華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.66
NOVEL,その他ジャンル 2011.03.20
#STARDRIVER #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
「タクトくん、昨日も泊まったんだ? ほんと毎週だよね」 こちらも毎週のように朝食を食べにくるワコが、…
NOVEL,その他ジャンル
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「タクトくん、昨日も泊まったんだ? ほんと毎週だよね」
こちらも毎週のように朝食を食べにくるワコが、カリカリのウインナーをほおばりながらタクトに声をかけた。
「ワコこそ、また来てたのか。スガタ、お風呂ありがと」
「先に食べてるけど、いいよな」
「ん」
まだ少し濡れた髪を構いもせずに、タクトは定位置になってしまった椅子に座った。正面にはワコ、右角にはスガタが位置している。
タクトはホッとする。ワコがいてくれるおかげで、スガタもいつもと変わらず話しかけてくれる。スガタを変に意識しないですむ。
スガタとふたりきりにならずにすむ。
タクトはそう思って、目を見開いた。
ジャガーとタイガーがタクトの分の朝食を用意してくれて、ハッとしてありがとうと告げた。
「んん、美味いー」
いつも通りふんわり卵のオムレツ。
だけど心臓が震えて手が震えて、本当は味わってなんかいられなかった。
―おかしい。
スガタとふたりでいたくないなんて、先日までは考えたこともなかったのに。
―なんで……僕……。
いつだってふたりっきりになりたかった。学校でだって、恋人同士のように過ごしたかった。
スガタを嫌いになったわけではない。そんなことができるなら、いっそその方が楽だっただろうに。
スガタが怖いわけでもない。昨夜の彼は激しくても優しかった。
タクトはそんなことばかりを考えて、瞬きもできなくなる。
「タクトくん、どうしたの? 食欲なさげ?」
「えっ、あ、大丈夫だいじょうぶ……ってワコ、僕のご飯!」
手が止まってしまったタクトを不思議に思って、ワコは首を傾げる。食べないんならもらってあげる、とくるみ入りのパンをひょいぱくりと口へと運んでく。
「え、たへふ?」
「いや、いーけどさ」
「タクトくん、ワコ様、おかわりありますから。今持ってきますね」
そんな様子を見かねて、ジャガーは笑いながら食卓を出ていく。タイガーはスガタに紅茶を入れながら、本当に週末がにぎやかになりましたねと笑う。スガタはそれに、そうだねと返し、お決まりになってしまったタクトとワコのやりとりを眺めていた。
また、ツナシ・タクトという人間がわからなくなった。
あの日あの丘で、ゼロ時間の中で拳をぶつけ合って、少しは分かり合えたと想っていた。少なくとも、自分が親友と呼んでいい立場に立ったことは理解できた。
だからこそ、ワコを気に入っているような彼との関係を崩したくなかったのに、それは彼の方から崩された。恋人を演じてみてくれと言った彼を、どうすればよかったのかいまだに分からない。
興味本位と答えて、始まったのはままごとみたいなつきあいだったのに。
きっかけは何だったのだろう。
ああ、そうだ、劇団夜間飛行の演目だ。
演技でさえキスできるじゃないかと最初になじったのは、スガタだったように思う。それに対抗するように答えてきたのはタクトで、スガタはそこで自嘲気味に笑った。
―挑発したのは僕の方か。
「今度はスガタくんが元気ない。どーしたのふたりそろってもー」
「そんなことないよワコ。少し寝不足なだけで」
沈みかけた思考を遮ってくれるワコの声に、スガタは顔を上げて笑ってみせる。タクトが、逆に目を瞠った。
「本当に~?」
疑わしげな視線を向けるワコに、スガタは形無しだ。本当だよとホールドアップの真似までして、寝不足以外いつもと変わりないと主張した。
「本当だよワコ、昨日僕さあ、スガタの部屋で話しこんじゃって、お互い寝たの遅かったんだよね」
申し訳なさそうにハハハと笑いながら、タクトなりのフォローを入れる。
「ああ、だからタクトくんも眠そうなのか。いいなあ男同士って。楽しそう」
「ワコだってルリちゃんいるでしょ」
まあねとワコは笑う。親友同士でやりとりする事柄など、彼女の方こそよく分かっているだろう。
タクトは女の子ってどんな話しするのと訊ねながらも、心はずっとスガタの方に向いていた。胸がズキズキと痛む。
―スガタ……。
正直言って落ち込んだ。スガタにあんな顔をさせているなんて、ワコが声をかけるまで気づいていなかった。
いちばん初めに気づいていたいのに、自分のことで精一杯だった自分をなじりたい。
きっと後悔しているのは向こうだって同じだろう。演技で男なんか抱いてしまって、格好も付かない。
「へえ、女の子ってそんなことばっかなんだ」
「普通だよ、好きな男の子の話なんて。特にルリはそういうチェック早いから」
「ワコは、好きな人いるの?」
「えっ」
ため息混じりに呟くワコに、スガタは意地の悪そうな笑顔で横ヤリを入れた。
途端に真っ赤に染まるワコの頬。そういうこと聞くかなあとワコの声に、タクトの心の声も重なる。
ワコはスガタの許嫁で、スガタはワコの許嫁。しきたりとはいえ、ふたりがお互いを想っていることなんてすぐにわかるのに。
「ワコ、恋愛は自由だよ。ワコが僕との結婚イヤじゃないならそりゃ、光栄だけど」
「よく言うわねー」
責めるようなワコの視線が、スガタに突き刺さる。もっとはっきりしてほしいという意思表示なのか、心にもないことをという責めなのか。
スガタは肩を竦めただけで、それ以上は何も答えなかった。
「ごちそうさま。ねえ今日三人で街の方行こうよ」
それを別段気にする風でもなく、ワコは空になった皿の前で手を合わせた。いつもながら見事な食いっぷりだ。
「いや、僕はいいよ、やることあるし。二人で行ってくるといい」
「え、そうなの?」
なんだぁ…とワコは残念そうに眉を下げる。そして、タクトも。
顔を合わせづらいのは分かるけれど、そんなにまであからさまにしなくてもいいじゃないかと、少しばかりスガタを責めてみた。
「じゃあタクトくん、今日はデートね」
「―喜んで」
ぱっと表情を変えるワコに、それでもタクトは笑い返す。可愛いなあと、素直に思う瞬間だった。
食堂を出たところで、ようやくスガタと視線が重なって、タクトは極力気にしていない素振りを装った。
「ねえスガタ、昨日は……」
「言うな、タクト」
だけど、ごめんと言いかけた言葉はスガタに止められる。
やっぱり怒ってるんだと俯くと、
「まだ続けるつもりがあるなら、謝る方がおかしいだろ。僕たちはあの時、恋人だったんだ」
思っていたこととは違う言葉が飛んできて、思わず顔を上げた。
「ス、スガタ……?」
まだ続けてくれるつもりでいたのか、と頭の中が整理しきれない。謝るなと言う彼は、あの時の自分たちの行為が間違っていたことだと位置づけてはいないようだ。
謝る、それはすなわち、恋人同士の合意の行為ではなかったということになってしまう。
「……うん、分かった」
イコール、終わりになってしまう。
身勝手でもひどくても、スガタの傍にいたかった。
「今度また、デートしようなスガタ」
「……そうだな、楽しみにしておくよ」
何でもないようにタクトは笑顔で告げて、ワコのあとを追う。スガタも、恋人の顔でそれを見送ってやった。
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