カクテルキッス4-ふたりの約束-

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このベッドで千景に抱かれるのは、二度目だった。
唇が首筋を通る。前髪が肌をくすぐり、いつも以上に敏感になった至の吐息を熱くさせた。
「は……、あ」
「茅ヶ崎、感じすぎ……」
「誰かさんがほったらかしにするからでしょうがっ……」
ずっと触れたかった、と両腕で抱き寄せれば、耳に吐息が吹きかかる。
「待たせてごめん」
「その分朝まで抱いててください」
「へえ、いい覚悟だ」
「いややっぱヤメテほんと無理、朝までコースとか死ぬ」
「じゃあ死なない程度に」
指先が胸の突起を押し潰す。ん、と鼻から抜けていった甘ったるい声に自分で驚いて、至は恥ずかしさに口許を覆った。それを退かせようと思ってなのか、千景は両方を執拗に責め立ててくる。
「んっ、んぁ……や、だめ」
「こうされるの好きだろ。硬くなったとこ、爪で引っ掻いてやると、茅ヶ崎はすごくスケベな顔になるよね」
「スケベなことされてんだからしょうがないでしょ! って、あ、も……やだ、そこばっかり」
口許を覆っていたはずの手は、千景の思惑通りにすんなり外れてしまう。それを確認してから、千景は片方の乳首に吸いついてきた。
ぬらりと円を描いて乳にゆう暈うんをなぞられ、息が上がる。軽く歯を立てられた時には快感が背筋を走り、つま先でシーツを掻いた。
ちゅう、ぴちゃ、とわざと立てられる音に興奮して、おずおずと手を下に伸ばす。
そこだけじゃ物足りなくてもどかしい。そうした至に気がついて、千景が一緒に手を誘導してくれた。
むくりと立ち上がりかけた自身の中心へと。
千景と指を絡めて握り込めば、自分の手なのに思惑通りに動かなくて、思わず背をしならせる。
指の腹で裏筋を撫で、指の先で鈴口を擦り、手のひらで袋を揉みしだく。ひっきりなしに襲い来る快感に、上手く呼吸ができない。
「せん、ぱ、い、そこいやだ……い、あっ、あ……!」
「腰揺れてる……気持ちいいのか」
「分かりきった、ことっ、言わないで……」
「うん……でも今まで、気持ちよくしてやりたいなんて思った相手が、茅ヶ崎以外にいないから。気持ちよさそうにしてるの見ると嬉しくて、つい」
涙のにじむ目尻に口づけられて、カアッと?の熱が上がる。気持ちよくしてやりたいと思ってくれることが嬉しくて、きゅうんと胸が締めつけられた。
「茅ヶ崎、後ろ向いて……慣らすから」
そんな油断をしている隙に、ころりと体が転がされる。尻だけを持ち上げられ、恥辱的な格好になってしまった。正直この格好は好きではないのだが、負担を減らすためだと思えばそれも仕方がない。
「んっ……んん、あ、やっ……ちょ、待って、待っ……駄目……!」
だが、感じた舌の感触におののいて、思い出した。ここで初めて抱かれた日にも、同じように舌で慣らされたことを。顔が、体中が羞恥で真っ赤になる。尖らせた舌が、唾液をまとって入り込んでくる。抗議したいのに、ぞくぞくと背筋が震えて、小さな喘ぎ声しか出てこなかった。
「ちか、げ、さ……それやだ……っおねが、駄目、だめ……っ」
おまけに指まで入り込んでくる。押し広げられていくそこに、全神経が集中したかと思った矢先、開いた足の間から千景の空いた手が伸びてきて、先走りで濡れる性器をしごかれた。
「ま、待って無理、ほんとやだ、いや……っ一緒に、とか、あ、あぅ……ん、あ」
濡れた音が響く。シーツでこすれる胸の突起が痛がゆくて、それさえも快感にすり替わる。増やされていく指と流し込まれる唾液。ずくずくと疼く体の奥。
ゆっくり、速く、強弱をつけてしごかれて、腰が揺れてしまう。至はシーツをぎゅっと握りしめた。
「ちかげ、さん、千景さん……っ」
千景の舌が、太腿から尻へと這い上がる。唇で吸われる感覚と歯を立てられるのが伝わってきて、ぞくぞくと背筋を震わせた。
「は、はっ……食われそ……」
「俺の好きなスパイスかけようか」
腰の骨へと口づけて、千景は体を起こしたようだった。シーツを握りしめた至の手に、千景の手のひらが重なってくる。至は期待と情欲で、ゆっくりと息を吐いた。
「んんっ……!」
千景が入り込んでくる。およそ一か月ぶりの感覚に体が震える。押し込まれて息を止めれば、なだめるように背中を撫でられ、うなじに口づけられ、ゆるゆると緊張をほどいた。
「あ、あっ……あぁ」
千景の律動に、至の声が重なっていく。ベッドが軋んで、千景の吐息と重なっていく。ずっと奥まで入り込まれて、胸と背中が合わさった。
「い、……い、そこ、すごい……やだ、だめ、お願い抜かないで、千景さん……ッ」
「抜いてから、突いてやる……っ茅ヶ崎、もっと声、出して」
千景が腰を引く。引き留めたくて腕を掴むのに、反対に掴み返され、勢いをつけて押し込まれた。
「あぁッ……あ、や、やだ、いや……んっ、んん、あ」
気持ちがいいと言ってしまったことを、少しだけ後悔する。千景の責めは容赦なくて、言葉さえ?がらない。至は首を振り、快感に耐えようと呼吸を繰り返すのに、口から出てくるのは淫らな喘ぎ声だけだった。
「こんな、の、ひど、あ、いやだ、千景さ……」
体を起こされて、千景の上に乗ってしまう。自分の重みも手伝って、ぐっと奥まで千景の熱を受け入れた。
圧される内臓が、口から飛び出てしまうのではないかと思うほど、苦しい。苦しいのに、気持ちがいい。
いったいどうすればいいのかと、縋るものが何もない手をさまよわせたら、千景が強く握りしめてくれた。
「茅ヶ崎」
そのままぎゅっと強く抱き込まれて、背中と胸の間で汗が押し潰される。
肩に当たる千景の唇と、首筋をくすぐる千景の髪。何よりも、震えながら耳に入り込んでくる千景の声。
胸が締めつけられて、至は素直に千景に身を寄せる。
「千景さん」
名を呼んで振り向けば、唇同士が触れ合った。
あれだけ激しかった動きがなりを潜め、ゆっくり、ゆっくりと体を押し上げられる。抱きかかえるように支えられて、至は自分で腰を落とす。
じわじわと染み渡ってくる千景の存在に、言い様のない多幸感を味わって、至は性をほとばしらせた。程なく、体内に千景の体液を受け止めて、さらに幸福感が上乗せされた。

千景の指先が、髪を弄る。今までそんなことはしたことがなかったのに、どういう心境の変化だろうか。
「今まで、生き伸びるためにいろんなことをしてきた。盗みは日常茶飯事だったな」
そうして、ぽつりぽつりと語られる、千景自身のこと。至はじっと黙って耳を傾けていた。
「不正アクセス、薬の売買、さっきも言ったとおり、人だって殺してきたんだ。そんな手で、お前に触れるべきじゃなかった」
顔を横向けて、千景がじっと見つめてくる。そこに後悔は見られたけれど、苦笑交じりの顔は諦めに見えた。
「俺はお前を手放せない。お前が、手放させてくれなかった。その意味を、理解しているか?」
「俺のせいかよ」
「茅ヶ崎」
「分かってますよ、そうじゃないんですよね」
千景を手放したくなかったのは本音だが、それではお前のせいだと言わんばかりだと、至は三秒だけ視線をそらし、また戻す。
「俺のせいでも、あなたのせいでもある。二人の責任で、俺たちは安全よりも一緒にいることを感情で選んだんですから。もうそこ言いっこなしですよ」
至は逃げることもできた。千景は心を押し殺す道だってあった。
それなのに、またこうして?がってしまった責任は、お互いにある。
「暇な時でいいので、俺が絶対やっちゃいけないことだけ教えてください。任務がある時は、俺にだけ分かるように教えてください。そうしてくれれば、俺はあなたが帰ってきた時、ただ抱きしめるだけで迎えます」
「茅ヶ崎は、案外命知らずだな。俺が怖くはないの」
「あんな冷たい声で別れを切り出されたり、俺のこと忘れて不安と不審を込めた目で見られることを思えばね。……俺がどんな思いしたか分かってます?」
危険であることを承知で、千景の傍にいることを選んだ。それは自分のためでもあるし、千景のためでもある。自分という存在が、彼をここにつなぎ止める枷になればいいとさえ。
「忘れたの、怒ってる……よな、ごめん」
「忘れてる時のあなたは可愛かったですけどね。ものすごい素直で、?なんか吐かないし、正直組織のことがなければ、あのままでも良かったかな」
「…………じゃあ素直でも可愛くもない俺は今お前に?を吐くけど、戯れ言だから聞き流せよ」
「は?」
「好きだ、茅ヶ崎。俺を連れ戻してくれてありがとう」
体を起こした千景が肩口に顔を埋め直し、小さく呟いた。至は目を瞠る。
戯れ言だと逃げ道を残して、本音を告げたあの日の至と一緒の流れ。違うのは、今度は正面で向き合ったままだということくらい。
「……千景さん、聞き流せないんですけど……」
「じゃあ……、引き留める?」
「はい」
至は両腕を上げて、千景を抱き寄せる。触れ合う唇はあの日みたいに優しくて熱い。
満天の星の下ではないけれど、二人はもう一度確かな想いを唇に乗せ合った。

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