No.84

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Please marry me!-010-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

 慰霊式典に合わせて、ギリアムの密葬を行った。 こんな風に死んでいい人間ではなかったと思うけれど、兵…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-010-


 慰霊式典に合わせて、ギリアムの密葬を行った。
 こんな風に死んでいい人間ではなかったと思うけれど、兵士に死は付き物だ。こんな風にしか死ねなかったかもしれないと、ミハエルはそれを見送って目を閉じる。
 かけ声によって行われる全員の敬礼は、心の底からのものだった。
「ルカ、ミシェル、お前らも立ち会え。あいつの答えを聞かなきゃならん」
「隊長、でも……アルトは」
 躊躇うミハエルを、オズマ・リーは振り返る。その瞳は、確信に満ちていた。
「お前ももう、分かってんだろ。あいつなんじゃないのか? お前の相棒になるべき人間てのは」
「隊長」
 オズマはそれ以上何も言わずに歩みを進める。オズマが言うのは戦場でのパートナーだということが分かるが、ミハエルは俯いて目を伏せた。
 ―そう、なれるんなら……。
 なるべき人がいるのなら、アルトでしかあり得ない。
 オズマの向かう先に、その人がいる。いつもと違ってネクタイをきっちり絞めているのは、ギリアムへの敬意だろうか。
「国のために命を賭しても、国を挙げての葬儀は行われん。事故死扱いされ、報奨金さえ支払われない」
 オズマはアルトに向かって、民間軍事会社S.M.Sのあるべき姿を説いていく。一言一句聞き漏らすまいと、アルトの視線は突き刺すようにオズマを追っていた。
「それでも構わない。死ぬ時は、……誰だって一人だ」
「ふん、……ヒヨッコが、一人前に言いやがって。いいだろう、入隊を許可する。早乙女アルト、明朝〇八〇〇時、宿舎に入れ!」
「イエッサー!」
 それは明日からだ、とオズマに小突かれてアルトは首を引っ込める。ミハエルは、それをどこか他人事のように眺めていた。
「お前ら、こいつのことは任せるぞ」
「はーい」
 ルカが嬉しそうに笑って、オズマを見送る。気が抜けたのか、アルトからも大きなため息が聞こえてきた。
「アルト先輩、これからは職場でも一緒ですね! よろしくお願いします!」
「ああ、ルカ」
 素直に喜んでくれる後輩に、アルトは笑って返す。少なくともルカは、歓迎してくれている。
 問題はもう一人だと、アルトは視線を移した。
「ミシェル」
 呼ぶ声に、ミハエルはハッとして顔を上げる。そこには、友人の顔をした早乙女アルトがいた。
「あ、ああアルト、こうなったら……とことんしごいてやるからな」
「そりゃどーも」
 言って、アルトはポケットから指輪を取り出し手の上で放って見せる。ふたつのそれはカチャリと音を立てて、三度ほどアルトの手のひらを舞った。
「歯ぁ食いしばれよ」
 そうしてそのふたつを強く握りしめ、ミハエルの頬へと迷いもなく拳を繰り出した。
 あ、とルカが声を上げるのと、ゴッと響く鈍い音が重なり、その一瞬あとに、ミハエルが踏ん張った靴の音が聞こえた。
「……っつ……」
「あ、アルト先輩!」
 いきなり何をとルカはアルトを振り向くが、当の本人は開いた拳の中に転がる指輪を眺めていた。
「スッキリした」
 清々しく呟くアルトを、ミハエルは頬を押さえながら振り向いた。
「気が済んだなら、そりゃおめでとう」
 弁解も抗議もせずに、口の中にわずかに広がった血を飲み込む。これでもう、アルトの中の想いはケリがついたのだろうと、身勝手にも寂しさに眉を寄せた。
「ミシェル、俺の用はまだ終わってないぜ」
「アルト?」
「今日ここに来たのは、入隊の意思を伝えるのと、お前とのことにケリ着けるためだ」
 それはよく分かるよ、とミハエルは呟く。誓い合った指輪を握りしめた拳で殴るなんて、決別以外のなにものでもないだろう。
「ルカ、ちょっと立ち会ってくれないか」
「え? あ? は、はい?」
 アルトから急に話を振られて、ルカは応答を躊躇った。込み入ったことになりそうだしそろそろこっそり退散しようと思っていたのに、とわずかばかり眉を寄せながら。
「ミシェル」
「え?」
 アルトはすっとミハエルに向かって手を差し出した。ミハエルは目を見開かずにはいられなくて、瞬きが止まる。
「もう一度、はめてくれ」
 アルトの手のひらには、指輪がふたつ。昨日まで、確かにアルトとミハエルの薬指にはまっていた、それ。
「入隊した理由に、お前が関わっていないって言ったら多分嘘になるけど……死ぬ時にはひとりでも、後悔はしたくない。だから俺は」
 戦場というものを、本当の意味では知らない。先日触れたものなんて、ほんの一角に過ぎないだろうことは、アルトにだって分かっている。
 それでも。
「お前と生きるためにここにきたんだ」
 アルトの視線はまっすぐにミハエルを指し、その想いを告げる。
 バジュラが攻めてきたということは、どこにいても危険なことには変わりない。だったら、大切な人を守るために大切な人と一緒に戦いたい。
「アルト……」
「ミシェル、答えを」
 差し出した右手が、わずかに震える。
 そこを陣取るふたつの指輪を、ミハエルはじっと眺めた。少しだけ重なるリングは、自分たちの未来だろうかと考えて苦笑した。
「こんな臆病なヤツで、お前はいいのか?」
「お前が臆病なんてこと、前から知ってる」
 そうだったな、と口角を上げて、ミハエルは手を伸ばした。指でつまみ上げたのは、アルトがはめていた指輪。
「三度目の正直かな」
 アルトの左手をすと持ち上げる。求婚をするのは、これで三度目だった。
「ありがとう、アルト」
 選んでほしくなかったけど選んでほしかったと、複雑な想いを声に乗せて、ミハエルはもう一度アルトの薬指に指輪をはめた。その上から落とす口づけは、最後の誓い。
「ミシェルにも」
 右の手のひらにひとつ残った指輪を、アルトは指でつまむ。恥ずかしそうに、だけど幸福そうに左手を持ち上げて、アルトもミハエルの薬指に指輪をはめた。
「もう、外すなよな」
 固定する接着剤でもつけるようにキスをして、アルトは顔を上げる。
「よかった、仲直りされて」
 ほうっと大きな息を吐きながら、ルカは大仰に安堵してみせた。関係のもつれた二人の間でなんか、いつも通り過ごせるはずがないと感じていたから、本当に元に戻ってよかったと。
「悪かったなルカ、心配かけて」
「あとはお式ですねっ! 盛大に祝わないと!」
「はっ!?」
「へっ!?」
 万歳をしたあとにぐっと拳を握りしめて、ルカは嬉しそうに口ずさむ。アルトも、さすがにミハエルも素っ頓狂な声を上げてしまった。
「……って、え? お式挙げるでしょう?」
「ホントに挙げんの……?」
 バジュラが攻めてきてしまった今、そんな心のゆとりはない。誓いのリングがまたお互いの指にはまっただけで充分だと思っていたのに。
「なに言ってるんですかもったいない! 一生に一度なんですよ?」
 先走るルカをどうにか止めようとするけれど、彼の中ではもう式を挙げることが決定してしまっている。
「そうだ、この間話してたドレス! ナナセさんに、明日ちょっと相談してみます!」
「あ、おいルカっ……」
「あ、ミシェル先輩はアルト先輩に宿舎案内してあげてくださいね」
 僕これから忙しいんでと否応なしに押しつけて、ルカはたかたかと駆けていく。呆気にとられて、あまりにも突然の展開に開いた口がふさがらなかった。
「し、式だってさ……」
「あの様子だと冗談ってわけでもないんだろうなあ……」
 ルカの走り去った方向をふたりで眺めて、少しの沈黙を楽しむ。いつの間にかつながれた手に気がついたけれど、離そうとは思わなかった。
「だけどルカのあれは、八割ほどナナセと話す口実だぞ」
「ああ、……そっかそういえば」
 ルカはナナセに想いを寄せていたんだっけとアルトは苦笑した。他人の色恋を心配するより、自分の恋を成就させればいいのにと。
「でも、いいよ別に。みんながお前とのこと祝福してくれるんならもう、なんだって」
「うん、俺はお前のプロポーズ受けたし、アルトも俺のプロポーズ受けてくれたし、こんな幸せなことないよね」
 戦いの世界に足を踏み入れながら、同時に生涯の幸福を手に入れる。
 引かれあっていく口唇を重ねて、もう離れることのないようにと強く指を絡めた。
「明日学校行ったら、ナナセに話してみようか」
「話す前にあっちから来そうだけど」
「ははは、確かに。とりあえず、宿舎案内する。引っ越しは追々ってことでいいか?」
「ああ、頼む」
 これからずっと、同じ世界で生きていける。違う世界で生まれたふたりが、誰にはばかることなく同じ世界で。
 ふたりは宿舎に向かって歩きだして、改めて互いの気持ちを確かめ合った。


   病めるときも 健やかなるときも
   命の限り 愛し抜くことを
         誓います


#ミハアル #両想い #ウェブ再録