No.70

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Shooting Star-013-

NOVEL,その他ジャンル 2011.03.20

#STARDRIVER #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録

「タクトくん、大丈夫?」 もう昼休みに入ったのかとタクトは目元を拭う。閉めていたカーテンを開けて、入…

NOVEL,その他ジャンル

Shooting Star-013-

「タクトくん、大丈夫?」
 もう昼休みに入ったのかとタクトは目元を拭う。閉めていたカーテンを開けて、入ってきたのはアゲマキ・ワコ。心配そうな顔をして、それでも覗いた先に思ったよりも平気そうなタクトを見つけて、ホッとしたようだった。
「ワコ、ごめん大丈夫だよ」
「ホントに? もうお昼だけど、どうするの?」
 もう購買部売り切れてる時間だよ、と最初に心配するのが食事のことであるあたり、さすがはワコといったところだろうか。
 もともとあんまり食欲もないしと起き上がったところへ、もう一人の見舞い人。
「ワコ、タクト起きてる?」
「あ、うん大丈夫そうだよ」
 ドキンと心臓が跳ね上がった。どんな顔をして逢えばいいのか分からなくて、だけど視線を逸らす暇はなかった。
「顔色はいいみたいだな。ほら」
「えっ、あ」
 作ったような笑顔で顔を覗かせたのはシンドウ・スガタ。彼がタクトの膝の上に放ってきたのは、ひとつの菓子パン。
「好きだったろ、メロンパン」
「う、うん……」
 ありがとう、と小さく呟く。
 スガタはちゃんと弁当があるはずだ。タクトのために、わざわざ購買部まで行ってくれたのだろうかと思うと、嬉しくて恥ずかしくて頬が染まった。
「ワコ…すまないけど、ちょっとふたりにしてくれるかな」
「え、あ、うん。私ご飯食べてくるね。タクトくんも平気そうだし」
 またあとでね、とワコは手を振って保健室を出ていく。引き留める暇もなくて、タクトはいたたまれずに俯いた。
「寝てなくて大丈夫か?」
「あ、う、うん平気。さっきはありがとう」
 スガタは立ったままタクトを見下ろす。そんな彼を見上げることはやっぱりできなくて、顔ごと反対側を向いた。
「こんなとき恋人としては、どうしてやるべきなのかな」
 校内ではあるが、今はふたりっきりだ。恋人を演じるのに、不都合はない。
 だけど、どうしていいかなんて分からない。
「……分かんない」
 タクトはシーツをぎゅっと握りしめる。言わなければいけない言葉はあるのに、口唇を滑ってくれない。
「タクト、正直に言ってくれ。続けるつもり、あるのか? 好きな子がいるなら、ちゃんと」
「僕はっ……!」
 タクトはバッと顔を上げて降り仰ぎ、スガタの声を遮る。好きな子がいるならそっちに行っていい、なんてスガタの口からは聞きたくない。
「僕は……」
 好きだ、と言ってしまえばいいのか。
 それともさよなら、と言えばいいのか。
 泣きそうになって歪む目元。それを認識してか、スガタの眉が寄せられる。
 そんな顔をさせたいわけじゃない。
「スガタが、……スガタが選んで」
 そして、答えを出すことから逃げる。どうすることがスガタにとっていちばんいいのか、タクトには選んでやることができない。
 いや、スガタにとっていちばんいいことなんて分かりきっているのに、自分のためにそれを選ぶことができなかった。
「タクト……」
 スガタの手が持ち上がる。少し乱れたタクトの髪をかき上げたそれは、ゆっくりと降り、口唇をなぞっていった。
「そんな顔を、させたかったわけじゃない」
「え…―」
 不意に、重なってくる口唇。反射的に伏せた目蓋に、スガタの髪が被さるのが感じられた。
「今日は拒まないのか?」
 そっと触れるだけ触れて離れていった口唇を、タクトはぼんやりと眺める。どういう意味で、どう返していいのか分からないままスガタが離れていく。
「お互い相手に答えを任せるって、ちょっと卑怯だな」
 苦笑だけ漏らして、スガタはベッドカーテンの向こうに消えていった。
「……スガタ!」
 保健室のドアが閉まってようやく、タクトは我に返る。慌ててベッドを降りて、もつれる足をどうにか踏ん張ってスガタを追いかけた。
 スガタの行動の意図が読み切れない。もともと読み取れないけれど、つまり彼がどうしたいのかが少しも分からなかった。
 きょろりと廊下を見渡すのに、スガタの背中さえ見えない。どこに行ったんだと不安になって、眉が下がる。勘を頼りにタクトはスガタを探した。




「ねえ、ケンカでもしたの?」
 棟をつなぐ渡り廊下で、スガタを待っていたワコは不意に訊ねた。
「ケンカって、タクトとか? してないけど、どうしたんだワコ、急にそんなこと言い出して」
「急にじゃないよ、ずっと気になってたのに」
 大好きなお弁当も食べずに待っていたということは、何か話しがあるんだろうとは思っていたが、その予想は外れてほしかった。
「土曜日からずっとだよ? スガタくんとタクトくんの態度がぎこちないの。まさか気づいてないとか、言わないよね」
 だってスガタくんだし、とワコは続ける。
 いったいこの少女は、シンドウ・スガタという男をどう評価しているのだろう。
「さっきね、ルリも言ってたの。ぎこちないねって。ねえこの意味分かる?」
「彼女にまで気づかれるほど、目に見えておかしいってことだろ」
 そうだよ、とワコはため息混じりに返した。
 スガタと長い時を過ごしたワコだけならまだしも、クラスメイトというだけのルリにまで、ふたりの間がおかしいのは見えている。
 心配をするなと言われても、きっとそれは実行できない。
「そんなに、不自然か?」
「不自然。おかしい。違和感ありすぎ。さて反論は?」
 スガタが立ち止まってワコに訊ねる。くるんと体ごと振り向いて、ワコは答える。
 どうも、スガタには心当たりがあるようなのだ、ワコは黙って見ているなんてできやしないとじっとスガタを見つめる。
 スガタのことは、この島でいちばんよく理解していると思っていた。いちばん理解していたかった。ツナシ・タクトが現れてから、それは少し変わってしまった。
 一本しかなかった線が、歪み始めている。それがどうというわけではない。ただこのふたりと、関わっていたいのだ。
「タクトくんと、なにがあったの?」
 壊れる前に、つなぎ留めておきたい。
 スガタは、退く様子のないワコを眺め、目を細めて視線を逸らす。
 壁にもたれれば、ガラス越しに綺麗な青い空が広がっていた。
「ワコ、僕は……きみを大切に思ってる。それは知っておいてほしい」
「うん、分かってる」
 今さらだよ、とワコは茶化すためでなく笑う。自分の運命から逃げ出さないで生きてこられたのは、お互いが傍にいたからだ。
「タクトは、ワコのことを気に入ってると思ってる。ワコがタクトに対してそう感じているように」
「……うん?」
 ワコの問いに答えるというよりは、自分に言い聞かせているようなスガタを前に、ワコは少し首を傾げた。
「今、僕はタクトの恋人役を演じているんだ」
 決して合わさらない視線が、後ろめたさを物語る。
「……―え?」
「ぎこちないのは、きっとそのせいだろう。校内では友人同士だから、僕もうまく切り替えられなくて」
「ちょ、…ちょっと待ってなに言ってんの!?」
 にわかには信じられなくて、ワコは思わずスガタの腕をつかんだ。
 彼は今なんと言ったのだろうか。タクトの恋人、までは理解できた。だがそのあと、役を演じている、とは。
「役って……役ってなに? フリだけってこと? ねえ!」
「ワコ、ごめん、言い訳はしない。殴りたければ殴ってくれていい」
「スガタくん、自分が何をやってるのか、分かってるの!? 恋人の役なんて……だって、スガタくんは…!」
「ワコ!」
 黙っていたことを怒っているはけではないと詰め寄るワコに、スガタはハッとして叫んだ。それでもスガタの視線は、ワコの方を向いてはいない。
「あ……」
 追ったスガタの視線の先に、タクトの姿。ワコもハッと息を止めて、駆け寄ろうと踏み出す。
 寸前。
「ご、ごめん、聞いちゃって! あの、僕……邪魔するつもりは」
 タクトの震えた声に踏みとどまる。
 何を誤解したのかは、容易に想像できた。
「ス、スガタにはワコがいるもんな、そんなの……分かってたはずなのに…ほんと、ごめ……ッ」
「タクトくん!」
 最後まで言い切れずに、タクトは口を押さえて踵を返す。スガタとワコに背を向けて、追ってきた道をとって返した。


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