No.302

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金色の曼珠沙華-019-

金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 そうしてダイニングに向かえば、朝食を作ってくれている臣に出くわした。これはこれで気まずくて、失敗し…

金色の曼珠沙華

金色の曼珠沙華-019-


 そうしてダイニングに向かえば、朝食を作ってくれている臣に出くわした。これはこれで気まずくて、失敗したと左京は頭を抱える。こんなことなら、自室にこもっていた方がマシだ。
「左京さん、おはようございます。早いっすね」
 目玉焼きとスクランブルエッグ、どちらがいいですかと訊ねられ、目玉焼きをターンオーバーでと返す。
「了解です。自主練してたんですか? 十座もさっき、外に出ていきましたけど……ランニングかな。あんまり無茶しないといいけど」
 テーブルに置かれていた新聞を広げ、左京は読むともなしに紙面を眺める。内容なんか当然頭に入ってこなくて、臣の声がやけに鮮明に耳に残った。
「おはようって声かけたんですけどね。気まずそうに目ぇ逸らしてったの、ちょっとしんどいなあ」
「……何が言いてぇんだ」
「早く仲直りしてくださいねってことですよ。俺、昨日のことは左京さんを殴りたいですし。いつも万里と十座の喧嘩を止める左京さんが、火種になっちゃダメですよ」
 やはり出てくる話題はそれしかなくて、秋組の連中は本当に、遠慮という言葉を知らないのではと思ってしまう。
 気を遣って話題に触れないようにするなんてことは、この連中にはできないらしい。
「……昨日のことは悪いと思ってるさ。俺も大人げなかったしな。けど急にあんなこと言われたら、誰だってああなんだろ……」
「ハハ、そりゃ、俺だって実際そうなったら混乱するし、いつもの自分じゃいられなくなると思いますよ。はい、目玉焼き。左京さんは醤油派でしたっけ?」
 同意と、綺麗に焼いた目玉焼きの皿をよこされる。並べられたご飯とみそ汁、サラダと煮物の小鉢。
 しょうゆさしを差し出されて、左京は新聞を閉じてああと頷いた。
「アイツには稽古中に私情は挟むなって言っておいたし、お前や七尾、もちろん摂津にも、あの件で迷惑をかけることはもうないと思う。俺はアイツを受け入れられねぇし、お互いどうにか昇華するしかねぇんだよ」
「時間はかかりそうですけどね……十座のヤツ、たぶん初恋でしょう? いつも一緒に稽古する相手ってのは、相当我慢しないと、忘れられない」
「初恋、ねぇ……ハハ、憐れなもんだよな。まさか初めての恋の相手が俺だなんてよ。もう少しまともなヤツにしとけばいいのに」
 左京は、白いご飯を丁寧に口許へ運びながら苦笑する。
 早いところ忘れて、次の恋をしてほしい。
 恋も、恋をなくすことも、きっと十座の演技に艶を加えて、磨いていってくれるに違いないのだ。
 そうやって成長した十座と、同じ舞台に立ちたい。
 恋心さえ除けば、左京にとっても十座は大事なメンバーなのだ。そんなこと、絶対に言いたくないけれど。
「左京さんは今日も仕事ですか?」
「ああ……メシの時間には帰ってこられると思うが」
 団員のスケジュールを把握し、自分の手が空いていれば食事を作ってくれる臣は、組どころか劇団全体にとってなくてはならない存在だ。まさか三百六十五日、ずっとカレーを食べているわけにもいかないだろう。
「いつも悪いな伏見。無理のない範囲でいいんだぞ」
「え? ああ、はい、分かってますよ。俺の場合料理することも息抜きなんで、楽しんでますけどね。特に、菓子を作ると十座が喜んでくれるし。あの無愛想な顔とあのガタイでそわそわしてんの見ると、ほんと和みますよ」
 そういうもんかね、と左京はみそ汁の器を置き、仕事にでかける準備をしようと、食べ終わった食器をシンクへと運ぶ。
 ちょうどその時、ア~ニキ~と迫田が顔を出した。朝からうるせえ、と左京は迫田を怒鳴りつけ、臣は肩を震わせて笑う。
「迫田さんも、ご飯どうですか」
「いやっ、自分はは食ってきたんで! あざっす!」
「そいつをもてなす必要なんざねえ、放っておけ伏見。迫田、おとなしく待ってろ」
「アイアイサー!」
 言った傍からうるせえぞ、と左京の方こそ声が大きい。臣は迫田にコーヒーを入れてやり、忠犬が飼い主を待つような様子を微笑ましく眺めるのだった。


#シリーズ物 #ウェブ再録