No.78

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Please marry me!-004-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

「ミシェル、キスを」「アルト……」 くれ、と最後まで言わずにそっと目を伏せるアルトに、ミハエルはゆっ…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-004-

「ミシェル、キスを」
「アルト……」
 くれ、と最後まで言わずにそっと目を伏せるアルトに、ミハエルはゆっくりと口唇を降らせる。
 それはまるで誓いのように、触れて、離れていく。
 今度はちゃんと手を握りしめてくるアルトを、ミハエルはたまらずに抱き寄せた。
「アルト、アルト……!」
 こんなに愛しい人にはもう出逢えないだろうと、根拠のないことすら自信を持ってそう言える。
「な、ミシェル。指輪……買いに行こうぜ」
「うん……、そうだな、行こうか」
 安物でいいんだと笑うアルトの口唇に小さくキスをする。
 アクセサリーを取り扱う店にその足で向かい、ガラスケースの中の指輪を、無造作に置かれた雑貨の指輪を、ふたりで見て歩いた。
「シンプルなのでいいだろ。そっちのとか」
「でもこれペアじゃないみたいなんだよなあ。あ、こっちのどう? ちょっとピンクがかってて可愛い」
「お前もそれ着けんの?」
「……うーん」
 あれでもない、これでもないと悩んだ挙げ句、結局はいちばん最初に目に留まったシルバーのペアリングを購入した。
「やっぱ直感て大事だよな」
「まあこの出費は予定外だけど。しばらく金使えない」
 ハハハと笑い合う。学生の身分では、バイトをしても賃金はたかが知れている。本分は学業だ、それは仕方がない。
「これ、着けてもいいか?」
「ちょーっと待ってアルト、こんな街中でじゃなくて」
 もうちょっと雰囲気あるところの方がいいなあと、ミハエルはそう言ってアルトの手を引っ張った。やっぱり彼自身がロマンチストなんだと、アルトは隠れて笑う。ミハエルが向かったのは、グリフィスパークの丘だった。
「久しぶりに来た」
「俺も」
 ちょうど夕日が落ちる頃、計算でもされたかのようなタイミングに、お互いが肩を竦める。これはもう、今日こうなる運命だったと言ってしまえばいい。
「ミシェル、指輪」
「ん?」
「俺がはめてやるからよこせ」
 ついと手を差し出して要求するアルトに、また先を越されたと口を尖らせながらも、ミハエルは買ってきた指輪を手渡す。それは、自分の指にはまる予定のものだ。
「左? で、いいんだよな」
「あ、うん」
 アルトはミハエルの左手を持ち上げて、少し躊躇って薬指へと針路をとる。ゆっくりと収まっていく指輪をじっと眺め、ふたりの視線が一点に集中した。
「ミシェルは俺のって……シルシだな」
「ありがとうアルト、嬉しい」
 根本に落ち着いた銀のリング。ミハエルは心の底から嬉しく思い、破顔する。それを見て、アルトも満足そうに笑った。
「アルトにも」
「ん」
 ひとつ残った指輪を、ミハエルもアルトの左薬指へとはめる。こんなことは一生に一度なんだろうなと、今自分の中にあるアルトへの想いを切々と感じた。
「アルトは、俺のってシルシ。一緒に生きていこうな」
 言って、頬と、口唇にキスをする。愛しくて愛しくてしょうがない。隠し事があると知ってもなお、傍にいると言ってくれる彼の想いの深さを、ようやく実感した。
「好きだよアルト、さっき言ったのよりももっと、いっぱい大好き」
「やっぱお前、そうやって笑ってる方がいいな。そっちのが好き」
 へへ、と笑うアルトにミハエルの頬が染まる。大好きな人からの言葉が、こんなにも攻撃力のあるものだとは思っていなかった。
「お前といるとホント調子が狂う」
 面白くなさそうにそっぽを向くと、こちらは面白そうな顔をしたアルトのキスが頬に降る。
「冷静な恋なんてつまんないだろ」
 不敵に笑う彼に、ミハエルはそうだけどとため息で返した、そのほぼ同じ瞬間。
「あ、ちょっとごめん」
 ポケットに入れていた携帯電話が鳴り響く。流行の曲を着信メロディにしているあたり、ミハエルらしい。
 これ誰の歌だっけ、と考えながら、アルトはディスプレイを険しい表情で眺めるミハエルに気がついた。
「ミシェル? どう……」
 見かねてかけられたアルトの声にハッとして、ミハエルはうんちょっと、と言葉を濁し、背を向けて通話ボタンを押す。
「ミシェルです」
 電話の向こうから聞こえてくる耳に慣れた声は、できれば今は聞きたくなかったもの。
「……今からですか? ―いや、それは分かってますけど。―はい、じゃあすぐに」
 ミハエルは通話を打ち切り、眉を寄せて携帯電話を握りしめた。よりによってこんな時にとは思うが、契約は契約だ、仕方ない。
「アルト、ごめん」
「ん?」
「ちょっとバイト入っちゃってさ。すぐ行かなきゃならないんだ」
 アルトに向き直って、ミハエルはすまなそうに眉を下げる。せっかく初めてのデートなのに、仕事で中断なんて。
「え、あ、お前バイトなんてやってたのか?」
「必ず埋め合わせするからさ。送っていけないけど平気?」
 できるだけ明るく笑って、落ち込んだ気分を無理に持ち上げる。アルトに不安も不満も感じさせたくない。
「そんなん平気だけど、お前こそ気をつけて行けよ? ここから近いのか?」
「ちょっと距離あるかな。姫に心配してもらえるなんて嬉しいね。変なヤツに引っかかるなよ」
 頬にちゅっとキスをして、本日のお別れの合図。
「なんだよ変なヤツって、子供じゃあるまいし!」
「……いやそういうんじゃなくてさ。俺の可愛い姫に声かけてくる野郎はいっぱいいるだろってこと」
「え、あっ……」
 アルトの頬がさっと染まる。ようやく意味を理解したらしく、そんなことねーしと、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「俺以外の男に、ついていくなよアルト姫」
「ひ、姫って言うなよ。そんなに心配なら売約済みって札でも買ってこい」
 照れ隠しなのかそのまま背中を向けて、アルトは足を踏み出してしまう。札を渡せばつけてくれるのだろうかと想像して、ミハエルは肩を揺らした。
「夜、またメールするよ」
 振り向かない背中の代わりに、ふよんと揺れるポニーテール。デートを中断してくれた憎らしいバイトなんてさっさと終えて、早く彼にメールをしてあげようと、ミハエルも体を翻した。


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