No.82

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Please marry me!-008-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

#ミハアル #両想い #ウェブ再録

 アルトは、握りしめた拳を震わせる。怒りなのか嘆きなのか、もっと別の感情なのかは分からなかった。「隠…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-008-


 アルトは、握りしめた拳を震わせる。怒りなのか嘆きなのか、もっと別の感情なのかは分からなかった。
「隠してたのって、これか」
 絞り出したその声は、音になっていただろうか。
 視界が震えて、相手の表情を見ることができない。それでも、二人になるまで我慢したのは褒めてもらってもいいだろう。
「なんでこんな大事なこと黙ってたんだミシェル!」
「守秘義務ってもんがあるんだよ!」
 ガッと胸ぐらを掴んで責めてみたけれど、ミハエルの方も正当な言い分はある。
 バジュラと名付けられている宇宙生物の襲来は、ある程度予測されていた。軍事に関わりのある一部の者には、その存在は知らされていたのだ。もしその攻撃がこの船団に及んだ時には、命を懸けて阻止せよと。
 だが、こんな未来は予測できなかった。
 アルトがバジュラに遭遇したどころか、戦闘機で応戦してしまうなんて。
「守秘義務で済まされるか! お前が……あの化け物倒すために戦場に出てって、俺が平気でいられるとでも思ってたのかよ!」
「俺だってな、こんな形で知られたくなかったよ! フロンティアが平和なら、俺たちは必要なかったんだ!」
「ミシェル!」
 力任せにエレベーターの壁にミハエルを押しつけて、ようやく正面から彼を睨んだ。
 けれど、睨んだはずのアルトが、逆に気圧されてしまう。
「お前と俺は、もともと住む世界が違ってたんだよ」
 今まで見たこともない、鋭い瞳が突き刺さる。
「ミシェ……ル」
 隠しておかれた、その事実をアルトは責められない。それでいいと言ったのはアルト自身だ。
 だけどこんな深刻なことだったなんて。ほんの少しでも話してくれていたら、こんなに憤りが溜まることもなかったかもしれないのに。
「アルト、頼むからこっちに逃げてくるな。戦闘機乗りなんてな、市民を守るなんて大義名分振りかざしても、必要とあらば人を殺すんだ」
 低い静かな声が、アルトに責めるのを躊躇わせる。
 いったいいつから、この世界で生きているのだろうと考えて、思い出す。両親も、姉も軍人だったと言っていたことを。
 まさか、生まれたその瞬間から。
 アルトが、生まれたその瞬間から女形という道を歩んできたのと同様に、ミハエルも戦いの道を歩んできたのか。
 そのことに気がつかなかった自分に気づいて、胸ぐらを掴む手が緩む。
 どこかで気がついてもよかったはずなんだ。あんなにも自由自在にEXギアを操る不自然、チームメイトの誰よりも先を見据えている不自然、その歳の割に大人びた顔をする不自然。
「お前まで、この手を汚すことない」
「ミシェル!?」
 緩んだ手を取り、包み込むように触れてきたと思ったら、左の薬指から指輪を抜かれる。
「ミシェル、いやだ!」
 指を折り曲げて阻止する暇もなく、誓い合ったシルシが奪われていく。
「返せよミシェル!!」
 ミハエルの手の中に移動してしまった大事な指輪を取り返そうと、つかみかかる、けれど。
 なだめるような口づけに、目を瞠った。
「俺たちは、触れ合うべきじゃなかったんだ」
 言って、ミハエルは自分の薬指からも指輪を引き抜く。
 ふたりだけで約束し合った日々が、根本から否定されていくようで、アルトはふるふると首を振った。
「ミシェ……いや、いやだ……こんなの」
「ここは舞台とは違う、現実なんだ」
「そんなの分かってる! 俺はお前と一緒に……!」
「いいや分かってない。俺がいるからとか、そんな半端な気持ちで、こっちに足を踏み入れるな。今のままのお前じゃ、いずれ自分が死ぬか、……誰かを殺す」
 体中の血が全部、サァッとつま先へ流れていったような感覚に陥る。指の先まですべてが冷えて、本当に自分の体なのかも分からなかった。
 チンと音がして、エレベーターがロビーに到着する。開いていく扉は、同時にお互いの距離を開いていった。
「じゃあなアルト。友人として、忠告しておくぜ」
 ふたつの指輪をアルトの手に握らせて、ミハエルは背を向ける。
 それを引き留める余裕もすがりつく暇もなくて、アルトは俯きながら病院を後にした。





「返しちゃったんですか、指輪」
 宿舎のベッドに寝ころんだミハエルに、ルカは責めるようにも呟いた。
「放っとけよ」
「そんなこと言われても、僕はいちばん傍でお二人を見守ってきたんですから、見過ごすことはできないですよ」
 しゃがみ込んで、ルカは膝を抱える。
 左手を頭の下に敷いて隠すミハエルを、不器用だなあと思いながら。
「でも、二十四時間だなんて短いですよね。僕すっごい悩んで入隊したのに、それでなくても経験の浅いアルト先輩が、どうするかなんて……考えつきません」
 アルトが、侵入してきたバジュラと対戦したのは、本当に運命のイタズラとしか思えなかった。
 あの時あの場所に、バルキリーを操作できる者がいたのも、それがアルトだったのも。
「あいつは来ないよ。ここで生きるような人間じゃない」
 もっと綺麗な世界で生きていられる、自分とは違う世界の人だ、とミハエルはゴロリと壁に向かって寝返りを打った。
「それを決めるのは、ミシェル先輩じゃないですよね」
「ルカ」
「怒らないでくださいよ。僕らだって、誰かに促されたわけじゃないじゃないですか。決めるのは、アルト先輩ですよ」
 複雑です、とルカも呟いた。
 アルトが入隊してくれれば嬉しい反面、人生が一八〇度変わってしまうことを、彼が許容できるか、分からなくて恐ろしい。
 戦闘で死んでいい人間なんていやしない。だからといって選ぶ権利をもぎ取るわけにもいかない。
「お前はやけにアルトの肩もつよな」
「僕は、アルト先輩のファンですから。もちろんミシェル先輩とは違う意味で、ですけど。ちゃんと仲直りしてくださいね」
 ふふ、と笑って、可愛らしい顔をした後輩は部屋を出ていく。
 考えないようにしていたのに、直球で掘り返されて心臓が揺れた。その上ろくに切り返すこともできなかったなんて。
「……くそっ……」
 ミハエルは指輪のはまっていた薬指を眺め、拳を握りしめて額に当てる。
 同じ世界に足を踏み入れないでくれと思いながらも、求めるのはやっぱり一人だけだった。


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