- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.283, No.282, No.281, No.280, No.279, No.278, No.277[7件]
おわりとはじまり
はあ、と止めていた息を吐き出した。自分の下でふるふると体を震わせる恋人を見下ろして、十座は言いようのない幸福に包まれる。
「あ、あ……はあっ……」
部屋に呼んでくれただけではなく、十座が切り出す前に手を伸ばしてくれた左京を、いつもより激しく抱いたような気がする。
乱雑に脱ぎ捨てられた衣服の傍で寝転んだまま、汗で額に張り付く金色の髪を指先で払ってやれば、くすぐったいというように綺麗な紫色の瞳で睨まれた。
もっとも、そんなに頬を紅潮させていては威力は半減するし、それどころか別の威力に変わってしまう。まったく自分というものを分かってないひとだ、と十座はその額に唇を寄せた。
「ん……っ、馬鹿、動くんじゃねぇ……」
まだ入り込んだままだったせいで、左京が反応をしてしまう。悪いと思うよりも先に、また欲が膨れ上がってしまうのは、もうどうしようもなかった。
「左京さん、もう一回……」
そう言って耳元で囁くけれど、左京は十座の体を押しやってくる。
「冗談言うな、ちょっと……休憩くらいさせやがれ……この体力馬鹿が」
ダメなのかとがっかりしかけた十座だが、どうやら時間をおけばいいらしい。それくらいは我慢していようと、十座はゆっくりと左京の中から引き抜いた。
「兵頭、水……取ってくれ……」
「ん、あ、ああ……喉、大丈夫っすか。あんなに声出してたし……」
十座は側のテーブルに置かれていたミネラルウォーターのボトルを左京に手渡す。蓋を開ける力が入らないらしく、十座はカシュリと開けてやった。
「誰のせいだと思ってやがんだ、あんなに……その、しなくても、いいだろ……」
体を起こして水を飲む左京の頬が、赤い。責められているのは分かるが、正直そんな可愛らしい反応をされてもからご褒美にしかなっていない。
水を飲み込んでいく左京の喉が動くたび、十座の中の欲が膨れ上がる。左京にあまり負担をかけたくないのは本音だが、そうそう落ち着いて待ってもいられない。左京に触れたいのだ。
「左京さん」
左京の傍に手をついて、お窺いをたてるように名を呼ぶ。一瞬向けられた視線はすぐにふいと逸らされて、重なってくれない。まだお預けだというサインだろうか。
「なあ……」
耳元に唇を寄せ、吐息と一緒に囁く。左京がこの声に弱いらしいのは気づいていて、わざとだ。耳から顎のラインを鼻先でなぞり、白い肌をちゅっと軽く吸う。抵抗はされていないが、受け入れきってもくれていない。
「待てって、言ってんだろうが、おい……どんだけ堪え性ねえんだお前は」
「全裸のアンタ前にして、堪える理由が分からねぇ」
「俺の体力を考えろ。お前と違ってこっちは三十路なんだよ」
無理に押し倒すことはできたけれど、それをしたら左京が怒るのは目に見えている。三日くらい口を聞いてくれなくなるかもしれなくて、それなら欲を我慢する方がまだマシだ。
十座はおとなしく身を引いて、残念そうに視線を下向けた。
「それにな……」
そんな十座に、左京の手がゆっくりと伸びてくる。優しく髪を撫でられて、十座はぱちぱちと目を瞬いた。
「もう少し待ってろ」
「……左京さん?」
そうして左京は、どうしてか携帯端末を手に取る。大事なメールでもきたのだろうかと思ったが、すぐにテーブルへと戻したあたり、そういうことでもないらしい。
「兵頭」
携帯端末から離れた指先が、顎に触れてくる。それは口唇へ移り、右から左へ、左から右へ、ゆっくりと形をなぞってきた。ひどく官能的な指先の動きに、十座は戸惑い、瞬きさえ忘れてしまう。
「さ、左京さ……」
「キス、していいか」
一通りのコトを終えたあと、この状況で、わざわざ訊ねてくる真意が分からない。だけどよくないわけはなくて、頷くーー前に、左京の口唇を感じていた。
左京からのキスは珍しい。体を重ねてはいても、どうしても自分の方が想いが大きいことは自覚していて、たまに向けられる左京からのこんな優しさには、舞い上がってしまう。
触れるだけ。つい数分前まであんなに情熱的に繋がっていたとは思えないほど、穏やかで静かな口づけだ。左京はもしかしてこういうキスの方が好きなのだろうかと、合わせるように口唇を押し当てる。
両手で頬を包んでくれるその手も優しくて、怒られないようにと祈りながら、左京の案外華奢な体を抱きしめた。
「ん……」
触れるだけのキスが、ゆっくりと深いものに変わっていく。そうしてくれたのは左京の方からで、十座は口を開いて左京を招き入れた。舌を捕われて、絡んだと思ったら、いつのまにか互いの指先も絡んでいて、指先と口唇のキスで遊んだ。
「ふ……ぁ」
「……っん」
触れて、離れるかと思った手前でまた触れて、左京の腕が背中に回されたことに歓喜しながら十座は左京の髪を撫でる。
離れることのない口唇をちゅうと吸い上げて、混ざった唾液を飲み込んだ頃、満足したらしい左京が肩にてを置いて押しやってくる。濡れた口唇と揺れる瞳が煽情的で、もう一回とおねだりしようとしたけれど、口唇に当てられた人差し指で止められた。
「兵頭……誕生日、おめでとう」
そうして囁かれた言葉に、十座は目を瞠った。
「え……、……は?」
誕生日、と左京は言った。おめでとうとも言ってくれた。壁にかけられた時計は午前零時を回っており、九月二十七日。十座がこの世に生を受けた日だ。
瞬きをひとつ。そこでようやく事態を把握して、再度目を瞠った。
「誕生日……」
「おいおい、まさか忘れてたってんじゃねぇだろうな」
「え、あ、いや、そうじゃねえが……だって、まさか左京さんが」
「俺が祝うとは思わなかったって? 色気のねぇこと言いやがるな、若ぇのによ」
コツ、と額を合わせられる。考えていなかったわけではない、付き合い始めてから最初の誕生日だ。できれば左京と一緒に過ごしたかったし、多少のわがままも聞いてもらえるかもしれないと思っていたのは本音である。
だけど、まさか真っ先に祝ってくれるなんて思っていなかった。
「ま、俺もガラじゃねぇけどな、こんなこと。分かってるさ」
だけど、と左京は続ける。
「十七歳最後の瞬間のお前と、十八歳最初の瞬間のお前に、キスをしていたかったんだ」
普段めったに見られない優しい顔つきで、恋人は笑う。たまらなくなって、十座は左京を強く抱きしめ口唇に触れた。
「左京さん……っ」
それは最初から深くて、食らうような激しいものになってしまったけれど、左京が嫌がるそぶりは見られなかった。勢いでそのまま膝の上に乗せてしまった時には、さすがに軽く舌を噛まれたけれど、
「まぁ……存分に楽しめ。お前の上でも下でも、今日は好きなようにしてやるよ」
そんなお許しをいただいて、十座はここぞとばかりに左京を堪能することになるのだった。
はあーと左京は長い息を吐く。まったくらしくないことをしたもんだと。おかげで体がギシギシと音を立てるかのように、痛い。
好きなようにしてやると言ったのを後悔したのは、多分三度目――体を転がされて、後ろから受け入れた頃だ。十代の体力にはついていけないと何度か身をもって知っているはずなのに、立て続けのラウンドを許してしまった。
ーーーー言わねーぞ。他の奴らに祝われる前におめでとう言いたかっただけだなんて、死んでも言わねぇ。
それはひとえに、自身で思っているよりもずっと兵頭十座に心を持っていかれてしまっているからだ。一回りも違う年下の男に、こうまで翻弄されているなんて、誰にも知られたくない。十座にもだ。
「左京さん、水、持ってきたっすけど……起きられるのか?」
「あー……悪い、ちょっと手ぇ貸せ……」
水をくみに行っていた十座が戻ってきて、左京は体を起こそうとする。しかしうまく力が入らなくて、これでは水を飲むのもままならない。
「すんませんほんと……全然抑えきかなくて」
「ちったぁ加減しろ、このエロガキ」
「……努力はする」
十座に手を貸してもらい、体を起こす。自身で支えられない体は十座の胸で支えられて、慣れた体温が左京を安堵させた。
「今日……一緒に出かけようかとも思ってたんだがな……」
「そういうことは早く言ってくれ左京さん。分かってたらセーブ、……いや、できなかったとは思うが……」
「プレゼント用意してねーからな、好きなもん買ってやろうと思ってた。悪い、ちょっとしんどい……」
水で喉を潤し、左京はこてりと床に体を横たえる。そんな左京の体をいたわるように、欲でなく撫でてくる十座の手のひら。今さらながらに、セーブできなかったことを後悔しているのだろう。
「プレゼントなら、充分もらっちまってる」
「あァ?」
「いちばん初めに祝ってくれたの、嬉しいっす。無茶させてすんません」
そんなことでいいのかと、左京は肩を震わせて笑う。ちょっと高めのスイーツでも取り寄せてやろうかと、心配そうに覗き込んでくる十座の髪を撫でた。
「んな顔しなくても、ちょっと寝たら平気だ。しかし安いプレゼントだな。もうちょっとうまくおねだりしてみりゃいいのに 。遠出はできねぇが、何か食いに行くか?」
「いや、いい。むしろこうして部屋でのんびりしてぇ。ベッドは……狭いかもしれねえが」
「スイーツやらなんやらはいいのか。遠慮するな」
左京に気を使っているのか、十座は首を振る。そんなに深刻になるほどの疲労じゃないんだがと、左京は重い腕を上げた。
「兵頭、もうちょっと甘えてくれてもいいんだぞ?」
「……なら、それ、来年欲しいっす。来年、アンタとふたりで出かけたい、左京さん」
その腕をパシリと取り、十座は手のひらに口づけてくる。左京はぱちぱちと目を瞬いた。
来年、と強調した十座の望みを悟ってしまって、口元が緩む。
「分かった、来年。心配しねーでも、ちゃんと祝ってやる。……恋人として、な」
「……っあざす」
十座の顔がパァッと明るくなる。普段からそういう顔をしていれば、強面なんて言われないだろうにと思うが、自分の前でだけそこまで崩れるのも悪くない。
「左京さん、あの、もう一回」
「無理に決まってんだろうが」
「あ、いや、そうじゃなくて、その……お、おめでとうってヤツ……」
そっちか、と左京は恥ずかしい勘違いに頬を赤らめる。まぎらわしい言い方をするなと怒りかけたが、誕生日くらい目一杯優しくしてやろうと息を吐いた。
「……おめでとう、兵頭。あのな、その……お前が思ってるより、ちゃんと……好きだぞ」
そうして十座が何かを言う前に、口唇をキスで塞いでやった。
#両想い #ラブラブ #誕生日
何度だって
隣を歩く人の横顔を、ちらりと見やった。雨の日は、差した傘の分だけ距離ができるから、好かねえ。
だけどその反面、雨で洗われた空気の中のこの人も綺麗だなんて思うから、厄介なんだ。
だけど、どうしたんだろう。さっきから、ずっと黙ったままだ。お互い口数の多い方でもねぇし、愛だの恋だの語り合える場所でもねぇ。
そもそもそんな会話、この人との間じゃ一度もしたことねぇんだからな。
いつも、いつだって、俺はこの人を抱くだけだ。
無理やりしているわけじゃねえ、とは思う。呆れて、諦めて、俺の欲につきあってくれているこの人に、俺がどうしようもなく惚れちまってるってだけ。
もちろん外で手なんかつなげねぇし、キスなんかもっとできねぇけど、俺はこの人が好きなんだ。
ぱたた、と安いビニール傘に雨が当たって音を立てる。滑り落ちてきた雫はそのまま地面に逃げていって、小さな水たまりに波紋を生んだ。
「……左京さん」
「あァ?」
「信号、変わるぞ」
青の点滅を繰り返す信号機。この長い横断歩道を渡りきる前に赤に変わってしまうだろうことは、すぐに予測ができるのに、その人――左京さんは足を止めなかった。もしかして気づいていないのかと、どさくさに紛れて指先を握って引き留めた。
「……ああ、悪いな……」
静かな声は、それでも雨音にかき消されることなく俺の耳に届く。俺が左京さんの声を聞き逃すはずねえ。
ああ、だけど本当に、どうしたんだ、この人は。これは、そうだ、あれだ、上の空ってヤツだ。
せっかくふたりきりなんだから浮かれてほしい、なんて言えない。誰がどう見たって俺の片想いでしかなくて、今日だって一緒に寮を出てきたわけじゃない。出先で偶然見かけて、俺が勝手に追いかけてきただけなんだ。
何かあったのか。
劇団の中か、それとも、左京さんの仕事方面なのか。
訊いてもいいもんかな、こういうのは。恋人でもねえ、ただ演技指導してもらって、……抱かせてもらってるってだけの、俺が。
「左京さん、あの……」
「兵頭、お前このあと時間あるか」
思い切って訊ねてみようとしたところへ、左京さんの声。
眼鏡のレンズ越しに見る瞳は、やけに寂しそうで、戸惑いを覚える。だけど俺が左京さんと一緒にいられる時間を減らしたいわけはなくて、こくりと頷いた。
「そうか……」
「左京さん、どうしたんすか。ぼんやりしてるし、なんか、悩んでるん、すか?」
「……いや、別に。この間お前に抱かれた時のこと、思い出してただけだ」
赤だった信号が青に変わって、左京さんは先に歩き出す。
俺の顔は赤くなって、左京さんを追いかけたけれど、気づいちまう。あんなのは、嘘だ。
ごまかして、丸め込んで、隠せていると思ってやがる。
「なあ兵頭、抱くだろ?」
左京さんが雨の中振り向いて笑う。
……まあごまかされてはやるけれど、ベッドん中じゃ容赦しねぇ。
「アンタがいいなら、余計なこと考えられなくなるくらい、抱かせてもらう」
悩んでるなら、吐き出せないなら、丸め込んで隠し通したいなら、何度だって抱いてやる。
アンタが悩む理由なんか、俺のことだけでいいじゃねえかよ。――なァ、左京さん。
そうやって、連れ込んだのか連れ込まれたのか分からない部屋の一室、夜通し抱いた。
左京さんが俺の腕の中で震えて泣くのは、雨の寒さでも快感からでもないと分かっていたから――。
#片想い #セフレ
解けない暗号-003-
「ほら、ついたで工藤。ここでちょっと雨宿りさせてもらおか」
小さなパン屋の軒先で、コナンを下ろす平次。屋根のないビルばかりで、たまにあっても同じように雨宿りする人たちでいっぱいだった。ようやく見つけた、ふたりきりの雨宿り先だ。
「眼鏡が濡れちまった」
大事な眼鏡に、いくつもの雨粒。コナンはポケットからハンカチを取り出し、レンズを拭いた。眼鏡がないと見えないわけではないが、これは博士に作ってもらった大事なものだ。大事に扱っておかねば、と丁寧に。
「はー、せやけどひどい雨やな」
そんなコナンの隣に、平次がしゃがみ込んだ。声が急に近くに聞こえて、心臓が跳ねる。思わず、一歩反対側に体をずらした。平次がそれに気づいた様子はなかったが、なんだか後ろめたい。
――――なんだよ……なんでこいつと一緒にいて、後ろめたいなんて……。こんなこと、今までもあったじゃねーかよ。
平次がいる右側だけ、どうしてか緊張して固まってしまっている。逢いにきたなんて言うからだ、と平次を睨みつけてみたら、じっとこちらを見つめるまっすぐな視線とかち合ってしまった。
「なっ、なんだよ」
「なあ、オレらってどないなカンケイに見えるんやろな」
「はぁ?」
「オレは親友やとは思てるけど、ハタから見たら全然そんなんちゃうやろ、この歳の差」
歳の差と言いきるには中身が邪魔をするけれど、少なくとも見た目は小学生と高校生だ。離れ過ぎた見た目年齢は、人々に違和感を与えるだろう。
「いいとこ、親戚の兄ちゃんとちっこいガキてとこやろか」
「なんだよ、突然そんなこと言い出して……」
「いや、今回の件、相続権の争いって感じやないやろ。歳が離れてるみたいやけど、兄弟みんな仲ええもんな。できればみんな納得いくような遺言やとええなって」
「あの短時間に、真実なんて分からねぇだろ。本当は腹の中で他の兄弟蹴落とそうとしてるかもしれないんだぜ」
「夢のないこと言うなや、その格好で」
「もしもの場合を言ってやってんだよ。お前は事件の関係者に感情移入しすぎるクセがあるからな」
お前に言われとうないわ、と平次がむくれる。事件に、個人の感情を持ち込むのはよくない。先入観が、真実を覆い隠してしまうからだ。だけど、感情の行き先を考えなくなってしまったら、それは寂しいことだ。平次もコナンも、感覚でそれを知っている。そんな相手だからこそ、信頼をして共に事件解決に向けて走れるのだ。
「まあ、そんなこと考えるより、この暗号を…………っくし!」
暗号をどうにかしないと、とコナンは言いかけ、途中でくしゃみに邪魔された。ぞわりと下から這い上がってくる悪寒に、少し身を震わせる。
「なんや、冷えたんか? ちょっと雨に濡れただけやん」
「オレはお前と違って繊細なんだよ」
「ハ、さよけ」
言って、平次はジャケットの衿を落とし袖を抜く。それをコナンの肩に被せて腰を上げた。
「な、なんだよ」
「着とけや。ないよりマシやろ」
「はぁっ? い、いいよ、お前だって寒いだろ、こんな雨」
コナンはこんなことをされる理由がないと、被せられたジャケットを平次に返そうとするけれど、
「オレはお前と違てオトナやし。繊細なちびっ子とはちゃうねん」
「何がオトナだよ、未成年のくせに……っ」
茶化してきた平次の足を蹴ってやる。キック力の増強をしなかったのは、まあ、情である。
ざあざあと降る雨は、まだ雨足を弱めてくれない。寒いのは確かに事実で、貸してくれるというなら借りておいてやってもいいかと、コナンはジャケットの衿を掴んだ。
途端、香る他人の匂い。平次の匂いだ。
「……っ」
カッと顔の熱が上がる。
――――さっきから、おかしい。どうしちまったんだ、オレは……!
心臓は跳ねて、いっそ地面を叩く雨粒よりも激しい音を立てている気さえしてくる。
「は、服部、やっぱこれ――」
「なあ工藤」
やっぱり返すと言い掛けたコナンに、上の方から声が降ってくる。雨音はひどく大きいのに、どうしてかその声を聞き逃すことはなかった。
「な、なんだよ」
「こないな暗号遺して死によったじーさん、本当に意地悪でやっとるんやなかったら、兄弟らで力合わせて解いてほしかったんとちゃうか?」
「え?」
「あんなぁ、オレいま、めっちゃ楽しいんや。事故でも殺人でもない、ただの遺言書の暗号解読て、宝探しみたいやろ」
暗号の写しをじっと眺め、平次は笑う。確かに、人は亡くなっているが天命だ。血なまぐさい話ではない。
「この暗号がオレらに解けんてことは、なんやあの兄弟らにしか分からんもんがあるっちゅーことや。宝探し、楽しんでほしかったんやないかなって思ってな」
「解けない言い訳にすんなよ。西の名探偵の名が泣くぜ。……でも、確かにそうなんだよな……この近くにこんな名前の店はないし、三叉路もない」
「あの人らにしか分からん暗号や。この雨止んだら、依頼人の家戻ろか。ヒントやってあとはじーさんの望み通り、あの人らに解かせたほうがええ」
そういえば、あの豪邸の主の子らはとっくに独立して家を出ており、それぞれに家庭がある。何かイベント事でもなければ、全員が集まることはないのだろう。昔は、それこそ作られた暗号で一緒に遊んでいたのだろうに。
「骨折り損じゃねーかよ」
「まあ、ええやろ。久々に楽しめたで」
「確かに、それはあるけど……この雨さえなけりゃな」
そうして二人は暗号を解くことを諦め、主の遺志をくむことにした。
雨が止んだら、彼らのところに戻って話してやろう。
「工藤」
「あ?」
「オレら住んどるとこも違うし、意見の食い違いもぎょうさんあるやろうけど、……けど、できる時はこうやってふたりでやろうな」
ニ、と嬉しそうに口角を上げる平次に、コナンは目を瞬く。今まで何度も、協力したり衝突したりしながら事件を解決してきた。だけど改めて「ふたりで」と言葉にされるとは思わなかった。
――――キザなヤツ……。
自分のことを棚に上げてか、自覚しないでか、コナンは少しだけ視線を逸らす。明確な答えを求めているわけではないのか、平次はいまだに止まない雨を眺めていて、ふたりの視線が重なることはない。
だけどコナンの体を包む平次の匂いが、口許を緩めさせる。
――――ふたりで。
一人で解けない事件(があるのも悔しいが)、ふたりでならきっと大丈夫。根拠は今まで過ごしてきた時間。こうして言葉にしてくれる、素直な思い。
「あぁ……そうだな」
コナンは小さく呟く。それは雨音にかき消されて、平次の耳まで届かない。都合はよかった。きっと心音も消してくれている。
「え、なんやて?」
案の定そう訊き返してきて、コナンはホッとした。こんなわけの分からない感情からくる心音、聞かれたくない。
「足引っ張るんじゃねーぞって言ったんだよ」
「こっちの台詞じゃボケェ」
いつも通りの悪態に包み隠して、深呼吸を三回。
やっぱりその音も、ざあざあと降り続く雨がかき消してくれた。
友人の本に寄稿したもの
#DC #服部平次 #江戸川コナン #平コ #ウェブ再録
解けない暗号-002-
「工藤?」
「え、あ、ああ……いいけど、おめーのオゴリな」
「なんでやねん。て、まあええけどな。この間の詫びせなあかんし」
決定的な言葉を吐かれ、コナンは内臓が飛び出してきそうな口を押さえて顔を背けた。
やはり目的の大半は、それだったのかと。確かに待たされた時間は長いけれど、その詫びのためだけに、大阪―東京間を行き来してしまう高校生がどこにいるのだ。それを言うなら行く先々で事件に巻き込まれる小学生もどうかと思うが、それは不可抗力である。
「あ……のさ服部、オレ別に、あの時のことそんなに怒ってるわけじゃねーんだけど」
「そうなん? せやけど普通、あんなに待たされたらもっと電話とかメールとかしてきよるやろ。それがなかったし、怒ってんのやろなって思て、直接謝ったろとこうしてはるばる逢いに来たっちゅーに、つれないしなぁ」
「バッ……バーロー、なに言ってんだ。お前が連絡もなくオレを待たせるなんて、事件に巻き込まれてるくらいしか思いつかなかったからな。連絡できる状況じゃねぇんだなって思って、控えたんだけど……違ったか?」
寂しそうにそう呟いた平次を、コナンは不思議そうに見上げる。約束を忘れていたという可能性を考えなかったのは、そういえばどうしてだろうと、今さらながらに気がついた。そして実際平次は、携帯端末を取り上げられ連絡しようにもできない状況ではあったのだ。
「や、その通りなんやけど、……さよか……そやったんや……」
「まあ、事件に巻き込まれっと連絡忘れるくらい没頭しちまうってのはあるけどな、お互いに」
ホッとして嬉しそうな顔をした平次には気づかないで、コナンは苦笑する。コナン自身、事件にのめり込み過ぎて蘭たちに連絡を入れ忘れたことは何度もある。だから、たとえ誰かに同じことをされても、怒れる立場にないのだ。
さらに相手が服部平次なら、事件を放って約束を優先させようものならキック力増強シューズで蹴りつけてやるところだ。助太刀を望んで連絡してくるならまだしも、未解決のまま約束のことなんて優先してほしくない。
――――そういうヤツだから、信頼してんだよ。
「オレが怒るとしたら、まあ、……怪我したとかそういうのは、別にいいか」
「そこは怪我すんなって怒るとこちゃうんかい」
「和葉ちゃんに任せる」
「ほんなら、お前が怒るんはどないな時なん」
「そうだな……オレを呼べよってとこ、だろうな」
ニ、と口の端を上げてみる。
平次は目を瞠り、頭を抱えた。
――――ホンマに、どないな小学生やねん。
呼べというのは不謹慎ながらも八割方好奇心に違いなくて、あとの二割がプライドだろう。体は小学生ながらも、工藤新一がいるのになぜ頼らないのかと。
間違っても心配をして怒ってのことではないと知っている。
だけどそれが、信頼なのだということも知っている。
そう長い時間を過ごしたわけではない。ただその短い期間を濃密に過ごした。
――――他におらんわ、こんなヤツ。
濃密、と言ってしまうと語弊があるようにも聞こえるが、実際濃く深く、密度のあるつきあいだ。間違ってはいない。親友と言っていい間柄、だろう。
――――けどピンとこんなぁ。なんやろ、オレと工藤のカンケイって。
事件のことを考えなければならないのに、平次の頭の中は今、隣を歩く相手が占めてしまっている。歩調を合わせているのがいけないのか、同じ方向に歩いているのがいけないのか。
そもそも、逢いたいと思ってしまったのがいけないのか。
――――ちょお待て、逢いたいってなんや。
平次はふと頭をよぎった言葉にハッとして、足を止めた。
今回東京に来ることを、報せはしなかった。というのも、気がついたら新幹線に乗っていたからだ。
改札を通って、東京行きの新幹線に乗って、空いていた自由席に座って、缶コーヒーの蓋を開けて、そこでようやく「何しに行くんや」と思ったことを思い出す。
用があったわけではない。ついでに顔を出したわけではない。先日の詫びをしたいという思いはあったものの、それならば事前に連絡を入れて相手の都合を確認するべきだ。
どうして、東京につくまでの間にそれをしなかったのか。
安くはない新幹線代を払って、もしいなかったらどうしていただろう。
――――確認、したくなかったんや。おらんて分かったら、その時点で引き返してた。……逢えたらいいなくらいの気持ちで事務所向こうて、ソワソワすんのとドキドキすんの、楽しみたかったんかな。
平次の思考はそこまで行き着いて、なぜその対象がコナンであるのか、首を傾げながら掘り下げる。
「おい、服部?」
その対象本人に声をかけられて、ハッと顔を上げた。上げたと言っても視線は下の方なのだけれども。
立ち止まった平次の十数歩先に、不審そうな顔をしたコナンがいる。
「なんか分かったのか?」
「……や、逆に謎が増えたっちゅうか」
「謎? なんだよ」
平次は再び足を踏み出し、コナンに数歩で追いつく。口にした「謎」という言葉に食らいついてくるコナンだが、残念ながら事件の謎ではない。
「暗号のことやないて。なんかなー、こう、なんで今日来たんやろて思て」
「お前なぁ……真面目に考えろよ。そりゃあこっち来て暗号解くハメになったのはご愁傷様だが、早く解決しねーと、……って、つめて」
呆れて息を吐くコナンの頬に、ぽつりと降ってくるしずく。
「お、雨か?」
平次の額にも、ぽつりぽつり。雨かと気がついた時にはもう、いくつものしずくが服や髪を濡らしていた。
「雨の予報なんてあったっけ」
「あれやろほら、ゲリラ豪雨ってヤツ」
平次が口にしたその言葉に二人は顔を見合わせ、口許を引きつらせた。
ゲリラ的な集中豪雨は、ここ数年必ず日本のどこかで起こっている。時には災害レベルにまで達するが、そこまでの予報は聞いていない。
だがなんにしろ、雨は雨だ。歩いているうちにも雨足は早まり、更には粒が大きくなってきている。
「まずいで工藤、どっか屋根のあるとこ探さな……!」
「ああ、走るぞ!」
この雨は強くなる。そう確信した二人は、同時に駆け出した。パシャパシャと足を踏み出すたびに水が跳ねる。二人分だった足音は、やがてひとつだけになった。
「っ、おい服部! 何しやが……っ」
「この方が早いわ、ちびっ子」
というのも、どうしても歩幅が違ってしまうコナンを、平次が脇に抱え上げたせいだ。確かにコナンに速度を合わせるよりも多少重くても抱えた方が早いような気がして、さらに言えばこの雨の中、見た目だけとはいえ小学生を置き去りにして走ることなどできやしない。今できる最善の策だ。コナンが暴れなければ。
「下ろせ、馬鹿! 人をボストンバッグか何かみたいに抱えんじゃねー!」
「バッグの方がまだマシや、暴れんからな! 暴れると余計に濡れんで」
ぐ、とコナンは言葉に詰まる。確かに足をバタつかせたらその分だけ雨に垂直になり、濡れる回数が増える。大人しくしていても濡れるのには変わりがないが、自力で降りられそうにもない。下ろしてくれそうもない。諦めて体の力を抜いた。
――――新一の体だったら、こんなこともねぇんだろうけど。くそっ、服部のヤツ! てめーのせいでなんか心臓おかしいじゃねーかよ!
冷たい雨で体は冷えるはずなのに、顔だけが熱い。否応なしに感じてしまう平次の体温と、自身の体温とが混じり合っているかのような感覚に、言いようのない気恥ずかしさを胸に刻み込んだ。
#DCコナン #服部平次 #江戸川コナン #平コ
解けない暗号-001-
「おい工藤」
服部平次は自身の上に乗っかる相手の名を呼んでみるが、返事すらない。
「工藤て。返事くらいせんかい、このドアホが」
「あー?」
「あー? じゃないわボケ、なんでオレが下にならなあかんねん」
足を掴みそう悪態を吐いてみたが、気にも留めていない様子でまさぐるのが気配で分かる。
「仕方ねーだろ、近くに足場になりそうなもんがねぇんだからよ。これくらい役に立て」
平次の肩に細い両足を乗せ、高い塀の上を小さな手で確かめつつ、平次が工藤と呼ぶ江戸川コナンはそう吐き捨てた。
実際、仕方がないのだ。その塀は二メートルほどの高さ。大人でも、背伸びしてその向こうが見えるものではない。
コナンと平次はその向こうの状況が見たいのに、コナンの言う通り近くに足場になりそうなものは一切なかった。となれば、二人分の身長を利用するしかない。
そうなると必然的に、平次がコナンを乗っけるしかないのだが、平気で土足で肩に乗せろと言う小さな高校生が、気にくわないらしい。
「あんなぁ工藤、まぁだあん時のこと根に持っとるんか?」
「べーつにぃ? ま、お前が約束の時間に四時間遅れたことなんてな、全然、これっぽっちも、怒ってねぇからよ」
コナンはそう言うが、声と一緒に肩を蹴りつけるつま先も一緒に降ってくる。怒っとるやないかい、と平次は声に出さずに思い、ため息を吐いた。
約束をしていたのにその時間に遅れてしまった(しかも大幅に)ことは全面的にこちらが悪いのだし、怒るのも無理はない。その日運悪く事件に巻き込まれてしまい、連絡さえままならなかったのだ。
やっと解放されてから恐る恐る確認した携帯端末には、着信が一件とアプリでのメッセージが四件だけ。拍子抜けしたのを覚えている。
――――普通なら、もっと怒るやろ……和葉でさえああやで……。
以前幼馴染みを待たせてしまった時は、ひどく根に持たれたものだ。男と女では気の持ちようが違うのか、それとも。
――――それほど楽しみにはしとらんかったってことかいな。……ま、ええけど。
「服部。服部、足放せ、降りる」
ため息を吐いたすぐあとに、コナンの声が降ってくる。
「あ? もうええんかいな」
言われた通りに、足を支えていた手を放すと、コナンは平次の肩からひょいと飛び降りた。身軽なもんやで、と平次は肩を竦める。
同じ歳のはずなのに、なんの因果であないにちっちゃなってまったんやろな、と、何度か考えたことがあった。
原因は以前聞いたが、なぜ彼でなければいけなかったのか。探偵だったからというだけですませるには、あまりにも過酷だ。
――――せやけど、こないなことになっとらんかったら、工藤と仲良うもなっとらんかったやろな。
西の服部、東の工藤と並び称されているのは知っていたし、内心ライバル扱いをしていた相手だ。
無論今でもライバルには違いないのだが、事件が起これば互いに協力し、頼り、頼られを繰り返すことなど、なかっただろう。
――――解けんことがあると、いっつも工藤のこと思い出すもんなぁ。工藤はどうか知らんけど。
ちら、とコナンを見下ろすと、袖についた砂埃をパンパンとはたき落とし、およそ子供らしからぬ表情で考え込んでいた。
「……なんだよ?」
「いや、なんでもない。ほんで? 何かあったんか? 上」
「いや……ここはどうもハズレらしいな」
「あかんかったか。あの暗号からすると、この近くなんやけどな……」
資産家の当主が、遺産相続に関して暗号めいたものを遺して亡くなった。そこに事件性はないものの、暗号と聞いていても立ってもいられなくなった、探偵ふたり。
元は毛利小五郎に依頼されたものだが、居合わせた以上無関心ではいられない。
こうして遺された暗号を元に、次の手がかりを探しているのだが、なかなかに難しい。当主自身がミステリ好きだったのか、暗号というものに慣れてない者が見てもちんぷんかんぷんなものだったろう。
「ようできてるとは思うけど、どうも分からんなあ。こういうの作るんやったら、誰がいちばん初めに解くか、知りたいもんとちゃうんか? 自分の作った暗号で他のヤツらが四苦八苦してんの見るんは、楽しいと思うけどなあ」
「楽しいか? 悩んでるの見て楽しんでるなんて、そのじーさん性格悪かったんじゃ」
「そら解く側の目線やろ。作る側は楽しいと思うで。前にもおったやろ、なんや小説書くじーさん。文章の頭で読者に呼びかけとるヤツ」
あれは間に合わんかったけどなあと、服部は電話越しでやり取りした事件のことを思い出す。そういえば、あれも暗号だった、とコナンも思い出した。あれは確かに意地悪でしているわけではなかったのだ。誰が最初に解いて部屋にくるか、楽しみにしていたらしい。
無論、暗号でしかけてくる連中全員が全員そうやって楽しんでいるわけではないだろうが、聞いた話では庭園の世話をするような慈しみ深い老人だったとか。
「そうか……依頼人も、とくに遺産目当てって感じじゃなかったしな」
「どこまで血がつながっとるか分からんような遠縁の連中は目ぇ血走っとったけど」
安らかに眠らせてあげたい、というのは当主の長男、順番から言えば次期当主のはずだが、その弟や妹も、その子供たちも、同じような表情をしていた。
「ちょっと最初からやってみよか。迷った時は原点にて言うやろ」
「ん、ああ、そうだな」
そう言って、二人は暗号文の最初である邸宅へと歩き出す。そうする中、コナンは気づくのだ。平次がいつも、小さくなった自分の歩調に合わせてくれていることを。
足の長さが違えば当然歩幅も変わってくる。服部が歩く三歩分を、コナンは五歩六歩で進まなければならない。いたたまれない気分でいっぱいだった。
今はそんなことを考えている場合ではないというのに、どうもこの西の名探偵と歩いていると気が緩む。
それは恐らく、信頼というものなのだろうけど、コナンとして接してきて実はそんなに時間が経っていない。江戸川コナンが工藤新一だということを知る数少ない人間のひとりだが、なぜこの男なら大丈夫だと思ってあの時話してしまったのか。ホームズフリークが集まったあの事件、ごまかそうと思えば多分できたはずだ。
推理しているところを聞かれてしまっていたのが致命的だったとはいえ、方法がなかったわけではないだろうに。
――――あの時は、こんなに頻繁に逢うようになるなんて、思ってなかったけど……。そういや服部のヤツ、こっちに何しにきたんだ?
いつもの休日になるはずだった。連休中は家族旅行に出掛けるという少年探偵団の連中から誘いがくることもなく、毛利小五郎のもとに舞い込む依頼のどれかについていこうかなと思っていた矢先。「よぉ工藤!」なんて連絡もなしに探偵事務所のドアを開け放し、「工藤?」と首を傾げた蘭にいつも通り苦しい言い訳をしていたのが、つい三時間ほど前。
そのあとすぐに依頼が舞い込んできて、三人で出掛けるはめになってしまったのだ。だから平次がこちらに来た理由は聞けていない。また事件が絡んでいるのだろうけど、それにしては何も話してこないのだ。目の前の暗号を解くだけで精一杯、というわけでもないだろうに。
「なあ、服部」
「ん? なんや分かったんか?」
「あ、いや……お前さ、こっち何しに来たんだ? また何か事件絡みなんだろ」
コナンは隣をゆっくり歩いてくれる平次を見上げながら訊ねる。事件なら、概要くらい聞いておきたい。
何かのヒントになるかも、などと、ひとつの事件を追っている最中に気を逸らしてしまうことに言い訳を重ねた。
「ちゃうちゃう、今回はほんとにプライベートや。そう毎回毎回、事件でたまるかい。……ま、結果的にこうなっとるけどな」
「え……」
なんだ、とがっかりしてしまう気持ちが半分。事件なら事件で、推理が楽しめると思ったのだが。
私用で来て、顔を出してくれたのか、とくすぐったい気持ちが半分。コナンとて大阪に行けば顔を見せるくらいはするが、それだって連絡を入れてからだ。
「こんなんなかったら、美味いメシ屋にでも連れてったろ思ったんやけどな。こっちのメシは分からんから、お前の案内になってまうけど」
頭の後ろで手を組んで、笑いながら呟く平次に、思わずコナンの足が止まった。
まさか、もしかして、まさか、もしや。
――――服部……この間約束遅れたこと気にして……埋め合わせとか、しに……?
その仮定に気づいた瞬間、頬がボッと染まる。
――――え、え、あ!? なんっ……なんだ、これ!
火照った頬の暑さを自覚して、コナンは慌てた。ドクンドクンと音を立てる心臓は、パイカルを飲んだ時ほど苦しくはなく、だけどその音は小さな体ぜんぶに響き渡るかのようだった。
「お? どないしたん、工藤」
「なっ……んでもねーよ!」
「なあ、この事件解決したらどっか美味いメシ屋教えてんか。東京のくっろいうどんにも慣れたで」
平次はそう言って笑う。東京と関西では、食の文化が大分違う。それを楽しむかどうかは人それぞれだが、お好み焼きはおかずと言い切った彼の意見に賛同するのは、難しいだろうと考えた。
#DCコナン #服部平次 #江戸川コナン #平コ
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表紙:みやび様
2017/10/01
【あらすじ】少し前から左京への恋心を自覚していた十座だが、言わないでおこうと決めていた。だがある日、稽古あとの自主練につきあってもらった際に、止めきれず想いを告げてしまった。
※作中に万紬表現を含みます
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