No.85

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Please marry me!-011-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

 タンタンと階段を上がる。 こんな日に限ってエレベーターが故障しているなんてと、アルトは舌を打った。…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-011-


 タンタンと階段を上がる。
 こんな日に限ってエレベーターが故障しているなんてと、アルトは舌を打った。
 早くたどり着きたいのに。
 早く顔が見たいのに。
「た、ただいま!」
 勢いよくドアを開けて滑り込む。
「おーおかえりアルト」
 キッチンの方から顔を覗かせてくる愛しい人に、アルトは極上のスマイルを返した。もちろんそれは意図したものでなく、自然にこぼれてしまった笑みだ。
「走ってきたのか? そんなに息切らして」
 エプロン姿に菜箸を持って、アルトを出迎えるミハエル。らしくなく上がった息に、首を傾げながら。
「早く……逢いたかったから」
 隠すこともしないアルトのストレートな愛情に、ミハエルの頬がさっと染まる。
「もーホント可愛い」
 撃ち抜かれたのはこれで何度目だろうと、壁に額を当てた。そんなミハエルのシャツを、すん、と鼻を鳴らしてアルトは引っ張る。
「いいにおいがする」
「ん? あ、ああ、ご飯作っといた。久々の休日だったから」
 ここは、ミハエルの両親が遺してくれたところではなかった。
 バジュラとの戦闘でフロンティアは壊滅状態、たくさんの人が命を落とした。ミハエルも一度はなくしかけた命をどうにかとどめ、今に至る。そんな中でもお互いが傍にいることを幸福に思った。
「今日はねー掃除して洗濯して買い物行って、2ブロック先の公園で散歩中のわんこと遊んで、ためてたTV見て、ちょっと昼寝って感じかな」
 充実してたよと笑うミハエルに、それはおめでとうとトゲトゲしく返してやる。こっちは仕事だったのにとすねてみると、
「アールート、そんな怒んないでよ」
 背中から伸びてくる腕に閉じこめられて、わ、と声を上げる。もっともそんな行動はお互いが予測していて、驚くことはない。
「疲れて帰ってきたアルトのために、美味しいご飯用意して待ってたんだからさー」
「胃薬も用意してあんのか?」
「……ひどいな」
 嘘くさい泣き真似なんかするミハエルを少しだけ振り向いて、アルトはそっと目を閉じる。そのあとすぐ顎に添えられる手と、重なってくる陰を感じた。
 触れる口唇は、昔からずっと変わらない。
 出逢って恋をして、つきあう前に求婚して、指輪を買って、式だドレスだと騒がれて、初めて恋人同士のつながりを持ったあの頃から、少しも変わっていない。
 思えばあの頃からそう時間が流れたわけでもないのかと、離した口唇を愛おしそうに眺める。
「おかえり、アルト」
「……ただいま、ミシェル」
 この腕の中がいちばん安心するなと、アルトはすうっと力を抜いた。そんなことは言ってやらないと思っているが、きっと気づかれているに違いない。
 バジュラとの戦争中は結局式を挙げる余裕なんかなくて、戦争が終結しフロンティアの復興が落ち着いてきた先々月に、ふたりはやっと式を挙げた。
 仲の良い者たちだけ集めて、神父もいないままごとみたいな式とパーティ、どんちゃん騒ぎ。正式なものではなかったが、ふたりにはそれで充分だった。
「今日シェリルがさ、ライブやるからって連絡してきたんだ」
 皮肉にもあの戦闘で交流をもつようになった、銀河の妖精シェリル・ノームも、多忙なスケジュールの合間を縫って駆けつけてくれた。
「あ、俺にもメール来てたなそういえば。観客として行けるのか、それともアクロバットで依頼がくるのかは分かんないけど」
 楽しみだなと、ミハエルはアルトの肩を抱いてリビングへと誘導する。そこに広がった光景に、アルトは目をしばたかせた。
「……ミシェル?」
「ほら、今日記念日だし」
 リビングのテーブルには、いつもは置かれていない花瓶とグラス、ミハエルが一生懸命作ったらしい料理とキャンドル。
「あとはパスタの盛りつけだけなんだ。ちょっと待ってて」
 そう言うミハエルはとても嬉しそうだ。まさかこれを準備するためにわざわざ休みを取ったのだろうか。
「……そっか、お前が忘れるわけねえもんな、このマヌケロマンチストが」
「マヌケはいらない」
 アルトは笑いながらテーブルについた。
 今日は、特に結婚記念日というわけではない。同居を始めた記念日でもない。戦争が終結した記念日でもない。
 ―覚えてる、今でも……思い出せるよ。
 アルトは並べられた料理と、花瓶に生けられたバラの花を眺めて幸せそうに微笑んだ。
 おつきあいを前提に結婚してください。
 顔を真っ赤にしたミハエルが、ドアを開けるなり突き出してきた、あの日と同じ赤いバラ。
 そうかあの日から二年経ったのかと、ミハエルと過ごしてきたこれまでを思い起こす。
 安物でもいいとふたりで買いに行った指輪は、今もお互いの左薬指にはまっている。
 ナナセの依頼により、被服コースのメンバーに作ってもらったアルトのウェディングドレスは、デザインサンプルとして美星学園の新校舎に飾られている。
 この戦争をともに過ごしてきたバルキリーは、S.M.Sの格納庫で今日もしっかり整備されている。
 他の船団の力を借りつつも復興を続けるマクロス・フロンティアは、今日も平和だった。
「お待たせアルト」
「ああ、サンキュ」
 盛りつけた皿を並べ終わって、ミハエルもアルトの正面に座る。一年前よりもっと男が上がった恋人を、アルトは眩しそうに眺めた。
「どうしたの姫、見惚れちゃって」
「いや、やっぱお前のこと好きだなあって思ってただけ」
 シャンパンを注ぐミハエルの手が止まる。そんなに素直に返されると、どう答えていいのか分からない。
 アルトとつきあって長いように思うけど、こんな時は心を全部持っていかれる。昔から変わっていないところだ。
「アルトはずるい」
「なにが」
「俺がどうすれば喜ぶかって、ちゃんと知ってんだからな」
 ぶつくさと、文句にもなっていないような文句を呟くミハエルに、アルトは笑いながらシャンパンを注いでいく。
 チン、とグラスが合わさって、わずかに色の付いた液体はふたりの口唇の中に吸い込まれていく。
「じゃあ、喜びついでに」
 面白くなさそうな、それでも嬉しそうな顔をしたミハエルに、アルトはとんと差し出した。綺麗にラッピングした、ひとつの小箱。
「え?」
「記念日だから」
 一目で贈り物と分かるそれが、テーブルの端を陣取る。ミハエルは目を瞠って、小箱を見下ろして、ついでアルトを振り仰いだ。
「これ、もらっていいの?」
「お前に買ってきたんだから、そうしてもらわないと困る」
「ありがとうアルト、嬉しい」
 ミハエルはその小箱を持ち上げ、幸せそうに笑う。それを見て、アルトの方こそ幸せになってしまった。
「ねえこれさ、駅の百貨店に入ってる店で買っただろ?」
「え? なんで知っ……」
「俺も同じとこで買ったから」
 そう言って、ミハエルも同じラッピングの箱をアルトに差し出した。中身を見ないと取り違えるだろうと、容易に想像できるほど、何から何まで同じ形、だった。
 今度はミハエルの方がしたり顔。出し抜いたつもりが、アルトの方も驚かされてしまう。
「……ありがとう、ミシェル」
「まさか同じ店で買うとはな」
「さすがに香りまではかぶらなかったな」
 ハハハと笑いながら、開けた小箱を覗く。ちょこんと大人しく収まっているのは、香水の瓶。シンプルな作りをしているが、興味を引く香りだった。
「いいな、この香り」
「それすごく悩んだんだぞ、もうちょっと上品な方がいいのか、さわやかな方がいいのかって」
 気に入ってくれてホッとした、とミハエルは息を吐く。
「俺もこれ気に入った。今度からこれにするよ」
「そうか? よかった……こういうの選ぶの初めてだったから」
 いつもミハエルが使っている銘柄は知っていたけれど、それでは面白味がないと、何日も悩んで購入したもの。喜んでくれてよかったと、アルトもホッと息を吐いた。


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