華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.86
ミハアルウェブ再録 2011.03.20
#ミハアル #両想い #ウェブ再録
「ミシェルこれ、味付けなに? すげえさっぱりしてて美味しい」「秘密。まあ、隠し味は愛情ってとこかな」…
ミハアルウェブ再録
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「ミシェルこれ、味付けなに? すげえさっぱりしてて美味しい」
「秘密。まあ、隠し味は愛情ってとこかな」
「阿呆か」
冷めないうちにと、テーブルに並べられた料理に手を伸ばす。食事はもっぱらアルトの仕事だったが、ミハエルも人並みにはできる。
ミハエルが一生懸命作っている姿を想像して、今日は無理にでも休みを取ればよかったかなと、アルトは思った。
「次の記念日には、一緒に作ろうなアルト」
「えっ……」
「あれ、ヤダ?」
「そっ、そんなことない、一緒に作りたい」
思ったことは口に出していないはずなのに、ミハエルはそれを読み取ったかのように囁いてくる。知らないうちに口にしてしまったのか、それとも彼の方も同じことを思っていたのか。
「でも、次ってなんだ? 今日が……婚約記念? になるのか?」
「うーん……恋人になったのと婚約が同じ日だしなあ」
考え込むミハエルだが、やがて思い当たったように顔を上げる。
「分かった、姫と初めてエッ……もご」
「それ以上言うな、バカかお前!」
察して、アルトはすかさずミハエルの口を手で覆った。初めて肉体的なつながりを持った日なんて、そんなのを記念日になんてできるわけがないと、顔を真っ赤にしながら。
「お前にはデリカシーってもんがないのか」
「えーだって、アルトすっごく可愛かったんだもん。あの日は確か、初めて家につれてったんだよな」
ミハエルもそれ以上記念日どうこう言うつもりはないらしく、懐かしそうに目を細めた。
懐かしむほど年月が経ったわけではないが、いろんなことがありすぎて、他人の一生分を謳歌したような気にもなってしまう。
「……翌朝お前の顔が締まりなかったのは覚えてる」
「え、それだけ?」
アルトはそれに答えないままふいとそっぽを向いた。恥ずかしくてドキドキして、痛かったのと気持ちよかったのは覚えているけれど、そんなこと言ってやらない。
もっともミハエルも、それだけを覚えているというわけではないことなど、とうに理解していた。
「そのあとバジュラが来ちゃったんだよね」
「ああ、住む世界が違うってお前に指輪外された時は、ホントに苦しかったな」
「ご、ごめん……」
多少の嫌味を含めて苦笑すると、ミハエルの眉がしょぼんと下がる。いつもは自信満々に振る舞っている彼が、この話題を出すと途端に困った顔をするのだ。
所在なげにふらつく手はやがて膝の上に降り、まっすぐだった視線が落ちた。
「ミシェル」
そんなときは決まって、アルトはミハエルの名を呼んでやる。その顔を見たがった自分の後ろめたさを詫びるように、優しい声音で。
「俺のこと愛してる?」
アルトは椅子から腰を上げ、ミハエルの元へと一歩で近づく。首に腕を回しそっと抱きしめると、みどりの瞳が見上げてきた。
「愛してるよ」
「お前の気持ちが変わらないなら、いいよ」
二年前と同じ言葉でアルトは囁いて笑う。三度目の求婚以降、薬指にはまるリングが外されたことはない。もう外すなよと釘をさしたアルトの要望を、ミハエルは忠実に守ってくれていた。
「俺がお前を愛してて、お前が俺を愛してるんなら、これからも記念日祝おう」
記念日なんて、何が口実でもよい。明日だって何かの記念日かもしれない。明後日だって、その次だって。
「うん、アルト。ずっとふたりで祝おうな」
ミハエルは幸福そうに目を細めて笑い、アルトの体に腕を回す。降りてきた口唇を指で撫でて、ついと舌でなぞって入り込んだ。
顔にかかる前髪と、口唇から伝わる熱と、心地よい独占欲と愛情に酔う。寄り添いながら、長い長いキスをする。離れた隙に吐き出す息も、全部ひとつになれたらいいのにと思いながら。
「ミシェル、こら……」
鼻先が、首筋をくすぐる。その意図は理解していて、アルトは呆れながらミハエルの髪を梳いた。
「ベッドまで我慢しろよ」
「やーだ」
「やーだって、あのな……子供かお前は」
腰を抱く腕の力が強まって、アルトはそれを軽くつねってみせる。イテテテテと、少しも痛くなさそうな声が返ってきて、笑ってしまった。
「こんなところじゃなくて、ベッドで……ゆっくり抱いてくれよ、ミシェル」
わざと掠れさせた声で、耳元に囁いてみる。ぴく、と腕が一瞬強張ったように思うのは、きっと気のせいではないだろう。
「な、ミシェル……?」
とどめに頬に口づけてやれば、計画通り、ため息混じりに陥落されてくれた。
「アルトは、ホント俺の扱い方うまくなったよな」
二年以上をともに過ごしてきたのだ、それは扱い方を心得ていて当然の年月のように思う。アルトはイタズラっぽく口の端を上げ、愛しい恋人にキスを贈る。
それのお返しなのか、ミハエルはよっとアルトを抱き上げた。なぜこうも軽々と抱き上げてしまえるのだろう。アルトが軽いのか、ミハエルの筋力が強いのか。
「まあ、全部……愛の力ってヤツだろ」
抱き上げてくれたミハエルの首に腕を回して、不敵に笑う。
今こうして素直に笑っていられるのも、これから先にも幸せが待っていると胸を張って言えるのも、愛の力だ、ぜんぶ。きっと、そうだ。
「ああ、そうだなアルト」
前髪にキスを落とし、ミハエルは寝室へと足を向ける。通り過ぎる壁際のチェストの上には、ままごとみたいだった結婚式の写真が、いつもと変わらず飾られていた。
#ミハアル #両想い #ウェブ再録