華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.60
NOVEL,その他ジャンル 2011.03.20
#STARDRIVER #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
「タクト、帰るぞ」「あ、うん」 授業が終わって放課後。 今日は演劇部の活動もないし、帰り支度を整えて…
NOVEL,その他ジャンル
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「タクト、帰るぞ」
「あ、うん」
授業が終わって放課後。
今日は演劇部の活動もないし、帰り支度を整えてタクトは立ち上がる。
「あれ? スガタくん、タクトくんとどっか行くの?」
「ちょっとね。男同士の話しだよ」
約束してたんだと、いつものようにワコに優しく笑いかけるスガタに、タクトの心臓が少しだけ痛んだ。
「ワコ、悪いけど今日はタクト借りるよ」
「なんで私の了解がいるかな? 男同士、楽しんでおいでよ」
だってワコはタクトを気に入っているみたいだからと、スガタは口にはしなかった。さすがに教室だし、とは思うが、そんな事実は教室中が知っている。
「明日は一緒に帰ろうね」
「ああ。ワコ、気をつけて」
手を振って友人と教室を出ていくワコに、スガタは笑って返し、タクトも同じように手を振った。
バスに乗って街に出た。学校の近くでは正直何もないし、ただ座って話すというのもオツなもんだが、とりあえずは初心者コースだ。
「あれ、新しい店ができてる」
「え、どこどこ?」
スガタの視線を追って、タクトはよく見えるようにと手をかざす。ピンクを基調にした、可愛らしい店だった。
「クレープ?」
「食べるか? 基本だろ、デートの」
見れば家族連れや会社帰りの女性、中等部らしき制服がちらほら見える。
「そっ、そうだな!」
デート、とささやいたスガタに少しだけ頬を赤らめ、タクトはその店へ足を向けた。くすくすと笑いながら、スガタも後を追う。
「どっちにしよう……」
ウインドウに飾られた商品サンプルをしげしげと眺め、タクトはうなる。どうやら決めかねているようで、スガタはまた笑った。
「そんなに悩むことか?」
「悩むよ! だってイチゴチョコカスタードスペシャルだって美味しそうだし、みかん銀河ホイップだって美味しそうだし!」
真剣に悩んでいる様を見て、今いちどこが悩みどころか分からない。
「どっちかに決めろよ。また今度食べればいい」
「んー……えっ!?」
「なに?」
僕はもう決めたけど、とカウンターへ向かおうとするスガタに、タクトは驚いてウインドウから顔を上げた。
「あ、い、いや、何でもない!」
決めたとスガタを追って、カウンターへと向かう。
気づいているだろうか、とタクトはその背中を見つめながら思う。
―今度また、一緒に来てくれるってことかな……。
ドキドキが止まらない。スガタの一挙一動に、こんなに動揺してしまうなんて、思ってもみなかった。
いつまで、この気持ちを隠していられるだろう。
もしかしたらもう、気づかれているかも知れない。
タクトは結局、イチゴチョコカスタードスペシャルを頼み、スガタの方はハムとチーズのホットクレープを注文したようだ。
イートインもできるらしかったが、もう店内は満席で、ふたりは少し離れた場所のベンチに腰をかける。
「すごく甘い匂いがする」
「美味いよ。スガタは甘いもの苦手?」
苦手というわけではないけれど、とスガタは前置きをして呟く。
「そういうのはワコで慣れてるからな。ただ、お前とってのが想定外だったから……」
「あー女の子は甘いの好きだよなあ。俺ね今度さ、パフェ食べてみたい」
あれはまだ食べたことないんだ、とタクトは広い空を見上げた。
そよいでいく風が、頬をくすぐっていく。
「ああいうのって一人じゃ食べる勇気ないしさ。だから、今度さ、一緒に行こう」
「……タクトと一緒にいると、あんまり経験できなかったことが体験できそうだ」
「へ?」
肩を揺らしながら、スガタは笑う。口の端にカスタードクリームを付けたタクトが振り向いて、首を傾げる。
「クレープなんて食べたの、どれくらいぶりだろうな。しかも学校帰りになんて」
ワコにつきあってカフェに入ったりしても、大抵は飲み物だけ。誰かと一緒に外のベンチでなんて、もしかしたら初めての経験じゃないだろうか。
「……そうなの?」
「僕は稽古もあるからな。今度また稽古つけてやるよ」
「お手柔らかに頼むぜぇ~?」
タクトは何でもないように返しながらも、内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。
【恋人同士】になってから、知らなかったスガタをたくさん見られる。それはもちろん演技であるのだろうけど、スガタの本質は損なわれていないはずだ。
「へへ」
もふ、と甘いクレープにかじりつく。一人で食べてもきっと美味しいだろうが、今日は内緒だけれど大好きな人と一緒。美味さも数倍。
「タクト、それそんなに美味しいのか?」
「ん? 食べる?」
ずいぶん美味しそうに食べるんだなと訊ねるスガタに、タクトは冗談混じりに差し出した。
「ん」
「え」
思わず目を見開く。
スガタは体を屈めて、タクトの甘いクレープにかじりついた。タクトの頬が真っ赤に染まり、危うくクレープを取り落とすところだった。
「……甘い」
「そっ、そう? 僕はこれくらいがいいけど!」
絶対に全部は食べられないとわずかに眉を寄せるスガタに、タクトは慌ててクレープを戻す。
―何だこれ、恋人っぽい……! っていうか、間接キッ……!
恥ずかしい、と俯く。今日は初めてキスだってしたのに、たかが間接キスくらいで慌ててどうするんだ、とタクトは自分に言い聞かせる。
だけどどんなことだって、スガタ相手なら嬉しいに決まっているのだ。それを否定することはできない。
「こっちも食べてみるか? 少し冷めてるけど」
お返しに、とばかりにスガタが自分のクレープを差し出してくる。タクトは振り向いて、スガタを窺うように眺めて、小さくうんと頷いた。
―やばい、すげえドキドキする。
体をスガタの方へと傾けて、はふ、と柔らかなクレープを口に含んだ。熱で溶けたチーズと、温かなハムの塩味が、口の中に広がった。
「美味し……」
今までずっと甘いクレープばかりだったけど、ホッとクレープもいいなあと、タクトは笑いかけた。
「タクトは、ころころ表情が変わるな。見ていて面白い」
「ねえそれって褒め言葉じゃなくない?」
クレープの包み紙を、スガタはきちんと折り曲げて、タクトはくしゃりと丸める。あースガタらしいなと思って、小さく抗議してみた。
「褒めてるよ、素直ってことじゃないか。僕はそんなの、とうの昔に消えちゃったからね」
タクトは、失言だったかなと考える。
スガタは自分の境遇を知って、いろんなことを諦めてきたらしい。夢だってあったかもしれない。いや今だってあるかもしれない。
ワコも、いろんな何かを諦めて、この島に縛られている。
タクトは、放り出されたようなスガタの手をぎゅっと握った。スガタはその行動を予期していなかったらしく、目を瞠って振り向いた。
「タクト?」
「言っただろスガタ。敵のサイバディは、僕が全部破壊する。そうすればワコも、スガタも自由になれるよ」
この島に来た本当の目的は、言えなかった。だけど今、心の底からそう思う。
スガタの笑顔が見たい。
諦めたようなものじゃなく、演技でもなく、本当に心からの笑い顔が、見たい。
「ワコとスガタが傍にいてくれたら、僕は頑張れる」
サイバディの構造も、遺跡のことも、詳しいことは何も知らない。それどころか、自分の操るタウバーンのことも、スガタのザメクのことだって分からない。
サイバディを全部破壊したところで、ワコやスガタの呪縛が解けるのかさえ。
破壊した跡に、なにが見えてくるのか、タクトは何も知らなかった。
「……いるよ」
スガタはふっと笑い、ぎゅうと握ってくるタクトの手に指を絡め、握り返す。
「いるよタクト。お前の隣に」
約束、ではない。
それは約束ではなく望みにしかならないけれど、充分だった。
「うん……」
タクトも絡めた指に力を込めて、ふたり、沈黙を過ごした。
「わざわざ送ってくれなくても良かったのに」
「どうして。基本じゃないのか?」
学園の寮まであと少し。今さら言ってもどうにもならないが、タクトはチラリとスガタを見やる。
「僕は今お前の恋人なんだ。少しでも長くいたいと思うもんじゃないのかな」
「えっ、あ、ああ……そうか、そういう……もんか」
―そりゃ僕だって少しでも長い時間、一緒にいたいけど。
ここまででいいよと、タクトは笑う。これ以上長く一緒にいたら、引き留めたくなってしまう。
演技とはいえ、想いが叶ってしまうと、こんなにもわがままになってしまうんだなと、タクトは初めて知った。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日な!」
ひらりと手を振って、スガタは自分の家へと足を向ける。スガタの背を見送って、火照る頬を隠しながら、タクトは寮へと向かっていった。
今日はご飯なんて入らない。
恋心は、いつだって純情可憐、幸せいっぱい。タクトは部屋に戻るなりベッドに突っ伏して、スガタを想った。
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