- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.74, No.73, No.72, No.71, No.70, No.69, No.68[7件]
Shooting Star-016-
ふたりでワコにパフェを奢って、もう少しくらい器用に生きなさいよと怒られて、苦笑して、三人で手をつないで帰った。
ワコを送り届けてからは、ふたりっきりだ。だけどまさか手をつないで帰るわけにもいかず、行き場をなくした手はポケットにつっこまれる。
「ねえ、聞きたいことがいっぱいあるんだけど」
「うん?」
「いつからだったのとか、悩んだのかとか、僕のどこをとか、そういうの」
「それは僕も聞きたいな」
ふ、と静かに口の端を上げるスガタに、タクトはへへと笑う。
「ウチ、くるだろ」
疑問符のつかない決定事項に、一も二もなく頷いた。
そうしてシンドウ家にたどりついてみれば、メイド服に着替えたジャガーとタイガーが出迎えてくれる。
「珍しいですね、平日に泊まりにくるなんて」
「ハハ、ちょっと課題たまってて」
嘘をつくのが上手くなったタクトの隣で、夕食は食べてきたからと紅茶だけ所望するスガタ。ジャガーもタイガーももう手慣れたもので、客室の用意しておきますねとお辞儀をしてきた。
「……使わないと思うけど…」
呟いたタクトの言葉に、スガタは頭を抱えた。意味を把握して言っているのだろうかと、少しばかり恨めしい気持ちで。
「それで、たまった課題はどうするんだ?」
「スガタの意地悪。楽しい?」
「少し」
分かってるくせにと覗き込むタクトに、挑発を含めてスガタは目を細める。それが面白くないらしく、頬を膨らませてそっぽを向いたタクトの手をとって絡めた。
「タクトの反応が可愛いから、見ていたいんだ。そう膨れるな」
「かわっ…………恥ずかしいこと言うなよ、もうっ」
顔を真っ赤に染めて、タクトは突っかかった。
引かれる手に従って、スガタの隣を歩く。これからはずっと、こうしていてもいいんだと思うと、泣きたくなるほど幸福だった。
「スガタんとこって、紅茶いつも美味しいんだよね……やっぱ高いの?」
「さあ……食事とかも全部任せてるから」
持ってきてもらった紅茶を含んで、やっぱり香り高いそれを不思議そうに眺める。だけどスガタはそれが普通であるせいか、興味はなさそうだ。
制服をハンガーにかけて整えるスガタの背中をじっと見つめて、タクトは改めてシンドウ・スガタという人間を想った。
「不思議なもんだよね」
「なにが?」
「恋人ごっこしてる時は、こんなの気にする余裕なかった」
いろんなことを話したような気はする。だけどそのどれもが、上辺の差し支えないものだった。
「ねえスガタはなにが好き?」
「タクト」
これからいろんなことを聞いてみようと、手始めに訊ねた言葉に即返ってきた答えに、タクトはボッと顔を赤らめる。
「そ、そういう意味じゃなくて……た、食べ物とか!」
「…………タクトかな」
少し考え込んだフリをしながらも、スガタの答えは変わらない。
―嬉しいけど! 嬉しいけどそれって!
「タクト、僕はもう、遠慮も容赦もしないと言ったはずだぞ」
クッションに座り込んだタクトを、追いつめるように覗き込む。鼻先が触れるほど近づいた顔に、タクトは染まる頬を隠しもせずにコクリと唾を飲み込んだ。
「し、してくれる…の?」
「違う」
「えっ……」
ぐいと腕を引かれて、タクトは不安を感じる。やっと恋人同士になれたのに、してくれないのかと。
「スガタ、あの」
「間違うなよタクト。いま僕は、お前にしてやるんじゃない、僕が僕の意思でしたいんだ」
引き上げられた体はベッドに横たえられて、タクトはスガタを見上げる形になった。
「……そっか、そうなるのか…」
「今さら止まらないぞ」
「あっ、べ、別に嫌なんじゃなくてむしろ嬉しいしあの」
スガタの胸をそっと押しやって、重なった視線を想わせぶりに逸らしてみる。
「少し、恥ずかしいっていうか……」
気まずい、と付け加えるタクトに、スガタは小さく笑う。くせのついた髪を撫でて、かき分けた額にキスをした。
「そういう顔をするな。いじめたくなる」
「えっ、そんなこと…んっ」
そんなこと言われても困る、と続けようとした口唇は、スガタに持っていかれる。
恋人ごっこを始めた日から数えたら、何度キスをしただろうか。優しいキスも乱暴なキスも、意地悪なキスもあった。
「んん……はふ」
その全部が思い出されて、タクトの心臓はどんどん鼓動を速くしていく。スガタに聞かれてしまわないだろうかと身じろいだら、彼の胸に当てた手のひらからは同じほどの速度を持つ鼓動に気がついた。
―スガタもおんなじ……。
それが分かったら、恥ずかしさよりもドキドキよりも、嬉しさと愛しさが膨らんで、どうしようもなくてスガタをぎゅうっと抱きしめる。
「スガタ……」
キスの合間に小さく名を呼んだら、スガタもタクトを抱き返してくれた。恋人ごっこの時にはこんなこと思わなかった。
―スガタが大好き。
もちろん大好きだったけれど、それよりもっと大きな気持ち。
スガタの指が、手のひらが触れていくすべての箇所が心地よい。
「タクト…」
吐息のように呼ばれる名前が気持ちいい。
スガタの指先が喉を撫でる。くすぐったいと身をよじったら、それに気を良くしたのかさらに責めてくる。鎖骨を滑って肩を撫で、素肌の腕に吸いついて痕を残していく。
「ス、スガタ……そんなとこ痕残すなよ…」
「ああ…明日体育あったっけ?」
忘れていたと目を細めて笑うスガタに、絶対わざとだとタクトは口を突き出してむくれた。本気で怒る気になれないのは、やっぱりスガタの残す痕が嬉しいからだろう。
腕に、胸に散らされていくキスマークは、本当の恋。
「あ……っ」
胸を撫でる指先が、ついに突起を滑っていく。今か今かと待ちわびて、じらされて息をついたところへ突然だ。意地悪な、スガタの指先。
心の準備ができていなくて、息を飲んで口を押さえた。
「声抑えるなってこの間も言ったよな?」
「そ……だけどっ…」
恥ずかしいものは恥ずかしいんだよとタクトはスガタを見上げる。そんな仕種さえ男心をくすぐるなんてこと、きっと気づかずに。
「どうしても抑えたいなら、僕がしてやる」
「え……っ」
楽しそうな笑い顔を見せたすぐあとに、スガタの口唇が降ってくる。
「んっ、んん…!」
口唇をふさいだまま、スガタの指先はタクトの体を隅々まで撫でる。首筋、肩、腕、胸、硬くなった乳首、腹、全部。
「んぅ、う、っは……」
揺れる肩に、スガタの口唇が離れていく。ようやっと大きな呼吸ができて、タクトはそれでも寂しく思ってスガタを呼んだ。
「スガタ……っあ」
忍び込んだ手のひらに包まれて、びくりと腰が沈む。
「逃げるなよ、タクト」
「別にっ…逃げてな……あぁっ」
一度口唇を開いたらもう我慢ができなくて、タクトの声はスガタの部屋に響く。それを満足そうに耳に入れて、スガタはタクトを責め続けた。
「あっ、あ、……スガタ、やだ…ぁ」
「なんで? こんなに……感じてるのに」
「やっ……、き…」
「き?」
タクトを撫で、擦り、はじく。タクトはスガタの指先を意識で追って、ふるふると首を振った。
「気持ち…、よすぎてっ……やだ…!」
スガタの頬がさっと染まる。意地悪をするつもりで訊ねたのに、逆に跳ね返されてしまう。いたたまれなくて逸らした視線を、タクトは訝しんだ。
「スガタ…? ごめん僕、何か変なこと言っ……」
「タクト、愛してる」
こつんっ、と額を合わせてそう告げてきたスガタの声を、頭の中で繰り返す。
その言葉を理解して、タクトはゆでダコになった。
「ス、スガタはズルイ!」
「どうして」
「こんな時にそんなこと言われたらっ……嬉しくてドキドキして…どうしようもなくなるじゃんか…っ」
真っ赤になった顔ごと視線を逸らして、八つ当たりに近い悪態をつく。そんな可愛らしい仕種に、スガタはふっと笑った。
「じゃあお前も言えばいい。それでおあいこだろ」
ちゅ、と頬に口づけて囁く。策略のつもりはなかったが、あとから思えばそう見えてしまうかもしれない。頬を膨らませたタクトに笑って、指を滑り込ませる。
「冗談だ、無理に言うことない。お前が本当にそう思ったときに……言ってくれ」
「スガ……タぁ…っ」
スガタの指に翻弄されて、タクトはのけぞる。触れる素肌が、嬉しくて幸福なのに、なんでそんなこと言うんだと、責めてみせる。
「僕はっ……僕だってスガタのこと好きなのに…!」
無理になんて言えないのは分かってる。演技じゃないのだから、自分の本当の気持ちを言うべきなのだ。
「タクト」
スガタの首に腕を巻き付けて抱き寄せる。近づいた鼻先に口唇が触れて、スガタの心臓が鳴った。
「スガタ、大好き……あいしてる…」
そのあとすぐに、重なってくる口唇。
タクトのつたないキスにスガタは目を閉じて、そっと髪を撫でた。
「……本当に、タクトの言う通りだな」
「うん?」
「嬉しくてドキドキして、どうしようもなくなる」
苦笑を漏らすスガタに、今さらながら自分の発言を思い返して、タクトは頬を染める。愛してるなんて言える人は、この先ずっと現れないだろう。シンドウ・スガタ以外には。
「わ」
「覚悟するといい、タクト。僕はお前を手放したりしないからな」
「んっ……の、のぞむところ、だよっ……」
ギ、とベッドが啼く。つながったところが疼いて、タクトは、あ、と声を立てた。隙を見計らって入り込んだスガタは、泣き出したタクトの目尻にキスをする。
「スガタ……っ」
「イきたかったら…っ、イッて……いいぞ、タクト」
耳元で聞こえる、お互いの吐息。呼ばれる名前に体が震え、足が絡んだ。
「……一緒じゃ、ダメ…?」
思いも寄らないタクトのおねだりに、スガタは目を見開いて、そして愛しそうに細めた。
「駄目……じゃない」
手を重ね、指を絡める。強く握れば、握り返してくる。そっと触れ合った口唇を合図に、ふたりで呼吸を同じにした。
「はっ……あ、ぅ」
「タクト……もっと、足……」
「んっ…スガタ…!」
素肌が触れる。汗が混じる。足が絡む。腰が合わさる。
言葉では伝えきれない想いをぶつけ合うように、ふたりはつながった。裸のままで抱き合って、広いベッドに落ちていく。
朝目が覚めたら、大好きな人からのキスが降ってきた。
キスのあとのおはように、ふたりともが笑う。
喜びに満ちた朝の光に、もう一度愛していると囁いた。
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Shooting Star-015-
「っはあ、……は、ぁ…はぁ…っ」
タクトは両肘を壁について足を踏ん張り、どうにか体を支えて荒い息を整える。濡れた口唇を拭う余裕なんて、当然なかった。
「スガタ、ど……して…っ」
「ここまでしてもまだ気がつかないのか…?」
責めたタクトに、同じく責めるようにスガタは返してくる。
「僕は本当にお前が好きなんだ! 演技でなんて……言えるわけがない……!!」
ざわりと、肌があわだった。
タクトは瞬きと息を止めて、壁に拳を叩きつけるスガタを眺める。
「お前を抱いたのも、僕にとっては現実だった! 後悔したさ、お前が僕から目を逸らす回数が増えて! 頼むからもう…っ、僕に能力以上のものを求めるな、タクト!」
演じる力などないに等しかった。
惚れた親友を相手に恋人役を演じて、平常心でいられるほどスガタは役者ではない。その道を目指しているわけでもないのに、完璧な恋人役なんて演じられるはずがなかったのだ。
「う、そ…っ……」
すとん、とタクトはその場に座り込む。崩れた、と言った方が正しいだろうか。それを抱き止める余裕はさすがにスガタにもなくて、手を差し伸べるタイミングを逃した。
「タクト…?」
「スガタ、が…、僕のこと…好きって……本当に?」
放心したようなタクトを、さすがに心配そうにスガタが覗き込む。疑っているのか、タクトの口から出てきた言葉にスガタは眉を寄せた。
「嘘じゃない。お前相手に、演技したことなんか一度もないよ、タクト」
少し目を伏せて、後ろめたそうに再度告げるスガタ。
タクトは、腰を折って半身をへたりと床に伏せる。そのまま肩を震わせたタクトを、スガタは不審そうに呼んだ。
「おい、タクト」
「……イッツァミラク―ル。なにこれ信じらんない」
笑っているのかと眉を寄せたその瞬間、涙をにじませたタクトの瞳が振り仰いでくる。
「僕たち、両想いだったんだね」
「…………―え?」
不謹慎にも高鳴った胸に息を止めて、ついで飛び出てきたタクトの言葉に、スガタは瞬きを止めた。
「両、想…い……って? 僕とタクトがか?」
「そうだよ! 僕はスガタが好きなの!」
ガバッと起き上がって、片膝をついたスガタのネクタイをぐいと引っ張る。
「スガタが……好きなんだよ…」
初めて、タクトからの口づけ。包むようについばんで、離れて、また重ねた。
「…本当に……そうなのか…?」
「ねえここまで言ってるんだから信じてくんない?」
スガタはタクトの触れた口唇を覆い、瞬きひとつせずにタクトを見つめた。
肩を竦め、最後の一押し。スガタの頬が赤く染まっていくのが面白くて、タクトはずいと詰め寄った。
「大好きだよ」
視線がすぐ傍で重なり合う。離すのがもったいなくて、やがて引き合っていく口唇に、全部の想いを乗せた。
何度も触れては離れ、触れては離れる口唇と、重なり合う視線。
なんだそうだったんだ、と急に受け入れてしまえる幸福ではなかったが、こつんとぶつかる額が気恥ずかしくて嬉しくて、ふたりで笑った。
「気づいてもよさそうなのに」
「僕の台詞だ。演技であんなこと、できるものか」
お互いがお互いのせいにして、やっと通じ合った想いを再度、音に乗せる。
とっくに始まってしまった午後の授業は、今から出席しても意味がないように思えた。
「僕は戻るよ。お前は保健室に行ってるといい」
それでもスガタは立ち上がって、手を差し出してきた。友人としての仕種ではなく恋人としてのそれに、タクトは少し頬を染めて手のひらを預ける。
「病名は、恋の病かな?」
あながち間違ってはいないけれどと笑って、タクトも立ち上がって、スガタと目線を同じにした。
「今日は、一緒に帰れる?」
「……ワコにチョコレートパフェ奢ってからなら」
バツが悪そうに逸らされたスガタの視線にきょとんと首を傾げ、そして噴き出す。ワコには気づかれていたからなと続けたスガタに、やっぱり彼女には敵わないよねえとタクトも返した。
「怒られたよ。本当にタクトを好きなのに、演技なんかして何やってるんだってね」
「ワコはスガタのいちばん近くにいるからなあ、分かっちゃうんだよ。灼けるな」
「これからはお前が、ワコとは違う意味でいちばん近くにいればいいじゃないか」
いけしゃあしゃあと言ってのけるスガタに、かぁっと頬が染まる。
ワコはスガタの大事な人。
タクトはスガタの大切な恋人。
これからそうなるのかと思うと、幸せで幸せで、口が緩んだ。
「もう、フリじゃなくていいんだよね」
「お互いの気持ちがはっきりした以上、そうだろうな。僕はもう、遠慮も容赦もしないぞ」
確認するように視線をよこしてきたスガタに、タクトはややあってうんと頷く。こっちこそ遠慮も容赦もできないよと付け加え、挑戦的な笑顔を向けてやった。
「じゃあ、あとでね」
「ああ、あとで。カバン持ってってやるよ」
タクトは保健室に向かって階段を降り、スガタは教室に向かって階段を上がる。ずいぶん元気な病人だなと、肩を揺らした。
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Shooting Star-014-
「待っ…、ちょっとスガタくん何ぼんやりしてるの!?」
追いかけようとして、ワコはハッと隣を振り向く。当事者であるはずのスガタが、タクトの消えていった方向から目を逸らしたまま、微動だにしていないことを責めた。
「これ以上僕に何をしろと言うんだ!」
それを振り払うように、スガタは叫ぶ。ワコの前では珍しく、苛立った様子だった。
「タクトの望むようにしてきたんだ! 僕はこれ以上何をすればいい!?」
「追いかけてよ!」
そんなスガタにワコも苛立ってしまう。今この状況で、それ以外に何をすることがあるのだろう。
「ねえ、タクトくんはスガタくんじゃないんだよ? 私と違って、スガタくんと逢ってからまだそんなに時間経ってないんだよ? ちゃんと言わなきゃ、分かるわけないじゃない!」
何をするべきなのか、何をしてほしいのか、言わなければ分からないことがある。言葉にしてもいないのに分かってくれと言うのは、ただのわがままだ。
「ワコ……」
「ほら、さっさと追いかける! あっ、今日チョコパフェ奢ってね!」
ビシッとタクトの走っていった方向を指さされ、スガタは決まりが悪そうにそちらを見据えた。
―そういえば、気づかれていたんだっけ。
認識していたはずのことを改めて思い返して、苦笑する。足を一歩踏み出して、また一歩、二歩、三歩踏み出して、速度を速めた。
タクトへ、向かって。
仕方ないなあとその背を見送るワコは、やっぱりフルーツパフェって言えばよかったかなと思案した。
ポタポタと、顎を涙が伝う。彼らの前で泣かなかっただけ、自分を誉めてやりたい。
タクトは階段の踊り場で壁に手をつき、溢れ出てきそうな嗚咽を必死でこらえた。
スガタの、真実を告げる声が頭に響く。
ワコの、スガタを責める声が耳について離れない。
何をしているのか分かっているのか、と。
しきたりとはいえ、ワコという許嫁がありながら、男と恋人ごっこをしているなんて、誉められたものではない。ワコの責めは正当なものだ。
他人に知られたら終わりというルールはあった。普通に過ごしていれば誰かに知られる要素はないはずで、スガタが自ら暴露したということは、つまり。
―スガタは、選んだんだ。
続けるのか、もうやめにするのか。
スガタに選んでくれと言ったのはタクト自身だ。責める資格はない。だけど、こんな形で終わりになるとは思っていなかった。
―スガタはワコが大事で、ワコはスガタが大切でっ……分かって…分かってたのに!
入り込める隙間なんてどこにもないって分かってたのに、そんなことで諦めることなんてできなかった。
「……っう……」
この涙が流れ終わったら、さよならを言いにいこう。
せめてさよならは自分から切り出さなきゃと、タクトは何度も何度も涙をこらえて、その度にこらえきれなかった涙が、顎を伝い落ちていった。
「タクト」
ビク、と肩が震える。心の準備も何もできていないのに、なんでこんな時にと初めてスガタを恨んでみた。
タン、と段を降りる音が聞こえるけれど、顔を上げることができない。
「タクト」
顔を上げようとしないタクトを、スガタがもう一度呼ぶ。それでも返事もしないタクトに、ため息をついた。
「お前が望むなら、最後まで演じてやりたかったんだが」
「もういいよ分かってるから!」
最後まで演じきれないなら、終わりの言葉も聞きたくない。タクトはスガタの言葉を遮って、ふいとそっぽを向いて乱暴に涙を拭う。
「いいよ、分かってる……」
スガタにこれ以上甘えることはできない。
叶うはずのなかった夢を叶えてもらった。それでもう充分だ。
「わがまま言って、ごめんなスガタ。スガタの気持ちは分かってたはずなのに、甘えちゃって」
ワコまでも傷つけてしまった、とタクトは俯く。それには、スガタの目が見開かれていった。
「僕の……気持ちだって?」
「言わせるのか? ワコのこと好きなら、ちゃんと言ってあげなよ」
彼女だって可哀想だろ、と震える声で付け加える。ワコならいいと思った。ワコ以外では嫌だと、身勝手にも逃げ道を作る。
ワコとなら、自分も友人でいられる。本当にそう思った。
「タクト、悪いがそれは見当違いだ」
スガタは手すりを強く握り、極力静かに、そう返す。ようやく振り向くタクトを、憎らしげに睨んだ。
「ワコのことは大事に思ってるし、たぶんワコも僕をそう思ってくれている。だけど恋愛じゃないんだ」
「だ、だけど」
「お前がそんな風に思っていたなんて、知らなかったな」
くしゃりと、髪をかき混ぜる。そんなスガタの仕種に、とても悪いことを言ってしまったような気分になって、タクトは思わずごめんと呟いた。
「僕はスガタを傷つけてばかりいるね」
そんな顔スガタらしくないのに、と無理に笑ってみせる。
スガタの傍にいたいと思った。だけど、そんな顔をさせながら役を強要できるほどワガママにもなりきれなくて、中途半端に恋をした。
「タクト……?」
「僕のワガママにつきあってくれて、ありがとうなスガタ。でももう…………終わりにしよう」
タクトと向かい合ったスガタに、涙をこらえて声を絞り出す。うまく笑えていただろうか。不自然じゃなかっただろうか。
自分で始めたことの幕引きは、やっぱり自分でしなければならない。
「最後にさ、ひとつだけ頼みがあるんだ」
「……聞けることなら」
「大丈夫だいじょうぶ、スガタなら簡単だよ」
ハハハとわざと明るく笑ってみせて、最後の願いを口にする。
「演技でいいから、あ……愛してるって…言ってくれないかな」
小さく呟かれた最後の願いに、スガタは目を瞠った。瞬きをすることさえできなくて、沈黙が訪れる。
「…スガタ……?」
スガタは口唇を開いて、何かを言いかけてそれでも口唇を閉ざした。俯いていくスガタを、タクトは怪訝そうに呼ぶ。
スガタの指が青の髪に絡む。何かを決めあぐねているときの彼の癖なのだろうかと、タクトは今さら思う。
「……なんで…」
「え、だ、だって……スガタ一度も……言ってくれなかったし…」
責めるような低い声に、タクトは体を強張らせる。何か悪いことを言ったのだろうか。だけど恋人同士なら、愛してるとか好きだとか、そんな言葉を言ってみてもおかしくない関係だ。
それにもかかわらず、スガタと恋人同士だった間、ついぞ一度も、その類の言葉が出てくることはなかったのだ。今にしてみれば不自然なほどに。
「だから、一度くらい聞けたらなって…思ったんだけど…。スガタが、どんな声で、どんな顔で言うのかって……」
スガタは髪の絡んだ手で額を押さえながら、ぎゅっと目蓋を閉じている。
演技でさえ言ってくれないのかと、タクトは口唇を噛んだ。
「……言えるわけ……ないだろう…」
「ス、ガ…タ、」
やがて絞り出された声は、心臓に突き刺さりそうなほどの、スガタの苛立ちが伝わってくる。タクトは目を見開いて、スガタの名を呼んだ。
「言えるわけないだろう! お前にっ……演技でなんか!!」
「スガタっ!?」
一気に溢れ出す、スガタの憤り。掴まれた腕に痛みを覚える前に、タクトは引き寄せられて息を止めた。
なんの前触れもなく重なってくるスガタの口唇に、何度も目を瞬く。
―スガ……タ?
突然のことに、呼吸もうまくできない。壁に押しつけられてしまっては逃げ出すこともできないし、そもそもスガタのキスから逃げるなんてこと、タクトの頭には初めっから置かれていない。
「ん…んっ……」
はあ、と離れた口唇の隙間から息を吐き出して、吸い込んだ直後にまた重ねられる。
乱暴でつたない、こんなキスはスガタらしくないと考えた。恋人ごっこはやめようと言ったはずなのに、今になってこんなキス、心臓が痛くなるだけだ。
「スガタ、苦し…っ……ん」
そう訴えた傍から角度を変えては口づけられて、タクトは体からどんどん力が抜けていくのを感じる。
だけどスガタにしがみつくのもはばかられて、結局支えきれなくなったスガタが、タクトを解放することになった。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
Shooting Star-013-
「タクトくん、大丈夫?」
もう昼休みに入ったのかとタクトは目元を拭う。閉めていたカーテンを開けて、入ってきたのはアゲマキ・ワコ。心配そうな顔をして、それでも覗いた先に思ったよりも平気そうなタクトを見つけて、ホッとしたようだった。
「ワコ、ごめん大丈夫だよ」
「ホントに? もうお昼だけど、どうするの?」
もう購買部売り切れてる時間だよ、と最初に心配するのが食事のことであるあたり、さすがはワコといったところだろうか。
もともとあんまり食欲もないしと起き上がったところへ、もう一人の見舞い人。
「ワコ、タクト起きてる?」
「あ、うん大丈夫そうだよ」
ドキンと心臓が跳ね上がった。どんな顔をして逢えばいいのか分からなくて、だけど視線を逸らす暇はなかった。
「顔色はいいみたいだな。ほら」
「えっ、あ」
作ったような笑顔で顔を覗かせたのはシンドウ・スガタ。彼がタクトの膝の上に放ってきたのは、ひとつの菓子パン。
「好きだったろ、メロンパン」
「う、うん……」
ありがとう、と小さく呟く。
スガタはちゃんと弁当があるはずだ。タクトのために、わざわざ購買部まで行ってくれたのだろうかと思うと、嬉しくて恥ずかしくて頬が染まった。
「ワコ…すまないけど、ちょっとふたりにしてくれるかな」
「え、あ、うん。私ご飯食べてくるね。タクトくんも平気そうだし」
またあとでね、とワコは手を振って保健室を出ていく。引き留める暇もなくて、タクトはいたたまれずに俯いた。
「寝てなくて大丈夫か?」
「あ、う、うん平気。さっきはありがとう」
スガタは立ったままタクトを見下ろす。そんな彼を見上げることはやっぱりできなくて、顔ごと反対側を向いた。
「こんなとき恋人としては、どうしてやるべきなのかな」
校内ではあるが、今はふたりっきりだ。恋人を演じるのに、不都合はない。
だけど、どうしていいかなんて分からない。
「……分かんない」
タクトはシーツをぎゅっと握りしめる。言わなければいけない言葉はあるのに、口唇を滑ってくれない。
「タクト、正直に言ってくれ。続けるつもり、あるのか? 好きな子がいるなら、ちゃんと」
「僕はっ……!」
タクトはバッと顔を上げて降り仰ぎ、スガタの声を遮る。好きな子がいるならそっちに行っていい、なんてスガタの口からは聞きたくない。
「僕は……」
好きだ、と言ってしまえばいいのか。
それともさよなら、と言えばいいのか。
泣きそうになって歪む目元。それを認識してか、スガタの眉が寄せられる。
そんな顔をさせたいわけじゃない。
「スガタが、……スガタが選んで」
そして、答えを出すことから逃げる。どうすることがスガタにとっていちばんいいのか、タクトには選んでやることができない。
いや、スガタにとっていちばんいいことなんて分かりきっているのに、自分のためにそれを選ぶことができなかった。
「タクト……」
スガタの手が持ち上がる。少し乱れたタクトの髪をかき上げたそれは、ゆっくりと降り、口唇をなぞっていった。
「そんな顔を、させたかったわけじゃない」
「え…―」
不意に、重なってくる口唇。反射的に伏せた目蓋に、スガタの髪が被さるのが感じられた。
「今日は拒まないのか?」
そっと触れるだけ触れて離れていった口唇を、タクトはぼんやりと眺める。どういう意味で、どう返していいのか分からないままスガタが離れていく。
「お互い相手に答えを任せるって、ちょっと卑怯だな」
苦笑だけ漏らして、スガタはベッドカーテンの向こうに消えていった。
「……スガタ!」
保健室のドアが閉まってようやく、タクトは我に返る。慌ててベッドを降りて、もつれる足をどうにか踏ん張ってスガタを追いかけた。
スガタの行動の意図が読み切れない。もともと読み取れないけれど、つまり彼がどうしたいのかが少しも分からなかった。
きょろりと廊下を見渡すのに、スガタの背中さえ見えない。どこに行ったんだと不安になって、眉が下がる。勘を頼りにタクトはスガタを探した。
「ねえ、ケンカでもしたの?」
棟をつなぐ渡り廊下で、スガタを待っていたワコは不意に訊ねた。
「ケンカって、タクトとか? してないけど、どうしたんだワコ、急にそんなこと言い出して」
「急にじゃないよ、ずっと気になってたのに」
大好きなお弁当も食べずに待っていたということは、何か話しがあるんだろうとは思っていたが、その予想は外れてほしかった。
「土曜日からずっとだよ? スガタくんとタクトくんの態度がぎこちないの。まさか気づいてないとか、言わないよね」
だってスガタくんだし、とワコは続ける。
いったいこの少女は、シンドウ・スガタという男をどう評価しているのだろう。
「さっきね、ルリも言ってたの。ぎこちないねって。ねえこの意味分かる?」
「彼女にまで気づかれるほど、目に見えておかしいってことだろ」
そうだよ、とワコはため息混じりに返した。
スガタと長い時を過ごしたワコだけならまだしも、クラスメイトというだけのルリにまで、ふたりの間がおかしいのは見えている。
心配をするなと言われても、きっとそれは実行できない。
「そんなに、不自然か?」
「不自然。おかしい。違和感ありすぎ。さて反論は?」
スガタが立ち止まってワコに訊ねる。くるんと体ごと振り向いて、ワコは答える。
どうも、スガタには心当たりがあるようなのだ、ワコは黙って見ているなんてできやしないとじっとスガタを見つめる。
スガタのことは、この島でいちばんよく理解していると思っていた。いちばん理解していたかった。ツナシ・タクトが現れてから、それは少し変わってしまった。
一本しかなかった線が、歪み始めている。それがどうというわけではない。ただこのふたりと、関わっていたいのだ。
「タクトくんと、なにがあったの?」
壊れる前に、つなぎ留めておきたい。
スガタは、退く様子のないワコを眺め、目を細めて視線を逸らす。
壁にもたれれば、ガラス越しに綺麗な青い空が広がっていた。
「ワコ、僕は……きみを大切に思ってる。それは知っておいてほしい」
「うん、分かってる」
今さらだよ、とワコは茶化すためでなく笑う。自分の運命から逃げ出さないで生きてこられたのは、お互いが傍にいたからだ。
「タクトは、ワコのことを気に入ってると思ってる。ワコがタクトに対してそう感じているように」
「……うん?」
ワコの問いに答えるというよりは、自分に言い聞かせているようなスガタを前に、ワコは少し首を傾げた。
「今、僕はタクトの恋人役を演じているんだ」
決して合わさらない視線が、後ろめたさを物語る。
「……―え?」
「ぎこちないのは、きっとそのせいだろう。校内では友人同士だから、僕もうまく切り替えられなくて」
「ちょ、…ちょっと待ってなに言ってんの!?」
にわかには信じられなくて、ワコは思わずスガタの腕をつかんだ。
彼は今なんと言ったのだろうか。タクトの恋人、までは理解できた。だがそのあと、役を演じている、とは。
「役って……役ってなに? フリだけってこと? ねえ!」
「ワコ、ごめん、言い訳はしない。殴りたければ殴ってくれていい」
「スガタくん、自分が何をやってるのか、分かってるの!? 恋人の役なんて……だって、スガタくんは…!」
「ワコ!」
黙っていたことを怒っているはけではないと詰め寄るワコに、スガタはハッとして叫んだ。それでもスガタの視線は、ワコの方を向いてはいない。
「あ……」
追ったスガタの視線の先に、タクトの姿。ワコもハッと息を止めて、駆け寄ろうと踏み出す。
寸前。
「ご、ごめん、聞いちゃって! あの、僕……邪魔するつもりは」
タクトの震えた声に踏みとどまる。
何を誤解したのかは、容易に想像できた。
「ス、スガタにはワコがいるもんな、そんなの……分かってたはずなのに…ほんと、ごめ……ッ」
「タクトくん!」
最後まで言い切れずに、タクトは口を押さえて踵を返す。スガタとワコに背を向けて、追ってきた道をとって返した。
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Shooting Star-012-
まだ続けるつもりだと、先日お互い確認した。あの行為は、恋人同士としては過ちでなく自然な流れだったとして、スガタもタクトも、続行の意志を示したが。
「……しんどい」
誤算が、ひとつ。
―やっぱり顔合わせるのは気まずいなあ……。
タクトは窓際、自分の席で大きなため息をついて目蓋を閉じた。
昨日、彼のキスを拒んでしまったことが悔やまれる。
今日はまだ、おはようすらも言えていない、現在三時間目が終わった休み時間。
ちらりとスガタを見てみれば、なにが楽しいのか壁の方へ顔を向けて頬杖をついている。あれは明らかに、タクトと視線を合わせないためのものだろう。
―あっちも同じかあ……。
目を合わせなければ、こうして眺めていることはできるが、
―しまった。
思い出してしまう。
あの白い首に縋った、あの日の夜。肩にしがみついてスガタを受け入れた、あの夜の幸福で残酷な時間。
何度も彼の名を呼んだ、愛のない愛のための行為だ。
いや、正確には愛はあった。演技での。
またシンドウ・スガタという男が分からなくなる。今はこのクラスの誰よりもスガタを理解できていると思ったけれど、実はそんなことなかった。
近づいた分、また分からなくなる。
―なんでスガタは、僕のこと抱いてくれたのかな……そりゃ、挑発したのは僕だけど。
スガタが安い挑発に乗るなんて、今となっては考えつかない。だけどつながった事実は消せないし、後悔していることも知っている。
―なにがしんどいって、スガタにあんな顔させてんのが…いちばん辛い気がする。
あの日の翌朝、スガタはいつにも増して口数が少なかった。ワコがいる時には見せていないはずの鋭い表情だってあった。
いつでも笑っていてほしいなんて言える立場ではないけれど、せめて眉間のしわくらいなくなればいいのにと思う。
―最低だ、僕。
なのに、あの表情をさせているのが自分なのかと思うと、やっかいな独占欲が歓喜に震えているのも分かる。
―スガタのこと好きなのに……僕じゃあんな顔しかさせられないんだ。
それでもこの恋をやめてしまえるほどの勇気もなくて、スガタを手放すこともできなくて、自分がいやになってくる。
恋なんてもっと簡単で、楽しいものだと思ってた。
可愛い女の子と青春の謳歌!なんて夢を見ていたのに、実際はうまくいくはずもない親友に恋をして、挑発して体をつなげて、そのくせ怖くてキスを拒んだ。
―スガタに合わせる顔なんて、あるわけない……!
「ツナシ・タクト!」
「えっ、あっ、はい!?」
タクトはハッと顔を上げた。視線の先には、仁王立ちの教師。クラス中の視線を感じて、タクトはそこでやっと事態を把握した。
もう授業が始まっていたんだ。
「聞いてなかったわね?」
「え、いや、えっと、その、なんていうか、……すみません、聞いてませんでした」
ぺこりと頭を下げると、五秒の沈黙ののちにあからさまなため息が聞こえてくる。
怒られるかなと目をつむる。怒られるだけならまだマシだ、廊下に立たされたりどこだかの掃除を言いつけられたりしないだろうかと考えた。
「先生、彼は今日体調が悪いようなんです。差し支えなければ僕が代わりに朗読しますが」
くすくすと笑いが漏れる教室に、静かな声。タクトは顔を上げて、その声の主を振り向いた。
「あら、そう? じゃあシンドウくんお願いね。ツナシくん具合が悪いなら保健室行ってきなさいな」
「え、あ、はい……」
教科書を朗読するために立ち上がるスガタと、保健室へ行くために立ち上がるタクト。
クラスメイトに平気かと声をかけられて、大丈夫だいじょうぶと、何でもないように返してみせた。
スガタの綺麗な朗読が聞こえる教室を出て、タクトはぼんやりとしつつも保健室へと向かう。
思うのは、やっぱりシンドウ・スガタ。
助け船を出してくれたにもかかわらず、視線はいっさい合わせてくれなかった。
校内で恋人同士を匂わせることはできないにしても、親友同士の視線の交錯くらいあってもいいのではないだろうか。
かといって、それがあってもタクトが平常心で受けられるかどうか分からない。スガタはそれを見越していたのだろうか。
―こんなの、いつまでも続けてていいはずない……。
スガタにさよならを言わなければならない日は、きっといつかくる。スガタに好きな人ができて、その人もスガタを好きになってくれる日が必ずくるはずなんだ。そのとき自分は、親友として祝ってやらなければならない。
それでもまだ恋人として傍にいたい気持ちが、体中でくすぶっている。
保健室のベッドに横になっても、浮かんでくるのはスガタの顔。腕で目元を押さえても、聞こえてくるのはスガタの声。タクトと呼んでくれるあの、声。
―スガタが……好きだ。
いっそのこともう、告げてしまおうか。きっとあの優しくて厳しい男は眉にしわを寄せて、本気なら受け入れられないと声を絞り出して答えてくるはず。
それが容易に想像できて、タクトは笑ってしまった。
こんなに簡単に未来が想像できるのに、どうして恋人役を演じてくれなんて言えたのだろう。
―……ああ、そうか。
それがあの時の精一杯だったんだ。
流れてくる涙を止められなくて、よけいに悔しくなる。
好きだと言えなかった、あの時の精一杯。
演技で、なんて逃げ道を作るしかなかった、叶うはずのない恋。
―もう……終わらせなきゃいけないんだ…。
いつまでもスガタに甘えているわけにもいかない。スガタにあんな顔をさせているわけにもいかない。この不毛な想いを、もういい加減に捨てなければいけない。
あともう少しだけ、あとひとつだけ、スガタに願いを叶えてもらったら。
―もうやめようって、言ってあげられる。
ズキズキと痛む心臓を、タクトはもう押さえることさえしなかった。
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Shooting Star-011-
タクトくんがおかしい。
そう呟いたワコの声は、同じ球体に入っているスガタにも聞こえたはずだ。
だが彼は、同意を返すでもフォローを返すでもなく、ただじっとその光景を見下ろしていた。
ここ、ゼロ時間が発動した空間の中では、まさに時間など関係ない。外界とはいっさいを切り離し、特殊な時の流れを作り出している。
現在はこの中でしかサイバディは活動できず、外界への被害はない。
しかし封印が解かれてしまえば、外の世界でもここと同様の活動ができる。だが、そんなことになったら人類の混乱は想像に易い。
敵のサイバディは僕が全部破壊する。
そう言いきったタクトの潔さが、スガタには眩しかった。
自分の好きなように戦って、ワコを守り、解放する。
それができる、タクトのサイバディ・タウバーン。他のサイバディとは違う種類のものだ。
エムロードとサフィールの二本を、いつもならほれぼれするほど綺麗に捌くのに、今日はどうしたことだろう。
「切っ先に迷いがあるな」
「あのサイバディ、イヤな予感しかしないの、どうしようスガタくんっ…」
「何を考えている、タクト……!!」
スガタは目を細める。特徴的な、大きな瞳らしきものを持つサイバディは、その覚醒と同時にコントロールを失い無作為に攻撃を仕掛けてきている。先ほどは味方であるはずの綺羅星十字団にまで飛び火したほどだ。
あの不可解な動きは、乗り込んでいるドライバーにさえ制御できていない証拠。以前、ページェントのドライバーを抑えこんだスガタのリビドーなどとは全く違う。
「あっ…!」
ワコが息を飲んで声を上げる。タクトの乗るタウバーンが、敵のサイバディ・アインゴットに掴みかかられて倒された。
スガタは衝動を抑えきれず、天に手をかざす。
ワコがスガタを振り向くのと同時に、王の柱が発動される。青白い光の矢が、二体のサイバディをめがけて放たれた。それこそ敵も味方も巻き込みかねない、スガタの横ヤリ。
タクトは、タウの球体の中でハッとする。衝撃で吹き飛ばされたアインゴットを見やり、スガタを降り仰いで俯いた。
―…また…スガタに……っ!
口唇を噛んだその瞬間、声が聞こえる。
タスケテ
「……!?」
頭に直接響くような声だった。ワコの声ではない。戦いを見物している綺羅星の誰かでもない。
タスケテ……!
「まさか……中のドライバー…!?」
外界と切り離されている今、考えられる可能性はその一つのみだった。
「た、助けなきゃ」
タクトは立ち上がり、スターソードを構え直す。敵とはいえ、助けを求めている人を見過ごすわけにはいかない。弱きものを守るのが、ツナシ家の家訓だ。
王からの横ヤリを入れられてもいまだに暴走を続けるアインゴットを、タクトは哀れむように睨みつける。
振りかざしたスターソードは、倒すためでなく助けるためだった。
「豪快、銀河十文字斬り!!」
タウバーンのスターソードが、暴走するアインゴットを斬りつける。動きを止めて崩れていくそれに、スガタもワコもホッと息を吐いた。
そうして、ゼロ時間は終わりを告げる。外界とのリンクが始まって、それぞれ自分のいた場所へ戻っていくのだ。
すっと、モノクロの世界が色づく。タクトの正面にはスガタがいて、スガタの正面にはタクトがいた。
ゼロ時間になる前の状態に戻ったふたりは、まず最初に息を吐いた。
「ごめん、スガタ……」
「なにが」
「僕、今日ちょっと……怖かったんだ」
スガタには見抜かれていただろうなと、タクトは泣きそうになって俯く。得体の知れないサイバディの絡みつくようなオーラが、言いようもないほど恐ろしかったのだ。
「また、スガタに助けられた……っ」
「迷惑か? 言っておくが僕は、お前のためを思ってでなくやることなんて…ひとつもない」
「分かってる、悔しいだけだよ」
王の柱の力を借りないとサイバディのひとつさえ破壊できないのかと、自分の不甲斐なさと劣等感に襲われるだけ。
「スガタ、僕まだ弱い…」
それが悔しい、と俯くタクトを、スガタはそっと抱き寄せる。肩に乗るタクトの頭をゆっくりと撫でて、強張る体を預けさせた。
「そんなこと、知ってる」
「こんなことスガタには言いたくないのに、スガタにしか言いたくない……!」
タクトはあふれそうになる嗚咽をこらえて、ぎゅうっと拳を握る。大事な親友には、大好きな人には、こんなところ見られたくない。だけどその人にしか見せたくない。
「分かってる、タクト。そのままのお前でいいんだ。弱くていい、ワコを裏切りさえしなければ、…たとえば僕を裏切っても」
「はは、何それ」
冗談めかして言い合うけれど、本気を含む声にお互いが気づいている。
「だけど、敵はサイバディの復元技術を手に入れている。今までのようにはいかないぞ」
緊張の解けた体を離したら、スガタの厳しい声が耳に入る。タクトも、眉を寄せてうんと頷いた。
「今日のあのサイバディ……ドライバーの女の子がさ、タスケテって言ってたんだ」
「それが聞こえたのか?」
「うん、だから何がなんでも助けなきゃって、やっと絡みつくオーラから抜け出せたっていうか」
あの子大丈夫かなあと、誰とも分からないドライバーを思う。死ぬようなことはないにしろ、か弱い女の子があんな得体の知れないサイバディに乗って、大丈夫なのだろうか。
「タクト、あんまりワコを心配させるなよ。今日すごくハラハラしてたんだぞ」
「……うん、あとでメールしとく…」
明日また剣の稽古頼むな、と言いかけて、顔にかかる陰に瞬きを忘れた。
「僕も、心配だった」
言うのとほぼ同じ速度で、重なりかける口唇。
だけど、実際には触れ合えなかった。
「ごっ、ごめんスガタ!」
タクトが、反射的にスガタの体を押しやったせいで。タクトはそうしてからハッとして、慌てて弁解した。
「あの、今のはちょっとびっくりして、体が勝手に!」
真っ赤になったあと、タクトは眉を寄せたスガタを目にして青ざめる。
拒むべきじゃなかったのに、時間は戻ってきてくれない。
「ス、スガタ」
「僕も悪かった、驚かせたな」
だけど何でもないようにいつものすました顔で返してくるスガタ。それが逆に不安だった。
「ごめん、怒って……る?」
「別に怒ってない。そんなに気にするなよ」
うん、とタクトは頷くけれど、どこまで信じていいか分からない。
「今日はもう、帰るか?」
「うん、そうする…今日はちょっとキツかったし」
だけどスガタがそう演じるならば、タクトも合わせるほかにない。気まずい空気を打ち破る技術なんて、タクトにはないのだから。
「また…明日な」
「ん、おやすみ」
ひらひらと手を振って、背を向ける。走って寮に向かう途中でも、思うのはやっぱりスガタのことだった。
キスが嫌で拒んだわけではない。あの夜のことを思い出してしまって、心臓が大変なことになるのだ。スガタには気づかれたくない。
自分たちは恋人ごっこで始まって、恋人ごっこで終わらなければいけないのに、こんな気持ち知られたら友人でもいられなくなる。
―苦しい……スガタが全部欲しくて、苦しいよ…!
こんなはずじゃなかった、と口唇を噛んで寮へと一目散に駆けた。
空で星が流れたことにも気がつかないで。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
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2011/03/20
001/002/003/004/005/006/007/008/009/010/011/012/013
#両想い #片想い