ、演じてやるって言ったんだ」
スガタの答えは素っ気ない。どういう意味か分かっていてそうするのか、ただゲームのように思っているのか。
「スガタ、意味分かってんの?」
「なにが?」
「恋人役を演じるってことは、その、つまり」
「頼んでおいて今さら怖じ気づくのか? 僕は別にどっちでもいいけど、決めるのはお前だぞタクト」
この幕を開けるのか開けないのか、スガタは責めるようにも視線を投げつけてくる。
タクトはその視線を真正面から受け止めて、少しだけ、俯いた。
「なんで……そんなん受けてくれんの?」
「……興味本位。お前だってそうだろ、恋人役なんて」
ズキ、と心臓が痛んだ。
「そうだな、興味、あるよ。スガタが僕にどう接するのかとかね」
顔を上げる。挑発するように口の端を上げてやったら、スガタも同じように口の端を上げてきた。
「期限は?」
「飽きるまで。あとは、他人にバレたらそこで終了か?」
「分かった、それでいいよ」
手が震えているなんてこと、知られていないはずだ。
喉が痛いなんて、気づかれていないはずだ。
泣き出しそうだなんて、悟られてはいないはずだ。
「き、今日は帰るよスガタ」
「送っていかないぞ」
「いいよ、また明日な!」
ああ、と素っ気なく返すスガタに背を向けて、タクトは寮へ向かって走り出した。
―どうしよう。
靴の底に踏みつけられて音を立てる小さな砂利が、速いリズムを刻んだ。
―どうしよう、どうしよう…本当にっ……スガタと…!
タクトは口唇をかみしめて、あふれそうになる嗚咽を我慢して、必死で前だけを見つめた。
振り返れない。
スガタを、振り向くことができない。
この世界中でたった一人、大好きなあの人を。
つまずいて足を取られ、タクトは草むらに転がった。両腕を広げてまっすぐ前を見てみれば、変わらない満天の星が目に飛び込んでくる。
「スガタ……」
幕を開けてしまったのはタクト自身だ。
他にどうすることもできなくて、スガタの演技に逃げて、偽りを手に入れた。
「好きだよスガタ……」
嘘でもいいから傍にいたい。たとえ偽りの関係でも、今スガタを恋人と呼べるのは自分だけだ。それでいい。
それでいいと思うのに、溢れてくるこの涙はなんだろう。
「ちくしょう……」
風が吹いていく。もうすぐ夏の、季節だ。
#STARDRIVERー輝きのタクトー #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録