華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.77
ミハアルウェブ再録 2011.03.20
#ミハアル #両想い #ウェブ再録
「俺は別に、知られてもいいけどな」「え?」 ミハエルは耳を疑った。 クラスメイトの誰よりも彼のことを…
ミハアルウェブ再録
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「俺は別に、知られてもいいけどな」
「え?」
ミハエルは耳を疑った。
クラスメイトの誰よりも彼のことを理解できているとは思うが、それでもアルトのすべてを理解しきれてはいない。
「知られてもいいって……アルトそれ本気で言ってんの?」
「だってやましいことなんてひとつもない。お前が俺を好きで、俺もお前を好きだってだけだろ」
「だけだろって……まあそれはそうなんだけど。からかわれたりするぞ?」
誰かに言って回りたいというミハエルの方こそが、人に知られるのを恐れている。
からかわれるのはもちろん、アルトを性的な目で見る輩が出てくるのは容易に想像できる。そうしていいのは自分だけなのにと、やっかいな独占欲が頭をもたげた。
「無視してりゃそのうち飽きるだろうし、そんなもんよりデカい気持ちでいっぱいだし。なによりお前って結構ヤキモチ妬きだしな」
だから宣言しておくのも手かと思って、とアルトは笑った。
ミハエルは、どれだけ自分が臆病なのかを思い知らされる。恐れて隠れるよりも、堂々と前を向いて歩いていく、そんなアルトだから惹かれたのだろうか。
「ごめんねヤキモチ妬きで」
いいところを持っていかれてばかりで決まりが悪い。ミハエルは面白くなさそうに口を尖らせたが、アルトは気にも留めていないようだった。
「なあミシェル、どうせならそろいの指輪でも買うか? それ着けてりゃ一目瞭然だろ」
「はは、なにそれプロポーズ?」
「まあな」
茶化して言ったつもりのミハエルの言葉は、アルトの肯定で覆われる。思わず足を止めて、あんぐりと口を開けた。
急に立ち止まったミハエルを振り向いて、アルトは不思議そうに首を傾げた。
「なんだよ、そういうのが前提のつきあいなんだろ?」
そろいの指輪を着けることになんの不思議があるだろう。婚約者同士でなくともそうする恋人たちはごまんといるのに。
「アルトはどーしてそうやって俺のこと驚かすかな。こういうヤツだとは思わなかった」
色恋には疎いと思っていたし、他人のそういう目は嫌いなんだと思っていたし、こんなに積極的だとは思っていなかった。
「……嫌いになったか?」
「なってないよ。惚れ直した」
―だけど、……駄目だ。
ミハエルは足を踏み出して、アルトと同じ位置に進む。
「アルト、俺たちは婚姻届けなんか出せないぞ」
「……まあ、まだ認められてないからな。でもあんなのただの紙切れだろ」
大事なのはお互いの気持ちじゃないのかと、挑むように睨みつけてくるアルトに、ミハエルも真剣なまなざしを返した。
「俺は真剣にアルトのこと大好きだよ。そこまで言ってくれるってことは、アルトも俺のことそう思ってくれてるんだろうし、でも」
ミハエルはそう言って視線をあさっての方向に移す。
小さな頃は、そんな幸せな結婚も夢を見ていた。
だけどそんなことはできないと、歳を重ねるごとに諦めだけが溜まっていったのだ。
「アルトがたとえ女の子でも、俺は結婚できないだろうなって、思うよ」
「なんで……?」
目を伏せるミハエルに訊ね、アルトはじっと眺める。だけどその声の重さからは、遊びだとか逃げだとか、そんな無責任さは感じられなかった。
「それは、俺に何かいけないところがあるのか?」
男と男では、このフロンティアでは今のところ婚姻を結ぶことはできない。ではアルトが女であったら差し支えないのかといえばそうでもないようで、指先が冷えていく。
「アルトのせいじゃない。完璧に俺の個人的事情だ」
「わ、分かんねえよミハエル。真剣なつきあいなのに、たどり着く先がないって、どういうことだ?」
アルトが不安そうな顔をしているのが分かるのに、それを塗り替えてやることができないことも、ミハエルは知っていた。
「アルトに、隠してることがある。だけど言えないんだ。そんな状態で俺、お前のプロポーズ受けることなんかできない」
つないだ指が自然に離れていく。つなぎ止めるだけの力が、お互いになかった。
「隠してる、こと……って、そんなに、重大なこと、なのか?」
初めて見せる、アルトの不安でいっぱいの表情。抱きしめてやりたいけれど、全部を言わないうちにそうするのは、うやむやになってしまうだろうと、ミハエルは伸ばしたい手を必死で抑えた。
「それは……どうだろう。まあ、俺の生き方だから重大って言えば重大か」
「いつか話してくれるのか?」
「分からない。話さなくてもいいように願ってるけどな」
「そんな……」
そんなに深刻なことなのか、とアルトは俯く。
身体のことかと思ったが、美星学園のパイロット養成コースに所属していてそれはないなと考えた。身体検査は定期的にあるし、適用外となるようなものなら、空を飛んでいることもできないはずなのだ。
では家系のことか、性癖のことか、もっと他のことか。
「それを言ったら、俺たちの仲がどうにかなるくらいなのか? ほ、他に誰か好きな人がいるとか、昔からの婚約者とか、そういうっ……」
「そういうんじゃないよ。俺が好きなのはアルトだし、これはずっと変わらない。ただ……」
ミハエルはゆっくりと首を振る。いっそそんな理由だったら、どんなに楽なことだろうと思った。
「あの時、好きだって言わない方が良かったかなって。まさかアルトがOKしてくれるとは思わなかったから」
「俺とのこと、後悔……してんのか?」
「今……したよ、後悔。ずっと言わないでいる選択肢もあったのに、なんで言っちゃったんだろ」
抑えていられなかった想いが、今になって悔やまれる。好きという想いを閉じこめて、ずっとアルトに嘘をつき通していれば、それで良かったのに。
「ミシェル……」
アルトは言葉を失ってしまう。対外的にはいつも優しい表情をしているミハエル・ブランが、こんなに厳しくて寂しい顔をするということは、相当の事情なのだろう。
俯いて、口唇を噛んだ。
「ごめん……アルト」
ミハエルは、どうしてやればいいか分からずにきゅっと拳を握る。謝っても事実は変えられないし、抱き寄せてやってもそれは同じだ。
「でも、ミシェル」
もう一度、アルトと呼ぼうとしたところを、彼の声に遮られる。遠慮がちに、そっと指を握ってくるアルトの緊張は、痛いほどに伝わってきた。
「お前が俺を好きだって言ってくれてる気持ちは、変わらないんだろ?」
ゆっくりと、自分に言い聞かせるようにもアルトは呟く。ミハエルはそれに応えるために、口唇を開いた。
「変わらないよ。ずっと、アルトだけだ」
「じゃあ、いい」
「え?」
そう言って顔を上げたアルトの口許には、かすかに笑みさえ浮かんでいる。いったい何がいいのか、ミハエルには分からなかった。
「お前の気持ちが本当なら、他になに隠されててもいいよ」
「アルト……」
そんなバカな、とにわかには信じられないでいる。隠し事をされて良い気分なんてしないだろうに、アルトはそれでいいというのか。
「ミシェル、俺もお前に隠してたことがある」
決まりが悪そうに逸らされた視線は、それでもまっすぐミハエルの元に戻ってきた。
「本当はたぶん……俺もお前のことずっと好きだったんだ」
何をと訊ねた言葉に返ってきた苦笑に、ミハエルは目を見開いた。
「お前は俺を男としても、女としても見てくれた。からかいとかやらしい気持ちとかだけじゃなく、本当に……恋してくれただろ。でも、お前の気持ちにすぐ気づいたのも受け入れられたのも、俺の方にこそそういう気持ちがあったからだと思ってる」
そんな素振りは一度も見せないで、だけど確実に恋をしていたのだと言うアルトに、何を返せばいいのか分からない。
「今日お前がちゃんと好きだって言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。子供っぽいって言うかもしれないけど、俺がお前を好きでお前が俺を好きなら、それでいいって思う」
ミハエルは、目を瞬く。目を開けたあともアルトの強い瞳は変わらずに、その視線に引き込まれた次の瞬間には、にこりと微笑まれて心臓がはねた。
#ミハアル #両想い #ウェブ再録