No.80, No.79, No.78, No.77, No.76, No.75, No.747件]

(対象画像がありません)

Please marry me!-006-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

「初めて……入った」 玄関に滑り込んだあたりで、アルトが不意に口にした。 そういえば婚約者なのにミハ…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-006-


「初めて……入った」
 玄関に滑り込んだあたりで、アルトが不意に口にした。
 そういえば婚約者なのにミハエルがどこに住んでいるのかや家族の構成さえ知らない。それに今さら気がついて、アルトは俯いた。
「ここはあんまり使ってないけどな。バイト先の宿舎あるし、あっちの方が便利なんだよ」
 買い込んできた食料をテーブルにドサリと置いて、ミハエルは立ち止まったままのアルトを振り返る。緊張しているのかなと肩を竦め、自分の中の欲望は押さえ込んだ。
「アルト、別に無理しなくても」
 歩み寄ってアルトに選択の権利を与える。
 はずだった。
「お」
 顔を上げたアルトの腕はミハエルの首を引き寄せ、ぶつけるように口唇を合わせてきた。
「んむ」
 文字通りぶつけてきたもので、ムードも色気もあったものじゃないが、意思だけはハッキリと伝わってきた。
 大丈夫。
「アルト……」
 ミハエルは、こてんと肩に額をゆだねるアルトの背中をぽんぽんと叩く。
「俺お前のこと何にも知らない。家族のこととか、バイトのことも……好きな食べ物は……だいたい分かるけど、そういえば誕生日とかも」
「俺たちいろいろ順番間違ってるよな。つきあう前に結婚申し込んで、いろんなこと話すより先にキスして、……こんなだもんな」
 ちゅ、と口唇にキスを落として、ミハエルはアルトを部屋の中へと促す。そうだなと笑うアルトに、気持ちを先に伝えられたことだけは、それでもまだ間違いの中のひとつの正解といったところだろうか。
「ここさ、両親が遺してくれたとこなんだ。だからたまに帰ってきたりはしてるんだけど」
 やっぱり生活感はあんまりないよなと苦笑するミハエルに、アルトは気がついてごめんと呟く。
 遺してくれた、ということはもう他界しているのだろう。大切な人がこの世からいなくなるということが、どれだけ苦しくて悲しいか、母を亡くしたアルトもよく知っている。両親ともとなれば、痛みも苦しみも倍増だろう。
「こんなこと訊いていいのか分かんないけど、ミシェル」
「うん?」
 出来合いの総菜と、レトルトのドリアと、サラダとドリンク。いつもここで食事をするわけじゃないからと、すぐに食べられて残らないものを買ってきた理由が分かる。
「家族……いないのか」
 疑問符のつけられないアルトの呟きに、ミハエルはああと何でもないように返した。
「両親も、……姉も軍人だったからな。覚悟はずっと前からしてた」
 テーブルにふたりで並べながら、呟くミハエルを眺めるアルト。
「じゃあ、お前も軍に入るのか? この間言ってた隠してることって、もしかしてそういうことなのか」
「いや、別にそのことじゃないんだけど、軍かあ……どうだろうな。特に考えてないな、そういうのは。さ、食べよう」
 椅子に腰を落ち着けて、向かい合う。そんなにしんみりしないでよと苦笑するミハエルに、アルトはハッとしてごめんと呟く。
「でもほら、お前の家族は、俺がなるから!」
 だからひとりだなんて思うなよと続けるアルトに、ミハエルは目を見開いてフォークを止めた。
 彼は意味を把握してそう言っているのだろうかと考えて、肩が震える。
「なんか笑ってる?」
「いや、ごめんごめん、嬉しくてつい」
 最初に求婚したのはミハエルの方。言い方も順番も間違えたけれど、気持ちだけは本当だ。それを前提としたつきあいを意識して、家族になるよと言ってくれたアルトを、心の底から愛しく思う。
「今日は、予行演習かな」
「今度はちゃんと、俺がご飯作ってやるよ。こんなんばっかり食ってたら体に悪いだろ」
「ホント? 嬉しいなー、いいお嫁さんになるよ姫」
 バカかと笑うアルトを見て、ミハエルはホッとした。
 緊張はどうやら解けたようで、いつも通り笑ってくれる。
 今度は逆にミハエルの方が緊張してしまったけれど。
 今夜、と言ってくれた彼をこんなところまで引っ張ってきてしまったが、本当にいいのだろうかと思案する。
 女性との行為なら、過ぎるほど慣れているが、同性となると話は別だ。アルトをちゃんと気持ちよくしてやれるかなんて、自信がない。
 理性を保てなくて、無理を強いたらどうしたらいいのだろう。アルトが泣き叫んでも、止めることができなかったら。
「また、変なこと考えてんだろミシェル」
「えっ?」
 買ってきたフルーツドリンクを飲みながら、責めるアルトの声。ミハエルはハッとして顔を上げた。そこで初めて、自分が俯いていたことに気がつく。
「俺は大丈夫だって。そうやって自分一人でためこむから、眉間にしわなんか寄るんだよ」
「……寄ってた?」
「バッチリ。まあ、俺の前でしかそんなん見せないから……すぐに分かる」
 ミハエルは情けなくて頭を抱えた。そんなに簡単に気づかれるほど表に出てしまっているのかと。
 アルトの前でだけというのがなんとも情けないが、逆に考えればアルトの前では違う【ミハエル・ブラン】なのだということだ。
「俺とのこと考えてんだなって思うと、嬉しいけど悔しい」
「ごめん」
「謝るくらいなら、ちゃんと言え。今度はなんだ」
 責める言葉さえ心地よくて、愛しく思えてしまう。それはアルトが気持ちを全部自分に向けてくれているからだ。
「俺、ちゃんとアルトのこと気持ちよくしてあげられるかなって思って。ひどいことしたくないけど、抑えきれなかったらどうしようって」
 情けないけど、ここまできたらプライドもなにもない、アルトには全部見せていいと、息を吐く。
「アルトのこと抱きたいのは本当だけど、俺の心の準備ができてないっていうか……」
「どれくらいあれば心の準備ってヤツができるんだ? 十分? 二十分? 一時間? それとも明日か?」
 アルト、と呼んで責めを遮る。だけどアルトもそれで引き下がりはしなかった。
「だってそういうことだろ。お前が覚悟を決めなきゃ、この先ずっと……できないじゃないか」
 結婚するんじゃなかったのか?とアルトが初めて不安そうな声を上げる。
 もちろんふたりで子供を産むことなんてできないけれど、それでもつながりは持っていたい。
「お前が、俺としたくないっていうなら仕方ないけど、そうじゃないんだろ?」
「もちろん、俺はアルトを抱きたい」
 即座に返してきたミハエルにアルトは目を瞬いて、笑った。だったらなんの問題もないと、テーブル上のミハエルの手に自分の手を重ねる。
「……な?」
 今日ここに来たことを無駄にはしたくない。
 まっすぐに見つめてくるアルトの優しい視線に、ミハエルはややあってうんと頷いた。
「俺、ホント情けねー」
「今さらだ、バーカ」
 がくりと項垂れたミハエルにふふんと笑ってやり、それでもそんなお前も好きなんだぞと付け加えた。
「シャワー、貸してくれるか?」
「あ、うん。こっち片づけとくから……あ、タオルとローブは棚に入ってるよ」
 ん、とアルトは指さされた方に足を向ける。
 食休みをしてからの方がいいかなとも思ったが、時間を空けてしまったらまた、ミハエルがなにを言い出すか分からない。こちらはもう覚悟を決めているというのに、何をあんなに怖じ気づいているのか。
 大事にしてくれてるんだよなと、アルトは降ってくる熱い湯を体で受けながら思う。
 本当に、誰にもかれにも言って回りたい。
 ミハエル・ブランが、本当はこんなに情けなくて臆病で可愛らしい男なんだと。
 だけどその反面、そんな彼を独り占めもしていたい。自分の前でだけ現れるそんな本質を、ぎゅうっと抱きしめていてやりたい。
 今日は思い切り抱きしめてやろうと、口の端を上げた。



#ミハアル #両想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!-005-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

 翌日登校したら、案の定周りに騒がれた。そろいの指輪なんて着けていれば男女でもはやし立てられるだろう…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-005-

 翌日登校したら、案の定周りに騒がれた。そろいの指輪なんて着けていれば男女でもはやし立てられるだろうに、男同士でなんてなおさらだ。
 覚悟はしていたつもりだが、女生徒の目ざとさには声も出ない。朝の五分で、学園中に広まってしまったように思う。
 もちろん休み時間には質問責めで、とてもふたりきりになる時間なんてない。
 昨夜メールでたくさん会話したからいいものの、こんなことならバレない方が良かったかなとも考えた。
「指輪かあ、いいなあ素敵」
「女の子は誰でも憧れですよね」
 クラスメイトであるランカやナナセの、キラキラした瞳が向けられる。
 他に何か言うことはないのかと思うが、この関係を拒絶されなかっただけ幸福だ。禁じられているわけではないが、やはり後ろめたいものはある。
「でも、安物なんだ、情けないけど。やっぱり女の子ってもっとこう、キラキラした宝石とかのがいいのかな」
「金額なんて関係ないよミシェルくん!」
「そうですよ、大切なのはお互いの気持ちです!」
 そろって力説してくる二人に笑って、良いクラスメイトに恵まれたなと口許を緩めた。
「お式はどうされるんですか、お二人とも」
 学年的には一つ年下のルカも、歓迎ムードで笑いかけてくる。ミハエルもアルトも、え?と首を傾げた。
「式って」
「結婚式ですよ。あ、披露宴ならウチの系列のホテル使ってくださいね、安くしてもらえるんで!」
「え、いや、ちょっと待っ……」
「アルトくんドレス着るの!?」
 待ってくれと止める前に、ランカの楽しそうな声がナナセの耳に入り、どこから取り出したのか彼女はスケッチブックと鉛筆を握っている。
「どんなドレスにしますか!?」
「はぁ!?」
 素っ頓狂な声を上げたのはアルトで、ふむ、と顎に手を当てて想像し出したのはミハエル。
 正直そこまで考えてはいなかった。
 気持ちを告げて、将来を約束して、指輪を交換して、いつか一緒に暮らして。
 それくらいしか、考えていなかったけれど。
「姫ならどんなのでも似合いそうだけどね」
「ミシェル、お前なあっ」
「ハハハ、冗談だよ冗談……」
 つかみかかりかねないアルトに両の手のひらを向けて、まぁまぁと制してみるが、止まらないのはギャラリーの方だった。
「早乙女くんなら、オフショルダーとか余裕で着こなしそうですね」
「あっ、ねえこれ可愛いよナナちゃん、腰のとこにおっきな花がついてる!」
「こちらもいいですよ、ナナセさん。上品で、ロイヤルウェディングって感じですね」
 ルカの端末に映し出される、銀河ネット上のドレスの写真。
 アルトに似合うものを探しているのか、自分も着てみたいものを探しているのか分からないが、ナナセの指はそれを参考にして、スケッチブックの上を素早く動いていく。
「この羽のボレロもいいですね」
「ガーデンパーティを意識して、こっちの動きやすそうなのも」
「わぁっ、このドレス本当にお姫様みたい!」
 お色直しでこんなのどうですかとルカはとナナセにもちかけ、ナナセは眼鏡を光らせる。次々と表示されるドレスに、ランカもうっとり。
 ミハエルもアルトも、どうやらこれは大袈裟なことになりそうだと、きゃっきゃと騒ぎ立てる友人たちを蚊帳の外で眺めていた。
「どこでどうやって止めればいいんだ……」
「はー……まあ、いいんじゃないかミシェル、仲良いヤツだけ呼んで式挙げるってのも」
 どんどん話が大きくなってるぞと呟いたミハエルに、アルトは笑いながら返す。それに若干驚いて、振り向いた。
「……いいの? ドレスとか」
「あんまり色っぽくは動けないぞ? 和服なら得意だけど」
「いやそれは別にいいっていうかアルトはそのままで充分色っぽいし」
 どうにも的が外れたアルトの答えに、本当に理解しているのかと疑いたくなってくる。
 女として見られることを嫌がって、舞台を降りたのではなかったのだろうか。そんな彼が、ウェディングドレスなんて。
「お前の隣ならいいかなって。お前が絶対カッコイイから、同じタキシードだと見劣りしそうだし。ドレスなんて、恥ずかしいけど」
 イヤか?と首を傾げられ、とんでもないとぶんぶん首を振る。もともと女形・早乙女有人のファンなのだ、女性の装いを隣で見られるなど至福に決まっている。
「じゃあどうせなら、ミニスカドレスがいいな」
「はぁっ!?」
 そういうことなら遠慮はしない、と要望を述べてみた。
「あっ、いいですねそれ! 早乙女くん、脚も綺麗ですし」
「わあ……絶対可愛い……!」
「じゃあこのデザインをもう少し短くしたらどうです?」
 とんとん拍子に進んでいくドレスデザインに、アルトは慌てる。
「そっ、そんなん着れるか! 普通のでいいだろ!」
「えー……じゃあお色直しで」
 どうしてもミニスカドレスが見たいらしいミハエルは、引き下がりそうにない。ナナセたちも、楽しそうにデザインしている。
 しかしだからといって、ただでさえ恥ずかしいのにさらに上乗せされてたまるかと、アルトは必死で思考を巡らせた。
「ミシェル、ドレスは着てやるから短いのはやめようぜ」
「でも、見たいし」
「脚、……ミシェルにしか見せたくないんだ」
「―え」
 な?とシャツを引っ張るアルトに陥落されて、ミハエルは即、ナナセの手を止めさせる。
「短いの却下。アルトの美脚は俺が独り占めさせてもらうよ」
「お前ホントは阿呆だろミシェル」
 もっと他に言い方はないのかと、アルトは頭を抱える。だけど、ミハエルの扱い方はだいたい分かるしなと、内緒で口の端を上げた。
「そうですかあ……じゃあこっちのゴージャスなのを」
 残念そうにしながらも、ナナセたちは楽しそうにドレスを考えているようで、結局ドレスを着ることには変わりないようだ。ただ、悪い気はあまりしない。
 ずっと想っていた人と恋人どころか婚約者同士になれて、クラスメイトに祝われて、こうして隣に立っていられる。
 こんなに幸せでいいのかなあ、いいよねえと、こっそり指を絡めた。





「すっかり公認になっちゃってるよねこれ」
 はあーとミハエルはため息をついた。アルトの作ってくれた、食欲をそそる弁当を眺めながら。
「何が不満なんだお前」
「いや不満なんじゃなくて幸せでちょっと寂しい? ほら、前は女の子たちが我先にとお弁当持ってきてくれただろ。姫との婚約が知れ渡ってから、誰も持ってきてくれないんだけど」
 一人に決めたのだから、それは持ってこられないだろう。熱愛発覚!だけならまだしも、婚約までする相手がいる男に。
「分かった分かった、今度からもうちょっと量増やしてやるから」
「マジで!? すっげえ嬉しい」
「その代わり買い物につきあえよな」
「オーケイ。あ、今日はバイト入れてないから平気だぜ」
 楽しみだな、とミハエルはアルトの頬にキスをする。こら、と言いつつもそれを止めさせないアルトも、こんな触れ合いを楽しんでいるようだった。
 あれから何度もキスをするようになった。朝登校して顔を見ればやっぱり嬉しいし、触れたいと思ってしまう。
 ロッカールームで、誰もいない屋上で、送ってもらった家の前で。時には誰かが来そうな渡り廊下でこっそりと。
「だいぶ恋人らしくなったよな」
「婚約者じゃなくてか? 二回もプロポーズしたのに」
 アルトの、からかいを含んだ視線にぐっと言葉が詰まる。いちばん最初の告白を、これで何度からかわれたのだろうか。
「みんなに言ってやりたいくらいだ。カッコつけてばっかのミハエル・ブランが、実はあんなにマヌケなんだってさ」
「まだ言うか、この口は。っていうかカッコつけてばっかってなんだよ」
 屋上でふたり、アルトの作った弁当をつまみながら言葉を交わす。友人同士のようにも聞こえるそれは、だけど立派に恋人同士の声音だった。
「さっき、見たぞ。あれデザイン科のマーチン先輩だろ」
「……荷物持ってあげただけじゃないか。なんだよ妬いてんの?」
「妬いてるよ。けどお前の気持ちは俺にしか向かってないから、別に気にならない」
「俺どんだけだだ漏れなんだ」
 さも当然のことであるように言ってのけるアルトに、ミハエルは大仰にため息をついてみせた。
「ま、隠すのが無駄なくらいは」
 アルトは笑って、そっと腕に触れてくる。ミハエルはそっと、口唇を降下させた。桜色の口唇に自分のを被せて、吸い上げて、舐める。
「ん……」
 キスひとつに緊張していた頃が懐かしいとさえ思う、こんな時。
 元々ミハエルは女性との親しいつきあいで手慣れたものだ。アルトも、流されやすい生来の性格が功を奏してか、ミハエルに合わせながら恋人同士のキスを着実に身につけていた。
「んん……っ」
 舌を差し入れれば素直に絡め返してくれる。
 抱きしめれば、強く抱き返してくれる。
「……っミシェル」
 だけどこれ以上はダメだ、と押しやってくるタイミングまで、ばっちり修得していた。実際、これ以上長くキスをしていたら、きっと場所も考えずにその先へとコトを進めていただろう。
「分かってる、アルト……」
 ミハエルとしても、婚約者との初めてをこんなところですませるほど朴念仁ではないつもり。頭をもたげた欲求はどうにか鎮めて、アルトの肩を撫でた。
「ミシェル、あの」
 アルトの呼吸が、緊張して細いものに変わる。
「……アルト?」
「こ、……今夜」
 短い、言葉。
 ―アルト。
 それ以上は何も言わないアルトを抱き寄せて、額にキスを贈った。伝わってくる体温にお互いがホッとして、そっと体を離す。
「いいの……?」
 顔を真っ赤にして俯くアルトを眺め、ミハエルは幸福そうに口許を緩める。
 無理強いをするつもりはないし、この恋だけは大事にしたい。アルトが望んでくれるのなら、他の何をなげうっても大切に抱いてやりたいのだ。
「好きだよアルト。大事にするから」
「ああ……分かってる」
 照れくさそうにそっぽを向いて、先に行くからと慌ただしく屋上を駆けていく彼を、無理に追いかけようとは思わない……いや、実のところは幸福で幸福で、そんな反応ができなかっただけだが。


#ミハアル #両想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!-004-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

「ミシェル、キスを」「アルト……」 くれ、と最後まで言わずにそっと目を伏せるアルトに、ミハエルはゆっ…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-004-

「ミシェル、キスを」
「アルト……」
 くれ、と最後まで言わずにそっと目を伏せるアルトに、ミハエルはゆっくりと口唇を降らせる。
 それはまるで誓いのように、触れて、離れていく。
 今度はちゃんと手を握りしめてくるアルトを、ミハエルはたまらずに抱き寄せた。
「アルト、アルト……!」
 こんなに愛しい人にはもう出逢えないだろうと、根拠のないことすら自信を持ってそう言える。
「な、ミシェル。指輪……買いに行こうぜ」
「うん……、そうだな、行こうか」
 安物でいいんだと笑うアルトの口唇に小さくキスをする。
 アクセサリーを取り扱う店にその足で向かい、ガラスケースの中の指輪を、無造作に置かれた雑貨の指輪を、ふたりで見て歩いた。
「シンプルなのでいいだろ。そっちのとか」
「でもこれペアじゃないみたいなんだよなあ。あ、こっちのどう? ちょっとピンクがかってて可愛い」
「お前もそれ着けんの?」
「……うーん」
 あれでもない、これでもないと悩んだ挙げ句、結局はいちばん最初に目に留まったシルバーのペアリングを購入した。
「やっぱ直感て大事だよな」
「まあこの出費は予定外だけど。しばらく金使えない」
 ハハハと笑い合う。学生の身分では、バイトをしても賃金はたかが知れている。本分は学業だ、それは仕方がない。
「これ、着けてもいいか?」
「ちょーっと待ってアルト、こんな街中でじゃなくて」
 もうちょっと雰囲気あるところの方がいいなあと、ミハエルはそう言ってアルトの手を引っ張った。やっぱり彼自身がロマンチストなんだと、アルトは隠れて笑う。ミハエルが向かったのは、グリフィスパークの丘だった。
「久しぶりに来た」
「俺も」
 ちょうど夕日が落ちる頃、計算でもされたかのようなタイミングに、お互いが肩を竦める。これはもう、今日こうなる運命だったと言ってしまえばいい。
「ミシェル、指輪」
「ん?」
「俺がはめてやるからよこせ」
 ついと手を差し出して要求するアルトに、また先を越されたと口を尖らせながらも、ミハエルは買ってきた指輪を手渡す。それは、自分の指にはまる予定のものだ。
「左? で、いいんだよな」
「あ、うん」
 アルトはミハエルの左手を持ち上げて、少し躊躇って薬指へと針路をとる。ゆっくりと収まっていく指輪をじっと眺め、ふたりの視線が一点に集中した。
「ミシェルは俺のって……シルシだな」
「ありがとうアルト、嬉しい」
 根本に落ち着いた銀のリング。ミハエルは心の底から嬉しく思い、破顔する。それを見て、アルトも満足そうに笑った。
「アルトにも」
「ん」
 ひとつ残った指輪を、ミハエルもアルトの左薬指へとはめる。こんなことは一生に一度なんだろうなと、今自分の中にあるアルトへの想いを切々と感じた。
「アルトは、俺のってシルシ。一緒に生きていこうな」
 言って、頬と、口唇にキスをする。愛しくて愛しくてしょうがない。隠し事があると知ってもなお、傍にいると言ってくれる彼の想いの深さを、ようやく実感した。
「好きだよアルト、さっき言ったのよりももっと、いっぱい大好き」
「やっぱお前、そうやって笑ってる方がいいな。そっちのが好き」
 へへ、と笑うアルトにミハエルの頬が染まる。大好きな人からの言葉が、こんなにも攻撃力のあるものだとは思っていなかった。
「お前といるとホント調子が狂う」
 面白くなさそうにそっぽを向くと、こちらは面白そうな顔をしたアルトのキスが頬に降る。
「冷静な恋なんてつまんないだろ」
 不敵に笑う彼に、ミハエルはそうだけどとため息で返した、そのほぼ同じ瞬間。
「あ、ちょっとごめん」
 ポケットに入れていた携帯電話が鳴り響く。流行の曲を着信メロディにしているあたり、ミハエルらしい。
 これ誰の歌だっけ、と考えながら、アルトはディスプレイを険しい表情で眺めるミハエルに気がついた。
「ミシェル? どう……」
 見かねてかけられたアルトの声にハッとして、ミハエルはうんちょっと、と言葉を濁し、背を向けて通話ボタンを押す。
「ミシェルです」
 電話の向こうから聞こえてくる耳に慣れた声は、できれば今は聞きたくなかったもの。
「……今からですか? ―いや、それは分かってますけど。―はい、じゃあすぐに」
 ミハエルは通話を打ち切り、眉を寄せて携帯電話を握りしめた。よりによってこんな時にとは思うが、契約は契約だ、仕方ない。
「アルト、ごめん」
「ん?」
「ちょっとバイト入っちゃってさ。すぐ行かなきゃならないんだ」
 アルトに向き直って、ミハエルはすまなそうに眉を下げる。せっかく初めてのデートなのに、仕事で中断なんて。
「え、あ、お前バイトなんてやってたのか?」
「必ず埋め合わせするからさ。送っていけないけど平気?」
 できるだけ明るく笑って、落ち込んだ気分を無理に持ち上げる。アルトに不安も不満も感じさせたくない。
「そんなん平気だけど、お前こそ気をつけて行けよ? ここから近いのか?」
「ちょっと距離あるかな。姫に心配してもらえるなんて嬉しいね。変なヤツに引っかかるなよ」
 頬にちゅっとキスをして、本日のお別れの合図。
「なんだよ変なヤツって、子供じゃあるまいし!」
「……いやそういうんじゃなくてさ。俺の可愛い姫に声かけてくる野郎はいっぱいいるだろってこと」
「え、あっ……」
 アルトの頬がさっと染まる。ようやく意味を理解したらしく、そんなことねーしと、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「俺以外の男に、ついていくなよアルト姫」
「ひ、姫って言うなよ。そんなに心配なら売約済みって札でも買ってこい」
 照れ隠しなのかそのまま背中を向けて、アルトは足を踏み出してしまう。札を渡せばつけてくれるのだろうかと想像して、ミハエルは肩を揺らした。
「夜、またメールするよ」
 振り向かない背中の代わりに、ふよんと揺れるポニーテール。デートを中断してくれた憎らしいバイトなんてさっさと終えて、早く彼にメールをしてあげようと、ミハエルも体を翻した。


#ミハアル #両想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!-003-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

「俺は別に、知られてもいいけどな」「え?」 ミハエルは耳を疑った。 クラスメイトの誰よりも彼のことを…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-003-

「俺は別に、知られてもいいけどな」
「え?」
 ミハエルは耳を疑った。
 クラスメイトの誰よりも彼のことを理解できているとは思うが、それでもアルトのすべてを理解しきれてはいない。
「知られてもいいって……アルトそれ本気で言ってんの?」
「だってやましいことなんてひとつもない。お前が俺を好きで、俺もお前を好きだってだけだろ」
「だけだろって……まあそれはそうなんだけど。からかわれたりするぞ?」
 誰かに言って回りたいというミハエルの方こそが、人に知られるのを恐れている。
 からかわれるのはもちろん、アルトを性的な目で見る輩が出てくるのは容易に想像できる。そうしていいのは自分だけなのにと、やっかいな独占欲が頭をもたげた。
「無視してりゃそのうち飽きるだろうし、そんなもんよりデカい気持ちでいっぱいだし。なによりお前って結構ヤキモチ妬きだしな」
 だから宣言しておくのも手かと思って、とアルトは笑った。
 ミハエルは、どれだけ自分が臆病なのかを思い知らされる。恐れて隠れるよりも、堂々と前を向いて歩いていく、そんなアルトだから惹かれたのだろうか。
「ごめんねヤキモチ妬きで」
 いいところを持っていかれてばかりで決まりが悪い。ミハエルは面白くなさそうに口を尖らせたが、アルトは気にも留めていないようだった。
「なあミシェル、どうせならそろいの指輪でも買うか? それ着けてりゃ一目瞭然だろ」
「はは、なにそれプロポーズ?」
「まあな」
 茶化して言ったつもりのミハエルの言葉は、アルトの肯定で覆われる。思わず足を止めて、あんぐりと口を開けた。
 急に立ち止まったミハエルを振り向いて、アルトは不思議そうに首を傾げた。
「なんだよ、そういうのが前提のつきあいなんだろ?」
 そろいの指輪を着けることになんの不思議があるだろう。婚約者同士でなくともそうする恋人たちはごまんといるのに。
「アルトはどーしてそうやって俺のこと驚かすかな。こういうヤツだとは思わなかった」
 色恋には疎いと思っていたし、他人のそういう目は嫌いなんだと思っていたし、こんなに積極的だとは思っていなかった。
「……嫌いになったか?」
「なってないよ。惚れ直した」
 ―だけど、……駄目だ。
 ミハエルは足を踏み出して、アルトと同じ位置に進む。
「アルト、俺たちは婚姻届けなんか出せないぞ」
「……まあ、まだ認められてないからな。でもあんなのただの紙切れだろ」
 大事なのはお互いの気持ちじゃないのかと、挑むように睨みつけてくるアルトに、ミハエルも真剣なまなざしを返した。
「俺は真剣にアルトのこと大好きだよ。そこまで言ってくれるってことは、アルトも俺のことそう思ってくれてるんだろうし、でも」
 ミハエルはそう言って視線をあさっての方向に移す。
 小さな頃は、そんな幸せな結婚も夢を見ていた。
 だけどそんなことはできないと、歳を重ねるごとに諦めだけが溜まっていったのだ。
「アルトがたとえ女の子でも、俺は結婚できないだろうなって、思うよ」
「なんで……?」
 目を伏せるミハエルに訊ね、アルトはじっと眺める。だけどその声の重さからは、遊びだとか逃げだとか、そんな無責任さは感じられなかった。
「それは、俺に何かいけないところがあるのか?」
 男と男では、このフロンティアでは今のところ婚姻を結ぶことはできない。ではアルトが女であったら差し支えないのかといえばそうでもないようで、指先が冷えていく。
「アルトのせいじゃない。完璧に俺の個人的事情だ」
「わ、分かんねえよミハエル。真剣なつきあいなのに、たどり着く先がないって、どういうことだ?」
 アルトが不安そうな顔をしているのが分かるのに、それを塗り替えてやることができないことも、ミハエルは知っていた。
「アルトに、隠してることがある。だけど言えないんだ。そんな状態で俺、お前のプロポーズ受けることなんかできない」
 つないだ指が自然に離れていく。つなぎ止めるだけの力が、お互いになかった。
「隠してる、こと……って、そんなに、重大なこと、なのか?」
 初めて見せる、アルトの不安でいっぱいの表情。抱きしめてやりたいけれど、全部を言わないうちにそうするのは、うやむやになってしまうだろうと、ミハエルは伸ばしたい手を必死で抑えた。
「それは……どうだろう。まあ、俺の生き方だから重大って言えば重大か」
「いつか話してくれるのか?」
「分からない。話さなくてもいいように願ってるけどな」
「そんな……」
 そんなに深刻なことなのか、とアルトは俯く。
 身体のことかと思ったが、美星学園のパイロット養成コースに所属していてそれはないなと考えた。身体検査は定期的にあるし、適用外となるようなものなら、空を飛んでいることもできないはずなのだ。
 では家系のことか、性癖のことか、もっと他のことか。
「それを言ったら、俺たちの仲がどうにかなるくらいなのか? ほ、他に誰か好きな人がいるとか、昔からの婚約者とか、そういうっ……」
「そういうんじゃないよ。俺が好きなのはアルトだし、これはずっと変わらない。ただ……」
 ミハエルはゆっくりと首を振る。いっそそんな理由だったら、どんなに楽なことだろうと思った。
「あの時、好きだって言わない方が良かったかなって。まさかアルトがOKしてくれるとは思わなかったから」
「俺とのこと、後悔……してんのか?」
「今……したよ、後悔。ずっと言わないでいる選択肢もあったのに、なんで言っちゃったんだろ」
 抑えていられなかった想いが、今になって悔やまれる。好きという想いを閉じこめて、ずっとアルトに嘘をつき通していれば、それで良かったのに。
「ミシェル……」
 アルトは言葉を失ってしまう。対外的にはいつも優しい表情をしているミハエル・ブランが、こんなに厳しくて寂しい顔をするということは、相当の事情なのだろう。
 俯いて、口唇を噛んだ。
「ごめん……アルト」
 ミハエルは、どうしてやればいいか分からずにきゅっと拳を握る。謝っても事実は変えられないし、抱き寄せてやってもそれは同じだ。
「でも、ミシェル」
 もう一度、アルトと呼ぼうとしたところを、彼の声に遮られる。遠慮がちに、そっと指を握ってくるアルトの緊張は、痛いほどに伝わってきた。
「お前が俺を好きだって言ってくれてる気持ちは、変わらないんだろ?」
 ゆっくりと、自分に言い聞かせるようにもアルトは呟く。ミハエルはそれに応えるために、口唇を開いた。
「変わらないよ。ずっと、アルトだけだ」
「じゃあ、いい」
「え?」
 そう言って顔を上げたアルトの口許には、かすかに笑みさえ浮かんでいる。いったい何がいいのか、ミハエルには分からなかった。
「お前の気持ちが本当なら、他になに隠されててもいいよ」
「アルト……」
 そんなバカな、とにわかには信じられないでいる。隠し事をされて良い気分なんてしないだろうに、アルトはそれでいいというのか。
「ミシェル、俺もお前に隠してたことがある」
 決まりが悪そうに逸らされた視線は、それでもまっすぐミハエルの元に戻ってきた。
「本当はたぶん……俺もお前のことずっと好きだったんだ」
 何をと訊ねた言葉に返ってきた苦笑に、ミハエルは目を見開いた。
「お前は俺を男としても、女としても見てくれた。からかいとかやらしい気持ちとかだけじゃなく、本当に……恋してくれただろ。でも、お前の気持ちにすぐ気づいたのも受け入れられたのも、俺の方にこそそういう気持ちがあったからだと思ってる」
 そんな素振りは一度も見せないで、だけど確実に恋をしていたのだと言うアルトに、何を返せばいいのか分からない。
「今日お前がちゃんと好きだって言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。子供っぽいって言うかもしれないけど、俺がお前を好きでお前が俺を好きなら、それでいいって思う」
 ミハエルは、目を瞬く。目を開けたあともアルトの強い瞳は変わらずに、その視線に引き込まれた次の瞬間には、にこりと微笑まれて心臓がはねた。


#ミハアル #両想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!-002-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

「幸せすぎる」「大袈裟だな」「そんなことない、だって俺、今立てるか分かんないんだぜ」 情けない、と笑…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-002-


「幸せすぎる」
「大袈裟だな」
「そんなことない、だって俺、今立てるか分かんないんだぜ」
 情けない、と笑うけれど、本当は泣いてしまいたいのを我慢したのだ。
「お前、案外へたれなんだな……面白い」
「あのさ、そういうの学校で言ってくれるなよアルト。俺にもイメージってもんが」
 飲み終えたラテをトレーに戻し、そろそろ出るかとアルトは立ち上がり、ミハエルを見下ろしてふふんと笑ってみせる。
「なにがイメージだよ。本命には奥手なくせに」
「奥手って、お前ね……っ」
 だがしかし、反論できる要素はあまりないなとミハエルが振り仰いだところへ、頬を包むアルトの両手と笑う口唇。
「間違ってねえだろ、バーカ」
「ア、ル……」
 被さってくる陰と、夢にまで見たアルトの口唇。
 突然の接触に、ミハエル・ブランともあろうものが反応できなかった。瞬きをするのがやっとで、口唇の感触を楽しむ余裕もない。
「お前のそんな顔、初めて見たぜ」
 口唇を離してすぐ、そう言って微笑み、アルトは人差し指でミハエルの口唇をつんと押してみる。
 たった今自分の口唇が触れていたところが、ぽかんと開かれたままあることが、おかしくてしょうがなかった。
「ちょっ……待、アルトっ」
 トレーをまとめて持ち上げるアルトに、ミハエルはやっと我に返り、ガタガタと席を立つ。
 不覚。
 空とベッドの撃墜王と謳われる男が、まさかキスにさえ反応できないなんて。これだから本気の恋というヤツは、とアルトを追った。
「アルトとの初めてのキス、もうちょっとムードのあるとこが良かったなあ」
「へえ、ムードとか気にするタイプ、……だろうな、今までお前がつきあってきた女とか、そういうの気にしてたんだろ」
 カウンターのところで追いついて、どさくさ紛れに手をつなぐ。それを振り払われることはなくて、ミハエルはホッと息を吐いた。
「個人の感覚なんじゃないか? あ、でも今は全然そういう、女の子とつきあってるとかないし、アルトからキスしてくれたの、すごく嬉しい」
 ちょっと驚いたよと、振り払われないのをいいことに、指を絡める。
 そんなことにすら心臓が破裂しそうだなんて、指を絡め返してくれる可愛い恋人は、知らないのだろうけど。
「なあミハエル、あれって美味いのか?」
「ん、どれ? ……たこ焼き? 食べたことない?」
 うん、と決まりが悪そうにそっぽを向いて頷くアルトを、改めて上から下まで眺めてみた。
 ストリートに並ぶ移動型の店舗なんて、このあたりでは珍しくもない。お目にかからない日がないというほどなのに。
「本当にお前……お坊っちゃんなんだよなあ」
「バカにしてんのか」
「ああ、悪い悪い貶してんじゃなくてさ。知らないこと俺が教えてやれるっていう優越感は、たまんないんだよね」
 言って、にっこりと笑ってやる。アルトの頬がさっと染まったのを、ミハエルが見逃すはずもない。
「どれ食べたい? まずはスタンダードなのからかな」
「……お前に任せる」
 オーケイ、と言ってミハエルは店員に八個入りのたこ焼きを注文した。アルバイトらしい女性は、ミハエルの連絡先を訊いてきたが、連れがいるんだとアルトを指す。
 その顔がこの上なく優しい形だったことを、アルトは知らない。
「お待たせアルト」
「わ……」
 焼きたてらしく、香ってくる匂いは最高だ。
「熱いから気をつけろよ。どっか座ろうか」
「すげえいい匂いがする」
 アルトは目をキラキラ輝かせて頷く。本当に初めて触れる食べ物なのだろうなと、ミハエルこそ目をキラキラ輝かせた。
「あつっ」
「ああもう、だから気をつけろって言ったのに。平気か?」
「ん、大丈夫。これ美味しい」
 にこりと笑うアルトに、胸がはねる。
 こんな風にときおり見せる女性の仕種と表情には、いつも心を持っていかれる。
「お前も食べろよ、ほら」
「ん、ああ、ありがとアルト姫」
「姫じゃねえ」
 ぷいとそっぽを向くのはいつもの仕種。その斜め一二五度の角度から見ても可愛いなあと思えてしまうアルトを、抱きしめたい衝動に駆られた。
「ホント美味そうに食うよな。そう珍しいもんでもないのに」
「しっ、仕方ないだろ見たことなかったんだから!」
 その衝動を抑えて、顔を真っ赤にして抗議してくるアルトを眺め、肩を揺らして笑った。
「これからもっと可愛いアルトが間近で見られんのかと思うと、幸せ過ぎて夢かと思っちまうぜ」
「さっきからそればっか」
 はあ、とため息が聞こえてくる。だけどそれこそ仕方ないじゃないかと、ミハエルは肩を竦めた。
 早乙女アルトはこんなみてくれをしていても立派な男だ。銀河カブキの宗家・早乙女一座の大事な跡継ぎ。だったにもかかわらず、彼はパイロット養成コースに転科してきた。
 もともと住む世界が違うひとだったのに、いや、だからこそ惹かれたのか、ずっとずっと特別な想いで見つめてきたのだ。
 ミハエルはそこまで思って、目を見開いた。
 瞬きが止まる。急に世界がモノクロになったかのように、思考さえ止まってしまった。
 ―駄目、だ……。
 どうして忘れていたのだろうと、口許を押さえる。
 アルトに気持ちを告げられなかったのには、まだ他にも理由があったのに。
 どうして。
「ミハエル? どうしたんだよ、具合でも悪いのか?」
 突然言葉を飲み込んでしまったミハエルを不審に思って、アルトが肩を揺さぶってくる。ミハエルはハッとして顔を上げた。
「ごめん何でもないよ」
「本当に?」
 嘘くさい、と責めるアルトに、大丈夫だいじょうぶと笑って返し、あとひとつ残ったたこ焼きをアルトの口許に持っていってやる。
 こんなのでごまかされるかと睨みつけながらも、アルトの口は嬉しそうにモグモグと動いていた。
「そうやって心配してくれる優しいアルトのこと好きなヤツが、学園にどれだけいると思ってんだ? それこそ可愛い女の子からヤローまで、めいっぱいなんだぞ」
「そ、そんなの知るかよ」
「アルトが知らなくてもそーなの。まったく、この鈍感姫が」
 気が気ではなかった。こうやって見つめているだけのうちに、他の誰かのものになってしまわないかと。
 自分の恋が叶わないなら、他の誰のものにもなってほしくないと思っていたのも、そう遠いことではない。
「だからさ」
 いろんな障害があるこの恋が、こんな形で成就するなんて思ってもみないこと。頬をつねったらきっと目が覚めて全部なかったことになってしまうんだと、さっきからそれだけはできないでいる。
「だから、アルトが俺の気持ちに気づいてくれて、受け入れてくれたのは本当に嬉しい。一生分の運を使い果たしたかもな」
 叶わないと思っていたからこそ、告げることができたのだろうか。
 本当は、告げていい想いではなかったのに。
「大袈裟だろ」
 そう言ってアルトは笑う。けれど、ミハエルは誇張や冗談のつもりで言ったわけではない。
「大袈裟なもんか。アルトが俺の大事な恋人だって、言って回りたいくらいなんだぞ」
 分かる?と覗き込むと、アルトは呆れたようにも恥ずかしそうにも肩を竦めた。
 空になったたこ焼きのパックを、アルトは店の前のゴミ箱に放って手をパンパンと払う。


#ミハアル #両想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!-001-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#両想い #片想い #ウェブ再録

「おつきあいを前提に結婚してください!」 バサ、と胸の前に真っ赤なバラの花束を突き出した。 自分の顔…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-001-


「おつきあいを前提に結婚してください!」
 バサ、と胸の前に真っ赤なバラの花束を突き出した。
 自分の顔が赤くなっているか青くなっているかは分からないまま、ミハエル・ブランはきっちり四五度に腰を折る。
 撃墜王と謳われる男の、一世一代の告白だ。
 心臓はうるさいほどに波打って、花束を差し出す腕も震えて、汗まで出てくる始末。
 それでも相手からは何も返ってこず、これは脈ナシかなと少しだけ息を吐いて、諦めかけた、その時。
 はああああーと大きなため息が聞こえてきた。
「え、あの、……アルト?」
 思わず体を起こして、告白をした相手―早乙女アルトに視線を向けたら。
「逆だろ、バーカ」
 思い切り呆れた顔で悪態をつかれた。
 バラの花束を、受け取られたあとに。




 ミハエル・ブランは両手で顔を覆った。
 こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったんだ、と何度も何度も心の中で後悔を繰り返す。
「まだ落ち込んでんのか? ミハエル」
 そんな様子を、目の前の席に座る早乙女アルトは面白そうに眺めていた。
「あのな、落ち込みもするだろ。俺がどんな決心でお前に告ったと思ってんだ」
 思わずテーブルをバンと叩き、言い返す。責められるいわれのないアルトは口を尖らせて、そんなの知るかとハニーミルクラテをすすった。
「昨日、珍しく今日の予定しつこく聞いてきたから何かあるんだろうなとは思ってたけど……」
 明日は予定入ってる? 明日は家にいる? 誰かと約束してない?
 そんな風に訊ねた昨日に戻りたい、とミハエルは心の底から思う。
 一生に一度、使うか使わないかの勇気を振り絞って愛を告白するはずだった。クラスメイトでチームメイトで、同性である、早乙女アルトに。
 好きだと自覚したのは結構前で、だけど言わずにおこうと決めていた。それなのに言わせてしまったのは、あまりにも可愛らしい仕種をしてくれるこの人だ。
 だいたい、今のフロンティアでは同性婚はまだ認められていない。禁止されているわけではないが、世間の目はまだ厳しい方、だろう。
「……なあアルト、訊いていいか?」
「うん?」
「今こうしてデートしてくれてるってことは、その、……OKってこと?」
 そう、ミハエルもアルトも男だ。普通であれば異性を好きになるよう、本能にインプットされているはずで、こんなに簡単に叶うはずではない。
 だけどアルトは、花束を受け取ってくれた。
 拒絶されて、避けられて、気持ち悪いと軽蔑されるシーンだって、何度かシミュレーションしてきたのに。
 何がどうなって、今アルトとカフェなんかにいられるのだろう。
「結婚とかはまだ考えてなかったけど。まあお前の言いたいことは分かったからな」
 まるで何でもないことのように、アルトはラテをすする。そこには照れもからかいもなく、あるのはただ呆れたような眼差し。
「え、……え? ちょっと待って? 突っ込むのそこだけなのか?」
 本当は、結婚を前提におつきあいしてください!と言うはずだった。
 言いたいのは、おつきあいをしてくださいというところ。
 だけどアルトの頭にあるのは、結婚というところ。
「まさか、あのさ、俺の気持ち……知ってた?」
 ひとつの可能性を考えて、ミハエルは慎重に訊ねる。押し上げた眼鏡の向こうに、戸惑ったようなみどりの瞳。
 アルトはそれに、弾かれたように顔を上げた。ミハエルが想いを告白してから初めての、驚いた表情だった。
「え? お前もしかして、気づかれてないと思ってたのか?」
 返ってきた言葉に、ミハエルは頭を抱えた。
「うそだろ……」
 なんてことだ。なんてことだ!
 まさかこの気持ちが気づかれていたなんて。
 隠していたつもりだった。誰にも知られてはいけないと、密かに想ってきたはずだった。
「んー……でもなあ、お前ほど分かりやすいのもなかったんだけど」
「マジかよ、ちくしょう」
 こんなことなら、悩んでないでさっさと告っていれば良かったと、ミハエルは眉を寄せた。
「いつ言ってくるのかなって思ってたんだ。お前ずっと悪友ヅラしてるし、必要以上に俺に構ってくるくせに、そういうの言ってこなかったし」
 面白そうに笑うアルトに、心臓が撃ち抜かれる。
 学校ではあまり見せない表情だ。もしかしたらこれからずっと、こんな表情を間近で見ていられるのだろうかと、らしくなく心が躍った。
「なんで、ずっと言わなかったんだ?」
 あれだけあからさまだったのに、と今度はアルトが訊ねる番。
「いや、それはほら……お前が舞台辞めちまった理由考えたら、言えないだろう」
 ミハエルにだって、理由はあった。
 ただ単に同性だからというわけではなく、アルトを取り巻いていた環境を考えてのことだ。
「お前の女形姿好きだったけど、お前がそういう目で見られるのは嫌いだって知ってたから、ずっと言えなかった」
 後ろめたくて、と苦笑するミハエルを、アルトは何も言わずに眺める。それを責めだと感じたのか、
「ごめんな」
 小さく呟いたミハエルに、アルトは首を傾げた。
「なにが?」
「正直言うと、夢ん中とか想像の中で、何度もお前を抱いたりしてきたんだ。でも表面は友達ヅラしててさ。それがちょっと、苦痛だったかな」
 この手に抱いて、全部自分のものにしたい。だけど汚れてほしくない。そんな二律背反が、ずっとミハエルの恋心を押し殺してきたのに。
「お前はそんなこと知らずに俺に笑ってくれるだろ。もうたまんなくなって、お前に嘘ついてんのしんどくなって、もう玉砕覚悟で言っちまった方がいいやって思ったんだよな」
 それが、告白を決意した理由だとミハエルは付け足す。
「俺のどこがそんなに好きなんだよ」
「言っていいのか?」
「訊いてんのは俺だ」
 不機嫌そうに眉を寄せるアルトに苦笑して、ミハエルはモカを口に含む。
「全部、って言ったら信じてくれるの?」
 女として見られるのが嫌いなお姫様相手に、こんなことを言っても言い訳にしか聞こえないだろう。それでも想う気持ちは本当だ。
「俺は、お前の中の女に惹かれて、男の部分を好きになって、傍にいたいなって思うようになったんだ」
「ふぅん……それで、なのか」
 やっと納得がいったと、アルトはついていた頬杖から顔を上げた。ただそれだけを不思議に思っていたようで、特に怒る素振りも見せないアルトに、ミハエルの方が驚いた。
「怒んないの? だってアルト、今まで性別問わず誰に告白されてもOKしてなかったじゃないか。そういうのが理由だと思ってたんだけど」
「今でも、女として見られるのは大嫌いだ」
「だったら」
 だったらどうして、ミハエルを拒絶しなかったのか。ミハエルは今、はっきりと女としても見ていたと言ったはずだ。
「……本気の想いならそうでもないって、お前の気持ち知って分かった、から……」
 ―う、わ……あ……っ!
 恥ずかしそうに俯くアルトに、心臓が疼く。
 視線が泳ぐのは照れ隠しなのだと、これまでのつきあいで分かっていた。
「俺が本気だから、姫は……受け入れてくれたってこと?」
 本気の想いということだけは自信がある。
 今までたくさんの女性と深いつきあいをしてきたが、誰一人として本気にはならなかった。なれなかった。
 それはきっと、早乙女アルトというひとりの人間に出逢うためだったと言っていいだろう。
「ひ、姫って言うな」
「じゃ、じゃあ……あのさ、恋人だって思っていいのか? 今日こうしてんのは、デートってことでいいんだよな?」
「あ、ああ、そのつもりだったんだけど……いつもとあんまり変わんねえな」
 学校帰りに寄り道するのと、なんら変わりないとアルトは言うが、とんでもない。
 ――――ホントに分かってんのかなこいつ。恋人ってことはつまり、手をつないだって、腕を組んだって、キ、キスをしたっていいんだぜ。
 さすがにまだ口には出せずに、ミハエルは口許を押さえた。だけどつまりはそういうことが許される間柄だ。


#両想い #片想い #ウェブ再録

(対象画像がありません)

Please marry me!

NOVEL,マクロスF,ミハアル,ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#両想い #片想い

2011/03/20001/002/003/004/005/006/007/008/009/010/…

NOVEL,マクロスF,ミハアル,ミハアルウェブ再録

Please marry me!

2011/03/20
001002003004005006007008009010011012013

#両想い #片想い