華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.293
金色の曼珠沙華 2017.10.01
#シリーズ物 #ウェブ再録
十座はこの先一体どうすればいいのか、何も答えが見つからないまま自分の部屋に戻る。 ルームメイトであ…
金色の曼珠沙華
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十座はこの先一体どうすればいいのか、何も答えが見つからないまま自分の部屋に戻る。
ルームメイトである万里が使っている方のベッドから、慌てたような音が聞こえたけれど、そんなもの気にしている余裕もない。
「な、なんだよ兵頭、遅かったな。今まで自主練してたってのかよ」
よくやるわと笑いを含んだ声が聞こえた。普段だったらお望み通り突っ掛かってやるところだが、そんな気分になれるわけもない。
十座は万里に何も答えずに、着替えとタオル片手に浴場へと向かう。十座の珍しい態度に、面食らった万里に見向きもせずだ。
十座は乱暴に服を脱ぎ捨て、風呂の扉を開ける。この時間帯はさすがに誰も入っていなくてホッとした。
頭から湯を被り、ボディタオルに無心で泡を立てる。体を洗う間中ずっとずっと喉が痛くて、何度も何度も唾を飲み込んだ。
離れていってくれない。頭から離れていってくれない。ふざけるなと怒鳴りつけたあの時の、左京の表情。
(ふざけてない……ふざけてねえ、……ふざけてねえんだよ……!)
好きだと言う恋情に、果たしてふざけたものがあるのだろうか。真面目に捉えてくれなかった左京が、憎らしくさえ思う。
だけど真面目に考えられない気持ちも分かるから、責めきれない。自分がもし男に恋なんて告白されたら、同じような態度を取るだろう。
それでもこちらは真剣なのだ。
左京に分かってもらいたい。左京に触れたい。あの口唇に。あの髪に。あの肌に。
十座は泡を流した指先で、そっと口唇に触れる。感触を味わっている暇などなかった。それでもこの口唇は、左京に触れたのだ。
「……っ」
まずい、と瞬間的に感じる。十座は自身の中に生まれてしまった欲望を自覚して、自己嫌悪に陥った。あれだけ派手に拒絶された後だというのに、どうして劣情というものは膨れ上がってしまうのか。
「ん……っ」
立ち上がりかけた自身を見下ろして、触れてみた。こうなってしまっては、おさめる方法はひとつしかない。包み込み、扱きあげ、こすり、撫でて、上り詰めていく。
「……っは、はあっ……ん、う……さ、きょ……さん……ッ」
思い浮かべるのは、悲しいかな左京しかいなかった。
あの顔で、どんな風に乱れるのか。あの声で、どんな風に喘ぐのか。
あの瞳が情欲に濡れたら、あの口唇に求められたら、あの声で呼ばれたら、きっとそれだけでイけてしまう。
汗に濡れた左京を想像するだけで、あの厚くない胸板を思い浮かべるだけで、眼鏡を外した左京が、ベッドの上で髪を乱している様を考えるだけで、言葉にできないほどの背徳感と罪悪感と、快感が波のように押し寄せる。
「左京さん……ッ」
白濁とした体液が飛び出していく。
風呂の天井を見上げ、湯気の向こうに左京を浮かべ、十座は肩で大きく息をした。
「っはあ、はあー、は……はぁ……」
額を流れた汗が目に染みて痛む。十座は項垂れて、シャワーで汚れを洗い流した。
ぽたり、ぽたりと髪を、顎を伝い落ちていく雫。それは十座の顔を隠し、小さな呟きさえ洗い流していく。
「……すんません、左京さん……」
吐息のような、小さな小さな呟き。
十座はぎゅっと強く拳を握りしめ、泣きたい衝動を押し込めて、しまい込んで、鍵をかけた。
#シリーズ物 #ウェブ再録