華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.59
NOVEL,その他ジャンル 2011.03.20
#STARDRIVER #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
「おはようスガタ」「ああおはようタクト」 翌朝教室で逢っても、スガタの応答はいつもと変わらない。いや…
NOVEL,その他ジャンル
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「おはようスガタ」
「ああおはようタクト」
翌朝教室で逢っても、スガタの応答はいつもと変わらない。いや、少しだけ笑みが混ざっているあたり、昨日の約束が嘘ではないのだと物語っている。
―いっそ、夢だったらよかったかも。
タクトは自分の席に座りながら、頬杖をついてはあーと大きくため息を吐いた。
スガタに、恋人役を演じてくれと頼んでみた。予想に反してそれは引き受けられてしまって、今になって悔やんでいる。
これで、何が変わるのだろう。
タクトはちらりとスガタを見やる。やっぱりいつもと変わらず、すました顔で本なんか読んでいた。
ナナメ45度から見るスガタの顔は、タクトがいちばん好きなものだ。もちろん、正面からでも横からでも、後ろからでも好きなのだけれど、この角度が、いちばん好きだった。
―重症、かな、僕。
こんなはずではなかった。この島に来た目的は別にあったけど、青春という名の学園生活を楽しみたかったのも本当だ。
高校生らしく恋人を作って青春を謳歌してみたかった。できれば可愛らしい女の子と。
それがどうだ、現実はこんなものだ。
初めて好きになったのは、素っ気ない同性。学園でも人気を誇る、シンドウ家のお坊ちゃま。
アゲマキ・ワコという可愛らしい許嫁までいる男を、なんで好きになっちゃったかなあと、タクトはもう一度ため息をついた。
スガタの態度は変わっていない。いつもと同じ、友人同士だ。
―スガタは……僕のことなんてなんとも思ってないんだろうな。まるっきり対象外だよ。
少しだけ寂しい気もした。
持ちかけたのは自分だし、後悔はしたけど受けてくれて驚いたし、きっとスガタならどんな役でもこなしてしまうんだろうと思う。
優しく笑いかけてくれたりするのだろうか。
手をつないでくれたりするのだろうか。
電話したりメールしたり、世間の恋人同士が普通にするようなことを、スガタがしてくれるのだろうか。
ふるふると首を振った。
シナリオなんてできていない。この先どうなるのか、少しも読み切れないのだ。
だけどスガタが受けてくれた以上、タクトもそれに応えていかなければならない。たとえ彼が、どんな【恋人】役を演じるのだとしても。
「タクト、ちょっといいか?」
昼休みに、ようやくスガタが声をかけてくる。
今日一日、何もアクションがなかったらどうしようかと思っていたところだ、タクトはホッと息を吐いた。
「いいよ、何?」
「ここじゃ話せない」
「移動しよっか」
あくまで友人同士、の風情でタクトは立ち上がった。教室の外へと顎で指し示すスガタをさえ、格好いいなあと思いながら。
そんな小さな仕種にまでときめいてしまうのだ。本当にハマりこんでしまっているなと、タクトは歩くスガタの隣で苦笑した。
特別教室へ向かう途中の廊下、この時間は人通りもなく、逢い引きをするには絶好の場所。壁を背にふたりでもたれて、少しの沈黙が流れる。
「タクト、昨日のこと覚えているんだろうな」
「え、なんで今さらそこなんだ?」
少し前から感じていた、スガタの不機嫌そうなオーラ。タクトは思わず振り向いて、彼の横顔を眺めた。
「覚えているならいい。お前からなんのアクションもなかったからな……無効なのかと思っただけだ」
「えっ、僕から……?」
驚いて息を飲む。タクトが思っていたそのままが、なぜスガタの口からも発せられるのだろう。
つまりはふたりともが、お互いからのアクションを待っていたらしい。
「ぼ、僕はその……よく分からないしさ。スガタは慣れてそうだったし、任せようかなって思ってたんだけど」
「なぜ僕が慣れていると思うんだ」
「スガタだから」
それ以外に理由なんてないよ、とタクトは続ける。スガタはその答えに不満なのか、眉を寄せた。
きっと理由を探せば、学園でもモテるからとか、許嫁までいるんだしとか、いろいろ出てきそうではあったが、タクトにはそこまで頭が回らなかった。
「分かった。タクトがは具体的にどうしたいのか訊きたかったんだが、無駄だろうな」
「具体的にって」
「今シンドウ・スガタを作り上げているのはお前だ。タクトは何を望んでる? 僕はその通りに演じてやる」
タクトは答えにつまる。
具体的なことなんて、あの時は考えていなかった。そもそも受けてくれるなんて思わなかったし、スガタとどうしたい、なんて訊かれても困ってしまう。
「普通って、どうすんのかな……? デートしたり、電話したり……メールしたりさ、たぶん……そういうの」
俯いて、タクトは頬を染めながら呟いた。
スガタとそんな関係になるなんて考えつかないのに、口唇は動いてしまう。
「デート、……ねえ……。じゃあ手始めに今日の放課後、だな」
「えっ!?」
いいのかと口には出さず、勢いよく上げた顔と、振り向く視線で訴える。その仕種には、スガタの方こそ驚いてしまった。
「予定が入っているのか? 明日でもいいけど」
「なっ、なななな、ないけどっ、でも、あの」
「じゃあ問題ないな」
「えっと……」
タクトは、ややあってうん、と頷く。予定は入っていないけど、スガタにデートと言葉にされると気恥ずかしくて、困ったように笑った。
「あと、確認事項がいくつか」
「な、なに?」
「ワコには言ってない。それでいいか?」
言うなよと暗に告げる鋭い視線が、タクトを突き刺す。ズキ、と心臓が痛んだ。
それでいいよと返す端で、やっぱりワコが好きなのかなあと拳を握る。
特に正式な約束を交わしているわけではないと聞いているが、あのふたりがお互いを大事にしているのは目に見えて分かる。
演技とはいえ男の恋人役なんて、それを裏切るようで後ろめたいのだろうか。
「恋人としては、優しい方がいいのか? それとも、イジめられたいタイプ?」
「いつものスガタでいいよ。変に優しくされても気味が悪い」
「ハハ、そうだろうな」
笑うスガタに、タクトの胸が跳ねる。あれも演技だろうか、それとも本当に笑ってくれているのだろうか。
「そして、あとひとつ」
伏せられた目蓋が、すっと持ち上がる。まっすぐに射抜いてくる瞳からは、視線を逸らせなかった。
「タクト、どこまでする?」
「どこまでって?」
「たとえば」
ぐいと腕を引かれる。
「キスとか」
呼吸が触れるくらいの位置で、スガタの呟き。
タクトは意味を理解して、頬を真っ赤に上気させた。
「スッ、スガタ!」
思わず、彼の胸を押しやる。シャツ越しに触れた体温に、また胸が跳ね上がった。
「……こういうのはナシってことでいいのか? 子供だましだな」
「あっ、あの、今のはちょっとビックリしただけで! だって、スガタがまさかそんなの……」
してくれるなんて思わなくて。
口にできない。今自分の身に起きていることが、理解しきれなかった。恋人役を演じてくれと頼んだのは自分だが、
「こ、恋人なんだし、そういうのはアリだよな」
どこか他人事のように思っていた。
それなのにスガタは、演じてくれている。嬉しくて泣きたいのか、悲しくて泣きたいのか分からないまま、タクトは自嘲気味に笑った。
「イくとこまで、イッちゃおうか」
それならこちらも、合わせて演じるだけだ。
シンドウ・スガタに恋する、少年を。
「段階は踏むぞ、タクト」
「徐々にってことで」
「ああ」
視線が離せない。タクトはスガタの金の瞳を見つめながら、本当に綺麗だなあと心で思った。
「タクト、目」
「……うん」
閉じろ、と最後まで言わないスガタに、閉じたくないと言えばよかったと、タクトは目蓋を下ろしながら考える。そうしたら、ずっと見つめていられたのに。
スガタの両手が頬を包んで、引き寄せてくれる。早鐘を打つ心臓を押さえようかとも思ったけれど、その前に重なった口唇に、意識を全部もっていかれる。
思っていたより少し硬い、スガタの口唇。
―うわ、あ……っ。
押しつけるようなスガタのキスに、ドキドキとソワソワが重なる。
腕を背中に回そうか、それとも首にしがみつこうか。
考えているうちに口唇は離れていき、少しだけ不満に思う。
「……ふぅん……」
「な、なに」
「いや、緊張してるあたりが…面白いなと」
カッと頬の熱が上がる。口唇が触れたのだ、タクトの緊張など容易に知れたことだろう。
―スガタばっかり余裕でズルイ!
もっともそれはスガタのせいではないけれど、多少の八つ当たりくらい、心の中でなら許されるだろう。
「タクト、あの時の答え……聞いてなかったな」
「え? なんかあったっけ?」
「人工呼吸はキスのうちに入るか」
出逢った日、スガタはタクトにそう訊いた。
「……どうだろ、入るのかな…。でも意識がない状態ならそれは……僕の知らないキスだから、……ナシ? かな?」
スガタの意味心な言葉に首を傾げつつも、タクトは真剣に考え込んだ。初めてのキスくらい、好きな人としてみたい。
「じゃあ、お前にとっての初めては、僕か。よかったのか?」
「えっ……」
タクトのその願いは、ついさっき叶えられた。もちろんスガタはそんなこと、気がついていないだろうけれど。
「ス、スガタならいいよ」
肩を竦めて、おどけてみせる。
ツナシ・タクトの初めては、シンドウ・スガタにもっていかれた。その事実だけで充分だ。
「そう。面白いことを教えておいてやるよタクト」
そろそろ昼休みが終わる。教室へ戻ろうと、スガタは踵を返す。タクトもそれに続こうとして、途中で足を止められた。
「僕が知る限りじゃ、キスをしたのはお前が初めてだ」
「え」
それだけ言って、スガタは何もなかったようにスタスタと歩いていく。
タクトは頭の中でその言葉を繰り返して、意味を探って、理解してボッと頬を染めた。
―ファ、ファーストキス!? ファーストキス、くれたの!? なにあいつ、ほんとどうしよう、やられた…!
力が抜けて、思わずガクリと膝を折って床に手をつく。
キスができただけで死にそうなくらい幸せなのに、シンドウ・スガタはとんでもない爆弾を落としていった。
ぎゅっと目を閉じて、幸せをかみしめる。
演技でいい、傍にいさせてほしい。
嘘でもいい、傍にいてほしい。
―ちくしょう、好きだよスガタ……!
チャイムが鳴っても動くことができずに、タクトは結局五時限目をサボることになる。
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